第6話 不思議ワンコ系
新キャラ、従順1名。
翌日。
学園に登校し、カルロさんと雑談してから職員室に向かいます。
「失礼します」
「おぉ!ティモール!」
何故だかご機嫌なアイスカ先生がこちらへ来ます。
何ですか。
「お前やるなぁ!ラリアンシルに勝ったんだって?」
「アイスカ先生、彼女ですか?」
「噂のティモール嬢か」
「ティモール、よく頑張ったな!」
何でこんなに先生方がいらっしゃるんですか?
普段この時間は3、4人しかいないのに。
「いやぁ、ラリアンシルに勝った令嬢が昨日職員室で話題になってよー」
「はぁ」
「どんな子だってなってな? ティモールならいつも朝早く職員室に鍵取りに来ますよって言ったら、先生方みんな一目見る!ってきちまってよー」
確かに2年を担当してない先生は知らなくて当然ですが…。何だか動物園のパンダになった気分です。
「別にそんな凄いことしてませんよ。俺さ…バ会ちょ…えーとあの人に勝てたのは、あっちが自滅してくれたからですし」
「自滅?」
「はい」
きょとんとする先生方に、私は大まかに決闘の内容を説明します。
「……Sクラス、外すか?」
「むしろ留年を…」
「一体何を学んで来たんだ…」
「国王様や理事長に顔を向けられない…!」
あぁー、まぁ恥ずかしいですよねー、3年生担当の先生方。
俺様はその魔力で成績優秀者のSクラスにいるが、魔力の解放なんて今や誰もしない悪手だし、魔力枯渇なんて弱者もしくはバカの証みたいなものですし。
先生可哀想…。
「そんな訳なので、私は凄くありませんよ」
「んなことないだろ。ラリアンシルの魔力に物を言わせた上級を障壁で防げたのは、密度が濃かったからだろ?それは魔力コントロールが優秀な証だ。頑張ったな、ティモール」
わしわしと頭を撫でられました。
………ちょっと嬉しかったです。
褒められることが嫌いな訳じゃありませんしね、そこまで捻くれてませんよ。
「ティ、モー…ル、さ…ん…」
「あ、おはようございます、ヘブン先生」
「………」
また撫でられました。
すると、他の先生方も頭を撫でてきます。
最終的に私の髪の毛はボサボサになってしまいました。
一体何だったんでしょうか。
職員室に長居してしまいましたが時間はまだあるので、いつも通りの朝を送ります。
図書室から教室に戻ってきて、さて、と教室の扉を開けたら、尻軽が飛びついてきました。
「キャロラインちゃん!」
「セクハラです。それからティモールです」
「きゃんっ」
回し蹴りをかましてあげました。
悲鳴に女か、とツッコみたくなりました。
「き、キャロラインちゃん、かいちょーと決闘したってホント!?」
こんなところでそんな話題しないで下さいよ。
クラスメートの視線独り占めとか全く嬉しくありません。
そして名前呼びを止めろ。
「はぁ…。それが何か」
「大丈夫だった!?ふくかいちょーがさっき教えてくれたんだけど、結果ははぐらかれるし、かいちょーは今日休みだし、キャロラインちゃんケガしてない!?」
「……、?」
何でこんなに心配しているようなセリフを言うんですかね、尻軽は。
確かにめげずにちょっかいを出してくるし、何度言っても名前を呼ぼうとしてくるし、ヒロインにもまだ落ちてないようですが。
嫌な予感が頭をよぎる。
………私、何したんですか!?
記憶にない!
尻軽に気に入られるような会話や態度とった覚えはありませんよ!
ということは、まさか無意識!?
それはまさに、どこぞの小説展開じゃないですか!
私はウェルとのんびり男爵領でゆっくりしたいんです!
そんな展開望んでいません!
