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思い込み激しい蜜蜂姫、初めての恋をする

20話完結の中編です。最後まで書いてありますので興味を持った方、よろしくお願いします。


 昔々、北西の国でのお話。皇子様とお姫様の恋物語。


★☆


 北西にある、大蛇の国は連合国。恋物語の始まりの場所は、本城からかなり遠い、僻地の小さな領地です。


 その領地が新しい王国となった祝いの日。つまり流星国誕生の日に、美しいお妃様は3つ子を産みました。


 1番初めに生まれたのは男の子。次も男の子。そして、最後は女の子。


 3つ子は上からエリニス、レクス、ティアと名付けられました。新王国誕生、そこに王子と姫の誕生が重なった記念すべき日には「流星祭り」という名がつけられました。この土地を守るという蛇神や数々の奇跡、それに家族や友に知人や隣人へ感謝し、労い、祈り、歌うべき日です。


 初めての流星祭りでは、出産したばかりの美しいお妃様自らが美声を披露しました。 


 歌い終わって、働き者の民に感謝を述べたお妃様。その前に、3種類の生き物が現れました。


 鷲のような頭部を持つ小さな蛇と、3本の角が生えた大きい蛇。犬の倍はある大きな白い狼。成人女性の頭くらい大きい蜜蜂に似た3つ目の蟲。白狼は兎も角、不思議な蛇や3つ目の大きな蜜蜂など、こんな生物、誰も見たことがありません。


 民は騒然となり、騎士達は厳戒態勢です。剣を、槍を「化物」へと向けます。


 しかし、お妃様の隣に立つ王様は、生まれたばかりの長男エリニスと次男レクスを抱っこしながら、奇妙な生物達にこう告げました。


「こんなに優しく賢そうな目をした生物が祝いにくるとは、素晴らしい祝福です。きっと神の遣いでしょう。是非、息子と娘を立派な人間に育てる手伝いをして下さい。子供達の無二の親友でも良いです。宜しくお願いします」


 王様の発言に、2匹の蛇はくるくると回ります。白狼は3回吠えました。蜜蜂は跳ねるように飛びます。末娘を抱きしめながら、微笑むお妃様。王様とお妃様は2人して、蛇と狼と蜜蜂に会釈をしました。家臣や騎士、国民は大驚愕です。


  こんなことがあって、小さな国に生まれた3人の王族は奇妙な生物と共に成長しました。


 さて、それから18年。この恋物語は3つ子の末っ子であるティア姫と、彼女が惚れた皇子様の恋物語。


☆★


 今日は誕生日を祝ってもらえる、流星祭りの日。ティアは今日で18歳。パチリ、と目を開いて飛び起きる。窓へと近寄って、カーテンを開けた。


 城の裏側にある畑の作物に朝露が溜まり、太陽の光を浴びてキラキラと輝く。森は風でさわさわと揺れて楽しそう。豊かな水をもたらしてくれる山脈に、うっすらとかかる雲。


「ねえプチラ。まるで世界がティアをお祝いしてくれているみたいね。昨夜は嵐に近かったのに、すっかり良い天気。素晴らしいわ」


 寝台からブーンっと飛んできた、蜜蜂もどきのプチラがティアの頭の上に乗った。ティアは頭上のプチラへ両手を伸ばす。プチラはティアが掴む前に、胸元に移動してきた。緑色の産毛をそっと撫でる。生まれた時からずっと一緒にいる、蜜蜂に似た3つ目の大きな蟲。喋れなくても、言葉は通じる賢い大親友。ティアもプチラの気持ちは何となく分かる。


「ついに18歳よプチラ。お姫様は終わり。今年はお母様のようなお妃になって、星の王子様を支えるのよ」


 ティアはプチラを抱きしめる腕に少し力を込めた。プチラの触覚がティアの腕をペチペチと叩く。


「そうよプチラ。星の王子様は素晴らしい娘の所に現れるの。ティアは18年間、お父様お母様に城の皆やお兄様を見習ってきたから大丈夫よ。それにしても、素敵な天気だから朝の散歩に行こうプチラ。お父様が大好きな魚を海で獲ってくるの。もうすぐお嫁に行くから親孝行ね」


 窓辺の机の上に置いてある、毛糸で編んだベッドにプチラをそっと下ろす。クローゼットを開き、服を選ぶ。お気に入りである、この国自慢の染物で花柄をあしらったワンピース。動きやすいように下にズボンを合わせる。鏡台へ移動し、椅子に腰掛けて、絡まっている癖っ毛に櫛を通す。


「今頃レクスお兄様は早朝鍛錬だから、フェンリスに連れていってもらいましょうプチラ。フェンリスなら海まであっという間。それにフェンリスが護衛でした。の一言で、いつものように怒られるのを回避出来るわ」


 髪の毛が整うと、ティアはプチラの方へと顔を向けた。ティアと同じで、ウキウキしているようで体を左右に揺らしている。その時、コンコンと室内に響いたノック音。寝室出入り口の扉を開いたのは、白狼フェンリスだった。


