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双刻の竜王-異界迷子のドラゴンロード-  作者: 十六夜月音
2章:SIDE:S 鉱竜王ミダース編
12/23

2:Valor,Treatment

『光の剣を携えた、天から舞い降りた勇者が、邪悪な竜を退治する』

 そんな伝承がこの地域には伝わっているらしい。

 そして俺が彼女の前に現れたのは、今まさに竜に襲われる直前、そしてその手には見たことも無い光を発する剣。そしてこの世界には無いような変わった服装。

「助けてくださって、本当にありがとうございました、勇者様!」

・・・うん、状況的には言い逃れ出来ないのだろう。

 よくこんなピンポイントな内容の伝承があった物だとも思うが、内容自体は、よく聞けば地球でも創作としてありそうな程オーソドックスな物だ。偶然が重なっただけ、と考えるのが自然だろうか。

 ともあれそんな状況で出会ってしまった俺達を、ノルンはその伝承の勇者であると勘違いしてしまったらしい。だが俺はそんなあやふやな職業についた覚えは無い。

 このまま勘違いされたままだと今後の調査に支障をきたしそうなので、誤解を解くために彼女には、俺達が他の星の人間で、この星には事故で不時着したこと、光の剣は俺達の星では標準的な武器で、取り立てて珍しいものではないこと、この星は俺達の星と非常に似ているので調査を行いたいこと、などを出来るだけ噛み砕いて説明した。幸い彼女はこちらに好意的なようだし、嘘をついてごまかすよりは、正直に話して現地協力者となってもらった方が良いと判断した。

 本来なら、調査が完了するまで現地人とは接触せず、ちゃんとした場を作って正式なコンタクトを、というのが未調査惑星に知的生命が居た場合のスタンダードな対処法なのだが、今回は設備も人員も居ないし、何より最優先は救助が来るまでの俺達の生命の維持だ、そのためには現地人との接触は避けられないだろうし、それならいっそのこと協力者となってもらい、堂々と調査を行ったほうが良いという判断だ。

 幸い俺達はこの星の住民と会話が出来るようだし、最低限の協力者を確保できればあとは現地住民にまぎれることも可能だろう。そして、異星の技術であるフォトンソードを見られてしまった以上、彼女には全てを話し、誤解を解いてもらって協力者となってもらいたいのだが・・・


 「違う星ってあの、空に浮かぶ星ですよね?それってやっぱり天から来たって事だし、竜王様を一瞬で倒せるなんて、それこそ勇者様しか居ないですって!」


・・・誤解を解くのは中々骨が折れそうだった。


 なんとかもう一度詳しく説明をして、とりあえず他の人の前では勇者と呼ぶのはやめてもらうという約束を取り付けた後、そういえば、そもそもなんであんな危険生物が居るこんな場所にやってきたのかを尋ねてみた。周りは鉱石しか無い岩山だし、年若い少女が遊びに来るには殺風景過ぎる。

 すると、どうやら彼女の母親が病気らしく、その治療のためにはこの山でしか取れない薬草が必要なため、その採取に来たのだと言う話だった。しかし薬草は見つからず、気がつけば鉱竜王の居る最奥まで来てしまっていたのだ・・・と。

 なるほど先程の竜は鉱竜王と言うらしい。その辺りの情報はまた後で詳しく聞くとして、今は彼女の母親の話だ。病気だという事だが、この星の人間は見たところ俺達と似たような体構造をしていそうだし、もしかしたら俺達の持つ携帯医療キットで治療が可能かもしれない。

 もしかしたら力になれるかもしれない、そう説明すると、是非家に来て欲しいとお願いされた。こちらとしてもこの星の文明レベルは気になる所ではあるし、治療に成功すれば彼女と同じように協力者になってくれるかもしれない、こちらも異存は無かった。それに・・・

「あの・・・お母さんを・・・お願いします・・・」

「・・・ああ、出来る限りの事はしてみよう」

 

