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第5話 平和な友人関係

新登場人物多し。


 呼び出しをした御方の住まいは遠くありません。それなりに近い。

 けれど、そこに辿り着くまでが少し面倒なんです。行くと言った以上、しますけどね。

 私は人目のつかない路地裏に身を隠して、仕度します。


「【召喚・ナフィ】」

『はいはーい!ボクだよー』


 嘘臭い笑顔の仮面をつけた手の平サイズの精霊、ナフィ。

 纏う雰囲気の色は黒に近い灰色ですが、まごうことなく光の精霊です。


『あれ?随分、闇の気配が強いところだね』

「あの姿に、宜しく」

『あはっ、だからココなんだ?了解!任せてよ!』


 ナフィのセリフ全部が芝居がかっていて嘘臭いですが、それがナフィの特徴でデフォルトです。


『【幻姿】』


 ナフィの魔力が私を包みます。


『はい、完了だよっ』

「ありがとう」


 【幻姿(げんし)】はナフィが得意とする魔法の一つで、対象に幻覚を纏わせる魔法です。

 今の私は周りからは、黒ローブを着た男に見えています。

 姿だけではなく声もイケボに変わっています。

 今から向かうところに行く時はいつもナフィにお願いして、この姿にして貰います。


「ナフィも一緒に来る?」

『え?いいの?じゃあ遠慮なく!』


 ナフィを肩に乗せて、転移魔法を使い私は門の前へと飛びました。




「…失礼。通してくれるか」

「は?身分証を提示しろ」


 まだ若い門番は私に槍の先を突きつけそう言います。

 どうやら新しく配属された方のようですね。


「身分証はこの“姿”だ」

「ふざけたことを!」

「おい騒がしいぞ、どうし…」


 中年男性の門番が現れ、私を見て固まります。


「先輩!この怪しい者が…」

「馬鹿者!キリ様は怪しい者などではない!申し訳ありませんキリ様!まだ新人でして…」

「通せ」

「はっ!直ちに門を開けさせて頂きます!」


 開いた門を通り、使用人たちが私に礼をしているのを目端に留めつつ、目的の部屋へ向かいました。

 バンッと荒々しく無造作に扉を蹴り開けます。

 部屋の中には、階段になっている頂点にあるデカい椅子にふんぞり返った金髪の男性。

 その周りを守るように囲む見るからに屈強な騎士たち。

 それから、金髪の男性に跪いている方が数名。


「な!?」

「曲者か!?騎士は何をしている!」


 跪いていた体勢から立ち上がって喚く人たちは無視し、私は金髪の男性に話しかけました。


「来てやったぞ」

「おぉキリ!少し遅かったな!」

「早くしろ」

「分かった分かった」

「ぉ、お待ち下さい!その者は一体…」

「申し訳ありませんでした!どうか御慈悲を!」


 目の前で繰り広げられるオッサンたちの土下座。

 仕事中に呼び出さないで下さいよ。


「出せ」

「はっ」


 短い命令に騎士たちはオッサンたちを連れ、部屋を出ていきました。


「仕事中に呼ぶな」

「悪い悪い!さ、こっちだ。妻も待ってる」




「キリ!久しぶりね」

「ああ」


 乱入した部屋から移動し、通された部屋に居た美女が私を目にするなり、抱き付いてきました。役得。


「顔を見たいわ。さぁ魔法を解いて頂戴な」

「ナフィ」

『えー、もう解くの?せっかくかけたのに。ボク、気分乗らないなー』

「悪いな、ナフィにはいつも感謝してるよ」


 そう言って、私は拗ねたフリをするナフィの額に口づけを落とします。


『……しょーがないなぁ、もう』


 ナフィは素直じゃありません。

 だからカワイイんですけど。


『【解除】』

「ありがとう、ナフィ」

『解除したしボクはもう帰るねー』

「どうして?せっかく喚んだんだし、今日はずっと一緒に居ようよ」


 ナフィを召喚しているだけなら魔力は持ちます。


『……ん』

「ふふ、照れたの?」

『まっさかー!照れてなんかいないさ!セリフがクサイなって思っただけだよ!』


 無駄に明るい声で言うナフィ。

 カワイイなぁ。


「……キャロライン〜」

「あ、すみません」


 ナフィに夢中になっていると、美女が涙目になっていました。


「もうっ無視は止めてよね!」

「すみません、うちのナフィがカワイかったものですから」

『あはっ、センスを疑うね!』

「ナフィはカワイイよ」

『……』


 ストレートな言葉に弱いところとかね。

 さて。

 私は跪き、臣下の礼を取ります。


「改めまして、お招き頂き光栄の至極に御座います。陛下、王妃様」


 そう、ここは王城。

 そして彼らは、国の最高権力者。

 金髪碧眼のがっしりした身体の美丈夫な国王陛下と赤髪緑眼のスタイル抜群で若々しくあられる王妃様です。


「すぐさまやめろ、遊んでんじゃねーよ、ったく」

「あらまあ、他人行儀で寂しいわ。顔を上げて?」


 …言っておきますが、嘘ではありません。

 例え、陛下がソファに寛ぎだらけていても、王妃様が陛下に引っ張られ何の疑問もなく陛下の膝の上に座っていても、間違いなく本物です。

 公務中は威厳のある態度を取っていらっしゃるのです。

 本性がテキトーと天然で、プライベートではそれが全開なだけなんです。


「遊んでませんよ、すごい真面目です大真面目」

「おふざけ全力じゃねーか」

「陛下の今の格好に言われたくないわ」

「うふふ、陛下とキャロラインは仲良しね。どうぞ座ってちょうだい。ケーキを用意してあるのよ」

「いただきます」


 陛下たちの向かいのソファに座り、ケーキスタンドからチョコレートケーキを皿に取って咀嚼します。


「相変わらずキャロラインはケーキが好きだな」


 ケーキが好きなのは、女性共通でしょう。

 甘い物が苦手でしたら別ですけど。

 というか、これ凄く美味しい。流石王室御用達。


「ナフィ」

『ん?』

「はい、あーん」

『いつも言うけど、ボクら精霊は人間界の食べ物食べないんだよ?』

「でも食べれないことはないし、ナフィ、ケーキ好きでしょ?はい、あーん」

『……』

「あーん」

『…あーん』

「美味しい?」

『……うんっ』


 ナフィがデレた!貴重!!


