1、本
「絶対高すぎでしょ」
ショッピングモールの出入り口。自動販売機の取り出し口からジュースを手に取った妹が、じと目で言う。
彼は苦笑しながら、手元に抱えた本をビニール袋の上からなでる。
「文庫本じゃないんだし、この大きさの本なら値段はこんなものだよ」
「えー。無駄遣いだと思うんだけどなぁ。だいたい面白そうじゃないじゃん」
「そんなことないって――」
ビニールにさえぎられてうっすらとだけ見える本の表紙。
そこには何種類もの魔物の絵が描かれていた。
はあ、と姉にため息をつかれる。
少女はびくりと身体をふるわせた。
「あのね。別に私だって、読書の趣味が悪いことだ、なんて言ってるわけじゃないの。でも、本ばっかり読んでいないでもう少し外で身体を動かしましょうよ」
「ご、ごめんなさい。お姉さま……」
おどおどと、大きめの本を抱えたまま彼女は身体を縮こまらせた。物語とか、本を読むのが好きな娘に、父親が適当に買ってきた本。怖い魔物が描かれた本ではなくてもっとましな本がなにかあったのではないかと思わなくもないけれど、買ってきてくれたことが彼女には嬉しかった。
姉が息を吐く。
「だから、謝ってほしいわけじゃないのよ――」
雑然とした青年の部屋。
雰囲気のある木のカップに、メッキの王冠。背の低い棚の上には伝説の剣のようなものが飾られている。
帰ってきたばかりで疲れ切っている彼は、ベッドの上に腰かけた。
そして満面の笑みで、途中で買ってきた本のページを広げる。
翼を広げた大きな魔物の絵。
「うおー! かっこいいなあ。やっぱ魔物といえばドラゴン――」
「すいませーん。預かっててください!」
「え」
大きめの本を押しつけられて、彼女は呆気にとられた。本に視線を落とすと、わけのわからない怪物みたいなものが表紙に描かれている。預かれもなにも、そもそもなにを考えてこんなものを持ってきたのだろうか。
当の本人はすでに遠くのほうで、微動だにせず、カメラに笑顔を向けている。
「なんだってのよ、ったく」
文句を言いながらも、彼女はふと、本のふちに指をかけた。
「んー……?」
「ふっふっふー、んっふんっふふー」
妙な調子を口ずさみながら、彼女はご機嫌で車を運転していた。かわいらしい座席のマット。
安全運転を心がけながら、表情がにこにこするのを止められない。
「きっとあの子も、楽しんでくれますよねー」
独り言まで口をつく。
「はやく一緒に遊びたいなー」
後部座席には紙袋。本の端っこが、はみ出していた。
そこは白い部屋だった。
「ふん、くだらない――」
悪態をつく少年の目の前には、ページが開かれた本がある。
読みたかったわけでもないが、自分が持ってきた本だった。とっくに後悔していたが、かといって読まずに終わらせるのも、自分のしたことが無駄だったようで気に食わない。
思わず舌打ちをする。
その時だった。
「なんだ、これは?」
異変に、少年は表情を歪めた。
本が白く、光を放つ。