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第14話 学園祭〜体育の部2日目〜

姉バカ炸裂。

 不本意なことにチーム戦で本戦に進んでしまいましたが、それは明日まで記憶の外へ追いやって。

 学園祭2日目、個人戦の予選です。

 私の知人の中でエントリーしているのは、ブロウとルルージュ様、ロコちゃんの3人です。


「第10試合、ロコロ・ハイネル対モブオ・ザコール!リングへ!」


 審判が声を張ると、3年生らしい男の子が先にリングへと上がり。

 サラリと水色の髪を靡かせ、妖艶な美貌と雰囲気をまとった美少jy…美少年が次いで現れました。

 その途端、キャアアアアァァァッと黄色い悲鳴が闘技場内を包みました。

 うん、うるさい。


「ロコロは女性に人気だね」

「素敵な方ですもの!もちろん、サイラスの方が素敵ですけどね!」

「リーナ…」


 私は今、中等部の個人戦が行われている第4闘技場にいます。

 正確に言えば、闘技場に設置されている貴賓室(VIPルーム)に。

 この貴賓室は本来本戦を観戦しに来た王族専用部屋なのですが。


「本日は予選。来客は来ないのですから使ってもよろしいでしょう?」


 第2王子様(サイラス)の御威光で入っちゃいました。

 サイラスは必要な時以外に権力を振るう子ではありませんが度々使います。

 主に目立ちたくないと一緒にいることを拒否する私やウェルを引き込む時に。


「ロコちゃーん、頑張れー!」

『あのような人間相手では、頑張る必要もないと思うが?』


 私が貴賓室のバルコニーにある椅子に座りながら応援の言葉を放つと、テーブルに落ち着いて菓子を食べている黒髪黒目の子がそう言いました。

 手のひらサイズのカワイ子ちゃんです。


『応援せずとも勝利はみえているぞ?キリよ』

「そりゃ、本格的に仕事をこなしているロコちゃんに学生が相手になる訳ないけどさ。それでも応援したいし、応援してもらったら嬉しいんだよ」

『そうなのか?』

「そうなんだよ、デュオ」


 その為にロコちゃんはサイラスたちにここを確保させて、ロコちゃん特製ケーキで私をここに連れ込んだんですから。

 本当にカワイ過ぎるでしょう、うちの弟分!


『そうか。…ならば、我も応援しよう』


 そう言って、デュオはバルコニーの柵にちょこんと座り。


『ロコよ。そのような雑魚、早々に殺ってしまえ』


 応援の言葉を言いました。

 っ、カワイイ!!

 何がカワイイって、キリッとした表情なのに口元にクッキーの食べカスがついているのがカワイイ!!

 闇属性の精霊であるデュオは甘党で、同じく甘党のロコちゃんと仲が良いんです。だから喚んだんですけどね。


 リングには斧を構える対戦相手と、長剣を構えるロコちゃんがいます。

 そして開始の合図がかかりました。


『む?ロコの獲物はいつものではないのだな?』

「あれは仕事用だから。仕事以外では長剣を使うんだよ」


 はい。

 ホイホイと言ってはいますが、暗殺一家なんてバッチリ裏稼業が世間一般に公表されている訳がありません。

 ましてや、ロコちゃんの使用武器は鎖鎌を始めとした暗器とありとあらゆる毒。試合では使えません。


「ロコちゃんは正当法の剣術も使えるからね」

『ふむ。一流の暗殺者は(よろず)に通じる、であったか?』

「そうそう。ハイネル家の方針ね。…あ、ロコちゃんが勝った」


 火魔法で相手を撹乱させ、魔法で強化した剣を叩き込み、戦闘不能。

 審判が判定を告げると、再び黄色い悲鳴が響くのを無視してロコちゃんはリングから下がりました。

 少しして。


「キャリー!見てた!?」


 カ・ワ・イ・イ!!

 キラキラに瞳を輝かせて、期待に満ちた表情でロコちゃんが部屋に入ってきました。


「もちろん!見てたよー、カッコよかった!」

「っ、えへへ」


 ああもう、どうしてこんなにもカワイイんですか!


『当然の結果であったな』

「あれっ?デュオ、来てたの?」

『キリがロコのケーキがあると言うのでな。今回も美味であった』

「まあ、キャリー捕まえる為に気合い入れて作ったしね」

「何でそこまでして…、カワイイけど」


 そんなお菓子を作ってまで…。嬉しいですけどね?

 それに私、バルコニーから応援はしていましたけど、人に視認されないように魔法をかけてましたよ?


