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26話 251~260日目

 251日目。

 ロッグがついに渡り蜂の研究を終えた。長かった本当に長かった。

 手渡されたレポートに書いてあった内容は、専門知識前提だったので俺には良く分からなかった。だが、あんなにも金を注いだんだ、きっとその界隈で重要な文献になると思う。

 さしあたってロッグがわざわざレポートを俺に見せてきたのは、書籍化するための伝手がないからだった。昔、本を出版したこともあるが、そっちとは重要度が違うのでしっかりしたところに頼みたいんだと。

 ゴールデンスタッグやエメラルドパピヨンについての本を出版している姉上に頼まないのか? と聞いたら、色々迷惑かけたから正面切って頼るのは恥ずかしい、と言われた。

 そうだよな、食費とか研究費とかたかってたもんな。

 でもな、ちょっと待て。俺にも迷惑をかけているの忘れてないか? むしろ金額的な意味では、俺の方が損害被っていると思うんだけど。

 それに、実を言うと俺はあの時のギルエマさんの説教が軽くトラウマになってる。他の所に投資しまくっているのがばれたら説教なのかとヒヤヒヤしている。

 フューリがバリバリ気の強い女性じゃなくて助かったぜ。俺の嫁さんは最高だな!

 そんな訳で、ロッグの渡り蜂研究本を出版する手続きをした。俺はやり方を知らなかったので、姉上に聞いて姉上の伝手を借りて出版の契約を結んだ。

 それ意味ないじゃないかと言われれば、はいとしか言いようがない。でも俺は次から出版したい本があれば、出版できる伝手を手に入れた。

 まぁ、ロッグが出す本の出版料は俺が払ったんだけどな。一週間後ぐらいから、出回る予定らしい。

 あと気が付いたことがある。ロッグが姉上に惚れてるっぽいのだ。それもかなりガチっぽいやつ。

 姉上からロッグへの感情は確かに好きだったが、身分さとか今の事情とかで諦められるフランクな奴だ。実際、お見合いパーティーに反抗とか姉上はしてなかったし。

 ロッグに、姉上のどこに惚れたの? 虫と平気で食べるんだぞ? と聞いたら、そういうとこだと言われた。一本取られた気分だった。

 確かに、ロッグは虫を研究するほど好きだ。それを許容できる嫁さんは中々いないだろう。それこそ、姉上みたいな変人じゃなきゃダメだ。

 一応、脈はある? のだろうか。越えるべき障害がオリハルコン並だが、やってやれないことはないと思う。ドリルのごとき信念があれば、行けるかもしれない。

 積極的に支援とかはしないが、妨害はしないぐらいには応援してやろうと思う。

 がんばれ、ロッグ。お前に投資した分は返せとは言わんが、お前が騙されて負った借金白金貨50枚は払ってもらうからな。乗り越えろ、ロッグ。がんばるんだ、ロッグ。


 252日目。

 兄上がリビングで悩んでいた。趣味が欲しいらしい。

 嫁もできたし、領主の仕事も慣れてきたからかな? と思ってたら違った。他の貴族に舐められないためだとか。

 貴族の間では、趣味というか、金のかかる無駄な物事は一種のステータスだ。

 社交パーティでも、新しくかったペットが~、避暑地として別荘を~、これは有名な職人が作ったアクセサリで~、という言葉をよく聞いた。

 金を掛ける様な趣味がない=金を遊びに使えない貧乏人。すなわち、金欠でつけ入る隙がありますよ。という図式が成り立つらしい。貴族って面倒くせぇ。

 兄上が固執したのなんて、それこそポテチぐらい。強いて言えば、前に時計を欲しがったぐらいで、趣味がない。

 リビングにいた姉上が、虫捕りとかどう? ってアドバイスしてたが、兄上は一言で断っていた。趣味を作る目的からして、真逆なんだよ姉上……。

 その後、父上が芸術品の収集をおススメしていた。当然、兄上は断った。父上のいう芸術を、理解できるのは俺たちの身内にはいないのだ。

 別館はもう父上専用で、使用人も入らない。たぶん泥棒も入らないだろう。

 なので俺は、ギルエマさんの趣味に合わせたら? と言っておいた。ギルエマさんはドラゴンスレイヤーと呼ばれるほどの武人らしく、剣の収集が趣味だ。兄上は剣に興味はないらしいが、どうせなら妻の喜んでくれる趣味がいいと、剣を集めることに決めた。

 兄上は愛妻家だと良く分かる一面だった。俺もフューリを大事にしようと決意を新たにしたね。

 そういや、フューリは趣味とかあるのかな?

