第10話 カードゲーム
新キャラ、3名。
本日も燦々と太陽が照っています。
前世では、一週間で散る虫たちが「じーわじーわ」「ツクツクホーシ」と頑張って鳴いていた季節がやってきました。ちなみにこの世界にヤツらは居ません。
この国の気候は年中穏やかなのに加えて、魔法が動力なので温暖化がありません。
なので、猛暑というほど暑くはなく、それなりに暑くなったね、程度です。
さて、夏の長期休暇も近くなってきたこの頃。
「ブロウ」
「あっ、キャリーちゃ~ん」
「昨日さ、寮の談話室にネックレス落ちてなかった?」
「えーっと、どうだっけ?」
「ああ、あったと思うよ。指輪がついたやつだろう?」
「アレ、ティモールさんのだったんか。どうしたっけ?」
「ぁあああの、男子寮の誰かの忘れ物だと思ったから寮長に出しちゃいました、すみません!」
「そうなんですか?ありがとうございます。あとで取りに行きます」
ブロウに男友達が出来ました。
きっかけは、そう、アレです。
前世でも男子たちを虜にし続けていたあのゲーム。
トレーディングカードゲームです。(私作)
私とウェルは中等部まで所謂平民が通う学校に行っていました。
そこで、識字率はそこそこあるのに、字を使った娯楽がないことを知りました。
なので、前世のゲーム類を取り入れることにしたんです。
その1つがカードゲームです。
イラストは私が書き、覚えている既存のカードや創作のカードをウェルと量産しました。
カッコイイ系のイラストだけでなく、ク○ボーのようなカワイイ系のカードも作れば、男の子だけでなく女の子にも大流行!
無料で配布していたんですが、供給が追いつかなくなり、店が出来ました。私の副業です。
平民向けなので、超優しい低価格で販売されています。詳しく言うとパン1つ分で1パック。
販売相手が我慢が強くない子どもなので、お金を使い過ぎないよう、開店日を限定し、購入制限を設けてます。でないと親御さんが困りますからね。
店の方は根無し草だったウェルの2番目のお兄さんに頼んであります。
イラスト描きも一般募集して、上手な子を雇用したのでバッチリです。
そんな感じですが、まぁ、これ、値段は平民向けでも男子なら誰もが食いつくもので。
貴族も釣れました。
王族も釣れました。
金持ちさんご案内~♪
お陰様で繁盛しております。
話を戻しまして。
先日、男子寮の談話室でブロウとトランプをしていると、隣で複数の男子生徒が盛り上がっていました。
見るとアレ。
じっ、と試合を見ていましたが、片方が全然なっていない!
つい口を出してしまいました。
「このカードとこのカードを融合させて…」
「あ、そっか!」
「それから進化、これは墓地、あとこれも…」
その子は勝利しました。
「よっしゃあ!初めて勝てた!キミ、何でこんなに出来んの!?」
「もしかして、やってるの?」
「はい」
「マジでー!?デッキは?」
「色々揃ってますが、気に入っているのは悪魔デッキですね」
「おぉ!俺も!一緒一緒!」
「俺は天使がメインかな。美人揃いだし」
「ぁ、ぇ、ボ、ボクはナイトを使ってます…ボクなんかがカッコイイカード使ってすみません!」
少しアホの子っぽい方と、メガネをかけた知的な方と、語尾に「すみません」とつく気弱そうな方も、話に混じって盛り上がっていると、くぃっと袖を引かれました。
「ん?どうした?ブロウ」
「えっと、その」
「うん?」
「それ…、なぁに?」
コテン、とブロウが首を傾げました。上目遣いがあざとかわいい。
その言葉に男子生徒3人が騒ぎ立てました。
「リェチル…様、知らねーの!?」
「まぁ伯爵家だし。平民発祥のゲームなんて知らなくて当然じゃないかな」
「ぁ、でもこれ…殿下もやってるって聞いたよ?…ボクみたいな虫が喋ってすみません!」
「は!?会長!?」
「すみませんボクが聞いたのは第2王子様ですすみません!」
「だよな!ビビった~」
陛下もやっています。ということは言わない方がいいんでしょうね。
王妃様は試合はしませんが、カワイイカードならコレクトしています。というのはもっと言わない方がいいんでしょうね。
