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第15話 学園祭〜体育の部3日目〜

遅くなりました!!m(__)m

長くなりました!!

「今日は頑張ろうね!」

「あー、うん。頑張るよ、リンネが」


 おはようございます。

 朝ですよ。晴れ晴れとした朝です。帰っていいですか。


「それにしても、今年も人いっぱいだね〜」

「人がゴミのようだ」


 本日と明日の試合は一般観戦が許可されています。

 なので、学園内の闘技場辺りはたくさんの保護者や一般人で溢れかえっており、商会や学園設営の出店も賑わいをみせています。


「あ、母上だ!ちょっと行ってくるね!」

「行ってらっしゃい」


 ご家族を見つけたブロウが駆けていきました。

 …そういう訳で。


「よぉ、キャリー!」


 我が婚約者様も来ています。


「いやー、去年まではここ来てもロコたちを見に行ってたのに、まさかキャリーの試合を見れるとはな!頑張れよ!攻略キャラどもを蹴散らして目立っちまえ!」

「無闇にフラグ建てないでくれる?」


 今日は騎士園の制服ではなく私服です。

 袖をまくった白シャツに黒のパンツで、ラフな格好です。


「攻略キャラっていえば、尻軽くんってあれか?」

「うん、そう」


 ウェルが視線で示した先は、ブロウとおそらくハイネル夫人。


「ウェルってブロウとまだ会ってなかったっけ?」

「夏休みは予定合わなかったし、放課後も何だかんだで会わなかったしな」

「紹介するよ、ブロウも私の婚約者がどんなのか気になってたみたいだし」


 私はウェルの腕を引いて、ブロウのところへと向かいました。


「ブロウー」

「キャリーちゃ、ん…?」


 私の声に振り返ったブロウは明るい笑顔から徐々に顔を強張らせていきました。


「誰…?」

「婚約者のウェルだよ」

「初めまして、ウェルス・マーキュリです。噂はかねがね、リェチル伯爵家のブロッサム殿?」


 ニヤリと笑ったウェルにブロウがビクッと肩を跳ねさせます。


「こら、ウェル。意地悪しないの」

「ハハッ、悪ぃ悪ぃ。つい、な」

「何がついよ。ブロウを怖がらせるんじゃありません」

「だって、最近キャリーの口から出てくるのって、カルロさん8ブロッサムくん2の割合だぜ?婚約者としては面白くねーの」

「なに、妬いた?」

「ちょー妬いた」


 悪戯っぽく笑うと、ウェルも同じ笑みで返してきました。カワイイ。


「ごめんな、ブロッサムくん」

「う、ううん!好きな人から他の人の話を聞くのが面白くないのは僕も分かるし!」

「……ブロッサムくん、良い奴だな。俺が同じことされたらとりあえず15発は殴ってるわ」

「私だったら問答無用で魔法ぶつけてるわ」

「2人とも物騒だよ…」


 ブロウが顔を引きつらせていますが…、やられたら倍以上でお返しするのは当然ですよね。

 そんな軽口を叩き合っていると、黒髪に桜色の瞳というブロウと同じ色彩の美女がブロウの名前を呼びました。


「そちらはどなた?」

「初めまして、リェチル夫人。キャロライン・ティモールです。ブロッサムくんとは仲良くさせてもらっています」

「そう、貴女が。ブロウから話は聞いているわ。大切な友人だと」

「ちょ、母上!」

「これからも息子をよろしくね」

「勿論です」


 照れるブロウを挟んで、リェチル夫人の言葉にしっかりと頷きました。


「あれ?」


 リェチル夫人が保護者の中にご友人を見つけたとかで侍女と護衛を引き連れて去って行った後、何となくウェルの方に目をやり、ふといつもと違うところに気付きました。

 私はウェルの左手を手に取って、まじまじ見ながら言いました。


「珍しいね?指輪を嵌めてるなんて」

「あー、それな。今朝チェーンが切れてさぁ。この後にでも新しいの買いに行くかなー」


 いつもなら首からチェーンに通してつけている、蜂蜜色の石がついたシルバーリングを今日は薬指に嵌めていました。

 ウェルは刀を武器としており、指に装飾品があると指の感覚が変わったり滑ったりすると言って、普段から手には何も付けないんです。これは珍しいのを見ました。


「じゃあその時は言って。私も一緒に行く」

「チェーン買うだけだぜ?」


 正面から肩に手、というか腕を回してくるウェルを見上げて言いました。


「買い物も立派なデートでしょ」

「………」

「? どうしたの?」

「えっ、いや、ゴホンッ。…んじゃ、買ったらそのままどっか行こうぜ。どこ行きたい?」


 私の髪を指に絡めて遊ぶウェルの言葉に、遊びに行きたいところの候補を考えます。

 最近学園祭の準備で忙しかったので、久しぶりに行きつけの喫茶店に行ってみたいですけど、ギルドにも顔を出したいんですよね。依頼を受ける時間まではありませんから冷やかしになりますが、友人たちもそこにいるでしょうし。どうしましょう。

 と、行き先に頭を悩ませていた時、ベリッと首根っこを引っ張られたウェルが私から剥がされました。


「んなっ?!」


 ウェルが変な声を上げながらよろめき、体勢を整えて振り返った先にいたのは当然剥がした人。


「人の娘にベタベタ触るな、クソガキ」


 今日も今日とてキラッキラに眩しく麗しい、我が父様(ちちさま)

