30話 291~300日目。
291日目。
森に出かけた先で、フューリが花飾りを作ってくれた。
黄色と白色の花を交互に組み合わせた、芸術点の高い奴だ。
アクセサリー的にも素晴らしいが、何より俺のために作ってくれたのがうれしい。
いずれ腐る運命は嫌だったので、薄いクリスタルコーティングで、腐敗から保護した。
地下都市のフューリから貰ったもの博物館に飾っておこうと思う。これでいつでも花飾りを拝めるぞ。
あと俺もフューリに花飾りを送ろうと思ったのだが、うまくいかなかった。手先が器用じゃないのか、ボロボロになって花が散る。
なので土魔法で作った花飾りモドキ(宝石)を送った。うん、俺らしくていいんじゃないかな。
292日目。
屋敷の中を歩いていると、ドッキリな場面に出くわす。
その時の時刻は三時前で、おやつを貰いに台所へ向かったんだ。
何となくいつも通ってる廊下じゃなくて、迂回していったんだけど、その先にメイドとコック見習いの男がいた。
あまり使わない廊下の先の行き止まりの陰。いかにも人が通らない場所で、何やらゴソゴソしている。
通りかかっただけだから、良く見えなかったけど、あれはキスしてるな。俺のセンサーがそう反応している、間違いない。
見間違いかもしれないが、メイドさんの方は前に庭師の男とイチャコラして母上に怒られていた人の様な……。
もしかして、メイド間でラブサスペンスが起こっているのか?
293日目。
エルダーリッチがサボテンを買って来た。第三王子の砂漠マンモスを見てたら、砂漠に行きたくなって、帝国の砂漠地帯を旅してきたらしい。
リザードマンの人たちと仲良くなって、宴会やったりしたんだって。
お土産のサボテンは何処でも育てられる奴。小さめのサイズで、水やりもほとんどいらない。地下都市でも育てられるので、これからはいつでもサボテンが見れる。
しかも食用として使えるタイプなので、いつかサボテンステーキが食べれるぞ。
育つのは遅いらしいが、こういうのを待つのも醍醐味の一つだよな。
294日目。
街中で野良ネコと出会った。
警戒心が強いのか、俺との距離を一定に保ってくる。
一歩進めば一歩分下がり、一歩下がれば一歩分進む。
謎の距離感。もしかして餌が欲しいのかと思って、丁度持っていたビーフジャーキーをあげようとした。
だが、手に持ってても近寄ってこない。
仕方ないので地面に置くと、一瞬の隙にかっぱらってどこかにいってしまった。とても俊敏で追いつけなかった。
触りたかったなあ、あのモフモフ。何故、人はモフモフに惹かれるんだろう。
295日目。
川でリスが巻貝をほじくって中身を食べていた。
器用に尖った石を使って、ひょいって感じで。
初めて見たから驚いた。フューリも初めて見たって言ってた。
真似してみると、かなり難しい。川辺の巻貝って、かなり小さいんだよな。小指ほどしかないし。
結局は土魔法を使いクリスタルで中身を固めて、そのまま引っ張り出してクリスタルを砕くという荒業で中身を引きずり出した。
焼いて食べると旨いが、いくらなんでも小さすぎる。海の方の貝を食べたくなった。
マテリア領に海はないので、輸入品を食べるしかなく、あまり食卓には出ない。
フューリの話では、ヴェンディゴ領は海に面していて、実家にいた時はよく食べたらしい。懐かしいって言ってた。故郷の味って奴か。
ボンゴレパスタが美味いんだって。そう言うのを聞くと、食べたくなる。
いつの日か、またヴェンディゴ領にも行くだろう。その時は食べに行こう。
296日目。
竜人が知恵の輪なるものを渡してきた。
輪っかが重なっていて、ガチャガチャして外すパズルらしい。輪っかを力任せに外そうとしたら、そう言われた。筋力測定器じゃないのか。
エルダーリッチが持ってかえってきたはいいものの、竜人が力任せに外して(壊して)しまったので、リニューアルしたやつらしい。やっぱ最初は筋力測定器だと思うよな。
材料はつや消ししたオリハルコンで、存分にガチャガチャした。とんでもなく難しい。どこがパズルなんだ、これ?
