103、そう思っておくことにする
うっかりと思わぬ形で手に入った成長点に浮かれてしまったが、座り込んだ黒い狼の姿を見てサソリは言葉を止めた。
闇を閉じこめたようなその毛並みも今はもうくたびれている。
おずおずと、言葉をかける。
「あー、その。ごめん。取り逃がしてしまって」
「いや、いいんだ」
狼はゆるゆると首を振った。
「成長点が手に入ったということは、あの人間は死んだってことだ。……実際にはどうか分からないが、俺はそう思っておくことにする」
「そっか……」
狼自身がそう言うのなら、サソリには何も言えない。
ふと、幽霊が声をあげた。
「おやー?」
幽霊の視線をたどると、そこには人間の冒険者たちがいた。こちらに見られて硬直しているが、さきほど見た時よりも遠くにいるように思える。
ユラユラが言った。
「帰るんですかー?」
「あ、ああ」
引きつったような人間の声。
ちらりと森の奥を見てから、
「依頼人もどこかに逃げちまったみたいだし……その、なんだ。ここにいる理由はないからな。街に、戻ろうかと……」
そこまで話を聞いて、気づく。彼らはこちらに襲われることを懸念している。
サソリはカイトに話しかけた。
「どうしよう。もしかしたら依頼人がもういない可能性があること、話しておいた方がいいかな?」
「納得させるためには、成長点のことまで説明しないとなりませんよ。それに生きているかもしれません。やめておいたほうがいいのでは」
「それは……うーん」