 観衆の目を独り占めしている父様からは怒気……あれ、殺気?まぁ、そんな危ないオーラが漂っていました。

 私を庇うように背後にする父様を確認したウェルは腕組みして真っ向から父様に立ち向かいました。


「いやいや親父さん、婚約者なら抱きしめるくらい普通ですから。むしろ、こういう人の多い時に見せつけないでどうするんですか」

「ふざけるなクソガキ。婚約者だろうが夫だろうが赤の他人だろうが、娘に触れていい男は父親(わたし)だけだと決まっている」


 父様、暴論。

 夫も触れちゃいけないって…、お家断絶ですか。

 この2人は顔を突き合わせると、いつもこんな感じです。背後に龍と虎を背負ってる感じですね。


「それじゃ、生徒は先に集合かかってるから、また後でね。行き先は決めとくからー。ブロウ、行こう」

「えっ?い、いいの?あの2人放っておいて」

「いいのいいの。あ、ブロウのことは後で父様に紹介するね」


 2人に付き合っていても面白いことはありませんからね。止めるのは幼少の頃に諦めています。

 闘技場の中に入ると、だいぶ生徒たちが集まっていました。


「おーい!キャリー!ブロウー!!」

「サルくんのうるさい声は人混みで便利だね」

「あははっ、確かに」


 サルくんの声が聞こえる方を探すと、ブンブンと手を振っているサルくんを見つけました。傍にはメガネくんとスミーくんが。


「おはよぉ~」

「おはよう」

「おおおはようございますすみません!」

「おはよ!」

「………」

「メガネくん、まだ覚めてないの?」

「はいぃ、開会式の時刻には間に合うと思うんですが…すみませんちゃんと起こしてあげられてなくてすみません!」


 メガネくんは軽い低血圧でいつもの少し腹黒爽やかな調子に戻るには、起きてからちょっと時間がかかるんです。


「今日は頑張ろうな!目指せ優勝!!」

「サルくん元気だね」

「妹たちに応援してもらっちゃったからな!もう優勝以外有り得ねぇぜ!!」

「上級生にケンカ売ってるみたいだね」

「本戦に勝ち上がったチームはやっぱりぃ~3年生が多いところばかりみたいだしねぇ~」


 聞き咎められたら面倒だなぁ……………あ、これフラグ?と思いましたが一歩遅かった。


「ちょっと」


 けばけばしいお顔のご令嬢方がズラリと現れました。……本当に帰っていいですか。


「貴方がた、2年生かしら?」


 ………はぁ。

 私は心の中で溜め息を吐き、サルくんたちの前に立ちました。


「はい。何かご用でしょうか」

「さっきから聞いていれば、貴方がたごときが優勝ですって?」

「呆れてしまいますわ。本戦には会長様がいらっしゃるのよ?」

「会長様は副会長様たちとチームを組んでいらっしゃるのよ。貴方がたが勝てる相手ではありませんわ!」

「そうですね、すみませんでした。それでは。行こ」


 面倒事が大きくならない内に離れようとサルくんたちを促すと、ご令嬢さんが引き留めてきました。


「なっ、待ちなさい!」

「まだ話は終わっていなくてよ!」


 面倒臭い面倒臭い面倒臭い。

 貴族を相手にするのってストレス溜まるんですよ、顔バレしている状態で問答無用にブチのめすと余計面倒なことになるんで。

 大体、私は気が短いんです。それなのに名も名乗らず言いたい放題……………つまりこれは喧嘩売ってきているということですよね!気付かずにすみません!よろしい、ならば戦争だ!と、思考が大変物騒な方へ転がっていた時。


「ごめんねぇ〜、センパイたち。気を悪くしちゃったんだよねぇ?でも、僕たちも一生懸命頑張って家族や友人に良いとこ見せたいんだぁ〜。だから、許して?」


 きゅるん、と膝を折って愛らしい上目遣いでお願いする美形(ブロウ)

 ご令嬢方は顔を真っ赤にして去って行きました。

 そういえば、ブロウって憧れの的の一人でしたね。最初から使えば良かったです。私ってばうっかりさん☆……うぇ。


「あ、危なかった…。キャリーちゃんがキレるのは回避出来た…」

「へ?キャリー、ずっと笑顔だったぞ?」

「それにキャリーさんって、いつも穏やかですよね?意見してすみません!」

「……キャリーちゃんは絶対に怒らしたら危険な人種だよ」

「ああ、言われてみればそうかもね」

「あ、メガネくん目が覚めたんだ。おはよぉ」

「おはよう。意識がハッキリしてきて周りを見てみれば、キャリーがめちゃくちゃキレイな笑顔だったから何事かと思ったよ」

「キャリーっていつも笑顔じゃね?」

「笑顔の種類が違ったんだよ〜。キャリーちゃん短気だし、うるさいの嫌いだし、さっき絶対イラついてたね」


 友人たちが何かを言っていたようですが、私は自分の心の中のセリフに気持ち悪くなって耳に届いていませんでした。




 さて。

 学園長の挨拶も終わり、発表されたトーナメント表。

 私たちはいきなりの第1試合でした。


「さぁあああ今年も始まったぜぇえええええっ!!!学園祭目玉の一つ、チーム戦! 第1試合は、魔法専攻クラスでトップ成績を修める、チームBクラスと! メンバー全員2年生!美貌の生徒会会計様率いる、チーム会計だぁあああああ!!」


 うん。うるさいですね。

 本戦では拡声魔道具を使った生徒が司会を務めます。

 魔法の応酬をしても一般人は何が起こったのか、どういった効果をもたらすのか分からない方が多いので観客用に実況と盛り上げ役を備えた司会が必要なんです。が、うるさい。

 ちなみに、チーム名はこれまた観客が分かりやすいように本戦に上がったチームがそれぞれで学園側に提出します。私たちのチーム名は私が付けました。分かりやすいでしょう。


「お腹空いたから早く終わらしたいな」

「私は今まで通りスミーくんと観戦してるから」

「うん。スミー、観客がうるさく言っても気にしないでね」

「あ、足手まといですみません!!」

「気にすんな!俺らが好きで組んでんだから!」

「スミーくんはリング以外で活躍してるでしょ。足手まといなんかじゃないよ」


 話しながらリングに上がると、お相手も上がってきました。


「魔法専攻かぁ。メガネくん知り合いだったりする?強い?」

「同級生の奴らなら俺より弱いね。3年生は予選見てた限りでは、ギリギリいけるかどうかってとこかな」

「じゃあ僕がセンパイに相手してもらおうかな~♪」


 うちはブロウが主力です。なんせ精霊魔法師なのに、未だ精霊召喚せず撃破してますからね。

 どうやら相手の2年はメガネくんの方が強いらしいですし、サルくんも攻撃特化で出力は時にブロウも凌ぐので、大丈夫そうですね。


「両チーム準備はいいかぁあああ!!?」

「ああ!」

「いつでもどうぞ~」

「それではぁあああっ!あ、開始ぃいいいいい!」


 耳がキーンとなる合図で試合が始まりました。


「【結界】」


 私は隣にいるスミーくん込みで結界を張ります。続いて召喚の言葉を唱えました。


「【召喚・リンネ】」

『はいですぅ~!』

「今日も頑張ってね」

『あの方たちの修行から逃れられるなら!頑張りますぅ~』


 ポンッと現れたリンネの姿に観客(ギャラリー)が湧きます。


「おっとぉおおお!チーム会計のティモール選手が契約精霊を召喚!あのカラーは風属性の精霊だぁあああ!しかしサイズは下級!果たして精霊殿の攻撃は届くのか!?要注目だぁああああ!!」


 下級だと思われているなら、初級魔法以上の魔法を使わないように言ったほうがいいですかね?


「そんじゃあ行くぜ!」

「俺、朝ご飯まだなんだよね。だから、早く倒れてくれる?」

「手始めだよ~【鞭茨水(べんしすい)】」


 予選までは、サルくんとメガネくんとブロウが攻めながらリンネが全体のサポートをするというポジションでしたが、今回は攻撃パターンが読まれて躱されることを考えて、ブロウとサルくんを前衛に、メガネくんを中衛にチェンジしました。

 私も攻撃に出れないこともないんですが、スミーくんを守るという大事な役目がありますからね。決して面倒だとかだるいとかではありませんよ?本当ですよ?


「っ、喰らうか!」

「甘いね」


 襲いかかる水で茨をかたどったムチを避けた先に、片手に魔法を待機させたメガネくんが。


「【円土針(えんどばり)】」

「ぐぁああああっ」

「このっ【水刃弾(すいじんだん)】」


 相手を囲むように地面から先端の尖った突起が飛び出て、相手に突き刺ささりました。

 そのメガネくんの背後からもう1人の魔法が襲いかかりますが。


『【風花(かざばな)】ですぅ』


 ふわりふわりと宙を浮くリンネからのサポート。

 普通なら数輪の花が咲くだけの魔法が、ぶわっとメガネくんと相手の間に咲き乱れ、水の弾丸がメガネくんに届くことはありませんでした。


「なっ」

「【土槌】…ありがとうございます」

『どういたしましてですぅ』


 土製の槌に横殴りにされ、リンネの魔法に驚いていたお相手がリングの外へ。場外ですね。


「な、な、な……」


 その様子を目にして、戦慄く方が1人。

 ブロウの振るったムチで1人が気絶し、サルくんの魔法で1人が場外へ吹っ飛ばされ、彼がラストです。

 ブロウと交戦していたんですが、他2名がメガネくんにやられて驚いたのでしょう。その表情……、非常に腹筋が痛くなってきますね!


