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第18話 学園祭〜文化の部2日目〜

 体育の部と違い、文化の部に身内のみの公開日があるのは、警護上の問題です。

 体育の部では貴族は貴族スペースが作られており、平民と区切られていました。

 しかし、文化の部は学園内を巡るものですから、区切ることが出来ません。

 なので、日にちを区切ったという訳です。

 警備を潜り抜けてくる猛者(侵入者)はいるといえばいますが、それは特に問題になりませんので置いておきます。

 学生には貴族だけでなく、少ないですが平民の方もいます。学友が貴族の子でも、親御となる爵位を実際に持つ方を相手するのは違います。

 特に公爵などの上位貴族が来ると緊張しきってしまいます。なので、学生への配慮として上位貴族の方たちはあまり来ません。来てもそれなりの格好で、身分を明かさないのがマナーです。


 だというのに。


「キャリー、そんな愛らしい格好をして、余計な虫がこれ以上ついたらどうするんだ?まぁ、そうなる前に排除するが…、虫はマーキュリの三男だけで十分だ」

「中々似合ってんじゃねぇか、その格好。可愛いぞ?キャロライン」

「お前が給仕するのか?悪戯して周りに迷惑をかけていないだろうな、クソガキ」


「……ご隠居?」

「ワシに振るな」

「……ナフィは」

「伝言預かっとるぞ。『ごめんねマスター。でも面白そうだったから!』じゃと」

「逃げたな…!」


 文化の部2日目。我がクラスにやって来たのは、銀髪碧眼の傾国級美人、茶髪に鳶色の目というありふれた色彩を持つ見知らぬ姿の男性(おじさん)2人、水色の髪に藍色の目の御老人。

 誰が誰か、大体お分かりでしょう。

 見知らぬ姿の方たちも、ナフィが関わってる時点でお分かりでしょう。

 父様はともかく……。


 何やってんだよ、このトップたち。


「ご来店ありがとうございました」

「おいコラ、今来たばっかだろーが」

「申し訳ありません。ただいま満席となっておりまして」

「見たところ空席はあるようじゃが?」

「予約席で」

「嘘つけクソガキ」

「早々に嘘と決めつけるのはどうかと思います」

「本当なのかの?」

「嘘です」

「嘘ではないか、このクソガキ!!!」


 変装というか変身というか、一応姿を変えてきたので良しと……いや、やっぱり駄目です。変装したところで陛下の無駄に溢れるカリスマオーラが視線を集めてます。仕舞え。


「ダニエラ、貴様先ほどから私のキャロラインに向かってクソガキクソガキと…、良い度胸だな」

「何だと?そっちこそ、どんな教育をしているんだ?こんな無礼しか働かないようなガキ、クソガキと呼んで何が悪い」

「はぁ?」

「あぁん?」

「相変わらず仲悪いですね、この2人」

「お前の父様は基本誰とでも仲悪いだろーが。リンシル家を筆頭にな。アドニスくらいだぜ、コイツの親友なんてものになれんの」

「ははは」


 否定はしません。


「キャリーちゃ〜ん?何してるの〜?」


 そこに、ギャルソン姿のブロウが顔を出しました。腰の黒エプロンが良い仕事をしています。

 本当はウエイトレスのワンピースを着せようとしたんですが、ブロウが全力で拒否した上、クラスの半数を味方につけて反対勢力を作ってしまったので、断念しました。……今日のところは。

 ちなみに残りの半数は私の提案に心動かされてしまった方々です。男女比は内緒です。


「何でもないよ。ちょっと追い返そうとしてるだけだから」

「追い返す?というか、店前で立ち止まられると他のお客さんに迷惑だよ〜」

「すまんの、少年。聞きたいんじゃが、4人分の席は空いとるかね?」

「は〜い、ありますよ〜。ご案内しましょうか〜?」

「あっ、ブロウ!」

「それみろ、あるんじゃねーか」

「早く案内しろ」

「キャリー、コイツらは案内しなくていいぞ?私以外は追い出せばいい」

「お前不敬、超不敬」

「今更じゃろうに、彼奴が不敬なことは。むしろ彼奴が嫁と娘以外に愛想を振りまく相手がおるなら見てみたいわ」

「………想像したら寒気と鳥肌が。有り得ない」

「ああ、めっちゃ気持ち悪い」


 団長さんも陛下も人の父様掴まえて何てこと言うんですか、失礼ですよ。私もそう思いますけど。


「キャロラインのオススメは?」

「天上の忠告ですね」

「何だこの値段!?ふっかけすぎだろう!!」

「至って正当な値段です」

「ほう?甘味狂いのお前さんが不味いものを置くとも思えんしなぁ。他の物はメニューに説明が載っているのに、これだけ無いのも怪しいというものじゃ」


 甘味狂いって……ご隠居、酷くないですか?

