第2話 婚約者との仲は良好です
新登場キャラ、俺様+婚約者の2名。
「今日は厄日です」
間違いありません。
気分は最低最悪の底辺です。
一日の授業を終え放課後になり、私は校務室へカルロさんに会いに行こうとしていました。
その道の途中、曲がり角で誰かとぶつかるというテンプレ。地味に痛いです。
「おい、聞いているのか。名を名乗れ」
「上から言うんじゃねぇよ、バ会長が」
「は?」
「何でしょう?」
「いや…」
速攻笑顔で切り返してやると、何とも微妙な顔をしていました。ザマァ。
彼こそ生徒バ会長の俺様です。
赤髪金眼のイケメンで王族です。王太子サマです。
この国オワタと思わなくもない。
「ぶつかってすみませんでした。では」
「待て。この俺にぶつかって謝罪程度で許されると思っ」
「思ってます。私、急いでいるんで失礼させて頂きます」
自分の言葉を遮られ、私の断言したセリフに絶句して固まった俺様を放置して、私は早足でその場を去りました。
ここで簡単に俺様のストーリー解説。
一度見た聞いたものは忘れない天才で、王宮筆頭魔法師以上の圧倒的な魔力量を持ち、顔も極上、何かとステータスの高い嫌みな方です。
周りは媚びしか売って来ない、俺の付属品にしか興味がないんだ…と被害妄想が激しい痛い子でもあります。
その被害妄想をヒロインに付け込まれ、「地位や顔なんて関係ない、貴方は貴方よ」的なセリフで陥落。
チョロいな俺様。
それからは俺様の標準装備『強引』を使って、ヒロインにキスしたりあちこち触ったり色々ヤッちまった後に告白してエンドです。
このゲームの製作会社にとってもツッコみたい。よく乙女ゲームとして世に出れたな。
ずずっと淹れたてのお茶を飲み干します。
ちなみに緑茶です。
「ふぅ、癒やされる」
「今日の授業、大変だったのかい?」
「いえ。今日も授業は楽しかったです」
疲れている原因は勿論奴ら。
今日だけで、メイン攻略キャラ2人と絡むことになるとは…。
カルロさんが居なかったら鬱病で登校拒否になるところでした。
「カルロさんのお茶はいつも美味しいですね」
「はは、ありがとう。キャリーちゃんくらいだよ、こんなじじいのお茶に付き合ってくれるのは」
この世界ではお茶と言えば紅茶が主流です。まぁ舞台設定がヨーロッパですし。
でも私は緑茶が好きです。次に麦茶。
そして何よりカルロさんカッコイイ。お茶も美味しい。
入り浸りにもなりますよ。
「そんな、じいさんだなんて。カルロさんは若いですよ」
これは事実。
どう見ても古希越えには見えない。
白髪があってようやく60代に見えます。
「そうかい?若いキャリーちゃんに言われると照れるね」
ずきゅーん!!!
もうっ本当にドストライク!!
カッコイイです!ステキです!
「そうだ。今日ね、理事長にお茶受けを貰ったんだよ」
「あ、私が用意しますよ」
慌てて席を立って、菓子箱を取る。
「え?でも…」
「お菓子は私がしますから、カルロさんはお茶のおかわりをお願いしていいですか?」
「…ふふ、うん、任せて」
柔らかく笑うカルロさんは、もう天使じゃないでしょうか。
カルロさんとの放課後デート?を満喫し、私はブラブラと街中を歩いています。
やっぱり街並み可愛いなぁ。
ヨーロッパの街って可愛いですよね、それに統一感があってカッコイイ。
日本育ちの私としては感慨深いです。
「キャリー!」
「ウェル」
馴染みのある声に振り返れば、微イケメンが私に向かって走って来ていました。
彼はウェルス・マーキュリ。
私の幼なじみ兼婚約者です。
容姿は先程言った通り、微イケメン。茶髪に赤みがかった茶の目です。
そしてココ超重要ポイント。
「久しぶり!攻略キャラたちに絡まれてないだろうな?」
「先生ポジとは授業について話すくらいだよ。あとはタメの尻軽に絡まれてる。ていうか聞いて!今日、俺様と喋るはめになった!」
「マジかよー、お前ただのモブじゃないイレギュラーなんだから接触は控えろよ?知らない内にオトすぞ?」
「うげ、何て嫌なこと言うのよ」
なんと、私と同じ転生者なのです!
彼の前世の姉がハマっていたそうで、それなりにこの世界のことを把握し始めた頃に、私と婚約。
この世界じゃ親が結婚相手を決めるのが普通です。家のこととかありますしね。
まぁ私の親は近年稀に見る親バカなので、嫌なら破棄すると言ってくれていたのですが、地球の日本出身の転生者!
しかも話がわかる!