「お姉様!お姉様は分かっていませんわ!」

「姉上がその時に応援してくれるのがいいんです!」

「たとえ見えなくても聞こえなくても応援してくれてるって思ったら、相手なんて瞬殺ですわ!」


 メル、そんな瞬殺なんて言葉どこで覚えてきたんですか。…私とウェルか。

 過去の自分たちのセリフを振り返っていると、ロコちゃんがそれに、と続けてこう言いました。


「こんな風に他が絶対来ないところじゃないと、すぐに試合終わりに褒めてもらいに行けないじゃん」


 ……萌え死ぬ。




 ロコちゃんの次の試合まで、のんびりとティータイムです。和む。

 そんな時、鼻の頭についていたクリームを拭ってあげていたロコちゃんがピクリと何かに反応しました。


「!」

「ロコちゃん?」

「……この足音は」


 コンコン


「? 変ですね。誰も部屋に近寄らせるなと言っておいたのに。姉上、すみません」

「いいから返事してあげて」


 私はノックされたと同時に、対象を認識出来なくなる魔法を自分とデュオに使用中です。よく多用するので得意魔法の一つですよ。


「はい」

「ルルージュ・アモールです」

「ルルージュ様!?」

「まあ!」

「やっぱり」

「あらら」

『む?鬼の娘か?』


 ルルージュ様でしたか。ここに来るってことは…、また何かストレスの溜まることでもあったんですかね。

 てか、デュオ、鬼の娘て。

 魔法を解きながらそんなことを考えている間にサイラスが入室の許可を出しました。


「どうぞ、お入り下さい」

「失礼致します。ごきげんよう、サイラス殿下、メルリーナ様、ロコロ様。それから…やっぱりここにいたのね、キャロラインさん?」

「えへ。弟妹分たちがカワイくて」

「んもう。魔力探知を広げても反応がないから、殿下たちを探したのよ。そうしたら、皆様を感知するでしょう?これは、と思ってね」

「ロコちゃん特製マドレーヌありますけど、食べますか?」

「あら。よろしいですか?殿下」

「ルルージュ様なら構いませんよ」

「では、おそれながら同席させていただきますわ」


 今の席順は、私とロコちゃん、サイラスとメルとルルージュ様がそれぞれ3人掛けソファに机を挟んで座る形です。

 デュオは机の菓子箱の隣に座っています。


「で。私を探してたんですか?」

「ええ。まあ、闇の精霊様もいらしてたのですね。ごきげんよう」

『うむ。久しく見たな、鬼の娘よ』

「うふふ。あら、ロコロ様、これとても美味しいですわ」

「ありがとうございます」

「…ルルージュ様、個人戦出てましたよね?」

「ええ、そうね」

「…何があったんですか」


 ダンッッ!!!


 …ルルージュ様が勢い良く握り拳を机に叩きつけました。デジャブ。


「ふ、ふふ、うふふふふふ……」

「わぁ。大分キテるな、これ」

「殿下、メルリーナ様、こちらに」


 ルルージュ様の身体から迸る殺気混じりの怒気と魔力を見たロコちゃんがサイラスたちを避難させます。


「……あのヤロウ」


 あれ?空耳ですかね?

 とてもじゃありませんが、侯爵令嬢の口から発せられるとは思えない言葉が…。


「***して***を****して*****すればよろしいのに!!!」


 ご乱心です。

 鬼化(きか)も気にならないくらいの暴言です。

 気をしっかり、侯爵令嬢。

 とりあえず、中等部組に防音結界を張っておいて良かったです。


「3回戦で当たっただけでも学園側に抗議したいくらいなのに、何なのあの***が!個人戦で勝ち上がって俺の気を引こうとしたのか、ですって?しかもその後に馬鹿にしたように笑って…、ふざけるのも大概にしろって話よ!一体全体、だ、れ、がッ、貴方みたいな出来損ないの気を引くなんて、というか、いつ!わたくしが気を引きたいと思う程に貴方を好んだことがあるっていうの!!親に引き合わされた時から今まで、一瞬たりとも好意を寄せたことないわよ!!!」

