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双刻の竜王-異界迷子のドラゴンロード-  作者: 十六夜月音
2章:SIDE:S 鉱竜王ミダース編
13/23

3:Experiment,Ring

「とりあえずはこんなものか・・・」

 庭の一部のスペースを借り切って、今俺の目の前には様々な鉱石が並べられている。これはみんな鉱竜王の住処だった場所から持ってきた物だ。あの場所には不思議なことに、単一ではなくさまざまな種類の鉱石が採取できた。複数の鉱脈が同時に存在しているのか、隕石があの場所に集中して落ちたのか、それとも鉱竜王の能力なのかはわからないが、これから行う実験のためには都合が良かった。

(まずは、抽出・・・)

 俺はそれぞれの鉱石に、金属、宝石を凝縮し分離するイメージを伝える。すると、ほんの一瞬で金属の塊、宝石の原石が精製された。

(なるほど、念じるだけで精錬が出来、さらに無駄なく全てを凝縮できる・・・か、資源の利用法としては革命的過ぎる能力だな・・・)

 『竜王魔術』それが俺がこの星での最初の戦闘の後、身につけてしまった能力だった。『竜王』と呼ばれる存在を倒すことで得られる特殊能力・・・最初話を聞いたときは眉唾物としか思えなかったが、実際こうして使えてしまうものは仕方が無い。

(それにしても、アレが竜王とかいう存在だったとはな・・・)

 後で話に聞いた竜王と言う存在のイメージは、もっと強大なものだったのだが、割とあっさりと勝負がついた気がする。いや、というよりもフォトンソードなんていう武器がこの星では規格外すぎるだけか。

 ともあれその後の話から、俺が新たな『竜王』になった可能性が出てきて、試しに調べたら確定してしまったのだ。学術的な面もあるが、この先この星で生き残るためにも具体的に何が出来るのかの実験は必要だろう。


 俺はさらに抽出した金属、宝石を同じ種類ごとに融合させるイメージを与える。すると、予想通り、元々小さな塊だったそれらは、一つの大きな塊に変化した。それを今度は変形させ、イメージする形へと変化させていく。

 これは、正直言って地球では巨万の富を生み出せる能力だ。何故なら、金属なら一度溶かせば同じ事は出来る、だが、宝石は別だからだ。

 そう、この能力を使えば、くず宝石を融合させて、巨大な宝石へ変えることが出来るという事だ。しかも、削りだすのではなく変形・・・つまり、一切無駄が出ない。

 なんて卑怯な能力だろうかこれは。全ての金属加工、宝石職人たちの苦労をあざ笑うかのような力だ。もし地球に帰ったときこの能力が保持されたままなら、一体どれだけの富を得ることが出来るのか想像もつかない。しかし・・・

(まぁ、そうはならないだろうな・・・)

 恐らく保護され、地球に戻れば、俺は実験体となるだろう。連邦法で薬剤投与や解剖などの人体実験は禁止されているので、そういう事は無いはずだが、それでも自由にこの力を行使することは出来ないはずだし、俺も軍人である以上、そこに異存は無い。

 力を隠して帰還後退役、そして力を使って商売をというのも可能かもしれないが、俺が軍属だったことは隠しようが無いし、成功すれば必ず調査が入るだろう。そうなったときに力を隠し切れる自信はないし、バレた場合、必ず何らかのペナルティが存在する。連邦軍を敵に回してまでそんなことをするつもりは無い。

 それに俺個人、特に巨万の富と言うものに興味があるわけではない。元々祖父が航空産業の重鎮で、かなり裕福な家で育ってきたのだ、これ以上を求めるよりは、研究によって人類が発展するのなら、俺はそちらのほうを望む。偽善者と思われるかもしれないが、厳しかった祖父からそういう風に躾けられてきたのだ、今更その考えは捨てられない。俺が軍人になったのも、祖父の影響からかもしれない。

 それに、一応これは俺の能力ではあるのだし、これで利益が発生した場合はちゃんとかなりの報酬はもらえるはずだ。その辺りは確か軍規にもあったはずだし、あとで端末から調べてみよう。

 そんな事をぼんやりと考えながら、変形を続けていた金属と宝石に最後の仕上げを施していく。ふむ、こんなものだろうか・・・

「あれ、何してるんですか?ソーマさん」

 いつの間にか後ろに居たらしいノルンにそう声をかけられる。集中していたせいか全然気付けなかった。今の生活に慣れてきてしまい、少し気が緩んでいたのかもしれない。

「ああ、ちょっと竜王魔術の練習で、こんなのを作っていた」

 そう言って完成したばかりのそれをノルンに渡す。

「うわぁ・・・」

 ノルンがキラキラした目で手渡したそれを眺める。それとは、真ん中に大きなエメラルドの嵌められた、銀製の指輪だった。デザインなどは昔見たものをうろ覚えで作ったものだが、まぁそこそこの出来栄えにはなった気はする。

