第7話 女同士のお茶会
新キャラ、侯爵令嬢1名。
「あら、キャロラインさん」
従順から逃げてきて、廊下を歩いていたら、後ろから名前を呼ばれました。
「え?あ、ルルージュ様!」
侯爵令嬢のルルージュ・アモール様。
腰までサラリと流れる紫の髪に、ルビーの垂れ目を持つ、ナイスバディの美女です。
「こんにちは」
「ごきげんよう」
挨拶を交わし、ルルージュ様はじっ、と私を観察したかと思うとニッコリ微笑んで言いました。
「少し見ない内にまた背が縮んだみたいね」
「縮んでいません!平均サイズです!」
だぁれが豆粒ドチビじゃあ!が浮かびましたが我慢します。ウェルしか通じないんだもの。
「うふふ、キャロラインさんは相変わらず小さくて可愛いらしいわね」
「だから、私は平均です!」
確かにルルージュ様は170の美女なので、150の私は小さく見えるかもしれませんが平均です!
「まぁ。ご冗談を。女性の平均身長は160ほどでしょう?」
「ぐぬ…っ」
私は平均です。……日本でなら。
この世界の人はみんな背が高いんです。
私が平均以下に映るくらいに。
……。
おかしいですよ!
誰が何と言っても私は平均です!
ちなみに男性の平均身長は180。
ウェルは185です。カッコイイネ!10センチ寄越せ!
「ところでキャロラインさん。先日、殿下と決闘をしたとお聞きしたのだけど」
あぁ…。
「ルルージュ様、今日の放課後にでもお茶しませんか?」
「あら、嬉しいわ。でも、キャロラインさんご執心の殿方とはいいの?」
「カルロさん、今日は奥様のお誕生日で早く帰宅なさるんです」
「なら、お受けするわ。どこにしましょう?」
「そうですね…」
そういえば、メルにお茶を誘われましたね。
「ルルージュ様、メルリーナ様もご一緒して宜しいですか?」
「メルリーナ様も?勿論!」
ルルージュ様はメルをとても可愛がっています。
メルの方が爵位は上ですけど、まぁ、現状のまま行けばルルージュ様とメルは義姉妹になりますし、仲が良いのは良いことです。
「メルリーナ様にはわたくしから連絡しておくわ。場所はこちらで決めても?」
「構いません」
ではまた放課後ね、とルルージュ様は去って行きました。
しかし、あの俺様には本当勿体ない美女です。
容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群、魔法センス抜群で、政も出来る。
嫁の貰い手はいくらでもあるでしょうに、哀しきかな婚約者は俺様バカ王太子。
「世の中、ままなりませんね」
憂いて呟いたその言葉に、殺意を抱きながら自分で同意したのは、放課後に中等部のメルをルルージュ様と校門で待っていた時でした。
「あれあれー?」
「キミもしかしてー」
「「会長に勝った子ー?」」
「……」
いやぁ、目がチカチカする程のオレンジ色に殺気が湧きますね!
「ねぇねぇ、そうでしょー?」
「えっとー、名前は何だっけー?」
「「そうだ!キャロラインちゃん!」」
「ティモールです」
名前で呼ぶな、シンクロ双子。
はいはい、ちゃっちゃと行きますよ。
彼らはオレンジ頭に黄色の目のそっくり顔の双子、生徒会庶務職を務めています。
そっくり双子のテンプレをなぞったストーリーでしたね。
見分けてもらいたい欲があって、見分けられるのは互いだけだと、2人の殻に引きこもって、わざと言動を一緒にしている奴らです。
2人の僅かな違いを指摘して好感度を上げ、マックスになったら双子それぞれの言動が現れます。
兄が小悪魔属性、弟がツンデレ属性です。
双子ルートは、兄エンド、弟エンド、双子エンドの3つがあります。内容は名前の通り。
「ふーん?普通だねー」
「本当に会長負けたのー?」
「「こんな子にー?」」
「……」
面倒くさい。
さっさとどっか行って下さい。
「…口を慎みなさい、ナタリル家のご子息」
あ、ヤバい。
「何さー」
「僕らより爵位上だからってー」
「「命令しないでよー」」
「口を、慎みなさいと、言いましたっ!」
出た。
ルルージュ様の鬼化!
人は、感情が沸点を超え爆発すると、魔力制御が甘くなり、身体から魔力が溢れ出ます。
ルルージュ様の場合、その魔力のせいで、額から角が生えたような幻覚が見えるようになるんです。
通称、鬼化。
ルビーの瞳が爛々と光っているのが怖いです。
「先程から聞いていれば、何かしら。その失礼極まりない言動は。先輩に対するものではないわね。ここはまだ学園内よ?校則が適用されること、知らないのかしら?」
「な、何だよ…」
「い、いいでしょー別に」
バカですか!
暴れたら手に追えないんですよ!
