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双刻の竜王-異界迷子のドラゴンロード-  作者: 十六夜月音
1章:SIDE:Y 氷竜王ニコラエヴナ編
8/23

6:決戦、そして・・・

『どうした?逃げるだけか人の子よ!』

 俺が戦場に選んだのは森の中だ。奴の図体はかなり大きい、森の中だと自由に動けないだろう。一方こっちは身を隠す場所が沢山ある。そのためわざわざイリスをここまで運んできたのだ。障害物を使って相手を撹乱し、隙を見て攻撃を叩き込む・・・つもり・・・だったのだが・・・

「ただの突進で木を全部薙ぎ払うって・・・反則だろ・・・!」

 思わずそうぼやいてしまう。そう、俺が障害物を利用としたことに対し、ヤツが取った行動は、障害物そのものの破壊だった。

 やっていることは単純だ、こちらに向かって突進をしてくる、ただそれだけだ。ただそれだけの行動で、大人ほどもある木の幹が簡単に砕け散っていく。悪い夢でも見てる気分だ。

 もちろんそんな突進に巻き込まれたらひとたまりも無い。なので、こうしてまた魔力爆発エクスプロジオンを使って必死に逃げている状態だ。

(いきなり作戦失敗かよ・・・!)

 さすがにあんなヤツに正面からかかっていって勝てる気は全くしない。そのための障害物だったのだが、これではもうどうしようもない

(このまま逃げ続けるわけにも行かないし・・・)

 今はとりあえずイリスから引き離すためにこうして逃げているが、いずれは追いつかれるだろう。魔力だって無限ではないし、さっきちらっと見たら左の足首から先が変な方向に曲がっていた、足元で魔力爆発エクスプロシオンを制御できるのもそろそろ限界だろう。

(なら、無茶でもやるしか無い・・・!)

 気がつけば下の雪原にまで戻ってきてしまっていた。ここら辺が潮時だろうか。

 魔力爆発エクスプロシオンで跳んでいる最中、空中で体を反対に向け、着地と同時にさらに魔力爆発エクスプロジオンを使い、今度は相手に向かって一気に跳躍する。無茶な姿勢制御をしたせいか、今度は膝の辺りから嫌な音が聞こえてきた。これは、勝っても負けてもしばらくはまともに歩けなさそうだ。

 思わず叫びだしたくなるほど痛い。けれど、今はそんな事に構っていられない、なんとしてでもヤツに剣を届かせる・・・!

「はぁああああああああ!!!」

 無理な跳躍では、狙いをつけられるほど体幹を安定はさせられない。とにかく一撃を与える、ただそれだけを考える。向こうもこんな無茶な方向転換は予想外だったのか、反応が鈍い。これなら当たるはず・・・!

 ズン、という手ごたえと共に、振り下ろした剣先から血飛沫が迸る。村一番の名剣というだけあって、中々切れ味がいい、何とか体表の鱗を切り裂き、ダメージを与えられたようだ。

 この剣、恐らくは狼人族に伝わる業物とかなのだろう。片刃の直剣だし、日本刀ほどではないがかなり扱いやすい。

(よし、これで少しでも怯んでくれれば、何とか隙を見つけて・・・・)

 また魔力爆発エクスプロシオンを使い、今度は相手の背後に回りこもうとして、 


ゴリュ・・・


「え・・・?」

 何か鈍い音とともに、急に左腕の感覚が無くなる。そして一拍置いてから、今まで感じたことの無い程の激痛が左腕を襲った。

「ぐぁあああああっ!」

 思わず叫びだしてしまう。一体何が起きたのだろうか・・・

「なっ・・・!」

 見ると、俺の左腕は血まみれで、肘から先が、綺麗に二つに裂けて・・・・・・居た。丁度3本指の腕と2本指の腕が出来た感じだ。冗談みたいなその怪我に、思わず意識が飛びそうになる。

 もちろんそんな状態で魔術を制御できるはずも無く、足元で魔力は暴発、俺はそのまま地面に叩きつけられた。

「ぐぅっ・・・!」

 無様に呻き声を上げながらそのまま地面を転がる。落下の衝撃か、暴発の衝撃か、さっきから感覚がなくなっていた両足は、膝ではない場所からあらぬ方向に折れ曲がっていた。これは、流石に立ち上がることすら出来なさそうだ。

『ふむ、中々美味ではないか貴様も』

 竜が口の周りの血を舐めとりながら、そんな事を言ってくる。どうやらすれ違う瞬間に左腕に噛み付かれていたらしい。なるほど、あの程度の傷では隙なんて出来ないと、そういう事か。

『ふむ、人の身で我にわずかながらでも傷をつけたというのは、賞賛に値するかもしれんな』

 そう言いながら今度はさっき俺が切りつけた傷跡を舐める。すると、どうやらもう出血は止まっているようで、傷ついた鱗が見えるだけになっていた。

(ははは、マジかよ・・・)

 全くなんて出鱈目な存在なんだろうか。俺の渾身の一撃は掠り傷で終わり、向こうの軽い噛み付きでこちらはもうほぼ再起不能に追い込まれた。

 やはり異世界人とはいえ、ただの人間がいきなり竜、しかも竜王なんて呼ばれてる存在に喧嘩を売るのは、無謀だったようだ。無い知恵を絞って考えた作戦も、全部作戦にすらならなかった。大きすぎるその存在に、忘れかけていた恐怖心が戻ってくる。

『どうやらもう動けないようだな・・・まぁ、仕方があるまい』

 竜がかけてくる言葉に返事をする力さえもう残っていない。左腕から流れる血液が、どんどん体力を奪っていく。もう意識を保つのさえ怪しい状態だ。

『では、我に傷をつけたその働きに敬意を表し、せめて一息に喰らってやろう』

 だからそう嗤う竜の声もあまりよく聞こえていなかったし、右手がちゃんとまだ剣を握っていたことすら意識していなかった。

(イリス・・・みんな・・・)

 俺の頭の中にあったのは、ただみんなを守りたいという思いと・・・





(アイツが・・・・アイツが・・・・・!)







