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双刻の竜王-異界迷子のドラゴンロード-  作者: 十六夜月音
プロローグ
2/23

SIDE:S

「くっ・・・もう駄目か・・・っ!」

 どうやらメインエンジンをやられたらしく、機体が制御できなくなっている。もうじきこの船は沈んでしまうだろう。

「兄さん、脱出の準備を・・・っ!」

「ああ、それしか無いようだ・・・」

 後部座席から語りかけてくるのは、俺の妹で同じ銀河連邦軍に所属する軍人だ。名前は神楽藍かぐらあい。真面目で素直で、俺の妹にはもったいないくらいの人物だと思う。そう素直に話すと、何故か怒られるのだが・・・

「しかしクリフォトの奴ら・・・どうしてこんな宙域に・・・」

 ここは中立地帯・・・というより未調査惑星群のある宙域だ。反銀河連邦を表するテロリスト集団・・・「クリフォト」にとっても、特に目的はない宙域のはずだ。なんせ銀河連邦の行動範囲で未調査ということは、調査のために自分たちのように銀河連邦軍の兵士たちが監視しているということであり、目的がなければただ無意味に藪を突くだけなのだから。

(つまり、この宙域に何かあるってことだろうが・・・)

 残念ながら、奴らの不意打ちで今まさに沈みゆくこの船では、これ以上の調査は望めないだろう。

(悔しいが、こうなってはまずは無事に生きて帰ることが先決だ。それだって任務だしな・・・それに・・・)

「兄さん、近くの惑星で生命反応がある場所があります!そこに避難しましょう!」

「ああ、知的生命かはわからないが・・・少なくとも生命が生存できる環境ってことだしな」

(藍だけでも・・・無事に返さないとな・・・)

 兵士として以前に、兄として、妹をこんな場所で死なせるわけには行かなかった。



 西暦2095年、地球は、銀河連邦という組織に所属していた。60年前の外宇宙への進出、そして地球外生命とのコンタクトにより、星を跨いだ平和維持のための組織が必要となったからだ。星間戦争、その言葉を現実のものとしないために・・・

 地球外生命とのコンタクトと、そこからの技術流入により、地球の技術は飛躍的に伸びた・・・らしい。らしいというのは、俺達にとっては今の生活が当然で、それ以前の事は実感がわかないからだ。

 ともかくそうした技術の成長によって、人類はとうとう宇宙軍という組織を設立するまでになった。そしてその一部が他惑星の宇宙軍と共同で維持しているのが、銀河連邦軍だ。俺・・・神楽蒼摩かぐらそうまが所属している第4調査部隊もその一つだった。

 俺達の任務は未開惑星の調査、及び保護。調査の結果、十分な文明を持っていると判断されれば、銀河連邦の一員として迎えることもある。そうして所属を増やしていった結果、いまでは所属惑星数は50を超える。

 だが規模が大きくなればそれに反発する組織が出るのも当然。そうした組織の一つが襲撃してきた「クリフォト」だ。奴らの目的はあまりはっきりしておらず、銀河連邦もその全貌はまだはっきりとは掴んでは居ない。強いて言うなら、巨大な宗教組織のようなものらしいという情報くらいだ。

 かつては地球でも宗教を理由にした大きな戦争が多発したらしいし、今でも小さな内紛は起きている。それが宇宙規模となれば、やはり脅威だろう。奴らはランクSの危険組織として登録されている。

 そんな奴らが狙っている何かがこの宙域にある。一応本部に連絡はしたが、ここはかなり遠い宙域だ。俺達の船のような高速調査船ならまだしも、武装を持った戦艦群を動かすとなると、今からだとかなりの時間がかかるはずだ。ヘタしたら数年は待たないといけないかもしれない。

 単なる救助なら同じような船で行えるのだが、周りを武装した敵船が見張ってる状況ではそれは難しい。なので武装船が到着するのを待たなければならないのだ。

(今はともかく無事にあの星で救助を待つ・・・か・・・)

 それが今後の基本方針になりそうだった。





「ふぅ、なんとか無事に着陸出来たみたいだな・・・」

 緊急脱出ポットはちゃんと役割を果たしてくれたらしい。残念ながら着地はうまく行かなかったらしく、機能の大半は使えなくなっていたが、こうして無事だっただけでありがたい。

「ここは・・・どこかの峡谷・・でしょうか」

 周囲に広がる光景は、岩ばかりの崖で、おそらくはどこかの山の峡谷に不時着したのだろう。今のところ周囲に生命反応はあまりないし、もし知的生命が居た場合、騒ぎにならないのは助かる。

「とりあえず外の環境は・・・っ!?おい、凄いぞ藍!」

「どうしたんですか?兄様・・・え、これは!?」

 周辺環境をチェックした所、驚くべき事に、どうやらこの惑星の大気は地球とほぼ同じらしいことがわかった。しかも惑星の大きさも近いため、重力も大きくは変わらない。また、大気中の微生物にも、未知のものは存在していなかった。つまり、この惑星では生身のまま行動できるということだ。

(これは、報告すれば勲章ものじゃないのか・・・?)