「魔法専攻クラスのトップ……、プッ」

「キャリーちゃん、聞こえてる聞こえてる」

「あら、失礼」

「~~~っこのぉおおおお!!」

「【円土針】」

「【火矢】」


 メガネくんとサルくんが魔法を唱え、防御が間に合わなかった相手は倒れました。

 戦闘で冷静さを失うのは死を意味しますよ?試合で良かったですね。


「しゅうぅぅぅりょぉぉぉおッ!勝者チーム会計ぇぇぇええええ!!!!」


 倒れたお相手チームは保健委員がリングから運び出し医療室へ、私たちは拍手と歓声の中リングを下りました。


『主様ぁ~』

「お疲れ、リンネ。みんなもお疲れ様」

「だだだ大丈夫ですか?ケガしていませんか?すみませんすみません」

「大丈夫だよ~」

「ちょっと掠ったくらいだな。医療室行かなくても、スミーの薬で十分だ」

「俺も。精霊ちゃんが防御のサポートに徹してくれてたから無傷だよ」


 チーム会計メンバーはほぼ無傷で終えました。いや、強すぎ。

 本戦ではチームに控え室があてがわれていますが、部外者は入れないので私は客席の方へ向かいます。

 メガネくんは朝食を食べに出店へ、サルくんとスミーくんはメガネくんに付いて行って出店を冷かしてくるとのことなので、途中で別れます。リンネは次の試合まで還ってもらうことにしました。

 ブロウを連れ、人溢れる闘技場内でどう父様とウェルを探すのかと言いますと。

 とっても簡単お手軽!

 人垣の中で不自然なまでに一定の距離が空いているところを目指すだけ。


「キャロライン!」

「キャリー!」


 美青年ブロウも霞むご尊顔をお持ちの父様はただ立っているだけでバリアを張っているかのよう。

 ブロウは居たら囲まれるタイプですが、父様は遠巻きに見られるタイプ。寒色系の色彩も影響してると思います。

 そんな父様、私と母様に対しては邪気皆無、愛情たっぷりな笑顔を向けてくださいます。

 女神と称される父様の満面の笑みに、失神される方続出。誰か介抱してあげてください。


「父様、さっきは紹介できなかったけど、友達のブロウだよ」

「は、初めまして!ブロッサム・リェチルです!キャリーちゃん…娘さんとは仲良くさせてもらっています!」

「…………………………………………娘に手を出したら殺す」

「は、はい!」


 そんな嫌そうな顔して言わないでくださいよ、もう。

 …懐かしいですね。何だか昔を思い出しました。

 父様は昔から過保護で、ある日男友達にもウェルにいつも言っているようなキツイことを言ったんです。

 それで友人が離れていったら嫌じゃないですか。なので「嫌いになるよ!」という呪文を唱えさせてもらいました。

 効果は抜群。

 自分で言うのも何ですが、溺愛している愛娘に嫌われたくなかった父様はそれ以来、友人と紹介する男の子には物凄く譲歩して手を出さなければ良しとするようになりました。友人なんですから手を出してくるなんてあるわけないでしょうに。


「ブロッサムくんの恋愛対象って男なんだよな?」

「え、あ、うん…」

「ならいいや!キャリーって、友達にも色々容赦ないけど良い奴だから、仲良くしてやってな!」

「う、うん!」

「あとさ、俺とも友達になってくれたら嬉しいんだけど、いいかな?」

「え、いいの!?もちろん!」

「おう、よろしくなー」


 思い出から帰ってくると、ブロウとウェルが握手していました。

 良かったですね、ブロウ。キラキラ笑顔がカワイらしい。


「キャリー、怪我はしていないか?大丈夫か?」

「大丈夫だよ、父様。結界に籠ってたもん」

「そういえば、男と一緒に居たな。あんな至近距離で…。どこの馬の骨だ、私の娘に近付くとは良い度胸だ…!」

「まぁまぁ。あの子も友達だから、大丈夫大丈夫。父様、落ち着いて~」


 父様を宥めていると、ブロウといたウェルが話しかけてきました。


「キャリーってば、全然戦ってねーじゃん。サボんなよな、ブロッサムくんたちはあんなに頑張ってるっつーのによ」

「フッ。甘いね、ウェル」

「何…?」

「サボリではない!私にはスミーくんを守るという立派な大義名分がある!」

「大義名分って言ってる時点でアウトだろ」


 堂々と胸を張って答えたらしっかりツッコミを入れられました。


「えっ? キャリーちゃんって戦えるの?」

「は? 何言ってんの、ブロッサムくん。キャリーは全距離攻撃防御可能(オールラウンダー)だぜ?」

「ぇ、ええ!?」


 何故そんなに驚いて………そういえば、授業でも予選でも面倒臭がってリンネに丸投げして、まともに戦ったことなかったような。


「でも、出来ないことはないって程度だよ。特に近距離は。私は体術も剣術も使えないから、出来る人が居ない時だけ。サポートのほうが得意」

「そうだな。キャリーは前に出ずに裏から操る黒幕タイプだもんな」

「否定はしない」

「否定出来ないの間違いだろ」


 失礼ですね。その通りですけど。


「何でそんなに、戦闘経験があるみたいな…。キャリーちゃんって平民の学校出身だったよね?確かあそこは実戦の授業なんて……」

「あー、俺らギルドに出入りしてんだよ」

「ギルド!?何で!?」


 ブロウの言わんとすることが分かったウェルが答えると、更に驚きを露わにするブロウ。

 困惑するブロウの気持ちは分からなくはありません。

 普通、貴族が学園で魔法や剣術の手解きを受けて戦う術を身につけるのは箔付けみたいなもので、ほとんどの貴族は兵に後ろから指示する立場です。

 あ、軍や騎士は実力がないと指揮官にはなれませんよ?国や城を守護する人が無能じゃ困りますからね。

 とまぁ、ギルドというのは依頼を受けて報酬を貰う仕事の一種なので、貴族が所属するなんてことはないんです。むしろ貴族は依頼する側。


 が。


 私とウェルはまず平民の学校出身という時点でもその他色々も普通の貴族ではないので。


「最初は友達がギルド入ってて、手が足りないからパーティ組んでくれって誘われたもんだから、ギルドに入ることにしたんだよな」

「うん。貴族だって偏見持たずに普通に接してくれて、良い人ばっかだよね」


 それを良いことにやりたい放題しています。周りからちょっとは自重しような、と叱られるくらいには。

 私の場合、精霊たちがいるのでちょっと危ない依頼でも大丈夫だから、と調子乗って受けてしまうんですよね。最初は大変な目に遭ったものです。


 キャアァァァアアアアアッッ


 物凄い黄色い悲鳴が闘技場を包みました。今日は生徒以外もいるので声量は昨日のロコちゃんの時の比ではありません。耳痛い。


「姦しいな…」

「うるさい…」

「あ」

「ん?」

「あの赤髪、俺様じゃね?」


 その悲鳴に父様と私が顔を顰めていると、ウェルが何かを発見し指差しました。

 その指先を視線で追うと………あー、成程。

 俺様会長及び副会長、爽やか書記、双子(兄)庶務が揃っています。

 そして彼らの真ん中を陣取りご満悦そうにしているのは、ヒロイン。

 二重の意味で奇声が上がったのでしょう。


「あれがヒロインか?」

「うん。この前見たから間違いない」

「……17年この世界で過ごしてきたけどさ」

「うん」

「あの髪色は初めて見たわ」

「私もだよ」


 赤色、灰色、水色、黄色というラインナップの中でも存在を主張してくるヒロインの髪は、


  蛍 光 ド ピ ン ク


 です。目がチカチカします。


「しかも目は緑(原色)だからね。碧眼なんて可愛いもんじゃないよ」

「ハンパねぇな!!」


 蛍光ピンクのゆるふわボブに、緑(原色)の目。

 何というか……、度肝を抜かれました!

