3:傭兵ギルド、武闘大会
ゲオルグの工房兼家を出てからしばらく歩くと、赤い屋根の大きな建物が見えてきた。豪奢と言う訳ではないが、堅牢そうな作りの2階建ての建物で、なにやら軽く威圧感さえ感じさせる。
その建物こそ、目的の傭兵ギルドだった。俺たちは傭兵の登録をするためにやってきたのだ。
建物に入ると、すぐ目の前には受付らしいカウンターがあり、カウンターの奥の広間には数人の粗野な風体の男達や、気性の荒そうな女性、ローブを被ったいかにもと魔術師いった風体の男などがたむろしていた。恐らく依頼を受けに来た傭兵達なのだろう。彼らの纏う雰囲気は、俺が想像してたとおりで、まさに「ファンタジー世界の冒険者」という感じで、いまさらながらゲームか何かの世界に迷い込んでしまったような気分になる。もっとも、これが現実だということはすでに十分すぎるほど実感しているので、本当にそんな気分になるというだけであるが。
折角だし彼らと少し話でもしてみたいが、今はとりあえず目的を優先しよう。俺は目の前のカウンターに座る人物に声をかける。
「すいません、傭兵の登録に来たんですけど・・・」
「ふむ、紹介状は持ってるのかな?」
「はい、これを」
「なるほど、中身を改めさせてもらうよ」
そう言って渡した村長からの書状を確認する人物は、白髪の目立つ初老の男性だった。こういうところの受付といえば、なんだかんだと理由をつけてあえて可愛い女の子が担当するというのがお約束だと思っていたが、現実はそういう訳ではなかったらしい。ちょっと残念に思っていると、何故か後ろからイリスの刺すような視線を感じる。何かしただろうか・・・
「ふむ、確かに。レオナード殿の紹介ということなら恐らくこの書状の内容は事実なのだろう。君たち二名を正式な傭兵として認めよう」
「村長・・・レオナードさんを知ってるんですか?」
随分あっさりと認められてしまったので、少し気になったことを聞いてみる。男の口ぶりからすると随分と村長は信頼されているらしいが・・・
「ああ、私がまだ駆け出しの傭兵の頃に世話になってね・・・当時レオナード殿は、そこそこ名のしれた傭兵だったのだよ」
なんと、村長の意外な過去が判明した。まぁ確かに初級魔術とはいえ弱い魔物なら一撃で倒せる魔術が使えるのだ、若くて体力もある頃なら十分に傭兵等の仕事も出来たのだろう。
ちなみに目の前の男性は数年前まで現役で傭兵をやっていたが、やはり年で体力が落ちてきたことから受付の仕事をするようになったそうだ。彼のようにギルドの職員は元傭兵が多いらしく、ギルド職員というのは引退後の定番の職業らしい。中には若い女の子が居ることもあるにはあるらしいが、基本的には粗野なものが多く集まる場所であり人気はないし、仕事の内容もやはり元々傭兵をやっていた人間のほうがスムーズに進むということで、基本的には彼のようにおじさんおばさんばかりらしい。なんとも夢のない話だった。
「書状によると君は剣士でありながら魔術師でもあるそうだね?氷属性の魔術を自在に操るとか・・・その若さで大したものだ、まさに期待の新人というやつかな?」
「ははは、そんなに期待されるほどじゃないですよ」
どうやら村長は俺の竜王魔術を氷属性の魔術として紹介してくれたらしい。まぁ今までの反応を見るに、馬鹿正直に竜王魔術が使えるなどと言っても信じてくれないだろうし、信じられたらそれはそれで面倒なことになるのは明白だ、村長もその辺を考えてくれたのだろう。
「そちらのお嬢さんは水属性で治癒魔術が使えるとか。小隊を組むときには是非とも必要な存在だし、その上狼人族の身体能力で戦闘にも参加できるとなれば、引く手あまただろう」
『小隊』とは、依頼を受けるときに一人ではなく複数人数で受ける時の単位だ。むしろ魔物退治などの危険な依頼はこの小隊で受けるのが基本らしい。前衛を剣士が勤め、後衛で攻撃魔術や弓を扱えるもの、そして治癒魔術が扱えるか、薬師がそのサポートに入る、というのが定番の組み合わせらしく、簡単にいえばRPGでいうパーティーみたいなものだ。この場合イリスは前衛を勤めながら回復役もこなせるということで、これは確かに活躍の場が多そうだ。だがしかし、当の本人は、
「ありがとうございます、けれど私はヤト様以外の方と組むことは考えていませんので」
