表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双刻の竜王-異界迷子のドラゴンロード-  作者: 十六夜月音
3章:SIDE:Y 炎竜王ハジュン編
22/23

2:ドヴェルグの鍛冶師、竜王という存在

「ここ・・・で良いんだよな・・・?」

 翌日、俺たちは村長の紹介にあった、ゲオルグという鍛冶師の元を訪れていた。鍛冶師と聞いていたので、工房のような場所を想像していたのだが、その場所は予想に反して普通の民家にしか見えなかった。

「とにかく、話を聞いてみましょう」

「そうだな・・・」

 もし違っていても、それなら改めて聞けば良いだろう、引っ越したにせよ、住所を間違っているにせよ、何かしらの情報は得られるはずだ。

「すいません、ゲオルグさんは居ますか?」

 俺は軽くノックをした後、外から声を掛ける。すると、すぐに返事とともに扉は開いた

「ゲオルグなら俺だが・・・何か用か?」

 出てきたのは無精ひげの目立つ、気だるそうな態度の、恐らく40台半ばくらいの男だった。浅黒い肌にやや長い耳、がっしりした体つき・・・ドヴェルグ族と呼ばれる種族の男だった。

 ドヴェルグ族というのは鍛冶技術に長けた種族で、アールヴ族と同じように高い魔力と長い寿命を持っているらしい。アールヴ族がエルフなら、こちらはダークエルフと言ったところか。鍛冶技術に長けているというところはドワーフとかそういうのに近いが、確かドワーフもダークエルフも起源は同じらしいとか言う話を優馬から聞いた覚えがあるし、恐らくそういう認識でもあっているのだろう。

 それにしても、昨日はアールヴ族、今日はドヴェルグ族と、会ってみたかった種族とこうして立て続けに会う事ができたのは、幸運だった。恐らくアルカ村から出なければ会う事はできなかっただろうし、思い切って旅に出た甲斐があるというものだ。

「始めまして、神楽哉刀カグラ ヤトと言います、アルカ村の村長・・・レオナードさんからの紹介で来たんですけど・・・」

 とりあえずまずは挨拶からだ、村長は自分の紹介だと言えば信用してくれると言っていたが・・・

「レオナード・・・、おお、あの爺さんのか!ってことは二人はアルカ村の出身なのか?」

 村長の名前を出すと、男は気だるそうな態度から一変し、急に友好的な態度になった。やはり村長の知り合いと言うのは本当のようだ

「はい、村長から信用できる鍛冶師だって紹介されまして」

「なるほどなぁ、しかし懐かしいな・・・もうあの村を出てから10年近くになるんだよな・・・」

 やはりゲオルグさんは以前アルカ村に住んでいた事があるらしい。10年前と言うと、確かイリスが村にやってきた頃だから、イリスが知らないという事は恐らく入れ違いになってしまったのだろう。

「どうだ、元気にしてるか?あの爺さん」

「ええ、魔物退治に出るくらいには」

「おいおい、流石にそろそろ年寄りの冷や水って奴だろ、無茶するなぁあの爺さん」

 そう言って男は懐かしい物を見るように笑っている。どうやらあの村長、10年前も似たような事をやっていたようだ。

「それで、俺のところに来たって事は、何か魔物素材で武器を作って欲しいって事か?言っちゃ悪いがそれだけなら他の店の方が同じ物でも安く済むぜ?今は半分趣味でやってるような店だしなぁ」

「趣味・・・ですか?」

「ああ、だからほら、見える場所に工房こさえてないだろ?ウチの工房は地下に小さいのがあるだけなんだよ」

 なるほど、確かに地下にあるのなら見た目が普通の民家と同じなのも頷ける。その分小規模になるだろうし、量産が出来ないのだろう。そのため一つあたりの単価が上がるという事か。

 しかし、今回作ってもらう物の事を考えると工房が地下にあるというのは逆に都合が良い。おそらく目立つ素材だろうし、あまり人目に触れさせないほうがいいだろう。寧ろ村長はそれを見越して彼を紹介したのかもしれない。

