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第17話 学園祭〜文化の部1日目〜

m(__)m<土下座

 さあさあさあ!

 始まりますよ、学園祭文化の部!

 私のクラスの出し物はそう、精霊喫茶!

 最強に可愛くめかし込んだ精霊たちが貴方をお出迎え致します!


「……キャリーちゃんのテンションが異常だ」

『あははは…』

『面白ぇ嬢ちゃんだよなぁ』


 精霊は基本、着替えという概念がありません。

 常に一着です。

 リンネなら、手前の腰元に髪と同色の大きなリボンがついた、Vネックノースリーブのグリーンのワンピース。

 ハディくんなら、青紫色のチャイナ風な上着とズボン。

 しかし、着替えることが出来ない訳ではありません。

 それは既に昔ナフィたちと契約した時に試し済みです。大変愛らしい着せ替え人形でした。


 精霊たちは今、様々な服装をしています。


 喫茶なのでウエイトレスとボーイは勿論、それだけでは勿体無いので、犬猫などの動物から物語の仮装など、手の及ぶ限りやってやりました。

 私は達成感でいっぱいです。

 ちなみに、契約者であるクラスメイトたちにはテキトーにカフェの制服もどきをデザインしました。私の中では特に重要性はなかった。


「この愛らしさ!全ての者がひれ伏しますね!」

「キャリーちゃーん、帰ってきてー」

「リンネはウサギコス、ハディくんは執事!ああ、ここは楽園!?」


 出来ることなら、ナフィやノンちゃんたちもここに加えたかった!

 帰ったらやろう。

 そう決意していれば、手を掴まれました。


「キャリーちゃぁん」

「ん? どうしたの?ブロウ」

「やっと帰ってきた。僕今から生徒会の方に行くからって言おうとしたんだよ〜」

「あれ、もう?」


 そうでした。

 忘れがちですが、ブロウは真面目に生徒会のお仕事をしています。

 学園祭は、体育の部は生徒たちが集中して全力で挑めるように学園側が運営してくれますが、文化の部は生徒たちが形作るものという方針で生徒会が運営をします。勿論学園側のフォローもありますが。

 そんな生徒会に所属しているブロウは準備期間も当日も大忙し。

 ただでさえ仕事は多いのにサボリがいますからね。呪い追加してやりましょうか?


「分かった。午後は空けておいてくれてるんだよね?」

「うん!もちろん!」

「終わったら念話するから。じゃ、頑張ってね」

「頑張ってくる〜」

『じゃあなぁ、嬢ちゃんたち』


 ブロウを送り出した後、校内に拡声魔法を使った学園長の声が響きました。


「諸君、支度は出来たか? 普段ならもてなされる立場の者が殆どであろう。しかし、この3日間は逆だ。君たちがもてなす側である。人をもてなす以上、責任を持ってやり遂げよ! 文化の部、初日開催である!!」


 初日は非公開日となっており、生徒たちだけで楽しみます。

 クラスや部活の出し物では大体のところがシフトを組んで、必ず自由時間を持てるように調整されています。

 前にも言ったように精霊召喚は魔力を多く消費するので、精霊召喚組、料理のセッティングをする裏方組や普通に給仕する組もあります。性格的に給仕なんて向かない精霊もいますからね。


『始まりましたですぅ。楽しみですね〜、(あるじ)様ぁ』

「そうだね」


 私は嫌味にならない程度に可愛らしく装飾した教室を何となく見渡していますと。


「「「こんにちはー」」」


 天使たちが来店しました。


「殿下!?…ハッ、失礼しました。みんな」

『『『『いらっしゃいませー』』』』

「「「ようこそ、精霊喫茶へ!」」」


 接客に出たクラスメイトは金髪の天使に驚くも、すぐに切り替えました。


『3名様かー?』

「はい」

「まあ!精霊様たちがとても可愛らしいですわ!」

「完全に趣味に走ったね」


 初っ端から来た上客にクラス内が少しざわつきます。

 クラスメイトは貴族ばかりなので、学園の方針があっても意識するのは仕方ないことです。

 一切気にせず無礼を働けるのは私だからですし。

 まぁ、父様(ちちさま)も内心ではどうでもいいと思っていますが、母様(かかさま)に言われているので形だけは丁寧にしています。その姿はまさに慇懃無礼。

 見習って出来た子どもがこちらですが何か?