 顔は可愛いですよ? 背は私と同じくらいで、胸は…控えめですね。


「フラットチェストか」

「言わないのも優しさだよ」

「俺の優しさはビッチ適用外なんだわ」

「何それウケる」


 まぁ、私も人のこと言えるほど大きくはないんですがね。ルルージュ様と比べたら…………フッ。

 そんなことを言っている内にリングでは決着がつこうとしています。

 相変わらず俺様は魔力に物を言わせた力技、爽やかは微妙な剣、双子兄は魔法ですが密度が低い、ヒロインは後ろで怖がっているフリ。

 …………………よく勝ち上がってこれたな。

 あのうるさい司会も実況と説明に苦労してますよ。ある意味凄い。

 支援ポジションの副会長さんがカバーと防御と攻撃を忙しそうにこなしてるので、たぶん予選でも副会長さんが頑張ったんだろうなぁ…と予想がつきます。お疲れ様です。


「あのメガネやるな」

「うん。副会長さん、なんか苦労性の影を背負ってるんだよね」

「へぇ。副会長っつーと腹黒だよな?親、誰だっけ?」

「え?えーと………、忘れた」


 何せ前世を思い出したのは幼少の頃、というか生まれてすぐくらい。

 ゲームの知識も、覚えているのは重要イベントとキャラクターの個別シナリオのあらすじくらい。大体がテンプレだから説明つくだけで、ほぼ忘却の彼方に追いやられています。

 学園でも全く興味がなかったので、彼らの噂は右から左へ状態でしたから。

 と、2人して首を捻らせていると、驚愕のあまり固まっていたブロウがようやく再起動して教えてくれました。


「ふくかいちょーのお父さんは副宰相様だよ」

「「マジで!?」」


 副宰相……、あの人の息子かぁ。


「大変だっただろーなぁ」

「イレギュラーの私たちとガッツリ関わってるのもあるけど、副宰相さん自身がキワモノの傑物だよね」


 冷徹宰相と名高い我が国の宰相サマ。

 そんな宰相さんの右腕的存在が副宰相さん。

 平民出身の最強の叩き上げな副宰相さんは、宰相さんに負けず劣らず有能な方です。こちらは冷酷無慈悲と名を馳せています。

 宰相さんは無表情で淡々としていますが、副宰相さんは逆に笑顔。陛下と同級生のおじさまですが、ぽやぽやした可愛らしい笑顔で、バッサバッサ切り捨てて行きます。

 あの人が親。

 ……生半可な教育はされていないでしょう。

 副宰相さんは新人教育も担当してますし、人の才能を開花させて更に飛躍させるのが上手な人ですから。

 甘っちょろいことを言おうものなら徹底的に再教育。それが才能はあると見込んだ人相手なら特に。

 絶対に逃がしません。逃げられません。

 副宰相さんの子なら才能も十分あったでしょう。喜ばしいはずの才能もこの時ばかりは憐れみの対象。

 見ず知らずの女子に「笑顔が偽物」だなんて指摘されたくらいで靡くわけがないと断言出来ますね。優しい笑顔の父親にしごかれ、それを武器の一つとして教え込まれていると思います。


「ドンマイです、副会長さん」

「哀れ、副会長」


 私とウェルは頑張る副会長さんに向けて合掌しました。


「キャリー、そろそろ終わりそうだぜ。次だろ?」

「うん。控え室戻るね」

「無理してはダメだぞ?」

「はい、父様」


 2人に見送られ、控え室に行くとメガネくんたちが揃っていました。

 そのまま雑談を少ししていると、係りの先生がリングに上がるように伝えてきました。

 先ほどの試合はどうやら生徒会が勝ったようです。


「じゃあ、さっきと同じように、ね」

「うん。またリンネにサポートへ回ってもらうけど、怪我には気をつけてね」

「はぁい」

「おう!」


 打ち合わせを簡単に済ませ、リングに選手が揃うと司会が開始の合図を叫びました。だからうるさい。

 と、始まった2回戦ですが、大して特筆するようなこともなく。

 1回戦の時と同じく、ブロウとサルくんが特攻、メガネくんが後方支援…だけにとどまらず撃破、リンネが上手く立ち回りながらサポートして、サクッと勝ちました。

 簡単な怪我なら自分たちで治療するのがチーム戦のルールなので、スミーくん特製軟膏を使います。

 この軟膏よく効くんですよ。効果が出るのも早いし、売ってくれないかなと思うんですがまだ改良中だそうで、試合以外では使用もしないんです。気弱なスミーくんですが、これだけは絶対に譲ってくれません。

 さて。

 準決勝の3回戦では双子(弟)がいるチームに当たりました。


「ブロッサムには悪いけど、勝っちゃうからね〜!」

「ん〜、それはどうかな〜?」


 あら。

 双子(弟)、兄よりも全然魔法上手じゃないですか。他のメンバーもそこそこ出来ますね。

 …が。

 こちらもそこそこ出来まして。


「【召喚・ハディルトーグ!】」

『ようやく出番か?』


 ポンッと現れるハディくん。青い三つ編みが背中で揺れます。


「おぉぉぉっとぉぉ!!ここでリェチル選手、今回初めて契約精霊を召喚したぁあああ!!」


 召喚魔法は魔力を喰います。

 召喚するものが強力なほど多く。

 利点は、召喚した後は召喚したもの自身の魔力で動いてくれることですかね。

 精霊などは魔法の練度が違いますし、私みたいに結界にこもってお任せというのは、割と精霊魔法師には見られる光景です。

 しかし、自分だけで撃破出来るなら魔力も温存出来ますし、そっちの方が良いわけで。

 攻撃に回るブロウは出来る限り、召喚しないと決めていました。手の内を明かしたくないですし。


「ハディ、よろしく」

『任せとけぇ』


 相変わらず可愛い顔に似合わない口調ですね。ギャップ萌。


「最上級の精霊?!」

「うーわ、最悪…」

「負けるもんか〜! 大地が歌い、天が共鳴する、さすれば讃えるのは狂気なり【天地狂讃歌(てんちきょうさんか)】」


 おぉぉ!!

 凄いですよ双子(弟)!

 土属性の最上級魔法。魔力濃度、魔力操作、素晴らしい!

 広範囲魔法なので味方にも危険が及ぶこともありますが、その辺りは事前に打ち合わせしてあったのでしょう。連携も出来ています。

 正直ナメてましたよ。認識を改めます。

 と、そんな感心している場合ではありません。


「当たったら流石にマズイですね」


 リンネだけでは防御に不安が。

 風属性は防御魔法に適していないんです。リンネはあくまでサポート。

 防御は土属性が一番強いのですが、土属性が得意なメガネくんは防御魔法苦手なんですよね。攻撃魔法主体で、押して押してねじ伏せる戦闘スタイルです。


「いっ、つ…!」

「ブロウ!」


 っしまった!

 二の腕から流れる血を片手で抑えるブロウに駆け寄り、結界を掛けました。

 スミーくんが即座に手当てを始めますが、リングにしたたる赤の量が少々多い、………………。


『俺の契約主に何しやがんだゴラァ!!【総攻水虎軍(そうこうすいこぐん)!!】』

『主様のご友人に何するんですかぁ!【翔蘭風車ぁ!】』

「……………えい」


 ハディくんとリンネの魔法に紛れて、私からも愛がたっぷり詰まった爆発魔法をプレゼントです。有難く受け取りなさい。


「きゃ、キャリーさん?」

「ん?」

「今…」

「どうかした?」

「いえっ、何でもないですすみません!」


 ニッコリ笑うといつものようにスミーくんは謝ってきました。 若干蒼ざめているのは気のせいですかね?


