28話 271~280日目
271日目。
勇者から連絡が来た。
魔王城が見える位置まで来たので、そろそろこっちに来てほしいとのこと。
俺が勇者パーティの大賢者だということは、地下都市ファミリーを除くと、フューリにしか話していない。
なので、どうやって魔王討伐のための期間を貰うかが課題だった。習い事と稽古が毎日あるからな、勝手にサボる訳にはいかない。
正直に言ってもいいのだが、それはそれで面倒そうだった。だから、適当に理由をでっちあげて三日間の期間を貰った。
その三日間の分は後日にしわ寄せが来るが致し方ない。旅という名目になったので、お土産を買ってくることになったが、これも仕方ない。魔王か竜人に何か頼もう。
なんとか三日以内に魔王を討伐して、帰ってくるぞー!
272日目。
今日の昼頃には行く、と勇者と待ち合わせをしていたので、天空都市の機能で転送して貰った。
地下都市にはエルダーリッチや竜人が待機してくれて、魔王討伐のバックアップをしてくれる。
勇者と会うのは二度目、他の竜騎士と聖女は初対面だ。
勇者は前より体つきが良くなった代わりに、さらに目が死んでた。竜騎士も聖女も美人だったが、中身がやばい。脳筋と守銭奴だ。
いきなり、お前の代わりの分まで戦ってたんだからって、金を催促されるとは思わなかった。
お前……勇者が言うならばともかく、毎回むしってるお前らが……。でも代わりに戦ってくれてるのはその通りなので、とりあえずオリハルコンを出しといた。
金にどん欲な奴は、金で黙る。これ名言だな。
その日は、魔王城の前まで歩いて行って野宿した。明日には魔王城に着く。明日には現魔王を蹴散らして、帰りたい。
想像以上に、竜騎士と聖女が面倒だ。勇者が完全にブリーダーだったぞ。
273日目。
朝一で魔王城に突入。魔王城の中には、魔王の支配する魔物や賛同する魔人がいて、激戦だった。
まぁ、俺は出しゃばったりせず、勇者の指示に従っていただけなのだが。勇者は言うことを聞いてくれるだけでありがたいって感動していた、やばい。
竜騎士は強い奴と戦いたいとかいって、魔王がいる最上階の反対である地下に行こうとするし、聖女は宝物庫に行くしかありえませんよねとかいって地下に行こうとするし。
とにかくすぐに迷子になる。気が付いた時には離れてるんだ。勇者の気苦労が知れる。
この日は、魔王城を荒らして、迷子の二人と合流するだけで終わった。
明日に再チャレンジだ。迷子の探索で、引き返す勇者パーティっていったい……。
とにかく、明日には現魔王を倒す。
俺はすでに心が限界に近い。魔物や魔人なんかより、竜騎士と聖女のダメっぷりにハートがフレンドリーファイアで抉られるんだ。
それに期間的に明日が最後。俺の都合でしかないが、明日には絶対終わらす。絶対だ。絶対なんだ。
274日目。
やっちまった。
この日も昨日と同じく、竜騎士と聖女が足を盛大に引っ張っていた。
夕方までは今日中に魔王を倒せるって希望を持ってたんだが、この時間まで二人が迷子に再びなっていて、思わずやっちまったんだ。
俺の土魔法は、土や岩を作るだけじゃなくて色々出来るんだけど、その中にすでにある土系の物質を操るってのがある。
そして魔王城の素材は俺の操れる魔導煉瓦で出来ていたんだ。
だから、苛立ちに任せてグシャッと最上階を丸ごとプレスするかの如くマッシャ―してしまった。
魔王だし、これぐらいなら少し怪我するくらいで、きっと怒ってあっちからやってきてくれるよな! とか思ってたんだけど、それが決め手になった。
両手でパチンってやられた蚊みたいに、潰れて絶命。出会う魔物や魔人が慌てふためいていて、そいつらの会話で魔王がやられたことを知った。