 

 253日目。

 兄上とギルエマさんに剣をプレゼントすることを思いついた。

 せっかくなので竜人と吸血鬼に頼み、性能とデザインの両方が優れたものを作るとする。

 モチーフはドラゴンだ。ドラゴンスレイヤーの剣といえば、屠ったドラゴンの骨から生み出した剣と相場が決まっているからな。まぁ、それは物語の話で、実際の所ドラゴンの骨は剣にするには適せず、魔術の触媒によくりようされるんだが……俺はロマンスに理解のある男! どうせならということで本当にドラゴンの骨から剣を作ることにした。

 地下都市の倉庫からドラゴン類をいろいろ引っ張り出して、骨やら血やらを混ぜ込んで作った。結果、蠢く暗黒的な、剣が完成した。ドラゴンってより、デビルって感じの剣だ。

 性能も悪魔じみていて、オリハルコンでも真っ二つ、血を啜って性能が上がる、持ち主の命を代償に闇の炎を放つ、精神の弱いものが持つと乗っ取られる、なんか叫んでる、と散々なもの。

 何でこうなったのかと思ったら、竜人が黒い粉を入れたせいだった。四人が死にかけた、黒い霧が残したあれだ。真実を知って吸血鬼が竜人をボコっていた。竜人曰く、好奇心が抑えられなかった、だとか。そうだよな、お前ってそういう懲りないやつだよな。

 当然のごとく、デビルっぽいソードは封印。

 無難にオリハルコンで作った剣を、兄夫婦にプレゼントした。ギルエマさんが、全てがオリハルコンで出来ていて、しかも装飾がこんなに細かで美しいなんて……と戦慄して喜んでいた。

 よくよく考えると、全部オリハルコンでできた剣ってやばいよな。こずかい稼ぎで流れの商人に売ったり、勇者パーティーに支援として渡していたが、本来滅茶苦茶貴重だ。

 けっして鼻くそほじりながら生み出せるようなものじゃない。俺が出来るから、どれほど価値のあるものか完全に忘れていた。

 全然無難じゃなかったが、喜んでもらえて何よりだ。趣味とはそういうものじゃないとな。


 254日目。

 フューリがクッキーを作ってくれた。

 ラムレーズンの入ったサクサククッキーだ。

 涙が出るほど美味しかった。花嫁修業で家のコックから学んだり、魔王から技を伝授されてた、とういうのもあるが、何より愛情がうまい。

 味も美味しければ、愛情も美味しい。このクッキーは最強だった。

 まさに死角なしだ、丸だけに。

 愛しい人からの手料理がこんなに美味しかったなんて、俺は知らなかった。そういう想いをフューリに語ったら、顔を真っ赤にしていた。

 とても可愛らしい。フューリを嫁にして、俺は本当に良かった。

 たまたま近くにいてクッキーにありつけた姉上が、うまいけど泣くほどか? なんて戯言を吐いていたが、関係ない。

 俺は感動したんだ。一つの夢が叶ったんだ。また、お菓子を作ってほしい。


 255日目。

 今日は勇者との定期連絡の日だ。 

 そして、ついに勇者たちが最後の四天王を倒した。

 水と氷を操る人魚で、初手で回復役の聖女が凍らされて大変だったんだとか。

 たまたま謎の老人が助っ人に加わらなかったら、死んでいたと勇者は消沈していた。助っ人はメイドを連れた謎の偏屈爺さんだったんだとか。

 大ピンチをへて、竜騎士と聖女も少しは大人しくなったかと思えば、あいも変わらず金銭を要求された。例え絶対絶命になろうと竜は腹がへるしっ、凍らされたぐらいで金欲は無くならないんだって。