「いえ、今回は値段よりも『信用出来る』って事の方が重要だったので」

「ほぉ、それは・・・あまり表に出せない素材・・・って意味か?」

 どうやら今のやり取りだけで理由を理解してくれたらしい。やはり普段からそういう依頼を受けているのだろうか。

「まぁ、そんなところです。イリス、例のものを出してもらえるかな?」

「はい、ヤト様」

 イリスが鞄から氷竜王由来の素材を次々と取り出していく。一応貴重品?でもあるし自分で持とうとも思っていたのだが、氷竜王の素材はその強度に対して非常に軽く、寧ろ日常品の入った鞄の方が重いくらいなためそちらはイリスに任せていた。本人は全部自分で持とうとしていたようだが、流石にそれは体面が悪いし、俺もそうするつもりは無かった。

「そういえば、嬢ちゃんは・・・?」

「はい、イリス=クレメンテと言います。丁度10年ほど前からアルカ村にお世話になるようになりまして、ゲオルグさんのお話は兼ね兼ね・・・」

「ああ、そうかしこまらなくても良い、10年前ってーと、丁度俺が村を出てこっちに来た頃か・・・なら嬢ちゃんとは入れ違いになったみたいだな」

「はい、残念ながら・・・」

「まぁそれは仕方ないさな、巡り合わせが悪かったって奴だろうさ。そして様付けで呼ぶ兄ちゃんとの関係も気になるところだが、まぁまずはその素材とやらだな・・・」

 ゲオルグさんはそう言ってテーブルに並べられた氷竜王の牙や爪を手に取り、観察を始める。

「ふむ、かなり年経た氷竜みたいだな・・・しかもこの魔力に強度・・・その中でも相当上位の存在だろうな・・・確かにこんな素材、おいそれと外には出せないか・・・」

 どうやら見ただけでもある程度はわかるものらしい。さすがは鍛冶に長けたドヴェルグ族ということだろうか。

「氷竜といえば、そういば何年か前にアルカ村に氷竜王が出たなんて噂があったっけなぁ・・・眉唾ものの話だと思ってたけど、案外こいつがそうだったりしてな!なーんて・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「おい・・・冗談・・・のつもりだったんだが・・・」

 冗談みたいな話だろうが、事実なのだから仕方がない。引きつった笑顔を浮かべるゲオルグさんに俺は無言で頷き、答えとした。イリスもなんとも言えない笑みを浮かべている。

「マジかよ・・・竜王の素材なんて、そんなの表に出せないってレベルじゃないだろ・・・なんてもん持ち込んでくれたんだ・・・」

 そう言ってゲオルグさんは頭を抱えてテーブルにうずくまる。予想はしていたが、やはり竜王の素材というのはかなりやっかいな品物のようだ。安易に売らなくて正解だった。

「えーと、あまり詳しくないんだけど、やっぱりそんなに凄い品だったんですか?」

「凄いなんてレベルじゃねぇよ!売りに出せばこの鱗一枚で小さな家が一軒建つ値段するんだぞ!?それがこんなたくさん・・・ってかよく見たら一部どころかこれほぼ全身分の素材じゃねぇか!小国の国家予算が吹き飛ぶぞ!」

 その発言に俺もイリスも目を見開いて驚く。恐らく高額で売れるだろうとは思っていたが、そんなにとは思わなかった。適当に革袋に押しこむとかかなりぞんざいな扱いをしてきた気がするが、まずかっただろうか

「というか本当何者なんだよお前ら・・・噂が本当だったとして、鱗一枚くらいなら運良く拾ったとかで納得できるが、全身素材って事は氷竜王は死んだってことじゃねぇか・・・どんな化物が倒したんだよこれ・・・」