「…ゴホンっ」

「ほらナフィ、あーん」

「……おいこら、キャロライン!」

「はい、何でしょう」

「…相変わらずお前の愛想笑いは綺麗だなっ」


 まぁ、陛下に褒められましたわ、トッテモウレシイ。


「ありがとうございます」

「で、だ、キャロライン」

「はい」

「最近、学校はどうだ?」


 ……まぁ予想はついてましたけどね、“今日”招待された時点で。


「次男坊さんたちはどうしたんです?抜け駆けしたら不満言われますよ」

「む。それは…」

「貴方、待ちましょうよ。仲間外れはいけないわ」

「うむむ…、おい!早くアイツらを呼んで来い!」


 陛下は壁際に控えていた騎士に命じると、騎士は一礼して部屋を出て行きました。


「全く…、早く聞きてぇのに!」

「何でそんなに聞きたいんですか」

「絶対笑えるから」


 真面目な顔でそんなこと断言するな。


「では待っている間、私とお話してくださる?」

「是非」


 和みオーラを放出する王妃様としばらく世間話をしていると、バタバタと慌ただしい音が扉の向こうから聞こえてきました。


「キャリー姉上!」

「お姉様!」


 中学生くらいの男の子と、同じく中学生くらいの女の子が勢いよく入ってきました。


「こら、御前よ」

「ハッ。父上、母上、失礼しました」

「申し訳ありません、叔父様、叔母様……お姉様ぁ!お久しぶりです!」


 優雅に礼をして不躾を詫びると、コロッと変わって女の子の方が私に抱きついてきました。


「あっ、リーナ!抜け駆けはダメだよ!姉上~!」

「はいはい、よしよし」


 男の子も抱きついてきたので、両腕いっぱいにして抱きしめ返してあげました。

 私を姉と呼び慕ってくれるこの2人、第2王子と公爵令嬢です。


 サイラス・ラリアンシル殿下。

 御年14歳。

 容姿は金髪緑眼の天使、性格はとても真っ直ぐで素直ですが浅慮ではありません。


 メルリーナ・リンシル公爵令嬢。

 御年14歳。

 容姿は血のように赤い髪をツインテールにした西洋人形さながらの顔立ち。つり目がキツイ印象を与えますが、思いやりいっぱいのカワイイ子です。

 サイラスの従兄妹であり、婚約者です。


「姉上、お久しぶりです。お元気でしたか?」

「久しぶりって…、1ヶ月前にメルの誕生日パーティで会ったじゃない」

「まあお姉様!1ヶ月も会ってなかったんですのよ?寂しかったですわ!」


 知り合いと1ヶ月会わないだなんて仕事場や学び舎が同じでない限り、この社会では普通だと思うんですが。

 サイラスたちも学園に通ってはいますが、中等部ですからねぇ。

 何かの行事か生徒会くらいしか中等部と関わりませんから。


「サイラスもメルリーナも本当にキャロラインが好きね」

「はい!」

「大好きですわ!」


 嬉しいこと言ってくれますね。

 カワイイのでわしわしと頭を撫でてあげます。

 撫でると2人とも目を細めるんですよ、カワイイでしょう?


「さあ、キャロライン!サイラスたちも来た!さあ話せ!詳しく話せ!あのバカは一体どんな不様な負け方をしたんだ!?」

「負けが前提ですか。というか、息子の敗戦を嬉々として聞くなよ」


 ええ、皆さん分かっておいででしょう。

 国王ということは、王太子である俺様の父親ということです。

 適当な陛下に天然な王妃様に素直な殿下。

 血の繋がりを疑いました。

 陛下には側妃が居ないので、確かに王妃様の子です。

 王妃様が不貞をする訳ないーー多分思いつきもしないーーと分かっているのですが…、どこで教育を間違えたんでしょうね。


「姉上、父上、何のお話ですか?」


 あれ?聞いてなかったんですかね?