などと断言してしまう。俺自身今のところイリス以外と組んで依頼を受けるつもりはないので問題はないのだが、こうもはっきり断言してしまうのもどうなのだろうかと少し思ってしまう。実際俺達の会話を聞いてこちらに声をかけようと様子を窺っているものも居るようだし、このままでは何か面倒事に巻き込まれそうな気もする。
受付の男も少し怪訝そうな顔をする、だがすぐに何かに納得のいったような顔になり、こんな事を言いだした。
「ひょっとして君は彼の従者なのかな?君も彼もよく見ればただの街人とはどことなく纏う雰囲気が違うし、彼に対する態度からして・・・ふむ、元は訳ありの貴族かなにかと言ったところだろうか」
何かよくわからない納得をされているようだ。イリスはそういえば一応元王族ではあるのだし納得はできるが、俺のどこが貴族なんかに見えるのだろうか・・・いや、この世界の貴族がどういうものなのかよくわかっていないので本当にそう見えているのかもしれないが。
「いや、俺達は・・・・」
流石にそんな変な誤解をされるのもどうかと思い否定の言葉を告げようとするが、イリスに止められてしまう。
「従者・・・従者、はいそうです、私はこのヤト様の従者です!ヤト様は、貴族という訳ではありませんが、ある高い身分の方です。具体的にどういう身分かは答えられませんが・・・」
「ふむ、なにか事情があるのだろうね。こちらとしては身分にこだわるつもりはないので深くは聞かないでおこう。一度傭兵となれば仕事中は同じ身分になるのであるし、それをわかった上で来ているのだろう?ならば詮索はしないさ、似たような事例は意外とあるものだしね」
男は「わかっている、皆まで言うな」という態度でその先の言葉を止める。イリスの言うこともまぁ一応今は『竜王』という身分(?)であり、それは言う訳には行かないので嘘は言ってないのだが、絶対まだ何か誤解している気がする。イリスの方を見ると、従者という言葉に何かしっくりくるものがあったのか、「従者・・・ヤト様の従者・・・」と何度もつぶやきながらうっとりした顔で尻尾を揺らしていた。恐らくこれから俺たちの関係を聞かれた時は対外的にその「従者」という立場を使うつもりなのだろう。まぁ確かに今までのように恋人同士と思われるよりは色々と楽だろうが、それはそれでどことなく寂しいような・・・
(・・・って、何考えてるんだ俺は)
イリスは自分のことを「俺の所有物」等と言っているが、そういう関係ではないのだ、一応対外的に言い訳が聞きそうな立場があるのなら、それを名乗るのが良いに決まっている。
思わず思考が脇道にそれてしまったが、今はそれよりもこの先について具体的な話をすることのほうが先決だろう。
「ところで、これで依頼を受けれることになったんですよね?早速何か依頼を受けたいんですけど・・・」
「ああ、それなんだが・・・今は時期が悪くてね、すぐに紹介できそうな依頼がないんだ」
どういうことだろうか?傭兵ギルドは常に依頼がたくさんあると聞いていたし、予想では簡単な魔物退治の依頼位ならすぐに受けられると踏んでいたのだが・・・
「もうすぐ武闘大会だからね、安全のために大規模な魔物の討伐が行われて、今この周囲には魔物退治の依頼はないんだよ。他の依頼も大会に参加する傭兵たちが大会に集中するためにあらかた片付けてしまった後だし、大会が終わるまでは申し訳無いが待っていて欲しい」
これは予想外の展開だった。一応村長からもらった路銀はそこそこあるし、装備代も予想より安く済んだため、1週間程度なら宿に滞在できる分のお金はあるのだが・・・
「そうだ、腕に自信があるなら、武闘大会に出てみないかな?参加はギルドの所属なら誰でも可能で、参加費はかからないし、上位に入賞できれば賞金も出るからね。優勝者を予想しての賭けも行われてるけど、まぁそれはオススメしないでおくよ」
どうやら今からでもその武闘大会には参加できるらしい。上位に入賞できるかはわからないが、どうせ仕事はないのだし、それに他の参加者と比べることで今の俺の実力というのを図るのにも良いかもしれない。
「ちなみに大会のルールとかは?」
「あぁ、それなら簡単だよ、魔術でも剣でも何でもあり、勝敗の付け方は審判が相手を戦闘不能と判断するか、相手を場外に出して指定時間内に戻ってこれなかった場合か、相手が降参を宣言するか。ただし相手を殺してしまった場合は反則負けの上に場合によっては投獄だ。だからまぁ命の危険はそこまではないかな?まぁもちろん魔物退治に比べたらであって、武器を使う以上絶対はないけれどね」