「化物ではありません、ヤト様です」

 イリスがそのつぶやきに憮然とした表情で即答する。いや、一応その辺はボカしとこうと思ってたんだけど・・・

「はぁ?その兄ちゃんがか?冗談はよしてくれ、竜王なんて人間がどうにかできる存在じゃねぇだろう」

「けれど事実ですから、そしていまはヤト様が氷竜王様です」

「冗談は休み休み言ってくれ、その兄ちゃんが対竜級魔術師様だってんならまだ可能性はあるかもしれねぇが、アルテランド王国の筆頭魔術師様でさえ対獣級だ、兄ちゃんは違うだろ?」

「ああ、まぁ・・・」

 俺は対竜級どころか変換資質が無いためそもそも普通の魔術が使えないのだ、間違ってはいない。

「けど、事実倒したのはヤト様です。それはもうすさまじい戦いでした・・・」

 そう言ってイリスは頬を上気させながら目を輝かせている。あの時イリスからは結構離れた位置で戦っていたのだが、目の良いイリスには見えていたそうだ。そのため、決着がついた後すぐに駆けつけてくれたのだ。

「はっ!、なら証拠を見せてみろっての、本当に竜王なら竜王魔術ってのが使えるんだろ?今すぐ見せてみろっての」

「だそうです、ヤト様」

「えー・・・」

 何かいつの間にか俺が竜王魔術を見せる流れになっていた。イリスも別にそんなに必死にならなくても良いのにと思うが、一応尊敬?してくれているみたいだし、そういう対象を馬鹿にされたようで少し腹がたったのかもしれない。まぁこうなったら仕方がない、俺が竜王だというのも加味して素材をどう扱うか相談したほうが良いかもしれないし。

「じゃあとりあえず、こんなので・・・」

 竜王魔術を使えると証明するには、つまり呪言キーワード無しで既存の魔術にない現象を起こせば良いということだろう。なので、最近練習によく行っている物を見せることにする。

 俺は右手を横に突き出し、そこに大気中の水分を集め、凍らせていくイメージを作る。そしてその氷を頭の中に想像する形通りに成形していく。

 色々と実験や練習を重ねて、竜王魔術についてわかったことが幾つかある。まず、通常の氷属性の魔術の用に、例えば氷の槍を発射したりといったことは不可能だということだった。

 突き詰めると、氷竜王の竜王魔術、「氷雪を司る力」というものは、「冷気を操る」だけの代物なのだ。なので、氷の槍程度なら作ること自体はできるが、それを発射したり、明らかに空気中の水分よりも多い質量の氷の塊を生み出したりなどはできないという事だ。

 だが、逆に「冷気を操る」ことに関しては信じられない位自由度が高い。例えば大気中の水分を凝固させ雪を生み出し、周囲の気温を下げ気圧差を作り風を産み、吹雪を起こすといったことも可能だ。先代氷竜王ニコラエヴナが纏っていた吹雪はこうやって作ったのだろう。

 次に、離れた場所に効果を発動させるには、その場所を明確にイメージ出来ないと、高い効果は発揮できないということだ。一番確実なのは直接触れているもので、逆に動き回る相手など位置が不確定の物にはほぼ効果がない。

 例えば直接触れていればトロールみたいな巨大な相手でも氷漬けにできるが、離れて動きまわる相手にはせいぜい肌寒い程度の効果しか与えられないということだ。相手を見ただけで凍りづけに、なんて理不尽な技は流石にできないようだ。

 また、効果が現れる時間や威力に関しても距離は関係するらしい。直接触れている場合ならばそれこそ一瞬で氷結させることができるが、そうでない場合はかなり時間がかかるため、まともに使えるのは、障害物がないという条件で恐らく半径30m以内くらいが限界だろう。障害物があればその距離はさらに縮まる。それは俺が明確に距離をイメージできる限界がそれ位であるからで、それ以上になるとせいぜいできるのがが気温を下げる事くらいだ。それも範囲は俺が目視できる範囲までのようだ。むしろさっきの吹雪の効果はこの実験の結果生み出されたものなのだが。

 むしろ相手を直接凍らせるといった使い方ができるのは、直接触れている場合以外はほぼ不可能だろう。・・・まぁ、これには一応裏技的なものはあるにはあるのだが、今回は割愛しよう。