嘘だろ……って勇者がぽつりと呟く声が、何故か耳によく残ってる。
俺は呆然としている勇者を見てどうするべきか悩んだ。けど面倒くさくなって、天空都市の機能で帰ってきた。そしてその流れで日記を書いている。
すまん、勇者。何て言ったらいいか分からないけど、とにかくすまん。
明日には色々サポートするから許してくれ、頼む。
275日目。
昨日日記を書いて、寝た後に女神から神託があった。
夢の中で女神が、よくやりました、私も誇らしいです、魔王を退け平和が~、と長々と褒められた。
たぶんあれ、一回使った神託を使いまわしてると思う。
勇者にしか倒せないとかあなたが言ってた魔王を、俺が倒しちゃったんですが大丈夫ですか? って聞いた時も、問題はありません、の一点張りだったし。よく見ると俺に目の焦点があってなかった。
魔王が出てくるたびに神託を下すのが面倒くさくなったんだろうな。分かるよ、その気持ち。
それと起きた後で勇者と連絡を取り合った。竜騎士と聖女が宝物庫の宝の取り分で揉めているらしい。いつも通り過ぎて、いっそ清々しい。
次に勇者たちは、王城へ凱旋する予定だとか。
マテリア領では魔王? 何それ? って感じだったが、王都らへんでは結構魔王の知名度はあって、不安を払しょくするための凱旋なんだと。
王都についたら魔王討伐記念パーティーとかあると思うから、来てくれと言われた。
行くしか……ないよなぁ。
そういえば、なんで現魔王って倒す必要があったんだろう。他の地域へ侵略とかしていなかったし、割と謎だ。
276日目。
魔王に昨日の疑問を聞いてみた。何でも魔王というのは邪神の手先らしい。
遥か昔に女神に封印された邪神が、復活のために魔王という存在を生み出しているとか。
放っておくと、邪神の復活が早まるため、早急に退治する必要があった訳だ。
お前は大丈夫なのか、魔王に聞いたところ。すでに邪神の加護がなくなってるから、大丈夫らしい。
よかった。もし今も邪神の手先だぞ、とか言われたらどうすればいいか分からなくなっていたところだ。
あと地下都市からの帰り際に、竜人がぺしゃんこになっていた現魔王(故)を、クリスタルに閉じ込めて研究していたのを見かけた。
いつの間に回収したんだ。いや、天空都市の機能を使えば、一瞬なのか。
ともかく新たな火種になってくれるなよ、マジで。
277日目。
今日で習い事と稽古を休んだ反動が終わる。二日前から夜遅くまで、勉学と運動だったから、うれしいかぎりだ。
貴族なら習うべき、貴族学というのがある。読み書き計算、歴史、礼儀作法、護身術、魔導学、法学、経済学、その他諸々。
俺は五歳からずっとそれらを学んで来たのだが、そろそろ学ぶことが無くなって来たらしい。
そのことを家庭教師の先生から聞いた時、思わず叫んで喜んでしまった。
子供っぽいとか言われたが、仕方ないんだ。だって面倒だもの。
特に貴族関連の暗記が最悪だった。貴族は面子を気にする生き物、名称関連を覚えることは必須だ。
例えば○○家について、だったのなら、○○家の爵位、家系図、紋章、歴代の当主とそれらの逸話、今現在の当主の顔から趣味、他の家との血縁関係、経営する領地。最低でもそれらを頭に叩き込まないといけない。
さらに貴族は上から下まで合わせると、軽く三百以上の家がある。これを全て覚えろというのは、苦痛極まりない。なまじ、辺境伯という高い地位が覚える範囲を広くしている。
何はともあれ、もうすぐ貴族学は終わりだ。やったぞ!
278日目。
庭に鷲が来ていた。凛々しい顔して、足に手紙を括りつけている奴だ。今日はいつもより巻いている枚数が一目でわかるほど多い。受け取ってみると、三十枚あった。
内容は姉上への求婚だった。目を疑った。嘘だろ?