「さすが、フェンリスも(わたくし)の大親友ね」


 澄まし顔で白狼フェンリスはティアの足元まで移動してきた。


「また大きくなった気がするわフェンリス。部屋内を歩くのが大変になってきたわね」


 椅子から立ち上がり、椅子を壁際に押しやる。広くなった床の上にフェンリスが伏せた。


 ティアは鏡台の引き出しからブラシを出して、フェンリスの横に移動した。ブラシをフェンリスの毛並みに当てる。艶やかで豊かな純白の毛。頭頂から背中へ一筋、そこだけが青味を帯びた灰色の毛。毛糸のベッドからプチラがブーンと飛んできて、フェンリスの2本の尻尾に捕まった。軽く吠えるフェンリス。早く乗れ、という事だろう。プチラとは違いフェンリスとは以心伝心ではない。仕草や目などから推測するしかない。


「ブラッシングしなくても素晴らしい毛並みだものねフェンリス。ありがとう。失礼します」


 会釈をして、背中に乗る。フェンリスが立ち上がり、歩き出す。ティアは窓辺に掛けてある布の鞄を手に取った。そう出来るように歩いてくれるフェンリス。本当に気遣い屋で賢い。こういう所がフェンリスと一番親しい兄レクスと良く似ている。だから仲良しなのだろう。器用に足でベランダへ続く大きな窓を開くフェンリス。


「おはようございますティア様。今日は流星祭り、お祝いですので……」


 背中にぶつかったのは目付け監視役の侍女アンリエッタの声。振り返ると、やはりそうだった。アンリエッタが眉根を寄せて駆け寄ってくる。


「ティア様!何処へ行こうとしているのですか? 普段はともかく今日は流星祭りです!」


「おはようアンリエッタ! 海よ海。フェンリスがいるから大丈夫。お土産は魚の予定よ。親孝行ついでにアンリエッタ孝行もするわ! アンリエッタに似合う貝殻を見つける! すぐ戻るわ。帰ったら身支度の手伝いをお願い。行ってきます」


 フェンリスがベランダへ移動する。ティアはフェンリスの毛を両手で掴んだ。フェンリスがベランダの床を蹴る。手摺に着地し、大ジャンプ。ティアは少し体を屈めた。城の屋根、次は砦、あっという間に大地に降り立つ。


 全速力ではなく、のんびりと走るフェンリス。それでも馬より速い。いつも風になったみたいだと思う。18年経過して、こんなに元気な狼なんているのだろうか? プチラもそう。世界は謎に満ちている。


☆★


 城から西へ進むと、小さな海岸がある。他の海は知らないが、透明な海水に白い砂浜。いつも、綺麗な貝殻が落ちている。歩くと、きゅっきゅっと音が鳴る。ステップを踏んで踊ると楽しい。ティアが大好きな場所。自然に歌が口から溢れる。


 斜め掛けした布の鞄に、拾った貝殻を入れていく。今日の流星祭りは、ティア達3つ子の誕生日なだけではない。1年間、国が豊かであったことに感謝する日。家族、友人、知人、隣人にも「ありがとうございます」と伝えるべき祭宴。


 幼い頃から一緒に育った側近兼親友のアンリエッタも、もうすぐ18歳。寂しいけれど、そろそろお嫁に行ってしまうだろう。そんな噂を聞いた。アンリエッタの結婚祝いに贈るのはネックレス。あちこちで材料を集めている。白い貝殻が欲しいのだが、なかなか見つからない。今日も白だけが見当たらない。今日のアンリエッタへのお土産は、桃色の貝殻にしよう。耳飾りにして流星祭りのお祝いの品にする。


 先程海に潜ったプチラが、海から姿を現わして飛んできた。魚は捕まえられなかったようだ。脚に何も持っていない。そろそろ帰る、というように大きく吠えたフェンリスが駆け寄ってきた。


 その時、黒がティアの前に現れた。逞しい体躯の月毛色の馬。その上に短い黒髪の男が乗っていた。服装や日焼けした腕には、まるで見覚えがない。この辺りの人ではない。


「ぼさっとしていないで逃げろ!」


 凛とした声。逃げる? 何から? 男が振り返る。目が合ったのは、優しそうな瞳をした青年だった。世界中の優しさを閉じ込めたような、宝石みたいな黒い瞳。彼は右手に剣を握りしめている。


 大咆哮したフェンリスに、馬が怯えて青年を振り落とした。と、思ったらクルリと回転して砂浜に着地した青年。ティアを庇うというように、目の前で腕を広げて仁王立ち。フェンリスに襲われると思ってくれたのだと分かった。


 つまり、これは、あれだ。


 そういうことだ!


 人生の大ピンチに颯爽と現れるのは、1人しかいない。


「プチラ! フェンリス! 星の王子様だわ! 想像通りの王子様よ! なんて運命的! 会いたかったです星の王子様。末永くよろしくお願いします」


 ティアは王子様の前に移動して、両手を握りしめた。意志が強そうな凛々しい眉に、やはり優しげな瞳。まるで先日行商が見せてくれた菫青石(アイオライト)のような輝き。


 こんなにも透き通った目をした男性は初めて。ティアは星の王子様に目一杯の親しみを込めて笑いかけ、会釈した。死ぬまでこの人と寄り添う。素晴らしい人生になるだろう。


 プチラが頭に乗り、フェンリスが体を囲うように寄り添ってくれた。穏やかな微笑みに、ティアはもう胸一杯でドキドキしっぱなしだった。

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