 俺が今行っていることは、明確なイメージを素早く確立し、発動するという練習のために行っていたことだ。つまり、氷で複雑な形のものを、出来るだけ早く構築する、という練習だ。

 そのため俺がイメージしやすく、かつ適度に複雑な形をしたものを選んでいる。具体的には・・・

「氷の・・・剣か・・・?」

 そう、氷で作った剣だ。刀身をできるだけ薄く鋭く、そして柄には精緻な模様を、イメージはファンタジーRPGに出てくる勇者の剣だ。最も、所詮は氷なので実践に耐えうるものではないと思うが。

「確かに呪言キーワードも無い上、氷の魔術でこんな精密なものを作れるなんて聞いたことが無い・・・まさか、本当に竜王魔術・・・なのか・・・?」

「だからそう言っているじゃありませんか。これで信じていただけましたか?」

「あ、あぁ・・・」

 得意気に胸を張るイリスに、呆然とした様子のゲオルグさん。別にイリスが自慢げにすることではない気もするが、まぁ深くは突っ込まないでおこう。

「しかし凄いなこの剣は・・・あんな一瞬で作ったのも凄いが、この精巧さにデザイン・・・貴族の儀礼用の剣として十分売り物になるぞこれ・・・」

「そうなんですか?」

 本職の人がここまでほめてくれるとは思わなかった。これは予想外だ。

「ああ、まぁ惜しむらくはこれが氷ですぐに溶けてしまうってことか・・・でなければむしろ俺が買い取ったんだが・・・」

「あー・・・一応それ、魔力でコーティングしてあるからか、俺が自分の意志で解除するか死ぬかしない限りは溶けませんよ?」

「な、本当か!?」

「ええ、まぁ・・・」

 そう、竜王魔術で作った氷は俺が溶かそうと思わない限り、不思議と溶けることがない。眠るなどして意識を失った状態でも解除されることはないので、自分の意志で解除しようと思うか、もちろん試したことはないが俺が死んで竜王魔術の力自体が失われない限り恐らく溶けることはないだろう。

「そ、それなら是非に!・・・って、いや、その前に、ゴホン」

 軽く咳払いをしてゲオルグさんが改めて俺たちに向き直る。

「新たな氷竜王様、今までの失礼な発言をお許し下さい。このゲオルグ、偉大なる御身に、改めて敬意を表します」

「な、急によしてくださいよ!俺はそんな礼を尽くすような人間じゃあ・・・」

 急に態度を変えるゲオルグさんにビックリした。一体どうしたというのか。

「いえ、竜王という存在は一般的には畏怖し、崇められる存在です。その名の通り、それこそ一国の王と対等、もしくはそれ以上とも呼ばれる程の存在ですから。特に我々ドヴェルグの民にとっては、古来より竜は鍛冶の神として崇められてきた存在です。その竜の王ともなれば、敬うのは当然です」

 竜王が何となくすごい存在なんだろうとは思っていたが、そこまでの存在と思われている事は予想外だった。俺が竜王になったと知っているのは他にはイリスと村長だけだし、どちらにせよ目立つだろうからと隠していたが・・・

「いやでも村長なんかは普通に・・・」

 そうだ、村長は俺が竜王になったからといって態度を変えることはなかった。

「それは、村長がヤト様のことを元から知っていたからです。ヤト様のことを考えて、あえて普通に接していたんだと思いますよ。」

 そうイリスに補足される。確かにイリスだけでなく村長にまで急に態度を変えられたら俺もどうしたらよいかわからなかったかもしれない。

「イリスも、竜王の名前にそんなに影響力があるなら、教えてくれても・・・」

「だから何度も言ったじゃないですか、ヤト様は偉大な方だと」

 言われてみれば確かに「竜王たる貴方がそのようなことを」とか「そのようなことは下々の人間である私にお任せください」とかそれっぽいことは聞いた気がする。例の『所有物』宣言があるからだろうと聞き流していたが、どうやらそういう面もあったらしい。