ラブレターモドキが二十八枚で、一枚が書類、最後の一枚が俺宛てだ。
ラブレターは君のことを知って結婚したくなった、うんぬんかんぬんで埋め尽くされていて、書類は国を超えるための許可がどうたらこうたら、俺宛ての奴には、お前のお姉ちゃんにラブレターを渡しておいてくれ、裏から俺のバックアップを頼む、などという内容。
頭を抱えたくなる珍事だ。
中でも一番重要なのは、姉上と求婚するため、まずはマテリア領に行くから、とかいう文言。もう城を出た後らしい。何やってやがるんだ、この第三王子。
虫を食べてる写真付きで送ったのに、何でこうなってるのか理解できない。アグレッシブすぎる。
ラブレターには、一目見て人生最大の刺激を受けた、とか書いてあったが、虫を食べている写真を見て頭がパニックになってるだけとかじゃないよな?
もう取り返しがつかないので、俺はこのことを姉上たちに知らせた。当然兄上や父上にも。
来る相手は帝国の第三王子だ。帝国はこの国と長年いがみ合っている。一応、平和条約を結んでいるが、それは表立って争わないぐらいの意味でしかなく、目立たない所ではいまだにドンパチやっている。国境沿いの貴族同士で今もバリバリ小競り合い中だ。
兄上たちは頭を抱えていた。姉上には頭をガッとヘッドロックで占め落とされた。
まさか俺も、こんなことになるとは思ってなかったんだ。
ともかく、まず送られた書類を王都に届けなければいけないということが問題になった。
先達なく第三王子が勝手に入国するとなれば一大事、事の発端は俺にあるということで俺が王都に行くことに。
今も揺れ動く馬車の中で、日記を書いている。くそっ、あの第三王子め、姉上に振られろ!
279日目。
超特急の馬車を乗り継いで、王都に着いた。着いたのが夜だったので、明日の朝に王城に行って書類を届けることとする。
今日はもう寝ます!
280日目。
王城に書類を届ける&事情の説明に行った。
マテリア家の爵位を利用し、文官に会う手続きを無理やり整え、強引に書類を手渡して事情を説明。
そこまではよかった。文官に、何してくれとんねんワレ、みたいな目でメンチをきられるだけだったから。
その後、丁度昼から会議が始まるとのことで、会議に連れて行かれたんだ。自分から説明しろって感じで。
そこに勇者がいたんだよなあ。竜騎士と聖女はいなかった、勇者は面倒ごとを二人に押し付けられていつも以上に死んだ目をしていた、のだが俺を見て少し目を輝かせた。そしてなし崩し的にバレる俺の正体(大賢者だということ)。
それだけでも面倒くささMAX案件なのに、さらに追い打ちをかける事態が起こる。
第三王子が姉上に求婚しに来るという話を聞いて、勇者が対抗し始めたのだ。具体的には、俺も求婚するって感じで……なんでそうなる!?
俺は知らなかったが、勇者は姉上のことが気になっていたらしい。
俺を探して町に来たときに見かけて、いいな~、って思ったのと、俺と連絡をやり合った時に、世間話代わりに話したのを覚えてたみたいだ。
止めとなったのは勇者という地位。
勇者ともなればいろんな国から利用価値があるとみなされて、血縁を狙われるらしく、知らない奴と無理やり結婚させられるのは時間の問題。だったら少しでも気になっている人と~という訳だ。
あと姉上の虫を食べるという特技? が気に入ったらしい。彼女のスキルがあれば木の皮とか食べなくてよかった、だって。
そんな訳で、勇者も姉上に求婚すると言い始めた。
姉上は腐ってもこの国の貴族であるマテリア家の令嬢、我が国に勇者を紐付けられるならそれもいいかと、さらに大臣や文官たちがその背を後押ししやがった。
しかも第三王子の方も政略結婚的にはありと認可される。なんてことしやがるんだ、ちくしょお!
結果、明日に勇者の凱旋祭り、その後マテリア領で姉上のお見合いパーティーが開かれることになった。
ああああああ!! どうするんだこれ! こじれる未来しか見えないぞ!
現魔王「ん? 壁が動いた? 気のせいか?」
壁「うぉおおおおお!! 挟み潰すぞぉおおおお!!」
現魔王「ぐあああああ!!」
現魔王(故)『こ、こんな呆気なく……魔王の最後がこれでいいのか……』ガクッ