 サイラスとメルがこてん、と首を傾げます。カワイイ。

 頭を撫でながら、今日の子細を話してあげます。


「今日ね、貴方のお兄さんから決闘を申し込まれたの」

「えぇ!?」

「そんな!?姉上に喧嘩を売るなんて…、そこまで愚かでしたか!」


 一応貴方の兄よ、サイラス。


「理不尽な言い分に私も腹が立ってね、決闘を受けたのだけど、陛下はその決闘の内容が聞きたいんだって」

「そうだったのですね」

「私も聞きたいです!どんな風に兄は負けたのですか?」


 俺様は一体何したんですかね。

 この天使にこんな風に言われるなんて…。


「結論から言うと、私が勝ったわ」

「当然だな」

「当たり前です」

「お姉様ですから」

「キャロラインは強いものね」


 私の評価はどうなってんですか。


「まず開始合図と同時に俺さ…バ会ちょ…王太子が魔力の解放をしまして」

「姉上の中ではいくつあだ名が付いているんですか?」

「魔力の解放ぉ?何だって、んなことを?」


 サイラス、そこはスルーして下さい。

 陛下の疑問はもっともなのでお答えしますよ、呆れること必須。


「それだけで倒す気だったらしいですよ」

「は?」

「それは、いくら何でも…」


 メル、気持ちは分かるけど引かないの。


「私は障壁で防ぎ、精霊を召喚して、少し喋っていたのですが」

「どなたをお喚びしたの?」

「先日契約したばかりの下級精霊です」

『ボクらが鍛えてるから、能力はそこそこだよ!』

「まぁ、それは頼もしいわねぇ」

「お前、まだ増やすのか?」

「授業の一貫です。精霊の適性がある子のみ集まるAクラスの特別授業ですけど」


 精霊を召喚するには、適性が必要になります。

 適性とは、要は相性です。

 適性なしだと、魔力がいくらあっても召喚陣を使っても、絶対喚べません。

 精霊魔法は精霊の力を借りつつ、センス次第ですが自分も魔法を使って戦闘が出来ます。

 それだと魔法のみの方や剣の方に有利に聞こえますが、そんなことはなく。

 その方より弱かったら負けます。

 当然ですね。

 ちなみに、Sクラスは特別優秀者、Aクラスは精霊魔法専攻、BとCクラスは魔法専攻、DとEクラスは古代魔法専攻、FとGクラスは薬学専攻と分けられています。


 話を戻して。


「精霊との会話を止めて障壁を解除したら、何故だか王太子が息切れしてまして」

「何で?」

「私の障壁に向かって上級の魔法を連発して魔力枯渇を起こしてました」


「バカだ!」

「バカですわ!」


 ええ、全く。


「ギャハハハハ!魔力枯渇とか!バカ過ぎだろ!」

「自分の力を正しく理解出来ていない証拠です」

「あらあら」

「デュランダル様の魔力量でその決着だなんて、恥晒しにも程がありますわ」


 メルは厳しいですね。その通りなんですが。


「トドメとして鎌鼬を当てて終わらせました」

「初級!ダッセ!」

「はぁ、我が兄ながら、どうしてあんなのになってしまったのか」

「叔父様、王太子様の教育間違ったんじゃありません?」

「いやー、でもサイラスと変んねぇ筈だけどなぁ。でも、これはねぇな。いっそ廃嫡させるかぁ?」

「それは困ります!」


 サイラスが珍しく声を荒げて反対します。