まだ幼さの残る、妹と同じくらいの年の少女に、そんな風に思いつめた顔をされてしまっては、打算だけでなく、純粋に救ってやりたいとも思えたのだ――




「助けていただいて、本当にありがとうございました!」

「いえ、何とか薬が効いたみたいで良かったです」

 そう言って藍が彼女・・・ノルンにそう微笑む。ノルンの母親は、今は穏やかな寝息を立ててベットで眠っている。

 ノルン・メグスラシル、彼女はそう名乗った。なんでも、今は母親と二人で暮らしているらしい。

 彼女の家は、小さな村の外れにあった。古びた木造の2階建てで、村にある他の家と比べてもあまり良い家とは言えなさそうだ。だが、二人で住む分にはむしろ大きすぎるくらいの大きさがあった。こういう古びた木造の家というのも、個人的には趣があって悪くないと思う。今の地球では、恐らく観光地くらいでしかお目にかかれないものだろう。

 彼女の母親は、その家の一階奥、寝室で眠っていた。俺達が着いたばかりの頃は、かなり苦しそうにうなされていたが、医療キットで検査をし、恐らく何かの感染症と判断された後は、抗生物質の投与で大分良くなったようだった。ノルンを生んだとは思えないほどの、若々しい肌に浮かんでいた玉のような汗も、今はすっかり落ち着いていた。

 俺達の薬に効果があったことは喜ばしいが、それと同時に発覚した事実に、俺はまた驚いていた。

(まさか、本当に遺伝子構造まで地球人とほぼ同じだなんてな・・・)

 そう、ある程度は予想していたが、一応薬を投与しても大丈夫か調べるため検査をしたのだ。その結果、人体構造、組成、はたまた遺伝子構造までほぼ地球人と変わらないと判別されたため、薬の投与に踏み切ったのだった。

 ここは本当に異星なのだろうか?そう疑いたくなるほどここは地球に似すぎている。もちろんさっきの竜のように地球には存在しない生物も多数居るのだろう、しかし、そこに住む知的生命がほぼ地球人と同じ存在と言うのは、にわかには信じがたい。

 確か、ムー大陸だかの超古代文明の人間が、宇宙船で他の星に移住していったのだ、なんて話を聞いたことがあったが、そんなトンデモ学説を本気で信じてしまいそうになる。流石に俺では調査できないだろうが、この星の人類の成り立ちや歴史、進化の系譜など、学者達にとっては興味が尽きないことだろう。俺だって興味があるし、救助が来てちゃんと調査が可能になったら、是非話を聞きたいところだ。

 

「ん・・・・あら・・・ノルン・・・?」

「お母さん!大丈夫?」

 どうやら、彼女の母親が目を覚ましたらしい。まだ状況がわかっていないと言うような顔で俺達を見てくる。

「え、ええ・・・なんだか随分と楽になったわ・・・・それよりノルン、この方達は?」

「うん、あのね、勇者様達が助けてくれたんだよ!」

「ゆう・・・しゃ・・・?」

 何を言っているのかわからないという顔でノルンを見つめ返す母親。確かに、起きていきなり勇者がどうこう言われればそうなるだろう。

 


 やれやれ、今度の自己紹介も、また誤解を解くことから始めないとならないようだ――






「娘がお世話になったようで・・・その上私の病気まで治していただいて・・・本当にありがとうございました」

 そう言ってベッドに座った女性がお辞儀をしてくる。どうやら、こちらの星でもお辞儀と言う文化があるようだ。

 彼女の名前はクリム・メグスラシル、ノルンの母親だ。ウェーブのかかった長い金髪の美人で、とても大きな娘がいるような年には見えなかった。だがまぁほぼ地球人と同じといっても一応は異星人、見た目の年の取り方に多少違いはあるのかもしれないし、深くは聞かないでおこう。

 彼女が目を覚ました後、俺達はこれまでの経緯を説明した。ノルンが竜に襲われそうになっていた所を助けた事、そのことからどうやらノルンが俺達を伝承の勇者と勘違いしているらしい事、効きそうな薬を所持していたためクリムさんに投与したこと、そして最後に、俺達がこの星の人間ではなく、他所の星から来た、という事、そして出来れば俺達に協力して欲しい事だ。

