第9話 友人は大切にします
「キャリーちゃ~ん」
「…その話し方、まだ直らないの?」
「仕方ないじゃ~ん、今までこーだったんだから~」
私が言った通り、ブロッサムことブロウは女子を注意して、ブロウの周りは静かになりました。
重要なんですよ?女子の甲高い声って割と本気で公害だと思ってますから。
「まぁ、別にいいけどさ。ブロウはブロウだし」
ブロウは今まで、間伸びたチャラい話し方をしていましたが、会話する内に私と話している時の方が素だと気付きました。
癖で私以外の方と話す時はチャラいままです。
それって、結構特別感がありません?
素直に嬉しく思いますよ、友人の特別ですからね。
「……」
「…何、どうしたの。にやけたりして。カワイイ子の下着でも見えた?」
「違うよ!何でそうなるのさ!」
「冗談だよ」
頭を撫でたかったですが身長差があるため、肩を叩きました。
本当、からかいがいがありますね。
「早く席替えしたいな~」
「何で?」
「だって今の席、キャリーちゃんと遠いんだもん」
「もん言うな」
男が言ってもカワイくありません。
それにしても、周囲の視線がウザイですね。
昨日までブロウのことを雑にあしらっていましたからね。
突然仲良くなった私たちに驚いているのでしょうが…、ウザったい。
「ざわつかないだけマシと思っておきましょう…」
「え?何が?」
「何でもない。そろそろ席に戻りなよ」
あの特徴的な足音が近付いて来てますし。
始業の鐘と共に、ヘブン先生が入って来ました。
「ぃ、今から……魔法陣学…の、授業を…始め…ま…す……」
語尾がほぼ消えかけるセリフにも慣れました。
ヘブン先生の授業は分かりやすいんですが、早口でボソボソと小さい声で話すものですから、後ろの席だと全く聞こえないらしいんです。
重要な所はあとでブロウに教えておきましょう。
「…で、……の陣は…こう、書き……こちらと…違いは…ここになる…」
カリカリと軽快にペンを走らせてノートを書きます。
この世界のペンは、インク壺が内蔵された万年筆タイプ。インクが切れたら新しいのを注入するんです。羽ペンじゃなくて良かった。
「今日は…ここまで、で……次回は……」
次回は体操着に着替えて実際に魔法陣を使うらしいです。…絶対後ろ聞こえてません。
終業の鐘が鳴り、ヘブン先生は俊敏に教室から出て行った。相変わらず速い。
「キャリーちゃん」
「ん?」
「先生さ〜、次回何て言ってた〜?」
やっぱりか。
私は次回の予定と一緒に先生の口頭していた内容で大事だと思ったところも説明します。
「へぇ〜!分かりやすい。キャリーちゃん、凄いね!」
「元々ヘブン先生の授業は分かりやすいよ。聞き取りにくいだけで」
「大きな欠点だよ、それ」
「あははっ!あ、それじゃ、あとでね」
「うんっ」
私たちは更衣室の前で別れました。
今から、精霊魔法の実技授業です。
…そういえば、ブロウの精霊は何属性なんでしょう。楽しみですね。
この学園の体操着とは名ばかりで、要は自分が動きやすい服装です。
日本のジャージみたい物では、貴族の子は不平不満を言うでしょうから、学園側の賢い選択と言えるでしょう。
各々、自由な格好をしており、たまに奇抜な格好が見られます。
「おーまた~」
ブロウはシンプルな上下黒。シャツにブロウの瞳と同じ桜色のワンポイントが刺繍されています。
私もシンプルに白いシャツに黒の短パンです。
靴だけは安全性を考慮して学園指定の運動靴です。昔、ハイヒールを履いてきたバカが居たそうで、それ以来靴だけは指定されました。
「ブロウの契約精霊って何属性?」
「水属性だよ。キャリーちゃんは?」
「風属性の精霊と契約してる」
「位は?」
「下級だよ」
「ぇ、あーっと…」
「ブロウは上級?」
「さ、最上級…」
「おぉ、凄いじゃん」
精霊の位は下から順に下級、中級、上級、最上級となっています。
位は人間が勝手につけたものですが、それによって精霊と召喚者の大体の力量が測れます。
「何気まずそうにしてるの。自分の実力に堂々と胸張りなさい」
「…うんっ」
先生方が来たので授業は開始です。