「兄が廃嫡されたら私が王太子になるじゃないですか!次期国王じゃないですか!そんな面倒なの絶対嫌です!私はリンシル公爵家に婿入りし、リーナと子供を育てて伯父上たちと、姉上たちや友人を招いたりして平和に過ごすんです!!」


 将来設計がバッチリですね。しっかり者に育ってくれて、お姉さんは嬉しいです。


「だがデュランが今のままだったら、俺は王として廃嫡させるぞ?」

「その時は第2王子として役目を果たします。でも希望としては今のままがいいです」

「わたくしも王太子妃になりたいとは強く思いませんわ。ルルージュ様は本当に尊敬致します」


 ルルージュ様とは、侯爵令嬢で俺様…王太子の婚約者です。

 アレの婚約者とかマジないわーというのが俺様を知っている女性の総意見。

 メルの意見に私も大賛成。


「今回の負けでまともになったら話はトントン拍子に済むんだがなぁ」

「あ、それは無理だと思います。今のままの貴方がステキ!と(そそのか)す方が傍に居るので」

「あん?」

「簡単に甘言を吐く子がいるんですよ。王太子はそれに骨抜き、ついでに言えば、ナタリル家やハイネル家などなどのご子息たちも」

「…姉上、お聞きしたいのですが、今学園に通ってる子息たちは、全員次男以下でしたっけ?」

『王太子筆頭に長男が多いよ!』

「父上、すぐに当主たちを集めて会合を開きましょう」


 ナフィのセリフにサイラスは真面目な顔で陛下に向き直り言った。

 陛下はそんな息子の言葉をまるっと無視して、私に話しかけて来ます。


「キャロライン、その女は玉の輿狙いか?」

「さあ?興味ないので」

「姉上!助けて下さい、お願いします!兄や子息たちはどうでもいいですけど、彼らの家を潰すわけにはいかないんです!そんなことになったら、仕えている者たちも親族の貴族も、民にまで影響が及びます!!」


 優しいですねぇ、サイラスは。

 でも大丈夫ですよ。


「サイラス、思い出して。あの方々は、息子の為に背負っている何もかもを投げ出すような御方?」

「!」


 サイラスはハッとした表情になりました。


「そう、ですね…。すみません、姉上。少し先走り過ぎました」

「いいのいいの。若い内は先走ったり躓いたり、色々すれば。経験から学んだことは何にも代え難い力になるんだから。メルもよ?」

「はい、姉上!」

「はい、お姉様!」


 カワイイ弟妹分に慕われて、私は幸せ者です。


「ところで、陛下?先程言っていたデュランとサイラスの違い、私、決定的に違うところがあると思うのだけれど」


 ここで意外な王妃様がそんなことを言います。


「何だ?」

「あのね、デュランはキャロラインのこと知らないでしょう?」

「「「あぁ……」」」


 それで納得しないで下さい。


「とても納得しました、流石母上です」

「そうだな。あいつは“本物”を知らない」

「スッキリ致しましたわ。では、お姉様。この話は止めて、本日以外のお姉様の学園生活を聞きたいですわ」

「私は納得していないんですけど…、まぁいいです」


 それからは根掘り葉掘り聞かれました。

 キラキラと瞳を輝かせて聞いてくるんですが、私には何が楽しいのかサッパリ分かりません。

 とりあえずカルロさんが素敵だとストップがかかるまで語っておきました。


新キャラ、精霊ナフィ+陛下+王妃様+サイラス+メルリーナの4名。


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