 俺は手慣れた調子で白金貨20枚を送った。そしたら、次は魔王戦だからもっと金がいる! と勇者以外がごねたので倍の40枚を送って置いた。

 ついでに魔王城についたら連絡してくれと勇者に頼んでおく。そっか、次がラストバトルか……全然緊張感とかないけど、世界を救うための戦いだ。頑張らないとな。

 天空都市やメビウスゴーレムもいざとなれば使うけど、これも世界を救うためだ。今の魔王は覚悟してくれ、返事は聞いてない。 


 256日目。

 魔王がマフィンを作ってくれた。

 マフィンは貴族のお茶会でも当たり前のように出て来る定番メニュー。

 されども、魔王が作ったチョコマフィンは絶品だった。チョコを生地に混ぜ込んだタイプ、チョコをラムレーズンのように小さな塊で埋め込んだタイプ、シロップのように上からかけたタイプ。どれも美味で、うまいうまい。

やっぱり魔王は生粋の料理人と再確認した。

 歴戦(クッキング)の経験がなせる技だ。レシピ通りだけでは、魔王の味わいを半分も再現できないとフューリが戦慄していた。

 俺はフューリを応援してるよ。だからまたお菓子作ってくれ、と頼んだ。

 そしたらフューリには食い意地が張ってると言われた。

 あれ? 俺って食いしん坊キャラなのだろうか? 日記を見返すと結構な割合で食べ物のことが書かれているので、たぶん正解だ。 

 俺の思わぬ一面を自覚してしまった。


 257日目。

 本屋に行くともやし戦記の5巻が発売されていた。

 将軍まで上り詰めたもやし、そして同じく帝国の将軍にまで這い上がってきた空豆。

 違う勢力たちも絡んできたが、二人の衝突を止められる者はいない。

 激突、死闘、最後は武器を捨てた殴り合い。最後は空豆の死によって決着が着く。もやしと空豆のすれ違った友情がはかなくも美しい。

 そして全ての国を裏から操る黒幕の正体が空豆によって明かされ、今まで散った者の思いをすべて引き継いで、最終決戦! 敵は浮遊島にいる!

 というところで、終わった。

 ついにクライマックスか、というテンションの上がる気持ちと共に、次巻で最終巻か~、という寂しい気持ちもある。

 何はともあれ、次が楽しみだ。完結したら、デベエロをねぎらいに行こう。パトロンとして、ファンとして、素直に会いたい。

 あと、これはどうでもいいが、ロッグの渡り蜂研究本が発売されていた。

 まだ発売されたばかりで、売れ行きはどうなるか分からない。今の所、あまり売れてはない様だが……。もやし戦記の前には些細な事だな。

 

 258日目。

 久しぶりにソーナナ叔母上に出会った。

 ソーナナ叔母上は、マテリア伯爵家の分家であるマグナリア男爵家の三女だ。

 二十五歳なのだが、父上の妹なので叔母上となっている。つまりマグナリア男爵家が父上の元実家だということだ。ややこしいが、貴族の家系ってそういうもの。

 縁と縁のつながりを借用書みたいに扱うからな。むしろ若い叔母上ぐらいなら分かりやすいぐらいだ。

 ソーナナ叔母上は姉上と同じく趣味人で、考古学を嗜んでいる。今回、屋敷の中で出会ったのも、兄上に遺跡を発掘したいから金を出してくれ、とせがみに来たからだ。

 なんでも、ヴェンディゴ領で超古代文明の遺跡発掘ブームが始まっており、このビッグヴェーブに乗りたい! だって。

 ヴェンディゴ領って、フューリの実家じゃん。俺はフューリと婚約してヴェンディゴ騎士爵家の人たちと家族になったも同然。だが、義理の兄上の名前も覚えてないほど、お近づきになってない。

 決闘のゴタゴタとか終わった後に一回本家に行ったのだが、遠回しに帰ってくれと言われて、帰ったんだよなあ。あれは俺の献上したオリハルコンとかを、今更返せとか言わんだろうな、って顔だった。ようは俺からの余計な干渉を嫌ったんだよね。

 決闘前に埋まった遺跡を掘ったりもしたんだけど、俺が掘った一つ以外にも遺跡があったらしい。俺が掘り返したやつからは、お宝が余りでなくて、違う遺跡にトレジャー的な期待が集まってるとか。

 俺はソーナナ叔母上をこっそりと、街中に連れ出し、投資の契約をすることにした。屋敷の中で話すのはマズい。ギルエマさんに見つかったら……。

 ソーナナ叔母上は俺の投資に無邪気に喜んでいた。絶対お宝を見つけます! と鼻息を荒くしてたが、悪いね。俺がソーナナ叔母上を送るのは、ヴェンディゴ領のスパイみたいなものなんだ。

