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薄井君は気づいているけど、気づかないふりをする。関連

薄井君は気づいているけど、気づかないふりをする。

作者: 池中織奈

 僕は薄井博人うすいひろと。何処にでもいる高校生だ。趣味は読書。ライトノベルや漫画ばかり読み漁っている。教室の隅で黙々と本を読み、クラスメイトとほとんど関わらない日々を過ごしている。

 僕は、何処にでもいる高校生で、この高校もつい先日までは何処にでもある普通の高校だった。

 というのにも理由がある。

 この学校には、ひと月ほど前から異分子が潜り込んでいる。

「ひかる、お昼は何処で食べますか? ひかるが望むのでしたら、一流のシェフを呼び寄せますわよ」

「ひかる、今度の授業では私とペアになりましょうよ」

「ひかる殿は、流石です」

 そんな声を上げる三人は、明らかな異分子である。

 一人は、その髪型何処の美容室で出来るの? と思えるような立派な縦ロール。そう、縦ロール。金色の美しい髪の縦ロールは、何処のお嬢様だよと突っ込みたくなる。

 一人は、茶色の髪を持つ美しい少女。おかしいのは、耳が尖っている事。そう、エルフのようだ。ファンタジー世界で時折描かれるエルフのようにしか、見えない。瞳の色もきれいなエメラルド。

 一人は、背の高い男。高校生ではないだろ? と思える彼は、何故だか制服を着ている。それは百歩譲っていいとして、腰に下げている剣はなんだ。銃刀法違反である。

 そしてその中心にいる男。

 杉山ひかる。僕のクラスメイト。何処からどう見ても日本人。……こいつに関しての突っ込みどころは多い。いや、この状況を観察しているに、この今の現状の原因はこいつだと俺は見ている。

 それはそう、ひと月ほど前の話だ。

 もうすぐ僕は高校三年生に上がる、はずだった。

 だというのに、4月になったらなぜか、高校二年生に上がっていた。意味が分からないだろう? 僕も意味が分からなかった。僕は、二年の時に過ごした日々(とはいっても読書をしたり、アニメを見ていただけだが)をしっかり覚えていた。確かに、一年過ごして、三年生になるはずだった。というのに、二年生になっていた。カレンダーも、周りの人達の感覚でもだ。それに加えて二年生の時に購入した漫画が部屋になく、発売前の状況だった。……僕だけこれから発売される漫画の中身を知っている! という謎状態。

 考えるの面倒で、驚愕しながらも二年生になった。

 それでもう一つ驚いたことは、この杉山ひかるの存在だ。何故なら、一度目の二年生ではこいつは新学期早々行方不明になっていた。僕が一度目の高校二年生を終えた段階ではこいつはまだ行方不明だった。なのに、今回の二年生ではこいつが存在していた。

 それに加えて、新学期早々転入生が三人も来た。

 同じクラスに三人。明らかにおかしい。そしてやってきた三人もおかしかった。一人はお姫様か何かかなとしか言いようがない縦ロール。一人はエルフかなみたいな異分子。もう一人は成人しているだろと言えるし、腰に剣を下げている存在。うん、おかしい。俺は突っ込みを入れたくて仕方がなかったが、周りは何も気にしていないのでスルーして日常を送る事にした。

 二年生を二回も繰り返しているのは、不思議な事だが、本を読む時間が増えたと思えばいいだろう。好きな漫画の続きが一年後にしか分からないというのは、アレだが、まぁ、それも待った分だけ物語を味わえるという事でいいだろう。

 同じクラスなので、杉山ひかる達を観察して、見聞きして知ったのだが、杉山ひかるは『勇者』らしい。いや『勇者』をやっていたらしい。

 教室でそんな会話を堂々とするなと思ってならなかったが、エルフが「大丈夫よ、周りには普通の会話にしか聞こえないから。ひかるは心配症ね」と言いながら杉山に抱き着いていたので、どうやら僕以外には普通の会話に聞こえているらしいと発覚した。……何で、僕には利いてないんですかね? と聞きたくなったが面倒なので聞かない事にした。

 というか、エルフに抱き着かれてその巨乳を堪能している杉山の事が少しうらやましくなったのは秘密である。

 あれなのか。魔法的な何かを使って、周りの常識を改変しているのか。魔法という単語が好きな僕は少しだけ、心惹かれていた。

 あと何で一年遡っているかも、話を聞いていたら分かった。自分の魔法の腕を信頼しきっているのか、こいつらはペラペラしゃべりすぎである。僕としてみれば助かるけど。

 どうやら異世界に『勇者』として召喚された杉山は、帰還の時に召喚された時間に戻すとされていたようだ。……召喚された時間に戻すって、巻き戻しかよ、と驚いた。いやでも、確かに召喚された時間に戻す系の召喚って謎だよな。召喚されている間、元の世界の時間が止まっているとか、異世界と地球じゃ時間の流れが違うとか、そういうのかなとか思っていたのだが――、どうやら僕の世界の場合は異世界と同じような時間経過だったのだろう。それで誰がやったか分からないが、『勇者』であった杉山を元の時間帯に戻すために地球の時間を巻き戻したと。って、どんだけ力技だよ。

 それで、他の三名の連中は杉山に惚れて日本に来た異世界人二人と、その護衛の騎士らしい。騎士は二十歳を余裕で過ぎているらしい。ああ、だから制服に違和感が。

 異世界に来るために、常識改変をしたため誰も違和感を抱いていない状況らしい。いや、僕は違和感ばりばりだけどね。つか、僕にも利くようにしてくれたらよかったのに。一人だけ気づいている状況とか、死ぬほど面倒なんだけれど。



 そう思いながらも、僕、薄井博人は今日も気づかないふりをして、日常を謳歌している。




 ――薄井君は気づいているけど、気づかないふりをする。

 (一人だけ常識改変に気づきながら、普通に来ている薄井君であった)



 


ローファンタジーを書いてみようと思って、書いてみた短編です。

ローファンタジーってこんな感じでいいでしょうか、と思いながら書きました。


薄井博人

何故か常識改変が通じておらず、違和感バリバリである普通の高校生。関わるのは面倒なので、気づいているけど気づかないふりをしている。何で、俺には利いてないんだろうとめんどくさげ。


杉山ひかる

異世界で『勇者』をやってかえってきた男。一度目の二年生では行方不明中だった。


縦ロール

異世界のお姫様。ひかるを追って地球にやってきた。


エルフ

異世界のエルフ。魔術師。ひかるを追って地球にやってきた。


騎士

異世界の騎士。二十歳過ぎてるのに護衛のため高校の制服着てる。常に剣を持っている。銃刀法違反。



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― 新着の感想 ―
[一言] 薄井君、スルースキル高っ! あと順応力も高っ! 面白かった。
[一言] 続編と言うか、連載版が読みたいです。
[一言] 最後の銃刀法違反に腹筋やられましたw 面白かったです
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