 私、そこまでじゃないですよ。


「お前さんがこの値段を正当というのなら、それ相応の味がなのじゃろうよ。ダン坊にそれ、ワシは紅茶だけで良い」

「何故私が!?候!?」

「候じゃないわい。ワシはとっくに隠居しとる。全く、覚えの悪い奴じゃ」

「ところで、ご隠居。去年より多くないですか?」


 私は察知した数を数えて、ご隠居にそう尋ねました。


「お前さんは本当に狡いなぁ。正規の護衛が儂らだけじゃからの、急遽狩る役に加えて増やしたんじゃよ」

「あー、成程」


 つまりは陛下のせいと。

 ハイネル家が束ねる影たちの仕事を増やした張本人は呑気にメニューを見ていました。


「よし、決めた!俺はこの、あどべんちゃータワーってやつで。飲みもんはなんかテキトーに合うのを」

「かしこまりました。ダンさんの飲み物は?」

「…コーヒーの無糖」

「はい、承りました。父様はどうする?」

「持ち帰りは?」

「出来るけど…、母様に持って帰るの?」

「それはいいな、是非そうしよう。おすすめを選んでおいてくれ。それとは別にだな、配達は出来るのか?」

「あー決めてないけど、別料金出すならギルドから人出借りて届けるよ」



「では、全種類を城へ。会計はコイツ持ちで」


「おい」



 まあ、全種類なんて流石金持ち。太っ腹!


「ありがとうございまーす」

「待て待て待て、家主は許可してねぇ!なんで、うちになんだよ」

「特に理由はない。強いて言えば嫌がらせだ」

「キッパリ言いやがったこの臣下!!」


 父様は普段貼り付けている薄っぺらい笑顔で言い切りました。陛下、落ち着いて下さい。いつものことじゃないですか。


「でも、奥さん喜ぶんじゃないですか?」

「…確かに学園祭に来られず残念がっておられましたな」

「何も全部その日に食えとは()わんじゃろ。男ならそれくらいの器見せたりぃ」

「ぐぬぬぬ…、うまいこと言いやがってお前ら」

「ここの会計込みで全部払ってしまえ」

「お前ちょっと黙ってろ!」


 ああ、父様の頭が抑え付けられた!

 …元の姿の状態ならともかく、ナフィの魔法で変装している陛下は平凡な顔立ちになっています。そんな男性が傾国級美人を抑え付けてるものだから、周りの視線が凄いんですが。

 …………。


「オーダー承りました〜」


 逃げるが勝ち。

 もう食べたら早く帰って欲しいです。視線が刺さってきて鬱陶しい。




 父様たちの相手をリンネや他の方に任せ、ブロウと一緒に休憩へ入りました。

 私が誘わないと、ブロウはいつまでも働こうとするので。他の方が誘っても「大丈夫」と言って聞かないんです。

 私にも同じことを言いますけど、私は「はいはい」と聞き流して問答無用で休憩へ連れて行きますからね。他の方からブロウを休憩に連れて行く係に任命されてます。本人知りませんが。


「男爵と、男爵のご友人?」

「そう。私の友人でもあるけど」

「キャリーちゃんって、年上の知り合い多いよね」


 裏方でブロウとお茶をしていると話題は、自然と先程の方たちになりました。


「同世代にも年下にもいるよ?ただ、そっちは平民ばかりだから、ブロウとは会う機会ないんだよ」

「そうなんだ。でも、学園で知り合い少ないよね?」

「まぁ、そうだね」


 学園内では、ブロウたちくらいしか表立ってつるんでいませんね。ルルージュ様はともかく、サイラスとメルとロコちゃんは隠してますし。

 学生じゃないけど、姿を隠して学園にいる相手込みならもう少し増えますね。サイラスたちの護衛に来てる影の方たちとか、監視員の方とか。


「…思ったんだけど、貴族を避けてるの?」

「そんなことないよ。さっきの人たちとか、他ならぬブロウとか貴族じゃん」

「僕のことだって最初は滅多打ちだったじゃない」

「理由は言ったでしょ?」

「理由って……………あぁ」


 突然ブロウが納得したような顔になりました。何ですか、その生温い目は。


「貴族と関わるの、面倒臭いんだね。うるさくて」

「大正解」


 クラッカー鳴らしましょうか?


「面倒なのは分かったけど、それでも変だよね」

「何が?」


 私は昨日ロコちゃんから差し入れに貰ったマドレーヌを食べながら、ブロウの話を聞きます。あー美味しい。


「だって、ティモール男爵って言えば、傾国級の美人だって有名じゃない。美の女神の化身だとか妖精だとか、二つ名をよく聞くし」

「父様が女神……ぶふっ」


 何度聞いても吹き出します。あの母様ラブで子煩悩な父様が女神!