思わず力任せに外したくなる、でもオリハルコンだから俺の力じゃ無理だ。
上手く外せたフューリ曰く、向きや角度が重要なんだって。なるほどな……分からん。
知恵の輪はギルエマさんにあげた。お腹が大きなって、たいていは椅子の上だから、喜んでくれた。
ギルエマさんは力任せに外しそうとしてた。やっぱりそうだよな、そうなるよな。
その後、俺からやり方を聞いてガチャガチャしている。今の所外せてないようだが、どうかな?
いい暇つぶしになってくれるといいな。
297日目。
姉上が第三王子と文通していた。
鷲が来て姉上に手紙を届けてくれたらしい。
内容は近況報告と、姉上への愛の詩。あと第三王子のブロマイド写真。
嬉しいような困ったような顔をしてた。
自分を思ってくれるのは嬉しいが、やはり第三王子という地位がネックなんだって。
姉上も俺と同じく、マイペースな生き物。王宮暮らしは水と油だろうからな。
うんうんと唸って返事を真剣に書いてるあたり、あの第三王子も愛されてる。
これは恋愛レースで第三王子が一歩リードか?
今後も目が離せないな。
298日目。
森の中で芸術的な岩と出会う。
ある地点から、ある一定の角度で見たとき、何故か心惹かれる岩となるんだ。
苔むしてる部分とそうじゃない部分のコントラストが美しい。こういう何故か、ヒビっと来たってやつは大切にしないといけない。
この謎の感性こそが、インスピレーションを高めてくれる。
吸血鬼に見せたら、ただの岩だなって言われた。そうだけど、ほら、何か感じるものがあるだろ? って言ったら、特に無いって。
あいつ割と理論派だからな。地下都市も計算尽くでリフォームしたし、俺とは相容れない芸術的な部分があるのかもしれん。
まあ、芸術なんて半分は人の好みみたいなもの。その後は、吸血鬼と芸術について話したりして過ごした。
299日目。
缶詰パーティー開催。
マテリア家では、非常食として缶詰を多数備えている。
缶詰はとても長持ちするものの、やはり食べ物なので賞味期限がある。賞味期限間近のものは食べて、新しいに入れ替えないといけない。
そのためのパーティーが缶詰パーティーだ。
缶詰は貴族的には非常食の価値しかなく、非常時以外には一切食べないのが一般的。
だが、俺は食べたいので、使用人たちに紛れて缶詰を食べた。
アンチョビ、ザワークラウト、コーンビーフ、その他もろもろ。
やはり保存食なので、味付けが濃ゆい。パンで挟むといい感じ。
こればっかりだとすぐ飽きると思うが、偶に食べる分にはうまい。
中には保存状況が良くなかったのか、開ける最中に破裂したものもあった。ガスが云々とコック長は言っていたが、俺には分らん。
そんなことより、コック長の作る缶詰サンドがうまいんだ。
缶詰いいな。魔王に頼んで、自家製のを一緒に作るか。
300日目。
日記もついに300日まで来た。
よく続いたものだ。日記と俺との相性は悪いと思ってたのだが、割と良かったのかもしれない。
母上についに日記が300日目と伝えたら、そこまで続くなんてすごいわね〜と言われた。
あの目は忘れてたけど、一瞬のうちに思い出して取り繕っている目だ。
俺が日記を書いたのは思い出したけど、俺の書いてる日記帳は母上から貰ったものというのは忘れているに違いない。俺には分かる、分かるんだ。
日記帳の残りも六十五ページ。終わりが見えてきたな……。
日記帳「残りの寿命も、6分の1か………」
日記帳「あれ、案外残ってるぞ!」