「【口塞】」
双子の口を塞いで、メルが来てから乗ろうと言っていた馬車にルルージュ様を押し込みます。
「そろそろメルが来ますから……あ、来た」
メルがこちらに向かって来ているのが目に入ったので、馬車へ移動させます。
「ほぇ?」
「ほーら、ルルージュ様〜メルですよ〜。御者さん、出して下さい!」
いきなり視点の変わったメルはきょとんとして座っており、ルルージュ様はメルを見た途端、鬼化を解いて、メルを抱きしめました。
「……はぁ、疲れました」
最近、攻略キャラとのエンカウント率が高い気がします。
「ごめんなさいね、キャロラインさん」
「いえ、今癒やされているのでお構いなく」
あ〜、タルト美味しい!
私たちは今メルの部屋でお茶会をしています。
疲れた時は甘い物に限りますね。
「びっくりしましたよ、お姉様!いきなり馬車の中にいるんですもの!」
「ごめんね、メル」
このクッキーも中々ですね。
「それにしても、また鬼化されたのですか?」
「ええ。制御出来ていない未熟の証拠よ、恥ずかしいわ」
ルルージュ様は俺様に及ばずとも魔力が膨大ですからね。
普通の人の魔力量では、外見に影響は出ません。
私の魔力量は平均より少し少ない程度ですから、そんなことにはなりません。人畜無害。
それより、少し気分が落ち込んでいるルルージュ様の為、笑いを提供しようと思います!
「ルルージュ様。私、先日決闘を申し込まれましてね?」
そう切り出すと、ルルージュ様はかぶりつき、メルはニコニコ微笑みながら紅茶を飲んでいます。
話が終わると。
「おーほっほっほっ! 良い気味だわ!」
高笑いしました。
素晴らしいです、ルルージュ様。
見事なお嬢様高笑い。
そしてその悪い顔。
流石、悪役令嬢なだけありますね!
はい? そうですよ。
俺様の婚約者ですから、当然その配役ですよね。
ルルージュ様はゲームで、ヒロインと攻略キャラの恋路を邪魔する悪役キャラです。
金髪縦ロールじゃありませんけど。
「キャロラインさんったら水くさいわ。そんな面白そ…大変そうな時に呼んで下さらないなんて」
「本音漏れてる漏れてる。隠して下さい」
「ルルージュ様もそう思いますわよね!わたくしもサイラスもそう思いましたもの!共に打ちのめしたいと!」
「おいこら」
それが侯爵令嬢と公爵令嬢のセリフですか。
「キャロラインさん、お疲れ様だったわね。あのバ…阿呆に付き合うのはうざ…面倒だったでしょう?」
「言い直した意味の無さ。確かに面倒でしたが、利点はありましたよ」
「あら、どんな?」
「勝者の権限で私に近付くな干渉するな、と命令しました」
「あらまぁ、羨ましい。わたくしもそろそろ子守りから解放されたいわ」
「好きな方でも?」
「いいえ。ただ、最近あのおバカさんは熱を上げている女性がいるみたいで、わたくしを邪魔だと言ってくるのよ」
「それは…」
ダンッ!とルルージュ様が白魚のような綺麗な手を机に叩きつけました。
「ふふふ……? 邪魔?邪魔ですって?それはわたくしのセリフよ! アンタがバカやらかすたびに、わたくしや陛下たちがどれだけの迷惑を被っていると思っているのよ!! わたくしは一度たりともアンタを望んだことはありませんわ!! 自意識過剰も程々にしてなさいよ!!!」
「ルルージュ様、何てお労わしい! 力の至らないわたくしをお許し下さいっ」
「いいのよ、メルリーナ様が気にすることはないわ。それにね、わたくしは将来アレが国の頂点に立とうものなら、隣国に逃亡すると決めているのよ」
目がマジである。
ルルージュ様の決意は固いらしい。
その場合誰も咎めません、むしろみんなが協力して逃がそうとするでしょう。
俺様はルルージュ様をじゃ・ま!だと思っているらしいですからねぇ。
短絡的思考で処刑しようとするのが目に見えます。
しかし。
「ルルージュ様も分かっておいででしょう?」
「……ええ、分かっているわ」
そんな日は、絶対に来ないと。
愚かな王を認める方はこの国の上層部にはいませんから。
でも、そうなるとサイラスが王位に…。
「俺様の性格矯正でもしますかねぇ」
「えっ?」
「お姉様?」
姉のようなルルージュ様と妹同然のメル。そしてサイラス。
3人が苦労するのは不本意です。
「本格的に考えてみますかね」
関わるのはとっても嫌ですけど、 陛下たちも大変そうですし、やってみますかねぇ?
それでもダメなら廃嫡です。
これまで主人公が性格矯正とか考えなかったのは、どうにかまともにしようと頑張っていた人たちがいた為。
平均身長については資料によってちょいちょい違うのであしからず!