破棄なんて致しませんとも。
転生者抜きにしても、ウェルは良い男ですし。
「ウェル、そこの店に入らない?」
「仰せのままに、婚約者様」
そう言ってウェルは腰を折り、私の手を取ると、完璧にエスコートしてみせます。
こういうノリの良いところも大好きです。
ウェルとの初対面は、私の家にて親同士に引き合わされ設けられた機会でした。
「初めまして、キャロライン・ティモールともうします」
「は、初めまして、ウェルス・マーキュリです!」
2人きりにされ、支障のない程度に会話を弾ませていると、
「プリ○ュアとかセーラー○ーンとか魔女っ子の方が似合う年の筈なのに、マレフィ○ントとか悪役魔女の方が似合うってどういことだよ…」
ポロッとうっかりウェルが地球でしか知り得ない情報を口にしたのです。
転生者でなければよく分からないただの独り言で片付けていたでしょうが、聞いていたのは私。聞き逃す筈がありません。
「………地球、日本、アニメ、漫画、ドラ○ンボール」
「!!? な、何で…………まさか!?」
私たちは一気に仲良くなりました。
喫茶店に入り、店員さんにオーダーして、私たちは近況を話し合います。
「ウェルは学校どうなの?」
「アホみてぇに厳しーぜ」
「騎士養成学園だから当たり前でしょう」
「まぁなー」
ウェルは騎士養成学園、通称、騎士園に通っています。
卒業したらティモール家に婿入りし、父様について政治を学ぶのだそう。
「お前んとこは?」
「ヒロインが2週目と尻軽以外全員を完璧にオトしたとこね」
「怖ぇ~、まだ5月だぜ?攻略難易度低過ぎだろ」
「些細過ぎる悩みを解決したらコロッといく人たちだから」
「それもそーか」
よく考え…なくても、わかると思うんです。
攻略キャラの悩みって自力で改善出来ることしかありませんから。
所詮は甘ったれの坊ちゃんということですね。
「それでね!カルロさんがね、今日の仕事途中に授業中の私を見掛けて、頑張ってて偉いなって!あとね、今日の髪型褒められたの!それからね…」
「うんうん、今日もカルロさんはカッコ良かったんだな」
「うん!」
ウェルの良いところその2、カルロさんのカッコ良さを分かっているところです。
「授業と言えば、今日魔法戦闘学で精霊召喚したよ」
「は?お前、まだ増やす訳?」
「仕方ないじゃない、授業だもの」
「あー、まぁ、ホントはこの時期にやるやつだもんな。キャリーが規格外っつーか何つーか」
「私は普通よ!」
「うん、自分でそう言う奴ほどヤバいんだぜ」
そ、そんなことない!……筈!
「で、何の精霊召喚したんだ?」
「風の下級精霊。召喚した途端、みんなが教育と称して新人イビリ始めちゃった」
「可哀想に。お前の精霊、苛烈だもんな」
「程々にしておきなさいとは言っておいたけど」
「止めないんだな」
「授業で召喚しちゃった以上、学園ではその子しか喚べないから。イビリを乗り越えて上級並みに強くなってもらう」
「ああ、教育ってそゆこと」
「そゆこと」
オーダーしたケーキセットが来たので、もぐもぐと咀嚼します。美味しい。
ウェルは甘い物があまり得意じゃないので、コーヒーだけ。
「そういえば、キャリー、俺様と喋ったって言ったか?」
「……嫌なこと思い出させないでよ」
口の中の甘いケーキが一気に苦く感じます。
「経緯は?」
「…曲がり角でぶつかった」
「俺様相手にか。絶対面倒だったろ」
「うん。普通さ、ぶつかったら謝ってはいさよならで済むじゃない?なのに、名を名乗れとか命令してきてさ。あっちは謝ってないのによ!?」
アイツのせいでカルロさんと過ごす筈だった時間をロスしました。許すまじ。
「そんで?」
「ぼかして逃げようと思ったら権力振りかざしてきて、ウザくなってセリフ遮ってちょっと罵倒したら固まったから、放置した」
「……………キャリー、お前ヤバいぞ」
へ?
「何が?権力ならうちには関係ないし」
「それは分かってる。そうじゃなくて。俺様攻略の必須条件は?」
「……立場に無関心」
サァッと顔から血の気が引きました。
「そうだ。生徒会長が王太子って知らないバカはヒロインくらいだし、お前は知っていて罵倒して去ったことになる」
「ぁ……いや、でも!ヒロインがもう攻略してるし!興味は持つとは…」
「王族のプライドもあるだろ」
「…………ぅ、うう~~、ウェルぅ~」
「ああ、泣け泣け。思う存分」
隣に移動して抱きつくと、そう言ってぽんぽんと頭を撫でてくれます。
やっぱりウェルは良い男です。
「俺も学園に通っていたら何とかしたんだが…、鼓舞することしか出来なくて悪いな」
「ううん、ありがと、頑張る」
「頑張れ」
とりあえず、絡んできたら即殺することを決めました。