なるほど、感覚的には武器や魔術で派手になったプロレスのルールみたいなものか。この世界には治癒魔術もあるし、確かに危険という意味では魔物退治などよりも少ないだろう。
「なら参加してみようかな・・・」
「了解、ならギルドの入会申し込み手続きと一緒に、そちらも手続きをしておくよ。実は私はその武闘大会のギルドでの担当でね、今日が申し込みの期限なんだが、丁度2名ほど枠が欲しかったところなんだ」
どうやら登録に来たばかりの俺達にその話を進めてきたのはそういう事情もあったらしい。こちらとしては渡りに船なので問題はないのだが・・・
「ん、2名・・・?」
ふと気になることを言っていたのを確認する。2名ということは、まさかイリスにも出場させるつもりなのだろうか。
「ああ、君とそこのお嬢さんで丁度2名になるね。狼人族で実戦経験もあるというのならいいところまで行けるだろうし、問題ないと思うけど?」
どうやらそのまさかだったようだ。確かに魔物退治なども出来るのだし、普通の人間よりは強いということは知っているが、それでもやっぱり女の子をそういう場所に出場させるというのは抵抗が・・・
「はい、問題ありません。お互いがんばりましょうヤト様」
俺のそんな思いとは裏腹に、どうやらイリスの方は参加する気のようだった。まぁ考えてみれば日本の武道の試合だってちゃんと女子の部はあるのだし、男女混合戦というものも無くはない。ルールがちゃんとある分魔物退治などよりも安全ではあるのだろうが・・・
(けど、やっぱイメージというものが・・・)
イリスの見た目はどちらかというと清楚なお嬢様といった感じだ。そんな彼女が荒くれ者たちが集って戦う場所に立つというのは、どうにも想像できない。
しかし本人がやる気だというのなら止めるのもおかしな話なのだろう。実際問題入賞する確立が上がれば、路銀の問題も解決する可能性が高くなるのだし。
「ふむ、それでは登録の方はこちらで進めておこう。それと、これを渡しておこう」
「これは・・・?」
渡されたのは金属製の小さな板2枚に、紐のついたものだ。アクセサリーと呼ぶには簡素すぎる物だが、何だろうか。どことなく見覚えのある形だが・・・
「ギルドタグと呼ばれるものでね、奥に彫金が出来る職員がいるから、その職員に渡して名前と出身地を掘ってもらうと良い。それが君たちの傭兵としての身分証になる」
なるほど、米軍のドッグタグのようなものか。2枚あるというのは、恐らく用途も同じで、戦死した時に認証用に使うのだろう。
「依頼を受ける時などはそのタグを職員に見せてくれれば良い。2枚あるのは・・・・まぁ、何かあって喋れなくなった時に、身元を確認するときの報告用だね」
明言はしなかったが、やはりそういう理由のようだ。まぁ命の危険を伴う仕事なわけだし、こういうものも必要なのだろう。
「他細かな規約等は奥に冊子が置いてあるから、参考にすると良いだろう。また何か疑問があれば気軽に職員に聞いて欲しい」
「はい、色々ありがとうございます」
「いや、これも仕事だからね、それでは改めて・・・ようこそ傭兵ギルドへ、我々は君たちを歓迎するよ」
こうして俺たちは傭兵ギルドへの登録と、予想外に武闘大会への参加が決定したのだった。
「イリスさんに、ヤトさん・・・?」
「あ、シエラさん」
ギルドでタグを受け取った後宿に戻ると、丁度シエラさん達と出くわした。
「シエラさんたちも今帰ってきたところですか?」
「ええ、傭兵ギルドに用があって出かけていたんですけど・・・」
なんと、二人共俺達と同じく傭兵ギルドに行っていたらしい。ということは
「あれ、二人共傭兵なんですか?」
「ん?ああ、一応私もシエラ様も一応ギルドに所属はしているが、今日はちょっと違う用事でね」
アゼリアさんはわかるが、シエラさんもとは少し意外だった。けれどまぁ、今はイリスも所属している訳だし、見た目で判断するのはやめたほうが良さそうだ。
「そういえば今は仕事が無いんでしたっけ・・・じゃあ武闘大会ですか?」
「ああ、まぁ・・・当たらずとも遠からずといった所か・・・」
そう言ってアゼリアさんは少し歯に物が挟まったような言い方をする。何かあるのだろうか?