 知的生命の居る星は意外と多い。しかし、地球と環境が同じ星となるとそれは話が変わってくるのだ。今まで多くの異星人と関わってきたが、みな行動できる環境はそれぞれ少しずつ異なっており、地球人と全く同じ環境で暮らせる種族は今のところ存在していない。

 しかし、その存在をこの惑星では確認できるのだ。周囲にわずかだがある生命反応、それが証拠だ。もしかしたら人類と同じ姿をした知的生命だって居るのかもしれない。もっと早くこの惑星の調査ができていればと悔やまれる。

「とにかく、外に出てみようか」

「はい、兄様」

 何はともあれ、俺達兄妹は生身でこの惑星を調査することに決めたのだった。





「・・・何もありませんね」

「・・・そうだな」

 脱出ポッドから外に出て数時間、俺達は周辺をその足で調査していた。しかし、この峡谷には岩や鉱石があるだけで、今のところ小動物さえ発見できていない。

「生命反応があるところまでは・・・あと少しか」

 この生命反応というのも、要は体温を持っていたり、呼吸をしている物を観測しているだけなので、つまりそのどちらもしていない、植物のような存在は観測できないのだ。つまり、植物やそれに属する知的生命体も観測はできないのだが、どうやら見たところ、そのどちらも周囲には存在しないようだった。

(惑星そのものがここみたいな岩石ばかり、というわけではないだろうが・・・)

 とにかく、今は反応のある生命を確認することだ。そうすればここがどんな惑星なのか、多少は理解の参考になるだろう。

そう思いながら反応のある地点まで向かっていると



『きゃーーーっ!!!』


「「・・・・・・!」」


 反応のある地点から、女性の叫び声のようなものが聞こえてきた。

「兄さん、これって・・・!?」

「わからない、だがもしかしたら・・・」

 同じような声を出せる、つまり、地球人と同じような種族の存在が発した声ではないか・・・藍はそう言っているのだ。

 だがまだ確証はない。地球にだって人の声に近い音を発する事が出来る動物はいるのだ。しかし・・・

「けど、もしそうだった場合、悲鳴を上げる状況ってのは・・・まずいよな」

「・・・!はい、急ぎましょう!」

 確証はない、だが、そうでないという確証もないのだ。なら、今は早く目的地に着くことを優先しよう。

 そうして俺達は目的地に向けて走り始める。これでも軍人だ、そこそこ鍛えているので歩きにくい地形だろうが難なく踏破できる。だがそれとは別に、普段より体が軽い印象を受ける。

(これは・・・もしかして、近いとは言っても重力が違うからか?)

 恐らく地球を1Gとして、0.8Gから0.9G位しか重力がないのだろう。日常生活には影響ない程度だろうが、普段から体を動かす者にとっては、身体能力が上がったように感じ、多少違和感を覚えるだろう。事実妹の藍も最初怪訝な表情をしていたが、同じ結論に至ったのか今は納得した顔で隣を走っている。

 目的地は、どうやらこの渓谷の最深部らしい。色々な宝石の原石のようなものが地表にまで浮き出ており、中々幻想的な光景だった。だが、俺達が見たものはそんなものよりももっと幻想的というか、非常識な光景で・・・つまり、反応のあった生命反応は――



「何だ・・・あれ・・・」



――巨大な竜と、その目の前に座り込んでしまっている少女の姿だった。




「兄さん‥‥‥何ですかあれ・・・」

 藍も呆然とした声で訪ねてくる

「俺にだってわかるわけがないだろう・・・・」

 そう、さすがに予想はしていなかったのだ。

 生命反応は2つあったが、片方が巨大な怪物で、もう片方は俺達と同じような姿の少女だとは――

(まさか本当に地球人みたいな種族に出会えるなんて・・・・)

 その可能性は考えては居た。だが、こうも早く対面できるとは思っていなかったのだ。

 見れば少女は、まるでファンタジーコミックに出てくる村娘のような格好をしていた。おそらく、文明レベルが地球で言う中世に近いのだろう。金髪のショートヘアーの可愛らしい子だ。地球人なら、恐らく俺達とそう年の頃は変わらないだろう。

そして・・・・


『グオオオォォォォ――!』


 巨大な竜が咆哮を上げる。これは、誰がどう見ても目の前の少女を襲おうとしている図だろう。

 こちらも、まるで昔読んだコミックに出てきそうな姿をしている。全身を岩のような鱗に覆われた、巨大な顎と翼を持つ竜。

「兄さん・・・っ!」

「ああ、わかっている!」

 せっかく遭遇出来た地球人に近い種族だ。コンタクトする前に殺されてしまう訳にはいかない。

 本来なら目の前の岩竜も未開惑星の生物で、殺してしまうわけには行かないのだが・・・・

(この状況ではしかたがないだろうっ!)