「これでも喰らいなよ。(いか)れる大地の咆哮よ轟け【直下大地震】」

「おらぁあああ!【太陽柱ッ】【緋火鳥(あけひどり)ぃいいい!!】」


 うわぁお。

 先ほどのハディくんの水の虎の群れとリンネの風車が襲うリングが激しく揺れ、あちこちに入ったヒビから地面は割れだし、太陽から降り注ぐかのように立つ柱は灼熱を発し、緋く燃え盛る鳥が相手を翻弄しています。カオス。

 あっつ。結界に防熱も付けましょう。

 司会のテンションも上がって、実況に熱が入る入る。うるさい。


「キャリーちゃん。もう大丈夫だから結界から出し…」

「却下。あと1人で終わるから黙って寝ときなさい」


 と、最後に残った双子(弟)を見ていたら、水虎の尾に引っ叩かれて空高くに飛んで行きました。たーまやー。


「そこまでぇえええ!!!」


 そうして、私たちは勝利を収めました。




 ブロウを医療室へ連れて行き、保健医に引き渡してから控え室に戻りました。


「あ、キャリー!」

「ブロウ、どうだって?」

「大丈夫だって。次も出られるよ」

「良かったです…あ、これ魔力回復薬ですすみません僕のなんかの薬を使わせてすみません!」

「ありがとー」


 スミーくんから小瓶を受け取り、少し飲みました。

 魔力回復薬と銘打ってますが、この世界の回復薬は魔力の回復を早める効果だけで、飲めば一瞬で魔力が元通りになる訳ではありません。

 しかし、やはり無いより良いですし、スミーくんの薬は効果が早いので、あとは仮眠でもしておけば回復出来るでしょう。


 休憩をはさみ、準決勝で負けたチームで3位争いが始まりました。

 あ、従順が相手に混じってますね。実力は拮抗しているようです。

 その間に手当てを終えたブロウが戻ってきました。

 しっかり手当てをしてもらったブロウは顔を赤くしながら、次も頑張って優勝する!と意気込んでいました。やれやれ。


 コンコンコン


「?」

「誰だろ?」


 ブロウが控え室の扉を開けると、そこには灰色の美貌とその後ろに赤茶色。


「ふくかいちょー、とアイスカせんせー?」


 頭の痛そうな副会長さんと、そんな副会長さんを見て苦笑するアイスカ先生が立っていました。


「どしたの〜?」

「すみません。ティモールさんに用事があるんですが、いま大丈夫ですか?」

「構いませんが、どのような用件ですか?ここではお話出来ない内容ですか?」

「いえ、こちらで結構です。実は………」


 副会長さんの話は簡潔でした。

 皆さん、覚えておいででしょうか。

 ぶっちゃけ私は忘れてました。

 私がバ会長こと俺様に決闘を申し込まれブッ飛ばし、勝利したことを。

 その決闘の勝者の権限で、私が俺様に命じたもの。

 ようするに。


「次の決勝の間だけ“キャロライン・ティモールに接触しないこと”という命令を取り下げてくれませんか? ああ、“詮索しない”の方はそのままで大丈夫ですよ」


 そういえば、あの時はカルロさんに早く会いに行きたくて適当に言いましたが、“接触”というのはどこまでを含むのでしょうか?


「範囲ですか?そうですね…、決闘の後、怒り狂って貴女に突撃しに行こうとして、“何か”の影響によってまた倒れたデュランを見たことがありますよ」

「でゅらん?」

「クスッ。会長のことですよ、デュランダル・ラリアンシルです」


 そんなカッコよさげな名前なんですか、俺様のくせに。

 私と副会長さんが話している隣で、メガネくんが先生に質問していました。


「命令を一時だけ取り下げるなんて出来るんですか?」

「その為の俺だ。学園で行われた決闘については、教師の許可を取りゃそういうことも可能なんだよ」

「へぇ」

「用件は分かりました。アイスカ先生、これって一時でなくてもいいんですよね?」

「別にいいけどよ…。なんだ、接触禁止令を解除すんのか?絶対絡んでくるぞ?面倒くせぇぞ?正気か?」

「接触の方だけなら別にいいですよ。何か言ってきたら潰……ゴホン、お話すればいいですからね」

「キャリーちゃん、さりげなく物騒なこと言おうとしなかった〜?」


 気のせいです。


「では、“接触”命令を取り下げます」

「命令の取り下げ、ディスク・アイスカが認可する」


 アイスカ先生がそう告げると、ちょっとキラキラしたエフェクトが現れて、消えました。


「ありがとうございます、ティモールさん」


 ホッとしたように息をついた副会長さんは、朗らかに微笑みました。

 私はあまり副宰相さんと似てないなぁ…と思いながら、その本物の笑顔を見ていました。

 副会長さんは素直な方ですね。いや、きっと疲れているんでしょう。本当にお疲れ様です。

 副会長さんと先生が帰り、試合観戦に戻りました。

 リングにはどちらも疲労困憊の様子の双子(弟)と従順だけが立っており、両者の間には緊迫した空気が流れています。

 なんやかんやとあり、3位決定戦は双子(弟)のチームが勝ちました。




「さぁぁあぁぁ!!決勝戦のぉぉぉ、始まりだぁぁぁぁぁッッ!!!」


 ワァァァァと盛り上がる観客席。あ、父様たち見っけ。


「対戦カードは、精霊のサポートを受けながら主戦力が驚異的な強さで無双する、チーム会計ぇぇぇ!! 準決勝で血を流していたリェチル選手は大丈夫か!?下級精霊であるにも関わらず上級魔法を行使した精霊殿の契約主であるティモール選手にも注目だぁぁぁ!」