「しかしこの街に来たばかりで武闘大会の事をもう知っているということは、君たちも傭兵ギルドに?」
「ええ、先ほど登録してきたばかりですけど」
「なるほど、ということはもしかして武闘大会にも参加するのかな?」
「はい、私とヤト様の二人で参加します」
「そうか、武闘大会には私も参加する、当日はよろしく頼むよ」
どうやらアゼリアさんも参加するらしい。なかなか鍛えているようだし、もしかしたらこれは強敵なのかもしれない
「本当は私も参加しようと思ったのだけれど、アゼリアに止められて・・・」
「当然ですシエラ様。そんな危険な物に参加させられません。大体シエラ様は魔術師なのですし、今回のルールでは思うように動けないでしょう」
「私だって傭兵をやっているのだし魔物退治とかのほうが危険じゃない・・・それに聞けば魔術師でも参加してる人は居るというし」
「それはちゃんとある程度の武術の心得があって、さらに魔術の威力の調整ができる人です。シエラ様のように魔術以外使えず、さらに威力の調整が出来ないようでは論外です。相手を殺して投獄されたいのですか?」
「う・・・それは・・・」
シエラさんはやはり高い魔力を持つというアールヴ族らしく、魔術師のようだ。話を聞く限り人相手に使えば殺しかねない威力の高い魔術を使えるらしいが、調整は下手ということだろう。
「それに発動まで時間がかかる魔術しか使えないのですから、ある程度武術の心得がある人間なら距離を詰められて一瞬で終わりです。今回は諦めてください」
「・・・わかったわよ」
そう言ってシエラさんはしぶしぶ納得したようだ。見かけによらず案外好戦的な性格なのかもしれない。
「そう言えば、二人ってどういう関係何ですか?ただの友人というふうには見えないんですが」
話を聞いていて、ふと気になったので尋ねてみることにした。シエラさんはまだ17だというし、それを様付けで呼ぶアゼリアさんは明らかのシエラさんよりも年上だ。一体どういう関係だろうか?
「ああ・・・それは・・・」
「えーと、そうね・・・」
すると二人共困った顔で思案しだした。何かいけないことを聞いてしまっただろうか。
「そ、そうだ、それなら君たち二人もどういう関係なんだ?最初は恋人かとも思ったがどうやら違うようだし、イリス君はヤト君を様づけで呼んでいるし」
「私たちは・・・そうですね、主人と従者の関係です。詳しくは明かせませんが、ヤト様はとある身分の方でして」
こちらはさっきも使った言い訳をイリスがよどみなく応える。この「ある身分」という言い訳はなかなか便利のようだ。
「そ、そうか、偶然だな、私達の関係もそれと同じようなものでね、シエラ様も訳あって身分は明かせないが、私もシエラ様に使える従者のようなものなんだ」
アゼリアさんが焦ったようにそう応える。ふむ、どうやら俺達と同じように、正解は話していないがギリギリ嘘は言ってないというところだろうか。
「なるほど、そうだったんですね」
とは言え、会って間もない人間にあまり詳しい事情を聞くのも悪いだろう。話したく無いのなら無理に聞き出すつもりはなかった。今のところそのことで俺たちが不利益を被るようなこともないだろう。
「ああ、そういうことだ。まぁ何はともあれ、武闘大会ではお互い頑張ろう。しかし、ヤト君は鍛えているのがわかるが、イリス君もか・・・いや、狼人族ならある意味当然なんだろうが」
そう言ってはじめは意外そうな顔でイリスを見た後、一人納得していた。そういえばイリスしか知らないのであまり実感が無いのだが、狼人族というのはそんなに強いことで有名なのだろうか?受付の人も狼人族ならいいところまでいけるだろう的な話をしていたし・・・
「何だ、イリス君と一緒に居て知らないのか?狼人族と言えば、亜人種とされる種族、その中でも最強と呼ばれる種族なんだぞ?膂力や知覚力、速さ、どれをとっても人族との差は圧倒的、魔力こそアールヴ族に劣るが、それでも人族よりも高いし、有名な傭兵にも狼人族は多いんだぞ?」
