16話 161~165日目
161日目。
吸血鬼監督の元、工事をした。
朝から晩まで工事だ。大工の辛さを知った。
土魔法で楽できる俺でこれなのだから、大工はもっと辛いに違いない。
今回は実用性のある建物を、ということで、工事の内容も複雑だったからな。
だが、手を抜いたらフューリが驚いてくれないかも知れない。頑張るぞー!
162日目。
工事完了。
吸血鬼が若い女を連れてデートをしてもいいかもなって言っていた。
前まではダメなのかと聞いたら、ダメらしい。
景色何て10分もあれば、飽きるとのことだ。その言葉は分かるが、芸術家にしては冷めてると思う。今は、デートスポットが数々存在するから、デートしてもいいと言っていた。
今まではデートと言えば、芸術都市サンドラでしていたらしい。
芸術都市か、俺の地下都市とどっちが綺麗なんだろう。そう呟いたら、吸血鬼に聞かれていたらしく、地下都市のほうが断然きれいなのだとか。
芸術都市サンドラは吸血鬼が設計した都市で、最初はその名にふさわしく芸術の都市として素晴らしい物だったが、今は増築を繰り返し面影もないらしい。
そんなことを話していると、魔王にプロポーズをするのかと聞かれた。
魔王いわく、この地下都市を見せて落ちない女はいないだろうとのこと。
俺は悩んだ。フューリは俺と気が合うが、まだ1日しか会ってないし、その腹の底を知らない。実は面倒くさい女かも知れないし、巧妙に顔を隠しているかもしれない。
悩んだ結果、俺はデートとお見合いパーティでフューリのことを大丈夫だと判断すれば、プロポーズすることに決めた。
いや、ぶっちゃけ兄上や父上や母上が許してくれるか分からないんだけどな。
とりあえず準備だけはしておこうという事で、指輪を作った。
俺が1時間の間、全力で魔力をこめた魔石を加工したものを付けた指輪だ。
リングには竜人が作った数多もの魔法陣が組み込んであり、この指輪一つで誰でも世界征服が出来る。
途中で興に乗って、いらん機能までつけてしまった。
説明書が分厚くなったが、仕方ない。
明日が楽しみっすね。
163日目。
昼までにお見合いパーティに参加する貴族が集まった。
使用人に聞いたが、フューリもちゃんと来ているとのことだ。俺は何かワクワクした。
昼食の後に、お見合いパーティは始まる。
そして俺に群がる貴族の女子たち。ええー。そういえば、俺は辺境伯の次男。
長男ではないとはいえ、へたな貴族の家の嫡男に比べれば、優良物件だ。
群がられるのも分かるという物だった。適当に自己紹介して、話を聞いたが、やはり女子とはいえ、こいつらは貴族だ。
実家の事業がうんぬんとか、あなたと私が結婚すればうんぬんとか、そりが合わん!
お前の実家事情何て知らないんだよ! 結婚するのはてめぇの父上とじゃないんだぞ! と言いたくなる。
そんなこんなでフューリと一切会話できずにお見合いパーティは終わった。ちくしょう。
終わった後に、姉上にお見合いはどうだったか聞いたのだが、脈はないらしい。
ええ……。趣味の話の後に、露骨に好感が悪くなったと姉上は話す。俺は納得した。
姉上のことだから、どうせ虫の話でもしたんだろう。虫の話だけならまだしも、きっとセミよりイナゴの方が美味しいですよ、とか豆知識を披露したに違いない。
ドン引きだね。
それよりも、明日はフューリとのデートだ。やっほーい。
164日目。
朝起きて、フューリをデートに誘うおうと、使用人にフューリがどこにいるか聞いたら早朝に町を出て行ったらしい。
嘘だろ! 俺のデートプランが! 三日の苦労が! という訳で、追いかけた。
フューリの馬車は余り装飾のされていないシンプルなものだった。貴族の紋章は付いていたので、すぐに分かった。
取りあえず、馬車を止めてもらい、フューリと話した。
そこで明かされる衝撃の真実。フューリには婚約者がいるらしい。マジかよ……。