「いや、それでもせめて話し方だけでも普通にしてください。竜王と言っても日が浅いし、どうしてもそういう自覚が持てないので・・・お願いします。それと、あまり騒がれたくないのでこの件は内密にお願いします」

 俺はそう言ってゲオルグさんに頭を下げる。

「な、頭を上げてください!わかりましたから、内密にという話でしたら内密に致しますし、普通に話せというならそうします。けれど、それならせめて私にも敬語ではなく、普通に話してください。私こそ、偉大なる御身にそのように敬意を表していただくような存在ではありませんので。」

「それは・・・まぁ、うん、わかった、これで良いかなゲオルグ」

「ええ・・・いや、あぁ、ヤト殿。正直俺も堅苦しい口調は得意じゃないし、竜王様なんて初めて見たからピンと来ないしな」

 そう言ってゲオルグさん、いやゲオルグはニヤりと笑う。やはり先程のは建前の面が大きかったのだろう。

 正直自分より明らかに年上の人間にタメ口で話すのは憚られるのだが・・・そこまで言うのなら仕方がないか。

「それで、結局依頼は受けてくれるのかな?」

「そりゃあもちろん、竜王様直々の依頼となっちゃあ断れるドヴェルグの鍛冶師は居ないだろうよ。まぁ、それで扱う素材ってのが先代竜王ってのは微妙な気分だが・・・正直手が震えるってレベルじゃないぜ・・へへ・・・」

 そう言って冷や汗をかきながら素材を手に取るゲオルグ。うん、やはり竜王の件は伏せておいたほうが良かっただろうか。

「しかし、本当何があったんだよアルカ村・・・竜王が来たり死んだり新しく生まれたり、そんな大事件がポンポン起きる村じゃなかったろ・・・」

「ああ、まぁ色々あって・・・」

 ここまで話してしまったなら仕方がないと、俺が異世界から来たということを除いて事の顛末を話すことにした。村に来ればすぐわかることだし、村人たちには隠していた、俺が竜王になったということも話してしまったし、問題無いだろう。

「なるほど、そんな事がな・・・正直今でも信じ切れないところはあるが、まぁ証拠は目の前に見せてもらったし、信じるしか無いんだろうな・・・はぁ・・・」

「ははは・・・」

 溜息をつくゲオルグに俺は苦笑することしかできなかった。実際俺自身未だにあまり実感が無いのだ。

「それで、武具は何を作ればいいんだ?やっぱり剣か?」

「剣は他にも頼みたいちょっと特殊な物があるんだけど・・・うん、一応ね、それとできれば防具が欲しいかな・・・」

「竜王の素材以外にまだ何かあるのか・・・まぁそれは置いておいて、そうだな・・・嬢ちゃんとヤト殿の二人分なら十分過ぎる量だな。見たところ二人共フルプレートで戦う感じじゃないし、防御力よりも動きやすさを優先したほうが良いんだろ?」

「ああ、それで頼むよ」

 どうやら見ただけである程度戦闘スタイルまでわかるらしい。ならば全部任せてしまったほうが良いかもしれない。

「そうだな、服の下にも着れる軽鎧に、手甲、ブーツって所か・・・あとは牙を使って片刃剣に、ナイフを2本くらいって所か?」

 俺が欲しいと思ったのも大体そんなところだった。素材も足りるようだしこれで安心だ。

「それで、特殊な剣ってのはどういうのだ?」

「ああ、それなんだけど、片刃の直剣で、刀と呼ばれる武器を作ってほしんだ」

「カタナ・・・?」

「ああ、作り方がちょっと特殊で・・・」

 俺は祖父から聞きかじった刀の打ち方をゲオルグに説明する。正確な炭素の含有率とかそういうのはわからないが、なんとなくの製法なら聞いたことがあった。きっとこの男ならこれだけの情報でもなんとかしてくれる気がする。

「なるほど、手間がかかる分確かに理に適ってるなその作り方・・・ただの鍛造の剣よりもそれなら頑丈になるだろうな・・・いや驚いた、そんな発想はなかったぜ、細剣に大剣みたいな丈夫さを求めるなんて、普通はしないからな・・・」