 するな。


「対して、えー………我が学園の生徒会メンバーと一年の女子が組んだチーム生徒会です」


 明らかに生徒会を紹介する時だけテンション下がりましたね。


「果たして、どちらが勝つのか!! 決勝戦んんん、開始ぃぃぃいいいい!!」


 さて、俺様たちには負けたくないので少しは頑張りますか。


「ブロウ、スミーくんに結界かけてくれる?」

「うん?いいよ【結界】」

「ありがと(…【結界追加効果・反撃】)」


 ブロウがかけた結界に少し細工し、その後にリンネを喚びました。

 ブロウもハディくんを召喚して目の前の敵へと駆けていきます。

 今回初、私、結界から出ます。

 まぁ、最後まで3人に任せるのもアレですからね。


「さてと」


 一番働く副会長さんを先に潰しましょうかね。

 ブロウはハディくんと俺様を、メガネくんは爽やかを、サルくんが双子(兄)を相手にする予定です。ヒロインは放置。


「リンネ」

『はいですぅ!【風音百鬼(かざねひゃっき)ぃ】』


 先ほど上級魔法を使ってしまったのでね。バレたのは仕方ないので、バンバン使ってやりましょう。


「なっ?!【障壁!】」

「おぉ、良い反応と構築速度ですね」

「危ないです、ねッ【火球!】」

「すみません、副会長さん。ちょっと相手してくださいな」


 ニッコリと、陛下にも副宰相さんにも褒められる笑顔で言いました。


「割と僕にはそんな余裕ないんですがね」

「知ってます。お疲れ様です。でも、アレらに負けるのは癪なんで、足止め喰らってください」

『【風矢】ですぅ』

「足止め?【火壁】僕を倒す気はないんですか?」

「いやいやまさか。私みたいな平凡な奴が、才能溢れ過ぎて苦労ばかりしている副会長サマを倒そうだなんて、とてもとても。恐れ多いです」

「馬鹿にしてます?【火槍(かそう)】」

『【風傘花ぁ】』

「ある意味で尊敬してます」


 これは本当です。

 私だったらあのクソ……ゴホン、俺様たちが近くにいると思うだけでグシャッとしたくなります。お守りなんて絶対無理。


「本当に凄いです【竜巻】」

「ありがとうございます【大火熱(たいかねつ)】」


 渦巻く風に火が放たれました。

 相殺を狙ったのかは分かりませんが、竜巻も火も消えることなく、竜巻に火が巻き込まれていき、何やら混合魔法みたいなものになりました。


「……リンネ」

『【錐風(きりかぜ)】ですぅ』

「くっ、…なッ!!?」


 火をまとう竜巻の操作権は力が拮抗しているので、私と副会長さんの双方にあります。

 なのでリンネに意識を逸らしてもらい、その間にちょっと竜巻を横へずらしました。


「ぎゃあッ!」

「熱い〜!」


 すると、隣で戦闘していた爽やかと双子(兄)が竜巻に巻き込まれました。


「あらあら、大丈夫ですか?ダメですよ、これはチーム戦なんですから。周りにも気を配らなくては。目の前の敵にだけ集中していたら、……巻き添えを喰らいますよ?」


 個人戦ではないんですから、当たり前のことですよね。

 爽やかと双子(兄)は火傷を負いつつも、立ち上がりました。チッ、倒れはしなかったか。


「リンネ、ありがとう。サポートに戻って」

『はいですぅ!』


 それにしても、副会長さんの得意属性は火なんですね…。

 風とは相性が良いとも悪いとも言えない微妙な属性。厄介ですね。


「まさか初級魔法を飲み込めないどころか相殺も出来ないとは、驚きました。流石、デュランを破るだけはありますね」

「バ会ちょ…アレについてはアレの自爆ですので。私は強くありませんよ。少し魔力操作が得意なだけですから」

「初級で中級と張り合って、少し得意なだけで済むわけないでしょう」

「済ませましょう【風刃】」

「【障壁】」


 それにしても、ブロウは大丈夫ですかね?

 俺様は魔力量だけは無駄に多いですから。無駄に。

 先程ので爽やかか双子(兄)が倒れていれば、サルくんたちのどちらかを応援に行かせられたのに…。


「うわぁぁぁ!!!」

「ん?」


 これまでで1番大きかった悲鳴にチラッと見ると、双子(兄)が倒れていました。

 サルくんがやったのか、と思いましたがサルくんも不思議そうな顔をしています。


「な、な、な、なんてことだぁぁぁ!!!」


 キーン、と司会の声が響きました。耳が、耳がぁぁ!


「ナタリル選手の魔法が結界へ直撃したと思ったら、結界に跳ね返され、ナタリル選手へと魔法が返ってきたぁぁ!!なんて結界だ!!攻撃を阻むだけでなく反撃するなんて!!ナタリル選手、重傷かぁぁぁぁ!!?」


 ああ。スミーくんに攻撃したんですか。非戦闘員に攻撃を仕掛けるなんて酷い人ですね。

 ……何やら周りが呆然として隙だらけなんですが。


『【風刃】【錐風】【風車ぁ〜】』

「ハッ!くぅっ…」

「ぐぁ!!」

「っ!!」


 私の意図を汲んだリンネの魔法に、副会長さんは直前で気付いて掠っただけですが、爽やかと俺様にはそこそこに傷を負わせることに成功しました。


「ほらほらメガネくんたち。何、ぼぅっとしてるの。攻撃攻撃」

「キャリーちゃん……、あとで詳しく聞くからね!!」

「え、ブロウじゃないの?」

「トドメ差したけど、キャリー応援いるかー?」

「平気ー。ブロウの方に回ってあげて」

「わかったー!」


 良し。これでブロウは大丈夫でしょう。ハディくんもいますしね。

 そろそろ副会長さんも片付けたいんですが、目立ちますかねぇ…。

 副会長さんのファンに刺されそうです(笑)

 ………そうだ。


「リンネ」

『はいですぅ【蔦風(つたかぜ)】』

「【火壁】【火紅弾(かこうだん)】」

『【風傘花ぁ】ですぅ』


 リンネに任せている間に、私は少しずつ後退します。

 後ろではメガネくんと爽やかが戦闘中です。


「…っ!? ハイネル!背後にも気をつけなさい!!」


 副会長さんが叫んで注意していますが、残念。

 爽やかなんて、全く、これっぽっちも、狙ってません。

 まぁ、お望みなら期待に応えなくもありませんが。


「【風針】」

「うっ…!っこのぉ!【風魔剣!】」

「【土壁】」


 爽やかがお粗末な剣を振るい、魔法を放ってきましたが、あら。防御する前に守ってもらっちゃいました。


「ありがとう、メガネくん」

「お礼には及ばないよ、チームなんだしね。それにしても婦女子に刃を向けるとはね。これはただの試合で、君は実力者なんだろう?なら、丁重に扱いながら退けるくらいして欲しいね【円土針】」

「ねー(【土針】)」

「「ぐぁっ…!」」

「ん?」


 メガネくんは不思議そうにこちらを振り返りました。

 こちらには突っ立ってる私と私の側で浮いてるリンネ、そして地面からの突起が利き足に刺さって流れる血を抑えている副会長さん。


「何で副会長まで…?」

「わぁ、メガネくんありがとう!爽や……敵を相手にしながら、副会長さんにも魔法を放てるなんて、流石魔法専攻クラスだね!」

「………はぁ、俺もブロウと一緒に訊くことにするよ」


 はて、何のことでしょうね?