 美しいのは認めますが、あんなデロデロな女神様、私は嫌です。


「なのに、何でキャリーちゃんの周りには、その、男爵に会いたい!みたいな人が、1人もいないの?」

「………さあ? 私、デビュタントは身内だけで内々にしたから社交界で顔知られてないし、地味だし、気にも留められてなかったんでしょ」

「家名で一目瞭然なのに?」

「父様の美貌は遠巻きにされるタイプだから、恐れ多いとかでも思ったんじゃないの? 神殿関係の人とか、父様見て拝み出すよ」

「……キャリーちゃん」


 拗ねたような声音で呼ばれたので、クッキーから隣へ視線を移すと。


「キャリーちゃん、内緒事が多過ぎ」


 ぷくぅと頬を膨らませたブロウがいました。


「待つとは言ったけどさ。僕のことそんなに、ぅわぁっ?!」

「カワイイわぁ〜」


 あざとい! あざといですがカワイイですよ!!


「ちょ、キャリーちゃ、やめ」

「うんうん、カワイイカワイイ」

「聞いてっ」


 真っ赤になって照れているブロウもカワイイです。こういうところ、本当に彼好みですよね。タイプど真ん中なんじゃないですか? 程よく色気がある反応が素直な子って。


「おいこらキャロラインー!出てこーい!」


 と、店の方から無粋な声が飛んできました。大声出すなんて、品がないって白い目向けられますよ。

 渋々重い腰を上げます。来店は有り難いですけど、周囲の視線をぶっちぎってから来てくれませんかね。


「何ですか…」

「最後くらい顔見せろっつーの」

「お帰りですか?ありがとうございましたー」

「クソガキ、わざわざ来て下さったへい…主に向かって何て口を」

「そういえば、天上の忠告どうでした?美味しいかったでしょう」


 団長さんのことはいつも通りスルーして、味の感想を問いました。

 それに対して、陛下は何故だか苦い顔をされました。どうしたんでしょう?


「美味しくなかったですか?」

「ワシも分けてもらったが美味じゃったぞ」

「確かに旨かったけどよ、……反則じゃね?」

「何がです?」

「あれ、ユノの菓子だろ」

「そうですけど」

「世界一の菓子をメニューに入れるとはなぁ。というより、入れられるとは、かのぉ。お前さん、ツテをフル活用しとるの」

「他のクラスも実家のツテとか使ってますよ。禁止されてる訳じゃないですし、ルール違反はしてません」

「あのじーさん、マジでお前とウェルスには甘いよな」


 じーさまには本当の孫のようにカワイがってもらってます。嬉しいことです。

 陛下たちと雑談をしていると、それまで一言も発していなかった父様が寄ってきました。


「キャリー」

「父様?」

「美味しかった」

「それは良かった」



「さて帰ろうか」


「まだあるから」



 大人しいと思ったら帰る気満々ですね、私を連れて。


「もういいだろう」

「駄目」

「何故だ。祭も中盤であるし、帰っても構わないだろう。いっそ学園を辞めて、私も仕事を辞めて、家で一緒に……」

「ちーちーさーまー? あんまり聞き分け悪いと母様に言いつけるよ?」


 本っ当にこの父様は!

 照れとかよりも呆れが浮かびますよ。

 私が物心ついた時から、むしろ生まれる前から変わらない、母様と母様との愛の結晶である(むすめ)が全ての父様。

 これが通常運転なんですから困った父様です。

 母様を引き合いに出してようやく渋々と頷く父様に、もう一度溜め息を吐きました。


「……いつ終わるんだ?」

「夕方には家に帰れるから先に帰ってて。ね?」

「……わかった」


 そんな父娘のやり取りを見ていた陛下が、無茶振りを言ってきます。


「やっぱ、将来(うち)来ねぇ? コイツを宥める職を創るから。金弾むぜ?」

「嫌です。頑張って扱って下さい。無理なら手放すことですね」

「キャロラインかアイツが居れば、扱いやすいんだけどなぁ」

「主に対し、忠義のなっていない姿勢、言語道断!やはり貴様は斬って捨て…」

「はん!私は別にコイツを主と思ったことなどない」

「何だとぉおおおお!!!」


 父様、正直に言い過ぎだと思いますよ。

 まぁ私も尊敬はしてますが忠誠心はないので、似たようなものなんですけど。


「思うんですけど、よく父様を雇用してますよね。不敬罪だけでもとっくに捕まりそうなのに」

「こんなだけど、宰相たち並に有能だからな。でもコイツが拒否るから部署替えが全く上手く行かねぇんだよ。宰相が無理矢理引っ張って来れるから、仕事はさせれるんだけどよ」

「宰相さん凄いですよねぇ」

「コイツが自分から仕事してくりゃ、文句はねぇんだけどなぁ」


 苦労しますね、陛下。

 頭の痛そうな陛下の背後で、ご隠居がボソリと呟きました。


「……おぬしが、父様お仕事頑張って!とでも言えば解決すると思うんじゃがの…」


 ご隠居、それは言わない約束で。


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