「ブロウ、これはトレーディングカードゲームっていってね。こういうイラストが描かれたカードで戦うの。イラスト下の欄に特性とかが書いてあって…――」
ルールを説明して、やらしてみた結果。
「何コレ面白い!もう一回!」
見事にハマってしまったブロウでした。
男の子だもんね、毎度ありがとうございます。
ちなみに、ブロウが集めているのは、妖怪系です。
「つーか、ティモールさん、強すぎじゃね?俺らの中で1番強いメガネが惨敗じゃん!!」
「サルくん、少しうるさいです」
「あ、わりぃ」
ギャーギャー騒ぐのはちょっとアホの子、サルくんです。
良い子ですし、うるさいと言えば、すぐに音量を調節するので、察しはいい子です。
ちなみにサルとは本名にかすってもないあだ名です。
クラスは、古代魔法専攻のDクラス。
「メガネって呼ばないでくれる?ハゲザル」
「そっちの方がヒドクね!?」
ちょっと毒舌なのは知的メガネの子。
ムッツリで、しかもそれを全く隠さない勇者でした。好きなカードもエロカワがテーマな天使ですもんね。潔いところが素敵だと思います。
あだ名は安直にメガネ。
魔法専攻のBクラス。
「すみませんすみませんすみません」
「スミー!?どうしたのいきなり、何に謝ってるの?」
いつも何かに謝っている自虐的な子は、本当に毎日ひたすら何かを謝っています。
私は面白いので放置ですが、ブロウは根気よく面倒をみています。
あだ名は「すみません」から取ってスミー。
薬学専攻のFクラス。
メガネくんが裕福な商家の子で内部生、サルくんとスミーくんは平民で私と同じ外部生です。
外部生ですよ。充分に賢いです。
「あ、念話…、母上からだ!」
ブロウがポケットから携帯を取り出して、相手を確認したと思ったら嬉しそうに開いて、私たちに一言置いてから廊下に出て行きました。
そうそう。
ブロウが家族に抱いていた誤解は無事解けました。
元々、ご家族はブロウを嫌っていないし、普通に大事に愛していたんです。
ただ、あの家は愛情を伝えることが苦手な方が多いとか。
これは宰相様情報です。貴方が言うのかと思ったのはオフレコで。
絶縁云々は正確に言うと、「卒業後、家に頼らず自立出来るような実力を付けてこい!」ということだったらしい。中々分かりづらい。
まぁ、そんな訳でちゃんと腹割って話し合えば、ぱぱっと解決。
こういうことはうだうだ引き伸ばすと不安が募って誤解が深くなっていくので、真正面ストレート攻撃が一番効くんです。
以来、ブロウは放課後に出掛けることが増えました。
外出届だけなら簡単に出してもらえますからね。
「ブロウくん、嬉しそうですね」
「ええ、良いことです」
「…ところでさー」
スミーくんと話していると、サルくんが頬杖をついて、何故だかふてくされた顔でこちらを見て言いました。
「ティモールさんのその敬語はいつ取れんのさ?」
「はい?」
「もう知り合って1ヶ月近いのにさ、俺らはいつになったら友達になれんの?」
「ブロウには砕けた話し方なのにねぇ」
思わぬ言葉に、私は本気で驚きました。
「それは…、失礼しました。3人はブロウの友人だと思っていたので」
「ティモールさんも一緒に遊んでんじゃん!」
「デュエルもしているし、昼食も一緒に食べるようになったしね」
「か、勝手に友達と思っててすみません!」
うーむ。言われるまで気付かなかったとは、とんだ失態です。
しかし、そんな失態を侵した理由を考えてみると…。
私、結構な人脈築いているからこれ以上はいらん!と、学園では面倒で進んで周りと交友関係を結ぼうとしてなかったんですよねぇ。派閥とかも本当面倒ですし。
もしかしたら、それが前提にあって、無意識に友達と認識してなかったんでしょうか。
一緒に遊んだり食事を共にしてるのに。
………。
わぁ、私超失礼。
「3人とも、すみませんでした。でも、それもそうですね。……じゃあ、改めてよろしく」
「おう!」
「すみません!よろしくお願いしますっ」
「もう一試合と行こうか」
カードゲームをして、男友達が増えました。
新キャラ3名の名前はあだ名で通します。
一言メモ、主人公の人脈は広い。