「ティモール先輩!」

「…いらっしゃいませ」

「先日の試合、拝見させていただきました。とても素晴らしかったです」

「ありがとうございます。お席の方へご案内させていただきますね」

「ティモール先輩の精霊様に給仕していただきたいですわ!」

「小さなお身体で上級や最上級の魔法の行使は見事でした。流石精霊様です」

『ありがとうですぅ〜』


 リンネも私のことは心得ているので、あくまで初めて会った人間への対応です。


「リーナ、どうぞ」

「ありがとう、サイラス」

「メニューを」

『はいですぅ』


 サイラスがメルをエスコートしてから席に着き、ロコちゃんにメニューをリンネから受け取っていると、サイラスが目配せを送ってきました。

 まだ他にお客様も来てないから、ココとても目立っているんですけど?

 そう目で語ると、シュン…と眉をハの字して見つめてきました。

 うっ…………、はぁ。

 私は屈んでサイラスへと耳を寄せました。

 すると、サイラスは手の平で口を隠すようにして、コソッと言いました。


「姉上、その格好とてもお似合いです」


 隣に座っていたメルも同じようにしてコッソリ言ってきます。


「可愛いですわっ」


 天使の方が可愛いと思うけど?


「趣味にクラスを巻き込むなんて流石だね」

「精霊喫茶は私の提案じゃないから」


 そこからは私の独壇場でしたが。


「……あんまり男には愛想振りまいちゃダメだよ?」


 ロコちゃんは口を動かさず、私にだけ聞こえるように声を送ってきました。

 表情コントロールにも長けている筈のロコちゃんは、少しむくれていました。天使以外の何ものでもない。

 あー頭撫で撫でしたい、ぎゅうって抱き締めたい。

 でも記憶改竄するのは手間かかって面倒臭いので、我慢。放課後会おう。


「是非私たちのクラスにもお出で下さいね」


 3人はそれぞれケーキセットを頼んで、帰って行きました。

 裏方へ注文届けに行った途端に質問責めに合いましたよ。面倒でした。


「やぁ、キャリーちゃん」

「カルロさん!!!!」


 ああ、今日も素敵です!

 体育の部の時はあまり会えませんでしたからね。準備期間も何だかんだで忙しかったですし。


「ふふふ、可愛い格好だね」

「ありがとうございますっ。あ、お席に案内しますね、リンネ!」

『はいですぅ、こっちですぅ』

「ありがとう」


 空いている席へと案内してからメニューを手渡しました。


『メニューですぅ』

「ご注文の際はお声かけくださいね」

「わぁ、色々あるんだね。迷っちゃうな」


 カワイイ!カルロさんカワイイです!


「う〜ん。オススメはある?」

「そうですね…。火の花のケーキとかオススメですね。うちのクラスの食べ物はほとんど商人から降ろしているものですけど、これは裏方で精霊たちに手伝ってもらいながら作ってるんですよ」


 料理が趣味のご令嬢がいて、その方が数人に手解きをして作っています。精霊が飛び交っていて、厨房が凄いカワイイことになってました。


『ベリーの酸味がクリームと合わさって、とっても美味しいんですよぉ』

「じゃあそれと、これに合うお茶を」

「これなら紅茶ですかね」

「じゃあ、レモンティーをストレートで」

「はい。以上でよろしいですか?」

「うん。お願いします」

『注文ありがとうございますですぅ』

「すぐにお持ちいたしますね」


 そう言って裏方へ注文を届けに行こうとすると呼び止められました。


「あ、ちょっと待って、キャリーちゃん」

「はい?リンネ、先に」

『はぁいですぅ』

「あのね、明日って時間あるかな?」

「カルロさんの為なら空けますけど、どうしてですか?」

「最近、学園祭の準備でキャリーちゃん忙しくて、あまりお茶出来なかったでしょう?だから、明日一緒にどうかな、って思って」


 カルロさんが照れてる!ちょっと頬を赤らめながら、ほにゃっと笑ってる!カワイイ!!


「もちろん!と、言いたいんですが、明日は私の婚約者や父も来る予定で…」

「そっか、そうだよね…」


 カルロさんがしゅん…としてしまいました。

 くっ、そんな顔をさせるのは本意ではありません!