フューリのお付きのメイドさん曰く、公爵家の婚約者らしい。勝てる要素ないじゃん……。
というか、デートに誘えないじゃん。と、俺がしょんぼりしていたら、急にフューリが静かに涙を流していた。ビビった。
そこからフューリは実家のことを話し始めた。
フューリの実家は貧乏な騎士爵家らしい。その貧乏さは、騎士爵だからではなく、父上たちが浪費家なのが、問題だと言っていた。なんでも、領地を良くしようと、いろいろな方策を取っては失敗し、色々なところから借金をしているのだとか。
嘘だろ……。実家事情だけを見れば、最悪の相手じゃん。
さらには父上とその跡継ぎの兄上が実権を巡り争い、領地はくすぶっているのだとか。
与えられた領地は広く、中には超古代文明の遺産などもあり、発展の余地はあるらしい。
だが、それを開拓するだけの金がない。借金して金を作っても、奇抜なやり方を試し失敗するのだとか。
そして、その豊沃な土地に目を付けたのが、公爵家だ。公爵家の人間がフューリと結婚すれば、その豊沃な土地は実際の所、権力の強い公爵家が実権を握り、開発することになるだろう。
超古代文明の遺産、広くて開発する余地のある土地、この二つだけでも公爵家の人間が価値的に遥か劣る騎士爵家の人間と婚約を結ぶ価値があるということだ。
そこにフューリの幸せはない。婚約した公爵家の人間、アルザール・ゼゼグーズは堂々と愛人がいるなど言ったほどだし、他の公爵家の人間からも針の筵らしい。
やばい、完全に地雷物件だ。
もしフューリと結婚するとなれば、駆け落ちぐらいしかないんじゃないの? ってぐらい地雷物件だ。
さらにはフューリの父上が、金の足しになるからと俺がフューリにあげた最上級回復魔法のついたペンダントを売ったらしい。あんまり高値にならなかったと愚痴っていたのだとか。なるほど、フューリがあの時、悲しそうな顔をしていたのはこういう意味があったのかと納得した。
聞く感じでは、フューリの取り巻く環境にいる人物たちがやばい。
父上は言わずもがな屑だし、婚約者のアルザールも婚約者の前で愛人が何人いると言うようなやばいやつだ、兄上とやらも勝手に商人から金借りて父上と実権争いしている奴だし、母上は浪費家で勝手に愛人を作って好き勝手、今フューリについているお付きのメイドも公爵家に嫁げばフューリが幸せになると思っている様だし、フューリ以外が地雷どころか、ずっと爆発しているボムフロッグだ。
俺は滅茶苦茶悩んだ。あれほど、秒速で頭を悩ませたことはない。
そして俺は、フューリを誘拐した。
天空都市の機能を使い、俺とフューリを地下都市に転移、滅茶苦茶驚いているフューリをよそに俺はデートプランを実行した。
途中でフューリがこれは夢だ。とか言っていたが、無視してデートを続行!
夜中まで呆気に取られているフューリとずっと遊んでいた。
フューリは途中で夢と勘違いしたのか、吹っ切れて素直に楽しんでくれた。
何をしても驚くフューリが面白い。今日のデートプランは、百人切りのナンパ師と呼ばれたこともあるという吸血鬼の知識を総動員して作ったものだ。
フューリは俺の前で、驚き、感動し、涙を流してた。
夜中になったころにはとっくに俺の中の気持ちは決まっていた。
フューリと結婚したい。その思いで、俺は指輪を差し出し、暗くフェードダウンした地下都市とそこに広がる数々のイルミネーションと共にプロポーズした。
返事は、はい、と一言! やっふぅぅぅう!!
今から、今日は帰りたくないというフューリと付き合って地下都市で、一日を過ごす予定だ。日記は天空都市の機能で呼び寄せて、書いている。
決めたぜ。俺は俺のすべてをかけて、フューリを手に入れる!
シリアス「お? 俺の出番か? 昼ドラ的なギスギスラブロマンスが始まるのか?」
コメディ「この小説でそんなのある訳ないだろ! いい加減にしろ!」




