1話 1~10日目
1日目。
社交パーティのお土産として母上から日記帳を貰った。
面倒くせぇ。母上いわく、文字の練習のためらしい。
でも、貰ったものを使わないのは失礼だと思うので、面倒くさいが日記を書く。
そのために、今日あったことを思い出してみるが、あんまり面白いことはない。
せいぜい、森に果実を取りにいっていたら、はぐれ竜に出くわしたぐらいだ。
はぐれ竜は俺の大得意な土魔法でぶっ殺した。町の皆に見つかると、大騒ぎになると思ったので、土魔法で箱を作り、穴を掘って埋めておいた。
はぐれ竜は珍しいが、どうせ珍しい物が見つかるなら、伝説のゴールデンフルーツに出会いたかったと思う。
そんな訳で、今日の日記終わり!
2日目。
俺の家は辺境伯であり、貴族だ。
そのため、午前には勉強会と稽古がある。
勉強も稽古も面倒だ。勉強は良いとして、貴族の義務だか何だか知らないが、剣の稽古をさせられるのがつらい。
俺に剣の才能はなく、たぶん剣の扱いならゴブリンに負けると思う。
剣の練習をするぐらいなら、弓の練習をした方がいいと思うが、父上いわく、剣は貴族の誇りで弓など言語道断らしい。
せめて槍を使わせてほしいが、どうしても剣じゃないといけないのだとか。解せぬ。
3日目。
午後の自由時間に、いつもの森に行った。
森は良い。俺に旨い植物を提供してくれる。特に果実がいい。
俺が住んでいる田舎で、果実の甘みは貴重だ。
砂糖なんてめったに手に入らないからな、果実だけが俺の甘みさ。
王都や都市に行けば、砂糖は簡単に手に入るが、俺はそういう所に行きたくない。
そういう所に行くときは大抵、社交パーティやら何やらだからだ。
俺は次男だからいいが、兄上はよく社交パーティに行っては疲れた顔をしている。
今日も、帰ってきたら疲れた顔をしていたので、俺はドライフルーツをあげた。
兄上はイケメンで、しかも辺境伯の跡取りだ。利権目当ての女が群がって来るらしい。
大変だなぁ~、兄上(他人事)。
4日目。
今日は土魔法で楽器を作っていた。
俺は森の洞窟の地下に秘密の地下都市を作っている。
地下都市は光る石で照らされ、宝石をちりばめたような場所だ。
俺は土魔法で、金属でも宝石でも作れるので、地下都市の建設は楽だった。
地下都市は素晴らしい場所なのだが、音がないのが気になったので楽器を作ったという訳だ。
楽器はゴーレムに渡して、奏でて貰えればいい。ゴーレムは賢いので、俺が教えればすぐに楽器の使い方が俺よりうまくなった。
地下都市は俺の秘密基地でもある。毎日通って、ワンダーランドに変えるのだ!
5日目。
父上がまた、変な絵画を買った。
意味不明だ。サウロモネ、という画家の作品らしい。
聞けば三流の画家で、王都では変な絵を描く画家という事で有名なのだとか。
俺から見れば、吸い込まれて不安になるような絵、なのだが父上いわくそこがいいらしい。
今度サウロモネを家に呼んで、俺の絵を描かせようか? とか聞いてきたので、俺は全力で否定しといた。否定っぷりに父上がドン引きしていたが、こんな変な絵のモデルにされるぐらいなら、ドン引きされる方がマシだ。
父上のおこづかいで父上が変な絵を買っているのは良いが、廊下に飾らないでほしい。夜中に、トイレに行けなくなる。
6日目。
森の湖で釣りをした。
釣った魚は、地下都市に持って行ってため池で飼うことにした。
俺に魚を捌く腕もなければ、食べてもいいのかすら分からないからな。
餌は土魔法で作ったミネラルの塊だ。
うまみ成分と言ってもいい。
魚は餌を食べても平気そうだったので、取りあえず五年分作って、毎日餌をやるようにゴーレムに言っておいた。
ゴーレムは便利だな。指示さえすれば、忠実に守ってくれる。
7日目。
行商人から、珍しいドライフルーツが手に入った。
果実を食べるのは半ば俺の趣味だ。
南国のフルーツらしく、今までに感じたことのない旨みだった。
酸っぱくてうまい、のだが俺の知っている酸っぱくてうまいとは違うのだ。
何でもパインという果実らしい。
南国では一般に食べられているが、ここら辺では見かけない。
俺は行商人にチップとして白金貨20枚を払っておいた。
白金貨は高い出費が、俺は土魔法でオリハルコンを作って、裏ルートで売りさばいているので問題ない。
チップを貰った行商人は、恐れ多いと返そうとしていたが、先行投資、といって無理やり受け取らせた。
また来ると言っていたので、また来るのが楽しみだ。
8日目。
街中を歩いていたら、町人の子供を見かけた。
木刀を持って、チャンバラをしていた。
そこで気づいた。俺ってボッチでは?
俺は辺境伯の次男だ。それ故に町人、というか平民とは余り関わらない。
思えば従者もいないし、社交パーティにも滅多にいかないから貴族にも親しい友人は全くいない。
あれ? マジでボッチ?
そんな訳で、俺に従者はいないのか? と父上に聞いたら、いるのか? と聞かれた。
いらねぇ、面倒くさい。
なるほど、俺がボッチの理由が分かったという物だ。
9日目。
兄上が社交パーティから帰って来て、変なお土産をくれた。
ルービックキューブというらしい。
最初は変なインテリアだな。と思っていたのだが、これはおもちゃらしい。
何でも、色を同じにして面を揃えるらしい。
バラバラの色が綺麗だと思っていたが、揃える物だったのか……。
やってみると案外楽しい。
一面は何とか揃えれたのだが、それ以上は無理だ。
難しすぎる、考えた奴は奇才だな。名前も奇妙だしな。
でも、揃えてみたかったので、俺は地下都市にいってゴーレムにやらせた。
五分もすれば揃えてくれて、見ているだけでも楽しかった。
これは量産して、地下都市に飾るしかないな。
ルービックキューブは兄上には申し訳ないが、分解して中身を見させてもった。
10日目。
本屋に新しい本が入荷したというので、見に行った。
新しい本のほとんどは、俺が見に行った時は買われていた。
売れ残っていた本があったので、それを一冊買って帰った。
買った本の名は、もやし戦記。野菜たちが住む世界で、もやしが成りあがる戦記である。
ぶっちゃけいうと、滅茶苦茶面白かった。
もやしが新兵になるところから始まり、何やかんやあって三千の軍勢を率いて、万の軍勢を打ち倒すところで終わる。
部隊長に成りあがり、俺は王になる! との一言で終わりだ。
続きがあったら、今すぐ買いに行きたい。
作者は、デベエロと言うらしい、覚えたぞ。絶対続編買うからな!
主人公「ヒロインどころか、俺の名前すら出て来ねぇ」
兄上「日記形式だからね、仕方ないね」
姉上「いつでも日記を埋めるアイデア募集中だぞ」