「カルロさん!私もカルロさんとお茶したいです!なので、放課後はどうでしょう!?」

「あ、そっか。なら、いいかな?」

「勿論です!!」


 火の花のケーキは好評で、一般公開日に奥様とまた食べに来ると約束してくれました。

 そこそこ忙しく働いていると、交代の時間になっていました。

 リンネに還ってもらい、パパッと制服に着替えて教室を後にします。


「もしもし。うん、今終わったところ。どこにいる?…すぐだね、行くからそこにいて」


 ブロウに念話をして居場所を聞き、廊下を進んでいくと女生徒の割合が増えていきます。わかりやすい。


「キャリーちゃん!」

「ブロウ、お疲れ」

「仕事は一段落ついたの?」

「うん。後はふくかいちょーがやってくれるって〜」

「そう。何か食べた?」

「まだ〜、お腹空いたよぉ」


 ブロウがお腹を押さえて悲しげな顔でそう言った途端に、周りの女生徒からタダ券や割引券が舞い込んできました。流石イケメン、これは使える。


「ホントにもらっていいの〜?ありがとう!」

「きゅ〜…」


 ブロウの満面の笑みにノックアウト続出!…どこかに先生はいませんかね?保健医に引き渡して下さい。


「クラス、お客さん来てた?」

「来てた来てた。精霊たちがカワイイからね」

「キャリーちゃんって、ホント精霊好きだよね〜」

「普通でしょ。ブロウの方はどうだったの?」

「僕に割り振られたのは各クラスの仕事具合を確認することなんだけど〜、まぁ、貴族だからね〜。そこそこ仲裁することはあったよ〜」

「まぁねぇ…」

「スミーくんのクラス、美味しそうなの売ってたよ。メガネくんたちのクラスも面白そうなのやってたし。行こ〜?」

「行く行く」


 まずは。


「いらっしゃい」


 メガネくんがいる魔法専攻クラス。

 ここでは的当てゲームを(おこな)っていました。


「ルールは簡単。この魔法銃に魔力を込めて的を撃つだけ。撃つのは3回ね。真ん中がに近ければ点数も高くなって、点数によって賞品変わるから、頑張ってみて」


 的は弓道のものと同じような感じで、外から順に1点2点と色分けされており、真ん中は5点と分かりやすいです。

 手渡された銃を観察していると、魔法陣が刻まれていました。


「ん?魔力容量を制限する陣?」

「馬鹿みたいに魔力送られて、壊されちゃ堪んないからね」

「あー、限界見極められない馬鹿もいるもんね」

「ね〜、こっちは何〜?」


 並べられてる銃は2種類あって、そちらには紫色の魔石が埋め込められています。


「それは一般用。魔力を扱えない人がほとんどだからね」

「紫の魔石なんてよく手に入ったね」

「交渉は得意だから。先生をオトしたかいがあったよ」

「……それで最近、涙目だったんだ、あの先生」


 先生の頑張りが犠牲になった出し物なんですね。

 商家の息子が要らないところで能力を発揮しているようです。

 小銭を払ってから、銃を借りて的の前に立ちます。


「ブロウ、勝負しようよ。負けたら女装して」

「女装!?や、やだよ!」

「まぁまぁ。私が負けたら何がいい?」

「えぇ?いきなり言われても、何も思いつかないよ」

「色々あるでしょ。ブロウが女装なら、男装とか?でもそれじゃ私にあんまりダメージのないから不公へ……」

「婦女子が男装なんて!!ダメ!」

「あれ、ブロウの方が気にする感じ?じゃ、決定」

「ダメだってばぁ!」

「はいはい、お客さん構えて~」


 ブロウがあわあわ言っているのをスルーして、的目掛けて引き金を引きました。


 パンッ!!