「これってもしかして・・・ソーマさんが・・・?」

「ああ、練習がてらにちょっとな、上手く出来れば売り物にしても良いと思ってな・・・どうだろう、売り物になりそうか?」

「十分過ぎますよ!こんな大きな宝石見たこと無いですし、指輪の細工も凄いし・・・金貨何枚になるのかすら想像もつかないですよ・・・」

 ふむ、それなら何個か作って、村に行って売ってくるのもありだろう。恩を返すためとは言ってくれているが、元々二人で生活していた家に厄介になってるわけだし、いつまでもそれに甘えている訳にも行かないだろう。そろそろ生活費も入れておきたい。

「はぁ・・・良いものを見せてもらいました」

 そう言ってノルンはまだ名残惜しそうに指輪を俺に返してくる。ふむ・・・

「いや、別に気に入ったのならやるぞその位」

「へ・・・?」

 ノルンが気の抜けた返事を返してくる。何か変なことを言っただろうか。

「いやいやいや、流石に悪いですってこんな高価な物・・・・!」

 なるほど、そういう理由か。金貨と言うものがどのくらいの価値なのかはまだあまりよくわかっていないが、これはかなり高額な品になるのだろう。となるとあまり大量に作って売りさばくというのは、色々面倒事を起こしそうでまずいかもしれない。宝石と言うのは、やはりこの星でも価値が高いものという事か。

「いや、竜王魔術でいくらでも作れるしな、その位なら・・・練習で作った品だし、そんなに気にしなくても大丈夫だぞ?」

 そう、俺からすればいくらでも量産できるものであり、気にする程の物ではないのだ。色々世話になってるし、喜んでくれるのならこのくらいは別に良いだろう。

「う・・・それなら・・・良いんでしょうか・・・?」

「?いらないならもう一度潰して別のものにするが・・・」

「いえ、欲しいですっ!そんなもったいないっ!」

 そう言って慌てて返そうとしていた手を引っ込める。そして今度は大事そうに指に嵌めてずっとニヤニヤしている。なんだか間抜けな顔に見えるが、まぁ喜んでくれているようだし良いだろう。それより問題は・・・

「あれ、ノルンさん、その指輪どうし・・・・え・・・・?」

 俺達が何かしているのに気がついてか、藍が庭に出てくる。そして、ノルンの指に嵌められた指輪を見て、絶句している。

「あ、アイさん!見てくださいこの指輪、ソーマさんがくれたんですけど、凄いですよね!」

「え、ええ・・・」

 うん、戸惑っている。正直俺も少し戸惑っている。ここは地球ではないのだし、きっとそういう風習は無いのだろうから、偶々なんだろうが・・・

「兄様・・・どういうつもり・・・でしょうか・・・?」

「言っておくが、俺は試作品の指輪をやっただけで、嵌めたのはアイツだぞ?」

 

 そう、ノルンは左手の薬指に指輪を嵌めていたのだった。


「何でしょうけど、どうして説明しないんですか?」

 何故か藍は不機嫌そうな声だった。別にそこまで怒ることも無いような気がするのだが・・・

「いや、俺から説明するのも気まずいだろう。後で藍から説明してくれると嬉しいんだが・・・」

「はぁ、わかりました。確かにそうですしね・・・後で二人になった時に説明しておきます。」

「・・・頼む」

 これは、後で埋め合わせとして藍にも同じような物を作ってやったほうが良いだろうか。そうすればまぁ、特別な意図は無かったと後で言い訳できるだろう。いや、言い訳も何もその通りなのだが。

「あら、なんだか賑やかそうね?」

 ノルンが騒いでいるからか、今度はクリムさんまで出てきた。

「あ、お母さん、見て!凄いでしょこの指輪!ソーマさんがくれたんだよ!」

「あら・・・あらあら・・・?」

 クリムさんはノルンの指輪を見ると、何やら考え込んだ後、こう言い放った。




「・・・娘を、よろしくお願いします」

 



――どうやら、単にノルンが知らなかっただけで、この星にも地球と同じような風習はあったらしい。






 その後、クリムさんからの説明でノルンが顔を真っ赤にしていたり、クリムさんの誤解を解いたり(そもそも冗談でも会って数日の男に娘を任せようとしないで欲しい)、何故かまた不機嫌になる藍の機嫌をとったりと中々大変だった。後日藍にも同じ、というよりもちゃんとした物を作って渡したら機嫌を直してくれたので、やはり藍も指輪が欲しかったのだろう。指輪を嵌めるとき一瞬左薬指の方をじっと見つめていた気がするが、それについては、深く気にしないでおこう・・・

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