なんと、イリスから身体的に優れた種族だとは聞いていたが、最強と呼ばれているとまでは思わなかった。アゼリアさんからの説明を聞きながら、イリスは少し恥ずかしそうな顔をしながも、やはり自分の種族を褒められて嬉しかったのか尻尾が揺れていた。かわいい
「それだけに、ガルド王国が滅亡したのは悔やまれるな・・・狼人族の民自体は残っているが、彼らによって統率された国軍はまさに精鋭だった。私も幼いころは憧れたものだよ・・・」
ガルド王国、その言葉が出た時に一瞬イリスの顔が曇る。そう言えば聞いたことはなかったが、恐らくそのガルド王国というのがイリスの居た狼人族の国なのだろう。
「おっと、済まない、もしかしたらイリス君はガルド王国の出身だったかな?だとしたらつらい過去を思い出させてしまったかもしれない、この通り、謝罪しよう」
イリスの表情を見て何かを察したのか、アゼリアさんがハッとした顔で頭を下げる。
「い、いえ、もう随分前の話ですし、私も小さいころの話ですから、そこまで気にしてもらうほどのことじゃ・・・」
「それでも・・・だ。母国が滅ぶというのは、辛いことだ」
そう話すアゼリアさんの顔も、何かをこらえているような表情だった。
(そういえば使おうとしてたノーマン金貨も、滅んだ国の物だって話だったか・・・)
彼女たちがノーマン王国出身だというなら、彼女たちの国も滅んだという事になる。ここまで真剣なのは、きっとそんな過去があるからだろう。
(それにしても、少し真剣すぎる気もするけど・・・)
俺自信、愛国心というものをあまり実感したことがなかったからか、そこまで真剣になるものだろうかという気もする。よほど愛国心が強かったのか、それとも・・・
(いや、詮索するのはよそう)
流石に出会って間もない人間にあれこれ詮索するのも邪推するのも失礼だ。この話はいずれ機会があったらということでいいだろう。
「何はともあれ、狼人族というのはそういう種族だ。私も見た目に惑わされず、油断しないようにしないとな」
「ふふ、お手柔らかにおねがいしますね」
そう笑うイリスだが、なんだかんだで多少は自信があるのだろう、お手柔らかに、というのは本当に社交辞令のようにしか聞こえなかった。
「っと、そうだ、ゲオルグさんにさっき会ってきたんですけど・・・」
そうだ、一応この話もしないといけない。
「おぉ、息災だったかな?」
「ええ、ですけど、その、残念ですけどアゼリアさんのことは覚えてないそうで・・・」
「そうか・・・まぁもう15年も前の話だし、仕方がないか・・・」
そう言ってアゼリアさんは少し残念そうな顔をする。確かに15年といえばかなりの年月だ、俺だって15年前の知り合いなんて・・・
(あれ・・・?15年前って、アゼリアさんは何歳だったんだ?)
少なくともシエラさんよりは年上だろうが、それでも10も20も違うようにまでは見えない。せいぜいが20代半ばから30前だろうし・・・
「あの、ところでアゼリアさんって今何さ」
「何かなヤト君?」
「・・・いえ、何でもありません」
無言の圧力でその先は聞けなかった。うん、やはりこの世界でも女性の年齢というのはタブーのようだ。シエラさんの場合は逆のパターンだったため自分から名乗っただけだろう。
まぁどちらにせよ、そのくらいの年齢なら当時は騎士などやっていないだろう、そう考えるとゲオルグが思い出せなかったのも当然かも知れない。
「ま、まぁ住んでる場所はわかりましたんで、機会があれば訪ねてみると良いかもしれませんよ」
「そうだな、機会があればそうさせてもらおう」
ゲオルグの工房兼住居の場所を教えて、俺たちはそれぞれの部屋へと戻っていった。そういえば武闘大会までは暇だし、明日からの予定はどうしようか?とりあえずは観光と・・・竜王魔術と武術の鍛錬だろうか。
なんにせよ、大会までは穏やかな日々が続くことになりそうだ。