「これより精霊魔法の実技授業を始める!」
精霊魔法担当の先生は、私と俺様の決闘の審判をしてくださった方です。
それと今日は魔法戦闘学担当のアイスカ先生がいますね。
「今日は精霊と共に模擬戦をしてもらう。万が一を考えてアイスカ先生にも来てもらった。全員、遠慮なく全力を尽くすように!」
無表情だけど熱血漢な先生です。嫌いじゃないですよ。
「組み合わせはこちらで考えてある。5時間目から模擬戦闘を行う。この4時間目は精霊と連携の確認したり、自由に使え。以上!」
それを合図に、全員がバラバラに動き出します。
「模擬戦か~。緊張するなぁ」
「そう?とりあえず喚ぼうよ、【召喚・リンネ】」
「【召喚・ハディルトーグ】」
『主様ぁ~っ』
『ナンか用か、坊?』
手の平サイズのリンネと、初等部くらいの少年が、召喚魔法陣のエフェクトと共に現れました。
少年は、明るい青の髪に水色の瞳をしたカワイらしい顔立ちをしていました。セリフと顔が見事に合ってませんね。
ちなみに、精霊の髪と瞳の配色は属性ごとに別れています。
風属性はパステルグリーンに緑色。水属性だと少年と同じ配色です。見分けやすくて大変ありがたいですね。
「ブロウ、この子が私の契約精霊のリンネ」
『初めましてぇ、リンネと申しますぅ』
「初めまして~、ブロッサムで~す。キャリーちゃん、僕の契約精霊のハディルトーグだよ~」
『……坊、お前』
少年もといハディくんは、見るからに瞠目して。
『お前…、友人が出来たのか!そうか……良かったなぁ…っ!』
泣き出しました。
「ちょっとブロウ、何心配されてんの」
精霊に友人関係を心配されるとか…、何があった。
「いや、僕も驚いてるよ。まさか泣かれるほど心配されてたなんて……僕って…」
『いっつもボッチで、人が来たと思ったらすぐ捨てられ続けてきた坊が…っ』
……ブロウ。
「も、もうっ!ハディもういいでしょ!今から模擬戦があるから手伝ってよね!」
『あっああ、ずびっ…わかった』
「まったく…、恥ずかしいんだから」
思わず生ぬるい目で見ていた私は悪くありません。
「私たちは私たちでやろうか。リンネ、どこまで出来るようになった?」
『ええと、魔法は上級まで使えるようになりましたですぅ。魔力回復も早くなりましたぁ』
「何秒?」
『全回復に210分ですぅ』
…大分上達しましたね。
下級精霊が魔力を全回復するのに掛かる時間は、早くて3日以上。
それを210分…3時間半に。
どれだけしごかれたんでしょう。
「頑張ったね。じゃあ、この時間は一緒に練習してようか」
『はぁいですぅ♪』
訓練室の壁際に座り込み、私は魔力で動物をかたどったり動かしたりして、しばらくリンネと魔力コントロールの練習をしていました。
すると、少し息を切らしたブロウが隣に来ました。
「ふぅ…」
「お疲れ」
「あ、うん。…あのさ、キャリーちゃん」
「うん」
「さっきから何やってるの?」
「魔力コントロールの練習」
「ホントに?遊んでない!?うさぎとか犬とか狼とかいるんだけど!?」
「失礼な。9割9分だけだよ」
「それ、遊んでるよね?!模擬戦大丈夫なの!?」
「平気平気。相手がブロウ以外だったらテキトーにするだけだし」
「何で僕限定!?」
「そりゃ友達は特別だよ。テキトーなんて論外でしょ」
「……」
「頬を赤く染めるな」
『言ってくれるな嬢ちゃん!うちの坊は、はじめてのおともだち☆なんだ!』
「ハディぃぃいいい!!」
「仲良しだね」
『仲良しですぅ』
尻軽と呼んでいた頃は、彼が叫んで精霊を〆ている姿なんて想像もつきませんでしたよ。
…尻軽といえば。
「突然だけど、ブロウは自分の家族のことどう思ってるの?」
「すっごい突然だね!わあビックリした」
最初のイベントからぶち壊してしまったなら、最後までぶち壊しましょう。
「いいから。つべこべ言わず」
「次、模擬戦だよ!?何でそんなに余裕なの!?」
「ゼンゼンヨユウジャナイヨ。だから早く」
「何が、だから、なの!?」
「いーち、にーい、さーん、しー…」
「いたたたっ!ギブギブギブ!!」
ただの海老反りなのに、軟弱ですね。ウェルに言って、しごいて貰いますよ?