 俺の家族を奪った、あの黒い龍へのこの強い感情・・・


 


――そう、憎しみだけだった。




 俺は、アイツが憎い――この土壇場で、ようやくその感情を自覚できた。

 ならば、今は恐怖を感じている場合ではない。

 途端に目の前の視界がクリアになっていく・・・そして、大きく開いた大顎が、あの黒龍とダブって見える。

「あぁぁああああああ!」

 絶叫と共に右腕を開いた顎に突き入れる。右手には剣がまっすぐ握られている、つまり・・・

『がぁっ!』

 今閉じようしていた大顎が、剣に支えられ閉じられなくなっていた。もしこの剣が龍の骨を貫通できるほど鋭いか、もしくは龍の顎の骨がもっと脆ければ、そのまま顎は閉じられ、俺の命は無かっただろう。コイツも無事ではないだろうが、恐らく命を奪うほどでは無いだろう。

 だから、これで良い。俺の切り札・・・はこれでは無いのだから。

 そのまま身を乗り出し、今度は左腕を顎の奥に突っ込む。そして剣を手放し、右手で裂けて割れている左腕の片側を掴み、それをさらに開いていく。

「がぁあああああっ!」

 あまりの激痛に今度こそ意識を失いそうになる。けれど、ここで意識を失う訳には絶対に行かない。これこそ、俺の最後の賭けに必要なことなのだから。

 大量の血液がどんどん竜の喉の奥に流れ込んでいく。恐らく、もう胃の中にまで辿り着いているはずだ。それを確認して、俺は腕の先に残っているありったけの魔力を集中させていく。


 ――俺の魔力爆発エクスプロシオンは、自分の体が触れているところからしか発動できない。では、その体の定義とはどこまでなのか、俺はこれをほとんど試したことは無い。

 以前、髪の毛の先から発動できないかと試してみたことがあるが、そのときは上手くいかなかった。髪の毛というか、普通に頭から発動してしまい、後ろの壁の思いっきり頭を打ち付けてしまった。

 抜けた髪の毛からでも同様で、つまんでいる指先からの発動だった。

 では、体外に流れた血液からではどうだろうか?これは、まだ試していない。理由は言わずもがな、そのためにはかなりの出血が必要になるからだ。実験のためだけに自分で怪我をする程俺はマゾでは無い。

 だが、血液からなら発動できる可能性は高いと、俺は考えていた。それは、魔力は血液を媒介にして体を巡っているのではないかと思っているからだ。

 事実、魔術の練習を始めた頃、始めは魔力のコントロールが上手く出来なかったのだが、自分の中の血液を操作するようなイメージを思い浮かべて練習したところ、上手く出来るようになったのだ。恐らく可能性は高いと思う。 


(もっと・・・もっとだ・・・・!)

 左腕に集中させた魔力を、血液を通しどんどん奥に運んでいく。出し惜しみはしない、残っている全ての力を集中させる。

 これが俺の考えた切り札だった。成功するかもわからない、最後の自爆技のような物だ。けれど、もうこれに賭けるしかなかった。

 恐らく、口の中での爆発では威力が逃げてしまい、倒しきることは出来ないだろう。だが、体の中、胃の中からならどうだろうか?いくら竜とはいえ、爆発に耐えられるほどの胃袋を持っているとは思わない。

「吹き・・・飛べぇええええ!」

 最後の意識を振り絞り、胃の中に届いた血液の先端から、魔力爆発エクスプロジオンを発動する。数瞬後、ものすごい衝撃と爆発音が竜の喉の奥から発せられ、俺は大きく吹き飛ばされる。

 俺の物か、竜の物なのかもはやわからなくなった大量の血液を全身に浴びながら、雪原に投げ出された俺はゆっくりと意識を手放していく。血も魔力ももう出し尽くした。これ以上はもう指先ほど動かせそうに無い。生命力というものが、ゆっくりと無くなっていくのが自覚できた。

 けれど、不思議と今は穏やかな気持ちだった。全てを出し尽くした満足感というものだろうか。満足して死ねるというのなら、この人生、そう悪いものではなかったのかもしれない。

 竜の方に意識を向けると、そこには臓物を曝け出して崩れ落ちる竜の姿があった。どうやら最期の策は成功したようだ。これならヤツの命も無いだろう。

 相打ちなら、俺は十分やれたのではないだろうか?ただの人の身で、あんな破壊の権化を止める事が出来たのだから。


 そんな満足感に包まれながら、俺はゆっくりと目を閉じていく。意識を失う直前目にした、こちらに向かって走ってくるイリスの姿に、笑みを返しながら・・・

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