第4話 決着と癒やしとお呼び出し
『』→精霊のセリフ
【】→魔法名
〈〉→念話相手のセリフ
ぐあっと膨大な魔力が闘技場を覆います。
俺様が魔力の解放をしたようですね。
弱い者なら魔力に当てられて気絶する程の馬鹿げた量ですが、
「【結界】」
防げばどうということはありません。
自分の周りに魔力のドームを造り上げ、私は契約精霊を喚びます。
「【召喚・リンネ】」
『うわぁ~んっ主様ぁ~!』
ぐっしょりした物体が顔に張り付いてきました。
「……」
『怖かったぁ~怖かったですぅ~あの方たち容赦なさすぎですぅ~うぇ~ん』
濡れていたのは涙のようでした。
顔がじっとりして気持ち悪いので、つまんで剥がします。
「リンネ、やる気がないなら還っていいよ」
『ぴ!?やですぅ!またいじめられるですぅ!やる気いっぱいですぅ!』
むんっと両拳を握って気合いを入れる手の平サイズの生物。
ポニーテールに結っているふわふわのパステルグリーンの髪に濃い緑の真ん丸目。
昨日授業の一環で契約した風の精霊、リンネです。
『何をすればいいですぅ?』
「勘で私のサポートして」
『ぴ!?無理難題すぎますぅ!』
そうは言われても。私、指示を出すの苦手なんですよね。
だから、みんなは何も言わなくても的確にサポートしてくれますし。
まぁリンネは契約したばかりですし、私が頑張りましょうか。
「わかった。じゃあ指示を出すから。それと、要ると思ったら自分の意思で動いていいからね」
『はいですぅ!』
というか、俺様は何しているんでしょうね。
私たち凄く悠長にしてましたよ?
そう思って、顔をリンネから外し、辺りを見渡します。
「……何で?」
俺様は剣を杖にしてもたれかかり、息切れしていました。
とりあえず結界を解除してみます。
すると、あの膨大な魔力も身を潜めていました。
俺様は辺りを見る余裕もないのか気がつきません。
「……先生、何があったんですか」
わからないことがあったら先生に訊きましょう。
「ぇ、あ、ああ。それがな、ラリアンシルは魔力の解放をして、ティモールが倒れてないと気付いたら、最上級魔法を放ち続けていたんだ。だが、どうやら魔力枯渇が始まったようだな」
真性のバカだ!
まず、魔力の解放とは自分の身体に保有している魔力を外へ放出、つまり捨てているということ。
捨てれば当たり前ですが減ります。寝れば回復しますが。
そんな状態で、魔力を多大に使う最上級魔法を使い続けたら魔力枯渇になるって、普通に考えたらわかるでしょうが!
あ、魔力枯渇とはその名の通り魔力が底をつくことです。
ちなみに魔力0になったら死にます。
大体何ですか。魔力の解放で倒せてなかったから魔法を放ったって。
つまり、解放だけで倒そうと思ってたことですか?
確かに俺様の魔力量で魔力の解放は大きな威圧感を与え、気絶させることは可能ですが、先程言った通り防げないものじゃありません。
濃度調節が大切になりますが、防御魔法で誰でも防げます。
ナメすぎだバカボン!
「…リンネ、ごめん出番ないわ」
『アレでは仕方ないですぅ』
いや、もう本当に。
「バ会長、ここまでバカだとは思っていませんでしたよ」
「っ、なん」
「【鎌鼬】」
だから、初級の魔法なんかで負けるんです。
「ラリアンシル、気絶!戦闘不能!勝者、ティモール!」
さあ!カルロさんに会いに行きましょう!
「って、ティモール!待ちなさい!」
「はい?」
ニュアンス的にはあ゛あん?です。
「勝者の権限は決着がついた時に使うんだ」
「権限?…あぁ、命令ですか」
決闘の勝者は敗者に命令出来る権限を得られます。
法や道徳的にアウトなものは審判の先生に却下されますが。
ふむ。
「私に接触しないこと、詮索しないこと。それから身の程を知ること…これは無理ですかね」
所詮俺様ですし。
「審判の権限を持って、その内容承認しよう。敗者ラリアンシルには私から伝えておく」
「理解させておいて下さい」
伝えるだけでは絶対不十分です。
「キャリーちゃん、大丈夫だったかい?決闘したんだって?」
眉をハの字にして心配してくれるカルロさん。
あぁ、カッコイイ。
「はい。大丈夫ですよ。楽勝でしたから」
「でも相手はあの生徒会長さんだったんだろう?」
「自滅してくれたので」
「自滅?」
その言葉が意外だったのか、目をパチパチ瞬かせます。
「はい。…ところでカルロさん、お茶の葉変えました?」
「あ、分かったかい?そうなんだ、前より少しランクが高いのを買ってみたんだよ」
「とても美味しいです」
「本当かい?良かった…。キャリーちゃんがいつも美味しいって言ってくれるのが嬉しくて、もっと美味しいものを淹れたら、もっと喜んでくれたらな、と…思ったんだ」
つまり、私の為…?
…………。
キャアアァアア!!
私の為私の為私の為私の為私の為私の為!
カルロさん私を萌死にさせるつもりですか!?
もう何それイケメン!男前!
カッコカワイイとか反則~!!
「キャリーちゃん?どうかした?」
「いえ!カルロさん大好きです!」
脈絡皆無で鼻息荒く告白すると、カルロさんはまた目を瞬かせて、微笑んだ。
「ふふ、ありがとう。僕もキャリーちゃんのこと好きだよ」
トドメを差されました。
何とか荒ぶる気持ちを落ち着かせようとお茶を飲んでいると、ブブブとポケットの中身が震えました。
「ん?」
携帯を取り出して――ちなみにモデルはガラケー――画面を開きます。
「………」
顔を少し顰めます。
バイブした理由は、メールではなく念話だったのですが。
そのお相手が…。
「カルロさん、すみません。私そろそろ失礼しますね」
「ああ、もう夕方だね。気をつけて帰るんだよ、また明日」
「はい、また明日」
私はニコッと笑いかけてから、校務室を出ました。
「ティモールです」
〈よう!〉
「ご用件は何でしょうか」
〈お前を我が家に招待したくてな。うちの次男坊たちも心待ちにしているし、どうだ?今から平気か?〉
「わかりました。すぐに向かいます」
〈おう、待ってるな〜。正門から来ていいから〉
「はい。では失礼します」
はぁ、と私は人知れずため息を吐き、思いました。
「…面倒臭い」
俺様が雑魚過ぎてびっくりした。
次はまた新キャラ。