 どうしても優先順位というものは存在する。この場合は例え竜を殺してでも、少女を守るほうが先決だ。

「藍はあの女の子を、俺はアイツを叩く・・・!」

「おおおおおおお!」

 俺は叫び声を上げながら竜に向かっていく、すると少女がこちらに気づいたようで、慌ててこっちに来るなというようなジェスチャーを寄越してくる。だが、そんなことに構うつもりはない。

「はぁ・・・っ!」

 気合を入れながら、腰のホルスターから抜いておいたフォトンソードを起動させ、正面から斬りかかる。

 このフォトンソードというのは光子を高濃度に圧縮した剣だ。元々は大昔の映画に出てきた武器を再現したジョークグッズだったらしい。だがその携帯性、攻撃力はやはり現実でも有用と判断され、軍で制式採用されていた。特に地球人にとってはやはり剣というのは馴染み深い武器で、扱いを教える知識が体系化しているというのも大きい。

 そして俺も小さい頃から剣術は教わってきたし、何よりこの攻撃力は・・・


「ガァアアアアッ!!」


――たとえ鋼の剣さえ防ぐ岩石の鎧でも、たやすく溶断する。

(ただ、エネルギーを補充できない今は、あまり多用できないけどな・・・)

 そう、この武器はエネルギーの消費が激しいのだ。けれど集団で運用する軍なら、扱う人員も、エネルギーパックもたやすく交換できる。しかし一人で長時間戦うような場合には向かないのだ。故に軍以外の民間警備企業や、傭兵等にはあまり普及していないようだ。

 何が起こるかわからない今、本来なら温存したいところだが・・・・

(今は、こいつを潰すことが先決だ・・・っ!)

 竜がその大きな爪を振り下ろしてくるが、ギリギリのところでそれを避ける。軽くかすって血がにじむが、そんな怪我には構っていられない。 

 そして今度は返す刀で龍の首を狙う。コイツが爬虫類と同じような生物だというなら、首を落とされればさすがに息絶えるはず・・・っ!

「こいつで・・・終わりだっ!」

一閃、そして――


ゴトリ、と竜の首があっけなく落ち、そのまま動かなくなった。


「ふぅ・・・なんとかなったか・・・・」


 正直、生きた心地がしなかった。当たり前だ。あんな怪物と戦うなんて事、いくら未開惑星の調査隊でもそうそう無い。

 首のあった場所から吹き出す血液がかかり、服を汚しているが、そんなことに気を回している精神的余裕はなかった。殆ど不意打ちのような一撃で倒せたが、もし外していたら次の相手の攻撃を避けれていたかは微妙なところなのだから。

 一応他の惑星で大型の異星獣と戦闘になったことはあるが、あそこまで大きくはないし、そもそも一人で戦うことなんて無かった。今回勝てたのはまさに火事場の何とやらだろう。

「藍、そっちは大丈夫か・・・?」

 藍は少女の保護に向かったはずだ。もしかしたら何か飛び道具などで攻撃をしてくる可能性もあったので向かってもらったのだが、そっちはどうやら杞憂だったようだ。

「はい、大丈夫なんですけど・・・・」

 何やら少女と会話をしているようだ。やはり突然乱入してきた俺達に驚いているのだろう。そのことについて説明でもしているのだろうか。


(・・・・ん?会話・・・?)


 何か違和感を感じる。なぜだろう・・・ただ会話をしているだけなのだが・・・

(ってそうだ、会話って・・・どうして言葉が通じてるんだ!?)

 さすがに姿形が同じでも、言語まで同じということは普通ありえない。なのに藍は少女と会話をしている。それは何故か・・・

 そして、少女の発する言葉に、俺は今日何度目かわからない衝撃を受けることになる。


「助けてくれてありがとうございます、勇者様・・・!」


 勇者というのはよくわからない。ただ、彼女が発した言葉は間違いなく・・・・




――俺達の家系に伝わる希少言語、通称「外国語」だったのだから。

次から1章ですが、1章はSIDE:Yの続き、SIDE:Sの続きは2章になります。

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