 始めはいぶかしんでいた彼女だが、ノルンの説明がどうやら嘘ではないこと、そしてあっという間に治った自分の病気の事、そして携帯端末やフォトンソードなど、異星の技術を実際に見せられたことで納得してくれた。

「それで、協力して欲しいという事ですけど、私達は何をすれば良いんでしょう?見ての通り、あまり裕福な家ではないので、大きなお金が関わるようなことはちょっと・・・」

「いや、そういう物ではありません、欲しいのは情報です」

「情報・・・?」

「はい、基本的にはこの星での一般的な常識、社会の成り立ち方など、ですね。そして我々についての秘密の厳守、といったところでしょうか?」

 俺達に必要なのは基本的に情報だ。それ以外の生命維持に必要な物は、ポッドの備え付けのものなどで殆ど賄えるだろう。もっとも、食料や水に関しては限りがあるため自力で確保しないといけないだろうが、どうやら水は豊富に有りそうだし、食料に関しても何が食べられるかの情報さえあれば確保は難しくないだろう。

「えっと、それだけでいいのですか?正直、私達がしてもらった事を考えると全然足りないと思うのですが・・・」

「いえ、我々には十分な価値があるものですから」

「はぁ・・・」

 どうやら微妙に納得いってないような顔だが、実際そうなのだから仕方が無い。そのことをどうやって説明しようかと考えていると、

「あの、勇者様は、今日ここに来たばかりなんですよね?」

 それまで沈黙を保っていたノルンが話しかけてきた。

「ああ、そうだが・・・それが?」

「じゃあ、宿とかも決まってないんですよね?」

「まぁ、そうなるが・・・」

 それに関しては脱出ポットの機能がまだ一部生きているので、とりあえず数日はポッドのシートをそのまま寝床にするつもりだった。あまり快適とは言えないだろうが、雨露はしのげるだろうし、問題ないだろう。俺達は二人とももっと過酷な環境での野営なども訓練で行ってきたのだ、それと比べれば全然マシな部類だ。

 そう考えていたところ、意外な提案をされた。

「それなら、しばらくこの家に泊まっていただく、っていうのはどうですか?」

「この家に・・・?」

「あら、良い考えねノルン。良ければ是非、そうしていってください」

 確かに、少なくともポッドのシートよりは快適だろう。部屋は余っているのだろうし、向こうとしてもその点は問題無いのだろう。しかし・・・

「良いのか・・・?こんな素性の知れない人間を泊めてしまって」

「素性ならさっき話してくれたじゃないですか。娘の命の恩人ですし、悪い人達には見えませんから。」

 どうやら正直に話したからか、信用してくれているようだ。

「けど、今までの話が実は全部嘘で、何か裏があるとかは・・・考えないのか?」

 普通なら、いくら証拠があるからといってこんな話をここまで簡単に信用してくれるとは思わない。むしろ俺達の方が何か裏があるのではと思ってしまうくらいだ。

「たとえそうだとしても、娘や私を救ってくれたことは事実ですから。それに、私達に大した利用価値があるとも思えませんし・・・」

 そう言ってクリムさんが少し寂しそうに笑う。確かに余り裕福そうには見えないし、金品等が目当てとは考えられないのだろう。妹を連れているという時点でどちらかの体目当てという事も無いだろうし、また、それ以外の理由は想像も出来ない、といったところだろうか。

 ならば、ここは好意に甘えるのが正解だろうか。この星の人間の生活様式なども、一緒に生活をしたほうが理解しやすいだろう。どちらにせよ人里の近くに拠点は設け化ければならなかっただろうし、これは渡りに船という物だろう。

「わかりました、それではご好意に甘えたいと思います。妹ともども、しばらくの間お世話になります」

「そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ。 こちらこそ、よろしくおねがいしますね」

「・・・わかった、よろしく頼む。」




――こうして俺達は、この星でのとりあえずの拠点を確保できたのだ。

用事などもあって毎日更新はストップしてしまいました・・・。進行状態にもよりますが、書き溜め終わるまでは多分しばらく2~3日毎更新になりそうです。

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