「おお」


 弾の軌跡はキラキラと光るエフェクトがかかって着弾しました。

 これは綺麗ですね。


「4点~」

「キャリーちゃん、凄い!」

「4かぁ、やっぱり銃は苦手だな~」


 魔法なら百発百中狙えるんですけど。


「僕も~、えいっ」


 ブロウの撃った弾はパチパチと火花を散らせながら着弾しました。

 エフェクトが違うんですね、面白いです。


「2点~」

「え~!次ぃ!」

「外れ~」

「難しいよコレ!」


 ブロウが的外れなところに撃っている間に、残り2発を適当に撃ちました。


「5点と4点。さっきの4点と合計で13点だね。高得点だよ」

「キャリーちゃん、何でそんなに上手なの!?」

「いや、上手じゃないでしょ。2回外してるし」

「その2回とも、5点の枠ギリギリの外だけどね」

「ブロウも早く残り撃っちゃいなよ、ちょっと人並んでるし」

「う、うん」

「はい、1点~」

「うぅ…」


 しょげてるブロウの頭を撫でていると、メガネくんが箱を持ってやってきました。


「はい」

「なにこれ」

「賞品を決めるクジ」

「へー、クジ引き方式なんだ。やっていい?」

「どうぞ」


 ズボッと箱に手を突っ込み、ガサガサと厚さからして厚紙のカードを漁ります。

 そして適当に一枚取り出しました。


「はい」

「はい……………キャリーって、運強いね」

「そんなことないと思うけど」

「一発で賞品の中で一番価値の高いのを引き当てておいて、それはないでしょ」


 カードをくるりと裏返して突き付けてきたところには「魔道具」の文字。


「これ、点数によって箱が違ってさ。13点以上の高得点の箱にだけ、魔道具のクジが五つ入ってるんだよ。それをいきなり引くとか…、あり得ない」

「魔道具? たかがゲームの賞品で、やり過ぎじゃない?」


 魔道具は魔道具専門店にしか売っていない、高級品です。

 そもそも、魔道具に使う魔石が希少で高価なんですよ。

 それに加えて、精巧な魔法陣を物に寸分違わず刻むという高技術が必要なので、技術料も高くつくんです。


「効果は灯火とか点灯とか、ぶっちゃけショボイやつだし、数回限定だから。大体3回くらいまで。魔石もそれに合わせてほぼカス同然のやつだし。それくらいなら、って魔法専攻クラスのメンツもあるし、許可されたんだよ」

「あれはもぎ取ったって言うんだと思うよ……」


 ボソッとメガネくんのセリフにツッコミを入れたのはブロウ。

 ブロウは生徒会なので、文化の部の会議で許可された場面を見ているのかもしれませんね。交渉上手のメガネくんの手腕を。


「はい。おめでとう」

「ありがとう」


 手の平サイズの箱を開けると、出てきたのは指輪。


「んー、効果は灯火、回数は…3回かぁ」

「キャリーって難なく魔法陣読み解くよね」

「魔法陣学は好きだし」

「それ魔工学のトップランカーが造ることになってて、俺も造ったんだけどさ」

「…メガネくん魔工学も上位に入ってるの?」

「まぁね。これ良い宿題になったんだよ、本当に。小さーい小指用指輪(ピンキーリング)に、魔法陣を書くのは」


 私は手元にある小さな魔石が付いた指輪をもう一度見ます。

 そしてリングの内側に刻まれた細かい細かい文字の過程を想像し、顔を引きつらせました。


「うっわぁ……。私だったら絶対嫌だ。勝手に腕輪かベルトに変えて作るわ」

「めちゃくちゃ頑張ったよ。何十と無駄に失敗したけどね。あ、総合3点だったブロウには残念賞の飴玉をあげるよ」

「ありがと〜」

「この後は、どこに行くの?」

「サルくんのところでブロウに女装させる」

「えぇ!?それ本気だったの!?」

「私はいつでも本気だけど?」

「ブロウの女装とか俺も見たい」

「写真焼き増ししてもらってくるよ」

「やめて!?」


 サルくんのクラスは写真館だと言っていましたからね。

 クラスで色んな衣装を用意してあるので、それに着替えて写真を撮ってもいいと。要はコスプレ写真館。

 この世界の写真は、かの眼鏡な魔法使いが主人公の世界の写真と同じで、撮った写真が動くからテンション上がるんですよね。


「サルくーん」

「お!来てくれたんだな!」

「空いてる?」

「写真機は順番待ちだけど、衣装なら好きに選んでていいぜ。ほい、整理券」

「ありがと。衣装ってどこ?」

「隣の教室!」

「じゃ、ブロウ。行こうか!」

「……ホントに?」

「何がいいかな〜定番のドレスかな〜」

「うぅ…」


 衣装は、町娘が着るようなワンピースから煌びやかなドレスまで色々揃えてありました。

 ブロウは黒髪なので何色でも映えると思うんですよ。でも目が綺麗な桜色なので桃色で揃えましょうか?うーん、どうせなら彼の色で彩ってみてもいいですよね。


「そんな隅で何してるの?こっちにおいでよ」

「はーい…」


 半泣きのブロウを近くに呼び、手に取ったドレスを当てていきます。


「これは丈が微妙。これはデザインが似合わない。ブロウは綺麗系だから、ふんわりカワイイ系の服でもいいかも」

「なんでもいいよぅ」


 あ、これなんてどうですかね。

 手に取ったのは、淡いベリー色のボールガウンドレス。腰をリボンで締めて、その下がレースでふわふわしていてカワイらしいです。


「…うん。とりあえず、これ試着ね」

「はぁーい」


 諦めた目をしたブロウが、衝立にカーテンがついてる簡易試着室へ入っていきました。


「……キャリーちゃん」

「着れた?」

「……やっぱりやめない?」

「やめない♡」


 試着室から中々出てこないので、シャッとカーテンを開けます。


「あっ」

「カワイイ!」


 どうせなので鬘も被せて化粧もしましょう!


