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第一話

「ごめんなさい。今の貴方とではお付き合い出来ません」

「……え? あ、うん……。あ、あれ? でも……あ、そ、そう……だよね……。それじゃあ、オテスウオカケシマシタ……」


 ようやっと喉の奥から絞り出した声でそう言うと、クロ〇ッツの爽やかな息と彼女だけを残し、僕は放課後の屋上を後にした(去り際、両手両足が揃ってしまっていたのはご愛敬だ)。


 ガシャン! と、重苦しい音を立て、屋上へ通じる鉄製のドアが固く閉じられた次の刹那、


「い、いやぁあああああああああああああああああああああああああああっ!」


 悲鳴とも絶叫ともつかぬ声を上げ、疾走するエリマキトカゲさながら勢いよく階段を駆け下りていく。


 僕の名前は米良雄介めらゆうすけ

 クラスメートの無責任な甘言に唆されて、すっかりその気になってしまっていたおめでたい男さ。

「モブ」という己の分を弁えず神に挑んだ者の末路――僕のグラスハートは、完膚なきまでに砕かれてしまった。


 短い……そして愚かな夢だった。

 世の中には、決して覆ることのない予め決められた地位があるって、キメラアントのおじちゃんが前もって教えてくれていたというのに……。


 詰るところ、受験日に受験票を拾ってくれたのも、登下校時にこやかに笑いかけてくれていたのも、無駄に高かったエンカウント率もとどのつまりは僕の勘違い⁉


「あぁああああああああああああああああああああああああああああっ!」


 ふざけんなよっ! だったら最初から思わせぶりな態度とらないでくれよ!

 こっちは三次元リアルには不慣れなんだよ! 勘違いしちゃうじゃん!

 お互いに三秒も見つめ合ったら、もう付き合ってるって思っちゃうじゃん!


 ん? あれれ? よくよく考えてみたら、これって……ストーカーなんかが拗らせてる被愛妄想ってやつと一緒なんじゃ……?


「い、いやぁあああああああああああああああああああああああああああっ!」


 は、恥ずかしいぃいいいっ! 穴があったら突っ込みたい! じゃなかった、穴があったら入りたい! ……あれ? でも、これってニュアンス的には同じ意味っぽくない?


 新たに生まれたトリビアを胸に、僕は生徒たちでごった返す校舎の中を縦横無尽、縫うように走り去っていく。校舎から正門方向へ差し掛かる最終コーナーにしてもドリフトさながら革靴の底を擦り減らしながらも一気にゴォオオオオオオオオオオオオル! と、勢いよく正門を飛び出したところ、


「――っ‼ こ、こんちくしょおおおおおおおおおおおおっ!」

「へ? ――ぶふぉおおっ⁉」


 ドーーーーーンッ! と、息が詰るほどの激しい衝撃に見舞われ、気付いたときには僕の身体は、ハリケーン・ミ〇サーを喰らったウォー〇マンのように、くるくると回転しながら宙へと舞い上がっていた。


 振られた挙句、トラックにまで跳ね飛ばされるってどんだけツイてないわけぇ?

 数秒後、上半身を道路に捻じ込まれ、それこそどこぞの芸術家が手掛けたアート作品のような姿で最期を迎えなければならないのかと自分の運命を呪う一方で、


 んっ? 待てよ、これってひょっとすると、今流行りの「異世界ルートへのフラグ」が立ったってことなのでは……⁉


 ポクポクポクポクポクポク…………チーン!

 ヒャッホ~~~~~~~イ♪ キタキタキタキタキタキタキタキタァアアアアアアアッ!


 そうさ、僕の良さが分からないような女なら、むしろこちらから願い下げさ! そう、女の子がいるのは何も地球ここだけじゃない。「異世界」にだっているじゃないか!

 異世界になら、ありのままの僕を受け入れてくれる女の子の一人や二人いてもおかしくない。

 それに地球ここなんかと違って、二股だなんだと七面倒臭いことを言う輩もいない。

 それこそ三股、四股当たり前! 「良質街娘」、「猫耳娘」、「エルフ」、「お姫様」、果ては、「性奴隷」までとハーレム上等の世界!


 俗に言うところの「それなんてエロゲ的ハーレム・ライフ」ってやつを存分に堪能できるんじゃないか?

 ああ、何でこんな簡単な事に気が付かなかったんだろう?

 そうだなぁ、あえて名付けるとするなら「パンがないならケーキを食べればいいじゃない大作戦」とでも命名しようか。


 え? 何? 最低な男だって?

 ふっ、分かってないなぁ。今後の日本のことを考えても「少子高齢化対策」の一環としても僕のような「オトコ」が必要なのさ。

 そ・れ・に、僕は一度でいいから、女の子たちから「好き好き」言われて追い回される主人公サイドの人間ってやつになってみたかったんだよ。


 まったく近頃の主人公ボケ共ときたら、そんなモブ() たちの気持ちも知らんと、これ見よがしに『ったく、ホントに困るんだけどなぁ……』とか寝ぼけたこと抜かしてる始末。


 何が困るんじゃ、ボケェ! そんなに困っとるんなら、一人ぐらいコッチに回さんかい!

 その癖、女の子が距離を置こうとしようものなら巧妙な手練手管でヨリを戻させる狡猾さ。お前らは名うての「結婚詐欺師」か⁉ はたまた歌舞伎町の「ホスト」か⁉


 はぁ……はぁ……はぁ……っ……。

 くっ、い、いかんいかん……。これ以上は僕の無菌室のごとく美しい心がゴミ屋敷へと変貌してしまいかねん。


 と、ともかく、時は得難くして失い易しの言葉にもある通り、僕はこの機会チャンスを最大限活用して異世界へと旅立つつもりさ。


 ――あっ⁉ そうそう。余計な事をされては堪らんので予め言っておくけど、巷でよくありがちな「俺TUEEE的なチート能力」とかは望んでないからね?

「魔王討伐」やら「ダンジョン攻略」やら「仮想世界からの脱出」といったバトル的展開はマジ勘弁してください。

 僕、血生臭いのって駄目だし……ぶっちゃけ、面倒臭いしね。

 そういうのは他のモブたちに任せておいて、あくまでも僕は平和的な酒池肉林ってことで一つよろしくお願いしますよ。


 え? 誰に言ってるのかって? そんなん決まってるでしょ? 

 これから行われるであろう「チュートリアル」に際し、司会進行していくことになる「神」だか「女神」だかに対してだよ。


 そうこうしている内にも、お時間が迫ってきたようで……。僕の意識はそこでプッツリと途切れた。


 嗚呼、僕の明るい来世(未来)に幸あれ!


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