100、最後の力5
人間の魔法使いをぶちのめすことを目的にしていたマタタビは、土人形の背中を蹴って跳び上がった空中でそれを見ていた。
わずかにサソリの尻尾がハイランドに突き刺さり、その直後。
エネルギーが中心の一点に集まり、ハイランドの姿が消える。
「転移した……」
と、狼が言った。
同時に、周囲にまばらに残っていた土人形が、得ていた生命を失ったかのようにただの土塊に戻って地面へと崩れていく。
柔らかく着地を決めると、マタタビは慌てて周囲を見回した。だが、どこにもハイランドの姿はない。あれだけの準備をして転移したのだとしたら、近くに移動しているということはないだろうと分かってはいたが。
マタタビは崩れた土ごと地面を踏みつけた。
「逃げられたー! あー、もう! 成長点も入ってないし。撃退ボーナスとかないの!?」
成長点がもらえるとは最初から期待はしていなかったが。
どこから見ても邪悪そうな狼が、情けなくうなだれているのが見える。
「くそ、もう少しのところで……雛子……」
「なー、どうすんだこれ。ぼっこぼこにして必要以上に魔物を襲わせなくさせようって話だったんだよな? 逃げられちまったけど」
トカゲっぽいのが能天気な発言をして、そのトカゲを抱えていた相手にぽかりと殴られて怒られている。
遠くではタコの足から解放された鎧が――というか鎧の中に入っていた冒険者が、どうにか自分で動けるようになったらしくのろのろと鎧を脱ぎ捨てようと努力していた。その仲間の人間たちは状況に呆然と立ち尽くしていて、無事だった鎧男を手伝う様子もない。
のっそのっそと近づいてきたドラゴンのグラは、もう綺麗に怪我が治っていた。それから、足を止め、なぜか前方に首を伸ばしている。
彼は言った。
「んん? 成長点入ってるぞ?」