「うぅ…。家族、のことだよね?」
「そう」
「何でそんなこ…」
「……」
「家の恥にならぬようせいぜい優秀な成績を取れ、卒業後の身の振り方も良く考えろ、場合によっては支援を絶つ、と高等部に上がる前に言われました!言ったよ!だから睨まないで!」
睨んでなんかありませんよ。じっと顔を見ただけです。
そんなに顔を青くして、失礼ですね。
「その時の感想は?」
「か、感想?えっと、その通りだなって」
「その通りって何が?」
「だって、法律で同性婚は認められてないのに、僕、男色だって公言してるし…、良い成績取って家のプラスになる職に就けなかったら絶縁されるのは当たり前だと…」
成程。そう感じたんですね。
この場合、アレコレ言うのではなく…。
言葉を紡ごうと口を開きかけた時、始業のベルが鳴りました。
「整列!」
「やばっ、急ご!」
「あー、うん」
私とブロウは急ぎ足で整列に加わりました。
話は一時中断ですね。
ですが、対処は早めの方がいいと思いますし、授業終わりに発破をかけるとしますか。
「これより模擬戦を始める。名を呼ばれた者は前へ」
前に何組か呼ばれ、ブロウの番が来ました。
「リェチルとモブール、前へ!」
対戦相手は見知らぬ男子生徒。
精霊は中級の火属性みたいですね。
双方精霊と並んで構えます。
「始め!」
えーと、その後は魔法が飛んで精霊が飛んで、余裕でブロウが勝ちました。
「おめでとう」
「ありがとー」
戻ってきたブロウにそう言うと、へにゃりとはにかみました。うん、カワイイ。
「次、モブリールとティモール、前へ!」
あ、呼ばれました。
「頑張ってね〜!」
…それなりに頑張りましょう。
相手の女子生徒の精霊は上級の水属性。
「リンネ」
『はいですぅ』
「頑張ってね」
『ぴ!?…丸投げですかぁ?』
「うん。リンネの相手に丁度いいし」
『…頑張りますぅ』
リンネが前に出ると、開始の合図がされました。
この間に説明でもしておきますか。まず、属性の種類から。
属性は火、土、風、水、光、闇の6つに別れています。
そして属性には、相性というものがあります。
火は土に強く、土は風に強く、風は水に強く、水は火に強い。
光は全てを包み込み、闇は全てを飲み込む。……魔法書抜粋。
まぁ、相性が良くても相手が格上だったら負けます。そういうものです。
そして、属性は精霊にも適用されます。
リンネは風、相手は水。相性はリンネの勝ちですから、あとは実力勝負です。
上級と下級ですからね、相手の子は負けるだなんて思ってもないんでしょう、……ウケる。
『行きますよぉ、【翔蘭風車ぁ】』
「『なっ!?』」
いきなり上級魔法を唱えたリンネに、お相手さんビックリ顔。
よく見たらギャラリーも同じ顔。…しまった。目立つ。
『まだまだですぅ、【風裂破】【魔風弾】【鎌鼬ぃ】』
中級と初級魔法ですが、威力は上級。
強くなりましたね、あとで目一杯褒めなければ。
『トドメですぅ!渦巻く風よぉ、暴れ狂い、全てを切り裂けぇ、【大鬼刃竜巻ぃ】!!』
「おぉ!最上級!」
凄い凄い!