「もうどうにでもなれ…」

「美形は何しても似合うから得だよね、あーカワイイ」


 そうして、装飾品などの小物も合わせて満足のいく出来に仕上がったのは、黒髪ロングヘアのお姫様(ブロウ)。ぷっくりと桃色に輝く唇がとてもカワイらしい。

 機嫌良くして隣の教室へ戻ると。


「え、誰その美人さん」


 珍しくサルくんまで一緒に教室中の人が見惚れるという面白い事態になりました。

 そして存分にブロウ(単体)の写真を撮り、ブロウがお願いするので私とのツーショットやサルくんとも一緒に撮ったりして、思いきり楽しみました。

 勿体無いですが、貸衣装なのでブロウの女装を解き、次のクラスへ。


「確か薬膳作るって言ってたよね、スミーくん」

「うん。チラッとメニューを見たけど、色々種類があったよ〜」


 薬膳屋と書かれたパネルに、薬草の独特な匂いと一緒に美味しそうな匂いが漂ってくるクラス。


「へぇ、カレー味にみぞれに…凄いね」

「美味しそうだよね。甘味もあるみたいだよ?」

「えっ♡ どれどれ?」

「(甘味にはホント食いつきいいなぁ)こっちにメニュー書いてあったよ」


「あっ、ブロウくん、キャリーさん!」


「スミーくん!甘味系でオススメ何かある!?」

「へっ? 甘味…、スイーツですか?すみません!」

「うん、そう」

「ぇ、えっとスイーツなら…プリンとタルトが一番オススメです、すみませんすみません!」

「じゃあそれ両方貰う。ブロウは何にするの?」

「僕は…んー、みぞれのスープにしようかな」

「スミーくん、注文いいかな?」

「は、はいっすみません!」


 タルトもプリンも美味しかったです。満足。


「美味しかったね」

「うん。というか、お昼なのに甘味で良かったの〜?お腹減らな〜い?」

「中等部も行くのにお腹いっぱいだと何も食べれなくなるからいいの」

「ああ、弟みたいな子がいるんだっけ?」

「………………さて行こうか!」

「(何、今の間…)」


 高等部の校舎から出て、少しした先に中等部の校舎があります。

 当然、お目当てはサイラスたち。

 賑わう教室を通り過ぎていく途中、階段まで続く行列の横を上がって行きます。


「凄い行列だね」

「ね。どこに並んでるんだろ」


 廊下に出ると、その行列の先が見えました。

 そのクラスはまさに今行こうとしていたところで。


「あ! あね…ティモール先輩!」

「まあ! おね…ティモール様!」


 クラス名が刺繍されたエプロンを身に付けた第2王子と公爵令嬢が売り子をしているパン屋さんでした。


「こんにちは。朝はありがとうございました」

「いえ!あ、どうぞ、好きなものを選んでください!」

「こちらのパイがオススメなんですのよ!」

「さ、サイラス様、メルリーナ様っ。ダメですよ、列に並んでもらわなきゃ……」

「ああ、ごめんなさい。はい、これを」

「え、あっ!」

「整理券。これでいいですかね?」

「は、はい!確かに!どうぞ、いらっしゃいませ!」


 パン屋なのに整理券?と思うなかれ。

 実際、今必要になっていることからも分かるように、サイラスたちのような高位の方や、社交界で人気を集める方が所属するクラスはどうしても人が集まってしまうので、展示以外の出し物の場合、整理券の発行が決められているんです。

 うちのクラスもありますよ、ブロウがいますからね。


「このバターデニッシュはバターの甘みが程よくて…」

「クリームパンがカスタードとベリーとチョコレートの3種類あって…」

「マヨネーズパンとかコロッケパンとか惣菜ものも美味しいですよ!」

「こっちのラムレーズンのパイとか、あっ、カボチャ餡のパイはとてもオススメですわ!」


 こらこら、2人とも。


「私だけに構ってないで、ちゃんと売り子しなさい」

「「だって…」」

「お仕事でしょう?私情のままに動かないの。それじゃアレと同じよ?」

「う、それは嫌です」

「分かりましたわ…」


 しょんぼりしつつも頷く2人に苦笑しながら頭を撫でると、気持ち良さそうに目を細めていました。

 カワイイ………………………………、ハッ?!


