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ベルギンガムの冒険

作者: 琵琶法師

 

 ざわざわ茂る森の中。

 茶色い獣が茂みを走り、空は澄みやか。


 若葉色の髪、月色の瞳。

 ベルギンガムは人ではない。

 ベルギンガムは幼い魔女。


 継ぎ接ぎだらけのボロ切れを、緑色のドレスに仕立て。

 ベルギンガムは森を歩く。

 ベルギンガムは醜い魔女。


 金の光を身に浴びて、土の小道をとことこと。

 ベルギンガムの腰についた、

 金と銅のベルが鳴る。


 からころからころ、その音は

 ベルギンガムの魔法の杖。

 それがそこにある限り

 ベルギンガムは魔女である。


 ふと聞こえた、小さな小さな歌い声。

 ベルギンガムは耳すませ、

 澄んだ絹糸を手繰りだす。


 からころからころ、足早に

 ベルギンガムが見つけたのは、

 朽ちかけ古城に閉ざされた、

 金の髪のお姫様。


「誰か助けて、ここから出して

 太陽よ、梯子を垂らして

 叶わない夢を見ることは苦しいの」


 黄色の鳥に手を伸ばして、

 蔦の絡むバルコニーより歌う。

 伏せた瞳はまつげに陰る。

 まるで一枚の絵画のように。


「裏切られる期待なんてしたくない

 裏切られない予感を示して

 誰か答えて、ここに答えて」


 暖かい陽光で、涙は眩しいほど輝き

 涼やかな風は願いをさらう。

 麗らかな葉っぱが頭を撫でる。


 ベルギンガムは俯いて、

 ボロボロとんがる帽子を抑えた。


 悲劇さえも絵になる人は、

 不幸だろうか幸せだろうか。

 美しい涙を流せるなら、

 醜さを持たずに済むだろうか。


 城壁に絡んだ緑の蔦を、とんがり履で上りゆく。

 ベルギンガムはわがままで、

 夢見がちで意地っ張りで、

 ろくでもないほど子供っぽい。


「助けてあげる。手をとって」


 ベルギンガムは言った。

 バルコニーの柵を踏みつけ、

 高圧的に見下ろして。

 若草色の髪が羽ばたいて、

 ベルギンガムの顔を映した。


 姫はとても驚いて、

 彼女にとても感謝した。

 魔女もとても驚いて、

 彼女にとても─────


 涼やかな顔で、姫をさらう。

 ベルコニーから後ろ向きに身を投げて、

 伸びやかな腕を宙に投げる。


 息を吐けば空は染まる。

 魔女の呪いで、空に黒が滲み

 二人の少女を闇に溶かした。


 やがて柔らかい草の上に降り立って、

 姫の碧い瞳に透き通る、

 水晶を柔い指で拭った。


 そしてそれを月に投げて、

 姫を導く星にした。


「道は星が教えてくれる」


 姫は月明かりに照らされて、

 金の髪は一層荘厳に輝いた。

 魔女はそれを一瞥して、

 くるりと星の光を避けた。


 ベルギンガムは可愛い魔女。


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