「キャロラインちゃん?」
「どいて下さい。ベルが鳴るでしょう」
「ダメ!キャロラインちゃんのケガの具合聞いてから!じゃないとはぐらかすでしょ!」
…心配自体は嬉しいんですがねぇ。
尻軽相手だと、感謝より先にうざいと思ってしまいます。
「ケガはありません」
「ホントに?」
「はい、なのでどいて下さい」
「良かったぁ…っ」
破顔してへなへなと座り込む尻軽。
…私、本当に何したんでしょう。
ウェルと要相談の上で対応は決めましょう。
今は無視。
こんな感じで終わらせた朝。
しかし尻軽が勝敗はどうした、何を命令された、などまたしつこく聞いてくるし、クラスメートは耳がダンボだしで面倒になって、私は昼休みに教室を逃げ出しました。
弁当を片手に食べれる場所を探します。
「あら、涼やかですね」
裏庭には初めて来ましたが、花々の中に立っている大きな樹が素敵です。
そういえば裏庭のイベントもありましたね。
誰のルートでしたかねぇ、確か樹の上で寝ているんですよ。
そして樹の真下にいるヒロインの上に落ちてくる、テンプレですね。
ぐぅ。
お腹が空腹を主張して来ました。
イベントの回収は終わっているでしょうし、木陰で食べましょう。
今日の弁当は和食です。
この国はヨーロッパ設定ですが、他国の輸入品に醤油や味噌があるんですよ。
慣れ親しんだ味、万歳。
これの存在を知った時、ウェルとハイタッチしましたよ。
「ん、卵焼きも上手に焼けてますね」
ちなみに卵焼きは出汁巻き派。
と。
不意に、ガサリと葉が揺れました。
「……まさか」
膝に乗せていた弁当を掴み、その場を飛び退きます。
その直後、ドシンッと派手な音を立てて物体が落ちて来ました。
あ、危なかった。弁当が台無しになるところでした。
というか、攻略された方が何でまだイベントステージにいるんですか!ヒロインにくっついてろよ!
「……………………痛い」
はい、サクサク説明行きますよ。反応がワンテンポ遅い彼は、天然不思議キャラの従順です。
あだ名の通り、気に入った人間には懐き、主と定めたかのような人間――要はヒロイン――には従順なワンコ系。
容姿は深い藍色の癖っ毛と薄い水色の目のイケメンです。
ストーリーの出会いは先程言った通り、そこから好感度を上げていけば攻略成功。
ただ、一度でも選択肢を間違えるとその場で攻略不可になってしまう、慎重さが必要になるキャラです。
「……良い匂いがする」
弁当の匂いに釣られて動いたら、寝ていた枝から落ちた、と。
状況を把握していたら従順がこちらに顔を向けました。向けんな。
「……あれ?きみ、だれ?」
「この学園の生徒ですわ」
「……」
「申し訳ありませんでしたわ。まさか木の上に人が寝ているなんて思いもよりませんでしたから。貴方が先にいらしたんですもの、邪魔はわたくしですわ。では、失礼させていただきますね」
流れるようにセリフを吐き、弁当をそそくさと片付けて、その場を去る準備をします。
私の言葉遣いが変?
いいんです。
この場ではベストアンサーです。
従順は、私が1番関わりたくないキャラですからね。従順の苦手なタイプの令嬢らしい令嬢を演じきりますよ。
「それでは、ごきげんよう」
「………待って」
あん?
思わず従順に向ける視線が鋭くなります。
……ハッ!しまった!鋭くなってはダメなんですよ!
すぐに笑顔を貼り付けます。
「………」
「………」
「………」
「な、何でしょうか?」
「………」
「ご用がないなら失礼致しますわ。わたくし、用事を思い出しましたの」
「………」
視線が痛いです!
は、早く逃げましょう!
私は早歩きでその場を去りました。
私が従順を嫌いというよりも苦手する訳。
性癖です。
アレは、真性のドMなんです!!!
異性に虐げられたいと特殊性癖を持つ生き物に、誰が好き好んで近付きますか!
従順な不思議ワンコ系カワイイ、とか絶対なりませんよ!
俺様や尻軽と同じように接したら、目を付けられるかもしれません。
なので令嬢言葉は正解。身の安全確保は大事。とても大事。
ヒロインさん、頑張って従順を躾けて下さい。貴方にへばりついて離れないようにして下さい。
周りの平和の為に。