「きゃ、キャリーちゃん……?」


 ブロウが混乱した顔でこちらを見ていました。ついでに言えば、周囲の生徒も。

 ……うん。


「それじゃあ、2人のオススメを全部くださいな」

「はい!」

「はいですわ!」


 さっさと買って逃げましょう。




 ガサガサと音を立てる紙袋を抱えながら向かうのはもう一人の弟分のクラス。

 …ロコちゃんのクラスが見えてきましたが、そこから連なるこの色めきだった男性と女性の行列は何でしょう?


「また行列だね」

「……キャリーちゃん、さっきのって」

「まぁここも整理券あるから問題ないんだけど」


 並んでいる人たちを整列させていた女生徒に整理券を見せて教室へと入ります。

 入った瞬間、目を惹かれたのは金で縁取られた真っ赤な椅子に座る、危ないまでに色香が漂う水色髪の美少女……いや美少年。



 ………ろろろろろロコちゃあああああん?!?!



 裾に宝石が散りばめられた黒のドレスに、口元を隠すふわふわの黒毛が付いた扇子。

 薄く化粧をしてその美貌を更に輝かせたその少年。

 まさかの弟分が女装して行列の先に居ました。


「こちらでは飲み物の販売とクイズを行っていまーす。全30問!25問以上正解した方にはご褒美に、あちらに座るロコロ様に好きなセリフを言ってもらえまーす!そしてなんと!全問正解した方は、好きなセリフとポーズを一つ指定することが出来まーす!」

「なお、指定したセリフについては、ゲーム後は効力を持ちませんので、プロポーズとかしてもらっても結婚出来るわけじゃないですからねー。まぁ夢は見れますけどー」


 景品に自分を使ったんですか…。

 流石、自分の価値をよく分かってますねロコちゃん。


「26問正解でーす!クリアでーす!では、こちらへどうぞ〜。言ってもらいたいセリフを紙に書いて下さーい」


 クリアした男子生徒が手渡された紙にサラサラと書くと、その紙を案内の女生徒がロコちゃんに持って行きました。

 それを読むと、ロコちゃんは表情を作り。


「跪きなさい、この駄犬」

「はい!ありがとうございます!!」


 罵倒と蔑みの目をくれていました。

 それに喜んでロコちゃんの足元へ這い蹲る男子生徒。それでいいのか……。

 しっかし似合っているんですけど、パッと見お姫様な容貌なのに女王様に見えるのは何故ですかね?


「ふんっ、罵倒されて喜ぶなんて、この変態!そこで売っているブラックジュースを飲んで盛大にのたうちまわればいいわ」

「喜んでー!」


 教室内は、ゲームをするスペースがあり、真ん中にロコちゃんが座り、ゲームスペースの反対側にジュースの売り場があります。

 入り口はゲームスペースの方にあるのに、変わった位置付けだなとは思いましたが、もしかしてこうやって売りつけてるんですかね?

 ちなみにブラックジュースとは、ハッキリ言ってゲテモノです。身体に害はないけど、味蕾には刺激と破壊と害しかないものを混ぜたミックスジュースです。なので、あるところでレシピは変わります。黒ければブラックジュースです。

 メニューの看板がありますが、ブラックジュースが一番高値です。ぼったくりもビックリする値段が表記されています。

 ……ロコちゃん、恐ろしい子!


「クイズはプリントへの記入方式になりまーす。どうぞー」

「ありがとう」

「ありがとぉ〜」


 何々?

 問1、我が国の建国記念日はいつ?

 問2、歴代国王の中で一番長い朝廷を取ったのは?


「まぁ、基礎だよね」

「そうだね〜」


 問5、現宰相の二つ名は?

 問6、各属性の相性を書きなさい。

 問7、「歩く傍若無人」の名は?

 問8、下記のイラストのキャラクター名は?


「待て」


 問8の下には、トレーディングカードのイラストが。

 ここまで国や魔法に関する真面目な問題だったのに、いきなり問題傾向が進路変更しましたね。しかも、よりによって滅茶苦茶マイナーなカードをセレクト…。


 問9、問8の進化カードは?