「まぁ、使うにはちょっと特殊な技術も必要だしね・・・どうだろう、出来そうかな?」

「ああ、任せときな、カタナもそれにつけるヤト殿の言う仕掛け(・・・)も、何とか出来そうだ」

「それじゃあよろしく頼む。いつ頃できそうかな?」

「そうだな、1周間もあればなんとかなるだろ」

「了解、それで報酬は・・・」

「竜王様からなんか恐れ多くて報酬は受け取れない、って言っても、聞いちゃくれないんだろうな・・・そうだな、これくらいでどうだ?」

 ゲオルグが提示してきた金額は、ここに来る途中で覗いてきた武器屋で売っていた装備品よりもかなり安い金額だった。ありがたいのはありがたいが、良いのだろうか?

「竜王の素材なんて普通一生かけても見ることすら怪しいからな・・・それを扱わせてくれるってだけでも俺にとっちゃ得難い経験なんだ。まぁどうしても気になるってんなら、そうだな・・・さっきの氷の剣を何本か貰えればそれで十分だ」

「そんなので良いのら幾らでもいいけど・・・本当に良いのかな?」

「ああ、さっきも言ったが、十分儀礼用の剣として売り物になる。しかも貴族向けの高級商品だな。もちろん売れたらヤト殿にも売上金は分配するぜ」

「いや、それは気にしなくても良いんだけど・・・」

 正直ただの練習品だし、材料費すらかかっていない俺にとってはゴミみたいな物なのだ、それでお金を受け取るというのもなんだか気が引ける。

「いや、流石にそういう訳にはいかないさ。まぁ、その話は実際に売れたらだけどな」

「ははは、まぁ期待しないでおくよ」

 実際ただの氷細工にそれほどの価値がある気はしない。まぁその話は今度でいいだろう。

「それじゃあとりあえず、報酬は前払いで払っておくよ」

 俺は財布から報酬の貨幣を出し、すぐに何本か氷剣を作り出し目の前に並べていく。

「はぁ・・・やっぱ何度見ても信じられない光景だなそれ・・・っと、こいつぁノーマン金貨か?珍しい物持ってるな」

 そういえば報酬の一部にはさっき両替したノーマン金貨が混じっていたことを思い出した。

「ああ、昨日ちょっと縁があって両替して・・・価値はわかるんだっけ?」

「ああ、アルカ村の前はノーマン王国で鍛冶師やってたしな。これでも結構有名だったんだぜ?あの頃から、そろそろ15年ってとこか・・・」

 そう言ってゲオルグはまた懐かしそうな顔をする。そういえば・・・

「それで、その縁があった人ってのがアゼリアさんって騎士みたいな人なんだけど、ゲオルグさんによろしく伝えておいてくれって」

「アゼリア・・・?そんな騎士覚えは無いが・・・いや15年も前だし、当時は騎士じゃなかったってこともあるのか・・・うーん・・・スマン、思い出せない!」

「おいおい・・・」

「俺も悪いとは思ってるんだが、当時はこれでも結構売れっ子でなぁ・・・剣を打った人間みんなを覚えてる余裕はなくってよ・・・」

 薄情な気もするが、考えてみれば仕方ないかもしれない。実際かなりの人間に剣を打って来たのだろうし、それも15年も前なのだ、むしろ覚えている方が珍しいかもしれない。

「悪いが、今度会ったら正直に謝っておいてもらえるか?直接会えば思い出せるかもしれないんだが・・・」

「ああ、同じ宿屋みたいだし、その時は伝えておくよ」

「本当は自分で直接出向くのが筋なんだろうが・・・」

「いやいいよ、大変な作業を頼んだのはこっちだし」

 余り詳しくない俺でも竜王の武具や刀を作るのが大変なことくらいわかる。この位はさせてもらおう。

「それじゃあ1週間後にまた来る。よろしくお願いするよ」

「おう、任せとけ竜王サマ!」

 こうして俺達は武具を手に入れる算段を付けることが出来た。さぁ、次は傭兵ギルドに登録だ――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