みんなできること
「みんなあつまってくださーい!」
カバの先生が生徒たちに声をかけた。先生の声に反応して、ライオンやゾウ、シマウマ、うさぎ、ねずみ、ビーバー、亀、いろいろな動物たちが集まってくる。
全員が集まったのを確認すると、先生は大きな口を開けて、指示を出す。
「いまからここにあるたくさんの石をもって、向こうの川まで運んでもらいまーす。もちろん先生も参加するからね。じゃあ、スタート!」
ライオンは両手にできるだけ多くの石を持って運び出す。ゾウは、手には少ないけど、鼻も使って石を運ぶ。うさぎやビーバー、亀も二個ずつもって運び出す。しかし、ねずみはどうだろうか。小さな体より大きな石。持ち上げようとしても持ち上がらない。おそうとしても押せない。一番小さな石なら持てそうだと気づいて、持っていく石を変えた。
「うんしょ、うんしょ」
それでもねずみにとっては重いようで、休憩しながらなんとか川にたどり着いた。ねずみが川に行くまでに、ライオンはなん往復もしている。
ねずみは運ぶのが遅い、みんなたくさん持ってるのに、ねずみは一個だけ。そう不満を抱きました。
「おいねずみ、お前おせえよ。早く運べよ。みんなもう何往復もしてるのに、お前はまだ一回じゃねえか。みんな頑張ってるのにお前何楽してるの? もってる量も少ないし、みんなみたいにたくさん持てよ。僕はねずみだからそんなことできないよぉって? なにそれ、ねずみとかかんけいないよね、じゃあなに、俺が石はおもいからはこべないよーって言ったら、それで納得するわけ?
俺だって頑張って石運んでるんだよ。お前は楽ばっかしやがって。なにもしてないのとおなじじゃん。こんな小さな石運ぶぐらいなら馬鹿でもできるよ。俺らばっか頑張ってるんだよ。それなのにお前は……俺らに謝れよ」
石を川辺においたねずみにライオンが吠えた。
「ご、ごめん……」
ライオンの怖い顔にねずみは耳を丸める。
「つぎはもっと、はこぶね……」
ねずみはライオンから走り去ろうとしたときだった。
「ちょっとまった!」
ちょうどそこへ先生がやってきた。石を置くと、にじみ出るピンクの汗を拭い、ねずみとライオンの方を向く。
「ライオンくん、あなたたくさん運んですごいわね」
「へへ、そうだろ?」
「でもね、ライオンくん。みんな、持てる量は違うのよ。ねずみくんも自分の持てる量を持っていたの。無理にたくさんもたせたらねずみくんが石に潰れちゃうわ。自分や周りの人ができてるからって、他の人に強制させるのは違うのよ。その人にはその人の限界ってものがあるの。みんな違うのよ」
先生の言葉はまだ続く。
ライオンはだまって先生の話を聞いていた。
「持てる量だけじゃないわ。痛みの感じ方、できることもちがうの。みんな違うのよ。同じ動物でもね。たとえ種類が同じだとしても、違うの。ライオンくんは泳ぐのが苦手よね。ビーバーくんに「みんな泳げるんだから、ライオンくんも泳げるだろ」って言われたらどう思うかな」
「おれは、泳げないから……無理」
「そうでしょう。そういうことなの。みんな得意不得意があって、みんながみんないっしょなんてことはないのよ。「みんな辛いのは同じだ」ってよく聞くけど、みんなそれぞれ辛さは違うの」
「うん……」
「自分のペースで。自分の限界を超えるようなことばかりしていたらいつか潰れちゃうもの。それにね、勝手な推測で、それを信じて相手に畳み掛けるのは違うと思うわ。相手のことを考えるのは立派よ。でも、自分の基準に合わせるのは違うのよ。ちゃんと相手の話を聞くことが大事よ」
先生はちらりとねずみの方を見る。それから先生はライオンくんの背中を優しく押した。
目で会話をしたあと、ライオンくんはねずみの方を見た。
「さっきはごめん。おれらと同じようにできてないのが嫌だった。なんでみんなできてるのに、頑張ってるのに、お前はできないんだって。俺らと同じようにできて当然だろって。お前はお前なりに精一杯頑張ってたんだな」
「うん、いいよ。わかってくれてよかった。ありがとう」
そして、ねずみとライオンは仲直りしました。