「鬼か」


 発行数も少なく、イラストも効果も地味なこのカードを知っている人なんて、そういませんよ。

 それに、これの進化カードって悪ふざけでめちゃくちゃ長い名前付けましたからね、私とウェルが。覚えてる人居るんですか?


「これなんだっけなぁ〜。一覧表の隅にあったんだけど〜………あ!思い出した!」

「ブロウ、覚えてるの?」

「ん?まぁ、メガネくんに借りてカードブック読んだからね〜」


 いましたよ、隣に。


 問14、冒険者ギルドで今年人気番付1位のチームは?

 問15、××年に引退した前騎士団長の最初の弟子は?

 問16、タティスリ国に本店がある菓子専門店「ユノ」が、最後に開店したのはいつ?


「ところどころマニアックな問題がありますね。問15とか、よく正解調べられましたね」


 当時のことを知ってる方はほとんど引退しているでしょうし、前団長さんも最初の弟子の話はあまりしないのに。


 問27、ナノハ草とベル花の根とバーバットの羽、保湿薬に必要なもう一つの材料は?

 問28、「竜の谷」にいるドラゴンの種族は?


「もう答えさせる気ないでしょう、これ。誰が解けるんですか」


 絶対問題制作はロコちゃんでしょう。でなければ、こんなの問題にしようとも出来ませんからね。

 まず竜の谷に到達しても帰還出来た方、一部除いて居ないでしょう!


「ようやくラスト問題ですね」


 問30、この世で最も強い者は?


「………………」


 私は書き終えた紙を係りの女生徒に渡しました。


「キャリーちゃん、全部解けたぁ〜?」

「さあ?」

「僕、全然分かんなかったよ〜。前団長様の弟子って、今の団長様じゃないの〜?」

「違うよ。最初の弟子は、前団長さんの奥さん」

「えぇぇぇ!?!」


 前団長さんの奥さん、男装して騎士に紛れてたんですよねぇ。その頃は女騎士が認められてなかったので。

 何故女人禁制の騎士団にいたのかというと、剣が得意だったのと定期の高収入に惹かれたのことです。冒険者では依頼によって収入がまばらですからね。

 そんな理由で騎士団に入るんですけど、筋が良くて当時分隊の副隊長だった前団長さんに気に入られるんです。

 奥さんも鍛えるのは好きな方なので、喜んで弟子にしてもらい。

 良い感じに信頼関係を築けてきた頃に、前団長さんがひょんなことから奥さんは女だってことを知ってしまうんです。

 そこからはまるでドラマみたいにドキドキハラハラの展開でしたよ。


「ティモール様ーリェチル様ー、答え合わせが終わりましたー」

「ほらブロウ、行くよ」

「あ、うん」


 呼んでいる女生徒の方へ行くと、まずブロウから答案を返されました。


「おめでとうございまーす!26問正解でーす!この紙に好きなセリフをどうぞー」

「わあ!やったぁ!でも、言って欲しいセリフなんてないんだけど〜…」

「それなら、ロコロ様への質問でも良いですよー。答えてくれるかはロコロ様次第ですけどー」

「ま、まぁそれなら〜」


 ブロウに説明する女生徒の隣の男子生徒が私の答案を返してくれました。


「ティモール様!おめでとうございますー!初の全問正解です!」

「あら、ありがとう」

「え〜!キャリーちゃん、凄〜い!よく分かったね〜!」

「んー、まぁね」


 大体の無理難問題の情報源は私とウェルですから。


「言って欲しいセリフと、して欲しい動作をこちらの用紙に書いてください」


 セリフに動作ですか……、ふむ。


「ではリェチル様から」


 ブロウの書いた紙を女生徒がロコちゃんに向けて開きます。その間に男子生徒が文献をロコちゃんの前まで誘導しています。

 それを一瞥したロコちゃんは。


「甘味が一番好きですわ」


 と淡々とした声音で言いました。


「甘いものが好きなの〜?僕の友達と一緒だね〜」

「……………知ってるっつーの」

「え?」

「ふんっ」


 ブロウがヘラっと笑いかけますが、ロコちゃんはぷいっとそっぽ向いて無反応(シカト)。珍しい。

 私も書いた紙を女生徒に渡し、ロコちゃんがそれに目をやります。

 すると、ロコちゃんはぱちくりと瞬きして、こちらに向きました。


 私が書いたのは「好きな女性は?」です。


 ロコちゃんも思春期!そろそろ恋の一つや二つ…。さあ、お姉ちゃんに言ってごらん!

