学校なんてやめてしまえ-5
「え?俺?全く気づいてなかったの?」
「えっと、はい。」
清水は気づいているだろうと矢村は思っていたが、清水も気づいていない様子だったので、やむなく謎の男に聞くことにしたのである。
「そっかぁ。俺ってそんなに影薄い?どうです隊長。」
「嘘つけ。どうせ気配消しでもしてたんだろ?でないと俺が気づかないわけがないわ。」
「あれま、わかってらしたか。」
気配消し?なんだそれ?あの人の能力か?と矢村は思っていた。
「あぁ、紹介しなきゃな。こいつは紹介するって言ってた二人目だ。サラマン・スミス。こいつは盗賊だ。盗賊は気配消しを持っていて、死神と同じようなんだが、こいつのは透明化だけだから完全な上位互換だ。透明化もできるし足音も臭いもしない。でもやっぱり触ることはできる。気配だけを消すことも可能だ。」
「それって死神さんよりすごくないですか?なんで指名手配犯じゃないんですか?」
「まぁ、そうなんだが、こいつはただの盗みだから。この辺は盗みなんて日常茶飯事だからな。」
「あの、私まだ下着姿のままなんですけど?」
「後は単純な実力差だな。死神の方が優秀ってことだ。」
「そ、だから俺が何をやったって気づかれないってことさ。なんせ俺の狙いは貴族が所有している中で価格が低いものばっか盗んでるし。」
「あの!私!まだ下着姿なんですけど!」
「うるせぇ!ちょっと黙ってろ!」
哀れな下着姿のままの死神を木本が一蹴する。木本には敵わないと知っていのか、死神はそれ以上何は言わずに、トタミの差し出したコートを羽織った。
「なんだっけ?あぁ、そうだ。こいつが仲間になったのは、俺らの食べ物を盗ろうとしてたから、俺が捕まえたってわけ。」
それって強引じゃね?と矢村は思ったが、いかにも正当に仲間にしたと言いたげな木本を見て哀れむような目でスミスを見ることしかできなかった。
「きっと君たちも同じだよ。」
と、スミスが矢村の耳元で呟いたのを聞き逃さなかった矢村は、身震いをした。
「さて、とりあえず全員紹介し終わったが、君たちはどうする?」
「少し二人で考えさせてください。」
矢村と清水は二人で隅に行き、作戦会議を始めた。
「全員紹介したってことは、断ったら消すからな?みたいに言ってるよな。」
心配そうに見つめる清水に
「あぁ、間違いなくそうだな。秘密を見られちまったから逃がさねぇよ?っことだよ。」
矢村が絶望的に返す。
スミスさんが言っていた意味はこういうことかと痛感した二人だった。
「で、どうやって時間を稼ぐ?」
「とりあえず親に相談します。でいいか?」
二人で頷きあい、意思を固めた。
「決まった?」
とんでもなく作り笑いとわかるような優しい笑顔を木本が二人に向ける。
「えっと、ぼくたちだけじゃ決められないので、とりあえず一旦家に帰って親に相談します。」
「お、そうか。じゃあ、ついていくから。」
「あ、はい。わかりま…え?今なんて言いました?」
「だから、君たちが逃げないように家までついていって、親を説得するんだよ。」
失敗したと矢村は思い、こいつと家が隣だということにこんなに恨めしいのかと思った清水だったが、少しでも時間を稼ごうとし、
「あの、今、家に親がいないんですけど。」
「その場合は帰ってくるまで待つから安心して。」
もう、ただの絶望でしかなくなった二人は潔く木本を家に招待した。
___________矢村の家
清水と矢村の家族が揃った。
「あらぁ、清水さん久しぶりね〜。」
「昨日会ったじゃないの〜。」
「あら?そうでしたか?おほほ。」
このままだと母親たちの井戸端会議が始まりそうなので、矢村が本題に入る。
「母さんたち、この人たちが俺たちを誘った木本隊の人たちだよ。」
「どうも、ご紹介に預かりました。木本隊隊長の木本美静と申します。」