「ルルージュ様、お茶どうぞ」

「ぜぇぜぇ……ありがとう」


 ティーカップを差し出すと、ルルージュ様は一気に中身を煽りました。一気飲みなのに優雅なのは育ちですかね。


「魔力に物を言わせた戦術で計画性も知性も欠片もない。あんなのに敗北するなんて、もう自分が情けないわ…」

「まぁ、あんなのでも魔力保有量は国一番、大陸でもトップクラスですからね。バカスカ魔法を撃ち続けられたら、そりゃ負けますよ」


 決闘で私が勝てたのは、俺様が馬鹿過ぎたのと、私が魔力操作を得意としていたからですから。

 実は私、魔法に使う魔力量や魔力濃度のコントロールが、城勤めの上級魔法師たちと勝負出来るくらいに得意なんですよ。えっへん。


「落ち着きました?」

「……ふぅ。ええ、ひとまずは」

「良かったです」


 鬼化も治まったのを見てから、私は魔法を解除し、避難していた中等部組を手招きしました。


「ルルージュ様、大丈夫ですか?」

「すみません、ルルージュ様。ルルージュ様が鬼化までして怒るということは、また兄上絡みですよね…」


 身内が原因なせいか、サイラスがしょんぼりしてルルージュ様に謝りました。


「そんな、サイラス殿下が謝ることではございませんわ。全てはアレと、アレとの婚約を受け入れた脳みそスポンジな父の責です」

「ルルージュ様って本当にお父さんのこと大っ嫌いですよね」

「勿論。わたくしはアレとの婚約が解消されたとしても、父に好意を抱くことはないと言えるわね」

「あー……アモール侯爵は権力第一の人ですもんね〜」

「あら、遠慮しなくても大丈夫よ? 野心家の脳足りんだと」

「「「「…………」」」」


 ノーコメントで。




 ふと、外の方を見たロコちゃんがやば、と言って腰を浮かしました。


「試合もうすぐだ。そろそろ出た方がいいかな」

「もうそんな時間なのね。わたくしも戻ろうかしら」

「もう行っちゃうんですか?」

「ええ。学友たちが待っているでしょうし」

「ああ、ご学友には王太子に対しての罵詈雑言なんて聞かせられませんもんね〜」


 世間では、聡明で思慮深く、聖女のように慈悲深い、美しいご令嬢で通っているルルージュ様。

 実際その通りなんですけどね。俺様が関係すると途端に怒りの沸点が低くなるだけで。

 あんな怒髪天な姿、慣れてる私たちはともかく、他の人に見せるのは無理がありますよね。醜聞になりかねませんし。


「キャロラインさんも、あまり長居するのはお勧めしないわよ? 今まではキャロラインさんが居なくても気にする方がいなかったから始終殿下たちと居られましたが、今は違うでしょう?」

「あー…」

「ふふ。殿下たちも本戦へ出るんですよね?」

「はい!わたくしは大した戦力にはなりませんけど、ロコロ様や側近たちが強いので、優勝も目じゃありませんわ!」

「私も戦闘は得意ではないのですが、リーナを守る役目は誰にも譲りたくありませんので、頑張りますよ」


 サイラス、カワイイ。そして、サイラスのセリフに赤くなるメルもカワイイ。


「では、失礼致しました」

「じゃあ、行ってくるね」


 礼をして退室するルルージュ様に続き、ロコちゃんも剣を携えて行ってしまいました。


「サイラス、メル、デュオ」

「はい、姉上」

「はい、お姉様」

『なんだ?』

「ロコちゃんの試合までゲームしない?」

「「します!」」

『うむ。参加しよう』


 と。

 こんな感じで、今日は結局ずっと弟妹分たちやデュオと遊んでいました。

 ロコちゃんは対戦相手全員を瞬殺しては、撫でてと頭を差し出してきました。

 喜んで撫でていたら、サイラスとメルがズルいと言い出し、何故か3人とも撫でることに。デュオは私の肩に乗り、スリッと頬ずりしてきました。この子たちは私を殺す気でしょうか?失血死と悶え死にで。


 明日はチーム戦の本戦です。

 去年のようにサイラスたちの勇姿を見に行きたいのに、何故か今年は勝ち残っているんですよね。はぁ。


「キャリーは明日どうするの?」

「リンネに丸投げする」

「ああ!昨日の風の精霊様ですわよね!」

『奴は我らが鍛えたからな、少しは使えるだろう』

「うわ。それって、もしかしなくても全員で?」

『当然だ。我らは学園内では手を出せないのだからな。ならば奴を鍛えてキリを守らせるしかあるまい』

「うわぁ、可哀想。おれだったら絶対ヤだな」

「姉上は戦わないのですか?」

「うん。意外とブロウたちが強かったから、スミーくんと結界の中で観戦する」

「な〜んだ、キャリーは戦わないのか」

「お姉さん平和主義だから」

「「「………」」」

「こら。何で黙るの」

『確かに。キリは平和主義だな。望めば何であろうと、我らが叶えてやるというのに』

「平和主義、平和主義ねぇ…」

「違ってはいないとは思いますけど…」

「お姉様が平和主義…、うーん?」


 弟妹分たちに揃って首を傾げられました。何故。

 ロコちゃんの試合が全て終わり、点呼もあるので高等部の闘技場に行くと、ブロウが駆け寄ってきました。


「キャリーちゃん、どこ行ってたの? 僕の試合見ててくれた〜?」

「あ、ごめん。一瞬も見てないや」

「酷い!!」


 ブロウも本戦に進んでいました。


*は伏字です。

内容は…(黙)

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