 ポーズは「適当に」としておきました。ロコちゃんはそのままでカワイイですから、特に必要ないです。


「…………」


 ロコちゃんは少し思案する顔をすると、その豪華な椅子から立ち上がりました。

 こちらへと近付いてきたかと思うと、私の首に腕を回して、妖艶に、蠱惑的に、煽情的に、耳元で囁きました。


「好きなのは、貴女だよ。…貴女、だけ」


 ……ロコちゃん、お姉ちゃんに色気振りまいてどうするんですか。

 色気(フェロモン)に当てられた子たちが真っ赤になって失神者続出してるじゃないですか。


「ちぇ、やっぱりキャリーには効かないね」

「カワイイよ?」

「むー」


 不満そうに唇を尖らせるロコちゃん。そろそろ萌え死ぬ。


「そうだ。ベリーチーズ味のスムージーがあるんだよ。奢るから飲んでって」

「自分で買うからいいよ」

「いいから。…そこの」

「はい、ロコロ様!」

「ベリーチーズ味を持ってきなさい」

「かしこまりました!!」


 女装しているからか、ロコちゃんは若干女言葉で明らかに高等部生の男子を呼びつけて命令を下しました。


「はい」

「う、うん、ありがとう」


 男子生徒が買って持ってきたスムージーを笑顔で差し出してくれる弟分。カワイイですけれども。結局お金を出したのは彼で…、自然と貢がせられるのは才能でしょうか?


「あ、美味しい」

「でしょ?おれが監修したからね」

「そういえば、クイズ。正解させる気ないでしょう、あれ」

「満点取れる人は取れるよ」


 悪びれる気ゼロなロコちゃんにちょっとため息。


「最後の問題の答えは?」

「ないよ。最後の問題だけおれが見て、正解と思えば正解」

「例として?」

「これまでに正解にした答えは、母とか妹とか女とかだね。分かりやすい(さが)だよね」

「あはは、真理ね」

「ドラゴンとか騎士団長とか、そういうのは面白くないから却下した。キャリーの答えはらしかったから、正解にした」


 最後の問題、「この世で最も強いものは?」に対する私の解答は「カワイイもの」。

 カワイイは正義!ですからね!!


「キャリー…ちゃぁん……?」


 困惑をあらわにしたブロウ、本日2回目。


「…………」


 うちの弟妹分がカワイ過ぎるのがいけないと思うんです。




 そろそろ文化の部初日も終わりに近付き、点呼の為クラスへと戻る道のり。

 私とブロウは黙ったまま隣を歩いていました。

 今日だけでやらかし過ぎましたからね、私。

 第2王子とその婚約者の公爵令嬢、美貌と才気溢れる侯爵家の次男。

 揃いも揃って有名どころ。私の周りって無駄に位が高い方が多いんですよね。

 そんな有名どころと親しげなモーションをする私。しかも事前に弟分がいると言っていますしね。


「……聞いて欲しくないなら聞かない」


 と、それまで俯いていたブロウが、キリッと決意が見える顔を上げて、そう口にしました。


「言ってくれるまで、待つよ」

「……ブロウは優しいなぁ」


 こんな明らかに不審な奴に向かって、待つだなんて。思わず苦笑してしまいます。

 変なのに引っかからないか、心配しちゃいますよ?

 まぁ、その為の彼なんですけど。


「じゃあ、私も」

「?」

「ブロウの好きな人を、いつかちゃんと紹介されることを願って、今は何も言わないし聞かないわ」

「!?!?」


 ボフンッと真っ赤になって動揺する友人に笑いながら、夕焼けに染まる廊下を進みました。


おまけ。


「明日だな♪」

「そうですなぁ」

「絶対に行ってやらねぇとな。アイツ外での接触嫌うからな、メンドクセェって理由で。からかう絶好の機会だぜ」

「あのクソガキらしい理由ではありますけど」

「陛下も同じようなものじゃしな」

「光の殿にも頼んであるし、準備完璧だな。いっそ最終日も行くか?」

「なりません!公務が……」

「影武者にやらしとけ」

「……本当に鼻垂れ小僧の頃から変わりませんのぅ。影武者をそんな理由で使う者もそうはおりませんじゃろうに」

「どんな変装してくかな〜」

「陛下……」

「全く……」


 その日、国王の私室で学園祭を楽しみする国王と頭を抱える騎士団長と呆れる前侯爵の姿が見られたとか。

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