 白金貨20枚を渡して、俺はソーナナ叔母上を見送った。ときどき連絡するつもりだし、その時にヴェンディゴ領やヴェンディゴ騎士爵家について色々聞こう。

 いつかはヴェンディゴ家との溝も埋めないといけない。こういうこと考えてると、貴族ってやっぱ貴族だよなって思う。

 

 259日目。

 地下都市で吸血鬼が女性とデートしていた。

 フューリとデートするため改装した後から(日記を見直すと162日目の後から)吸血鬼が時々地下都市に女性を連れ込んでいるのを、俺は見かけていたのだ。

 その都度都度で、デートにお邪魔するのは無粋だよな~、と思って触れないでいたのだが、俺はどうしても気になってしまった。

 今まで数々の女を食って来た(おしべ的な意味で)吸血鬼。毎回デートしている相手が変わってるし、ふしだらな野郎だとは思うが、モテるテクニックを持っているというのは認めざるを得ない。認めたくないけど。

 俺はフューリとの今後のために、少しでもいいからモテるテクニックが欲しいのだ。

 だから、魔王とエルダーリッチたちを巻き込んで、デートを見守ることにした。魔王はデートに役立つ料理開発(という大義名分)のため、エルダーリッチは冷やかしのため、一緒に吸血鬼のデートを観察してくれた。

 デートは結構無難だった。女性に合わせて各所を巡り、お腹が空いてたら食事処に行って、最後は休憩所(意味深)に進行する。これといって革新的なものはなかった。

 それより、途中から気になってしまったのだが、俺は吸血鬼のデート相手に見覚えがある気がするんだよな。もし見間違いじゃなかったら、あれはこの国の王妃様……。

 いや、ないない。大丈夫だろ、他人の空似だ。パーティで見ただけだし、俺の記憶違いの可能性もある。だから、大丈夫大丈夫、吸血鬼だって人の嫁を誘う馬鹿では……うーん、こいつなら誘うな。というか、そういう略奪愛とかも好きそう、あいつ吸血鬼だし。

 地下都市にはクッキングゴーレムというのがいて、そいつがデート中の食事を作っていたのだが、こいつらはレシピ通りにしか料理を作れない。

 魔王が吸血鬼のデートを見て、新しいレシピを思いついた! と言っていたので、今日の覗き見は無駄ではなかったと思う。

 でもデートを勝手に見られるのは気分が悪いと思うので、明日には勝手にデートを見たことを謝って置こう。吸血鬼は気にしないどころか、見せつけたいタイプだと思うが、それはそれだ。でも俺はデート相手の女性のことは聞かないからな、いいか絶対だぞ。

 

 260日目。

 森の中でブルーフェニックスと出会った。

 ブルーフェニックスはフェニックスの上位種で、青く輝く炎は自分以外も不死のごとく再生させる強力な魔物だ。

 古来よりその特性から権力者が飼おうと躍起になっていた。

 まぁ、権力者が一番求めていた不老の効果はなかったんだけどな。それでも大抵の怪我を治してくれるので充分だ。

 どうするか迷ったのだが、俺は仕留めることに決めた。そもそもブルーフェニックスは人間に懐かないし、飼い殺しにするぐらいならとバトルを開始。

 俺のそんな中途半端な敵意を見抜いたのか、ブルーフェニックスには逃げられてしまった。でもブルーフェニックスの羽は手に入れたので、持って帰って羽飾りにする。

 そんでもって、フューリにプレゼントした。今回は竜人を通さないナチュラル加工、あいつと一緒に作ると大抵封印されるから仕方ないんだ。

 フューリは喜んでくれた。きっと彼女の笑顔を羽飾りが守ってくれるだろう。……いや、守り切れるか? 足りないんじゃないか?

 近いうちに、フューリをあらゆる魔の手から守る何かを作っておこう。愛ゆえに人は人を守護(まも)らねばならぬ。


勇者「謎の老人が助っ人に入ってくれて助かった」


エルダーリッチ「きまぐれだぞい」


冥途さん「実は謎の変苦痛爺さんとメイドって私たちのことだったんですよ」


主人公「ナ、ナンダッテー!」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 変苦痛爺さんがネタなのか誤字なのか…… でも何となく合っている様な気がしないでもない。 [一言] さあ、いよいよ魔王戦だ!竜騎士と聖女はどうでもいいど勇者は労わったげて…… もうちょっ…
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