「さてさて、メガネくんの(・・・・・・)おかげで副会長さんがようやく重傷を負ってくれましたので、追い打ちと行きましょうかね」

「くっ」


 爽やかは未だ囲まれる形で串刺し状態なので、意識は辛うじてあるみたいですが、事実上の戦闘不能。

 残すは副会長さんと俺様だけ……………あっ、ヒロインが残ってた。

 まぁ、雑魚に変わりないので最後でいいでしょう。


「リンネ、GO!」

『ではお言葉に甘えましてぇ〜。この世に遍く風よ、心を宿し、かの天上を崇め奉れ【風宮大御神(かぜのみやおおみかみ)】』



ドゥゥゥンッッッッ



 うわぉ。

 やり過ぎ。

 副会長さんが咄嗟に張った結界もぶち壊して、潰れました。

 まぁ、試合ということはリンネも理解してますし、死んではいないでしょう。大丈夫、問題ない。

 「問題ありまくりだろ」という馴染みのある声が観客席から聞こえたような気がしましたが、気のせいですね。


「ティモール選手の精霊殿の攻撃にキッアル選手、防御するも撃沈!戦闘不能かぁぁぁ!!?」


 司会の声に観客席が更に湧き上がります。

 一応(・・)優勝候補だった生徒会チームが次々倒されていくのが面白いのでしょう。


「負けてられないね〜、サルくん!」

「おうよ【火侵爆!】」

「ハンッ!雑魚がどれほど足掻こうと無駄なこと、だッ?!」


 うわ、引っかかってやんの。

 串刺し爽やかに【土槌】でトドメを刺した後、ブロウたちの方へ注意を向けていたメガネくんがさりげなく作った落とし穴に俺様がバッチリ落ちました。

 ははは、愉快愉快。


「注意が足りないね、会長様」

『よくやったメガネ!さっきからペチャクチャと上から目線で喋りやがって!オメェがどれほどのもんじゃボケェ!!【大洪水ぃぃ!!】』

「ガボボボッ」


 無様に溺れている様がとても滑稽ですね。素敵だと思います。


「ガボッ〜〜〜〜ぷは【じ、上昇風!】」


 ザバァッと俺様が上へと浮き上がってきました。ずっと沈んでいればいいものを。

 濡れた髪をかき上げる仕草に黄色い悲鳴が響きます。

 水も滴る良い男ってか、うざい。


「このっ、よくもやってくれたな!!【火龍暴水刃(かりゅうぼうすいじん)ッッ】」


 本当、無駄にハイスペックですよね。宝の持ち腐れ。

 火と相性の悪い水属性との混合魔法とか、俺様でなかったら手放しで絶賛しますのに…。

 ああ、勿体ない。


「うわ、俺あれに太刀打ち出来る程の魔力残ってないよ?」

「ヤッベェー!!何だアレー!!」

「あわわわっ」


 メガネくんたちでは対処は無理ですか。

 仕方ありませんね。


「何とかするから、ちょっと時間稼ぎ手伝って【障壁】」

「頼んだよ」

「リョーカイ!」

「が、頑張ってください!すみません!」


 時間稼ぎの防御をかけている間に、ブロウの名前を呼びました。


「うっわ〜、どうしよ、ん?何〜、キャリーちゃん?」

「アレやるよ、前にやったやつ」

「前?…………ええぇぇ!?アレ!?」

「そう。リンネ」

『準備出来てますぅ〜』

「ああ、もう。考えても仕方ないか、ハディ!」

『前のやつだなぁ?あい分かったぁ!』


 混合魔法とは、複数の属性を合わせて放つ魔法のことです。

 一属性の最上級魔法を放つより難しく、何百年に1人の天才だけが可能だとされています。

 その天才が俺様。神の見る目のなさ。


「風よ」

「水よ」


 私とブロウが手のひらに魔力を集めます。


『我が契約者の魔力を糧にぃ』

『我が契約者の魔力を糧に!行くぜぇ、嬢ちゃん』

『はいですぅ!』


『『【風水花乱舞(ふうすいからんぶ)!!】』』


 そんな天才に対抗する為に作られたのが、合体魔法。

 自分だけでは混合魔法を使えない、なら他の人と協力すりゃいいじゃん!と考えられたものです。

 ただし、これは相手と魔力の波長が合わなければ暴走します。

 魔力の波長なんて家族でもそう合いません。合ったとしても片方が魔法自体苦手な方でしたら、魔法も発動しにくい。

 過去、試した方も大勢居たそうですが、全てが失敗に終わっています。

 なので合体魔法は理論だけで放置されていたんですが…、最近になって成功させた方がいました。

 魔力の波長が合わないなら、魔力を自身に取り込んで馴染ませることが出来る精霊と共にやってみたらどうか、と。

 結果、成功。

 初の合体魔法を成功させた功労者は我が国の王宮魔法師長さん、……………ということにしてもらっています。


 何を隠そう、犯人は私です。


 言い訳させてもらえるなら、私はそんな魔法なんて知らなかったんです。

 ただナフィたちと遊んでいたそれが合体魔法だっただけで、本当に知らなかったんです!!

 王城で幼いサイラスたちと遊んでいたら、通りかかった魔法師長さんが大慌てで詰め寄ってきて、そんな魔法の存在を知りました。

 世界初とか何それ面倒臭そう、と思い、陛下たちを味方につけて何とか言いくるめ、魔法師長さんの功績にした、ということです。

 おかしいですよね。私は遊んでいただけなのに、どうして説教まで喰らうはめになったんでしょう。絶対おかしいですよ。


『咲き誇りなぁ!!』


 水の(やいば)をまとった火の龍と、風に踊らされ可憐に舞う水と風の花たち。

 龍と花。

 見た目では簡単に飲み込まれそうなのは花ですが、その圧倒的な質と量に龍が徐々に押されて行きます。

 やがて龍の身体を花が全て覆い尽くし、ぶあっと花が散ったかと思うと、そこに龍はいませんでした。


「よし」

「やったぁ〜」

『当然ですぅ』

『ケッ、ざまぁ!』


「ば、馬鹿な…」


 さて、あとはトドメだけですね。


「ごめんね〜、かいちょー。勝っちゃうねっ♪」


 ブロウが魔法を構築した、その時。


「みんなぁ!すぐに助けるから!」


 今まで空気だったヒロインがそう叫びました。

 え、今?

 助けるならもっと前に助けてあげた方が良かったんじゃないんですか?阻止しますけど。


「やめろ!それをすればお前は…」

「みんなを助けるためだもん!私のことなんかいいの!」

「バカが……!」


 模擬戦ですよ?

 大袈裟に言ってますが、これ、ただの模擬戦ですよ?

 所詮は治癒魔法を使えない保健医でも薬や医学で手当て出来る程度ですよ?


「お願い、みんなを助けて!【召喚・レビュライト!】」

『喚ぶのが遅くはありませんか?我が主』


 パァッと光の中から現れたのは、初等部ほどの少年。

 太陽に照らされる髪は真っ白で、知的な金の瞳がキラリと光っています。


「れ、レビ……お…願い、みんなを……」

『主!』


 ふらっと足元から崩れるヒロインを少年が抱きとめました。

 白髪(はくはつ)に金の瞳…、光属性の精霊ですか。しかも最上級。

 ………そういえば、ヒロインはこの子を召喚したから、この学園に入学することになったんでしたっけ?でも魔力が少なく、召喚だけで魔力枯渇するんだったような?

 最上級精霊ですし、そりゃ魔力喰いますよね。

 魔力が少なかったから攻撃にも出ず温存していた、とも考えられますが、……所詮アレたちですし。

 好きな女を戦わせられるか、みたいな感じだったんでしょう。ヒロインが喜びそうなこと。


『今、回復を』

「い、いいの、……先に…みんなを、回復して…?」

『しかし、主!』

「レビ、お願いっ」

『っ!』


 光属性だけが持つ特徴。

 治癒。

 薬では追いつかない怪我や病気を一瞬で治してしまいます。

 限度はありますが、この世界では薬があまり発達しているとは言い難いので、光属性はとても貴重です。

 火、水、風、土の4属性と光では、相性も悪いので戦いづらい。


『っしばしお待ち下さい、我が主。すぐに致しますから!』


 ヒロインも含めて広範囲魔法を使えば良いと思いますけど、使えないんですかね? あれは練度が必要ですから。

 何にせよ。


『ふぎゃ?!』

『ぴ!?』

「させるわけないでしょう」


 こっちだって疲れてるのに許すわけないでしょうが。

 相手の回復をゆっくり待ってあげるなんて馬鹿のすることです。

 私は近くにいたリンネを強化した腕で少年に投げつけました。


『あ、主様ぁ〜っ』

「リンネ、残りの魔力ありったけ使って阻止して」

『もう、主様はぁ!分かりましたですぅ〜』

『俺も手伝うぜぇ』


 精霊同士で戦ってくれている間に、チームメンバーを促します。


「きゃ、キャリーちゃん!?」

「何でまたボケっとしてるの、回復なんかされたら厄介極まりないよ」

「キャリーは本当に…、どこまでもいつも通りだね」

「確かに回復されちゃ困るな!!」

「キャリーさん、凄い…!」


 全く、何やってるんですか。


「さっさと終わらせますよ」


 そろそろ飽きがきてるんですから。

 飽いたばかりにサクッと殺っちゃったら、どうするんですか。


「よし、行くよ〜!」

「俺はあの女子の撃破に回るよ」

「念のために加勢するぜ!」

「これっ回復薬です!気休めですが飲んでくださいすみません!」


 さあさあ、さっさと俺様とヒロインを潰しますよ。

 光の精霊については、召喚主が意識を失えば元の場所へ戻るのでヒロインを撃破すれば解決します。

 リンネたちならそれまで持つでしょう。


「いやぁっ、誰か助けてぇ!」


 さっきまでは自分が助けるって息巻いていたのに、早い変わり様ですね。


「誰もいないでしょ、馬鹿なの?【土槌】」

「ギャッ?!?!!」


 わあ、容赦なしですね。

 思いっきり槌で地面へと叩きましたよ、このメガネさん。


「さっき、婦女子には丁重にって言ってなかったっけ?」

「余裕があればね?回復されたら、こっちに余裕なんかないし。それに、俺の中で誰にでも股を開くような絶壁は女の子のカテゴリーに入らないんだ」

「じゃあ何になるの」

絶壁(クソメス)


