百奇夜行 ~深夜放送~
部屋は暗い。時計は真夜中の時刻。窓の外ではびゅうびゅうという音。
どうも風の音で目が覚めたようだ。
もう一度寝ようと、横になる。目が冴えたのか寝付けない。
何となくテレビを点けた。くすんだ画像が映る。
どこかの廃屋のような風景。破れた壁、腐った床、周囲にはがらくたが散乱している。なぜか音はない。音量ボタン。ミュートされてるわけではない。
(何だこりゃ。)
チャンネルを変えようとすると、画面に変化が現れる。中央にゆらゆらと何かがゆらめく。
(ん?)
その白いゆらめきはやがて形を成した。人の姿だった。
ふう、とうんざりしたため息をつく。それは、白い服を着て長いざんばらの髪を正面に垂らした女の姿。どう見ても超有名なあの女性の幽霊の姿だった。
(呪いのナントカかよ!)
オカルトや心霊物は大嫌いだ。あんなインチキなもの、たとえフィクションだとしてもリアリティがなさすぎる。ましてや『ほんとうにあった』などと銘打たれたようなものなど害悪ですらある、と思っている。私は腹が立ってきた。
そんな個人の嗜好はさて置くとしても、こんな真夜中にやる番組としては趣味が悪すぎるだろう。何という番組なのか、番組表を呼び出す。
機器メンテナンスのため、放送なし。
そうだ。確か寝る前にCSに切り替えていたんだ。しかも、見ていたのはスポーツチャンネルで、こんな番組があるはずはない。
肌が粟立つのを感じながら放送画面に戻る。廃屋の背景は変わらない。しかし、あの女性は消えていた。背中に氷を入れられたような感触。震える手でリモコンの電源ボタンを押す。
昏くなったモニター。液晶に反映する自分の姿の背後に白いものが映っている。声を上げようとした瞬間、
でもねえ、ほんとうにあるんだよぉ。
からかうような女の声。何かが腐ったようなにおい。そして女の長い髪がばさっと肩にかかるような感触。
気が遠くなった。
気が付くと朝だった。最後に感じた腐臭はまだ微かにただよっているような気がする。
すべてを夢、気のせいで無理やり納得させると、空気を入れ替えようとベランダを開けた。
!
ベランダに設置された衛星放送用アンテナが真っ黒になっている。おそるおそる近づいてみる。
なぜか焦げたお札が表面にびっしりと張り付いていた。