 正直者ですね、この巨乳派(メガネくん)

 轢かれたカエルのようにひしゃげたヒロインを呆然と見ていた俺様がハッと気がつくと元気に喚き始めました。


「き、貴様らぁッ、よくもっ!この俺様をコケにし、挙句にッ…ぐぁ!!」

「かいちょー、みっともないよ〜」


 はぁ…。

 そういう高慢な言い方は、大衆の前でくらい控えて欲しいものですね。

 民の王侯貴族への好感度が下がったら主にコイツのせいです。

 嫌がらせに何かかけてやりましょうか……………………そういえば。

 すっかり忘れてましたけど、アレはどうなってるんでしょう?

 観察しますが、目当てのものは見当たりません。

 あれっ?

 絶対解けるはずがないのに、おかしいですね。

 目を皿のようにして探すと、……不自然に流された箇所が。

 へぇ。とんだ悪足掻きですね?


「【風鈴(ふうりん)】」


 リィン…という涼しげな音と共に、一陣の風がリング内に吹きました。

 何気ない、攻撃性のない魔法ですが、ヤツにとっては惨劇を呼ぶ地獄の風に等しい。ふふっ♪


 ぶぁっ


 ふぁさり、と赤い髪が舞いました。

 自然と、段々と、周囲の視線が集まります。

 俺様イケメン会長の頭部。

 正確には、左耳の斜め上辺り。

 闘技場が思わずシン…、と静まりました。




「あ、十円ハゲ」




 遠くで聞こえたのに大きく響いたそのセリフが、全てを物語っていました。


「……………………ブハッ!!!」


 誰かが噴き出したのをきっかけに、闘技場が笑い声と悲鳴に包まれました。

 あはははははははっ!愉快愉快!!


「プッ、ちょ、かいちょ、それ、ヤバイっ」

「くくっ、い、イケメンに、はっ、ハゲとか…っ!」

「はははははっゲホッゲホッ、腹いってぇ!」

「そ、そんなに笑ったら失礼ですよ…ふふっすみません!」


「〜〜〜〜〜〜っっ!!!!」


 ああ、楽しい。

 俺様が顔を真っ赤にして震えてますよ。

 何て面白いんでしょうね!


「貴様らぁぁぁあああああッッ!!!」

「【火縛(ほばく)】」

「【土斧】」


 サルくんが俺様を縛り上げ、メガネくんが斧の峰でぶっ叩きました。痛そう。

 気絶した俺様は白目を剥いて、十円ハゲを晒したままリングに倒れました。


「デュランダル選手、戦闘不能ぉぉぉおおおお!!!これでチーム生徒会、全員………」

「紅蓮の焔よ、この世ならざる場所へ、彼の者を送れッ【葬送灼火槍(そうそうしゃっかそう)ッッッ!!!】」


 ちっ。

 副会長さん、まだ生きてたんですか。


「っ大いなる母よ、我に加護を、全てを貴女に捧げると誓います【水神守護】」


 咄嗟にブロウが魔法を放ちますが、……あれでは足りない。


「………………」


 まぁ、副会長さんにいくら同情しようが好感度が最初より上がろうが親御さんと知り合いだろうが、私の優先順位は友人たちですから。


「ダメだ、これじゃ…でも俺もハディも魔力が………えっ?」


 ちょっとくらい、いいでしょう。


「今まで機会を窺っていたのか!?キッアル選手、火属性の最上級魔法を放ったぁぁぁ!しかし!!反応したリェチル選手が上級魔法で防御!属性の相性はリェチル選手に、魔法の威力はキッアル選手に利があります!!果たしてどちらが……おおっとぉぉぉっっ!?リェチル選手の魔法が更に勢いを増していきます!凄い!キッアル選手の魔法が押されていくぅぅぅ!!!」


 司会がうるさく実況する度に、観客席から歓声が上がります。


「サルくん、どれくらい魔力残ってる?」

「ん?初級5発くれぇかな、それ以上は枯渇する」

「足元掬っちゃえ」

「足?……ああ、リョーカイ!!」


 察したサルくんが魔法を構築します。

 流石、初級ならその速度でその密度ですか。素晴らしいですね。


「【火矢】【火槍ッ】【火刃!】」

「ウッ?!」


 元々怪我していた足ともう片方にも魔法が当たり、副会長さんは痛みで集中が逸れ、魔法を維持出来なくなりました。


「はぁ…はぁ……ここまでですか……」

「ふくかいちょーは頑張ったよ〜。僕、魔力空っぽだもん〜」

「よく言いますよ。こちらは全滅なのに、そっちは全員いるじゃないですか」


 仕方ないですよ。そちらは足手まといをたくさん抱えてたんですから。


「最後の学園祭、花を持たせてくれてもいいと思いますけどね」

「そんなこと言って〜。したら怒るくせに〜」


 ブロウが軽口を叩きながら、副会長さんに手を差し伸べました。


「チーム生徒会、全員戦闘不能!よって、この学園祭体育の部、チーム戦の頂点に立ったのは、チーム会計だぁぁぁ!!!」


 司会の勝利宣言が闘技場に響き渡りました。




「さて」


 メガネくんがカチャッと音を立てて中指で眼鏡を押し上げました。


「どういうことなのかな?」

「キッチリ説明してもらうからね、キャリーちゃん!」

「えっ、何のこと?」


 何ですか。表彰式終わるなり、控え室に連れ込んだと思ったら、尋問するかのように取り囲んで。

 私が一体何をしたと言うんです!


「とぼけてもダメ!僕に結界を張ってって言ったのはキャリーちゃんでしょ!結界を維持するだけの魔力がないのかと思ったからやったけど、何なのあれは!!」

「副会長さんの時だって、そうだよ。俺が同時に攻撃したかのように仕立て上げられたけど、俺は副会長さんに魔法を放ってない。けど、あの時キャリーは……」


 詰め寄られて思わず身を引く私に、いきなりバンッとドアが開きました。


「キャリー!!帰るぞー!!」

「ウェル!」


 救世主来たり。


「さあ放課後デートだ!親父さんが来る前に行くぞ!」

「うん!じゃっ、また明日!」


 これ幸いと、私はウェルの腕を引っつかんで逃げるように控え室を後にしました。


「あっ!こら、キャリーちゃん!!」

「逃げたね…」

「俺も妹たちんとこ行こ〜」

「すみませんすみません!」


 背後から聞こえてくる声なんて私は知りません!

「買い物も立派なデートでしょ」

「………(え、なにこれクソかわ、ヤッベ、上目遣いとか狙ってんのか、めっちゃキスしてぇ)」←

「? どうしたの?」

ウェルくん、理性と本能の狭間で揺れる(笑)


キャリーちゃんのお胸は、着やせのD。


勿論、俺様を最初に笑ったのは婚約者殿。

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