「しょ、勝者…ティモール」
先生が勝敗を告げたと同時に、私はリンネを抱きしめました。
「リンネ!最上級まで出来るようになったんだね、凄い!」
『えへへ〜、まだ詠唱破棄は出来ませんけど頑張りましたぁ』
頭を撫で回します。
良く出来ました!
『ふふ〜くすぐったいですぅ』
ああ、カワイイ!
精霊は本当にカワイイですね!手のひらサイズ万歳!
「ティモール!」
「はい?」
振り返れば、審判の先生とアイスカ先生。何でしょう?
「どうかしましたか?」
「ちょっといいか」
「はぁ」
「その精霊なんだが」
「リンネが何か」
「…本当に下級精霊か?」
は?
「見たらわかるじゃないですか」
精霊の属性は色彩で、位はサイズでわかります。
下級は手のひらサイズ、中級は赤ん坊サイズ、上級は幼等部サイズ、最上級は初等部サイズ、という風に。
一目瞭然です。
間違えようがありませんよね。
確かに姿を変えられることは出来ますが、対面した相手が自分より上だと見抜かれます。
「ああ、そうだな。見た目はそうなんだ。だが…」
審判の先生が何かしどろもどろになっています。珍しい姿ですね。
『嬢ちゃん、やるなぁ。見事だったぜぃ』
『ありがとうございますぅ』
「ハディは何でそんな普通なの!?」
いつの間にか隣に来ていたブロウがハディくんにツッコミました。
『あん?ナンか問題あったか?』
「あったよ!下級精霊が上級や最上級魔法を使ったんだよ!?」
『別に有り得ぇことじゃねぇよい。その努力はスゲェと思うがな』
「どういうこと?」
『どういうこともナンも。そも、下級だの上級だのは人間が勝手に決めたもんだぜぃ?確かに精霊に力の差はあるが、それは生まれもってきた能力が違うだけだ』
ようするに。
RPG風にいうと、Lv.1でスタートかLv.70でスタートかっていう話です。
Lv.1がレベルアップするには、どうすればいいか?
簡単ですね、経験値を稼げばいいんです。修行です修行。
しかし、精霊には自らそれをする子はいません。今ある力だけで十分というのが精霊たちの認識ですから。
元々、精霊たちは庇護下に居ますから、力を必要としないんです。
リンネもそういう子でした。
駄菓子菓子!!
それでは許されない理由がありました。
言わずもがな、私の先の契約精霊です。
弱くては私に相応しくないと言って、恐怖の強化合宿が始まったのです。
結果、今。
「リンネ、ご褒美に何が欲しい?」
『修行のお休みが欲しいですぅ。切実に』
「あはは、わかった。じゃあ、そう言っとくよ」
『やったぁですぅ♪』
最上級魔法も使えるようになったリンネちゃんです。
その後、何か常識崩壊してしまった先生が膝から崩れ落ち、クラスメートたちが自分の精霊にもレベル上げをさせようとしてみたり、精霊たちが揃って必要ないと言って拒否したり、なんやかんやありつつ、終業のベルが鳴りました。
制服に着替え、教室に戻り、帰りの支度をしていると、ブロウが何だかもじもじしてやってきました。
「どうしたの?」
「あ、あのさ…」
「うん」
「い、一緒に帰らない?…途中までだけど」
ほんのりと頬を自身の瞳のような桜色に染めて、誘ってきました。
「うん?無理」
「ぁ…、そっか」
断ると、しゅん…と見るからに悲しそうにするブロウを見て、己の言葉の足りなさに気付きました。
「あー違う違う。行くとこがあるんだよ、校内だけど」
「図書室?」
「ううん。…何なら付いてくる?」
「いいの!?」
「いいよ」
てな訳で。
「やあ、キャリーちゃん、いらっしゃい」
「お邪魔します、カルロさん!今日は友人も連れて来ちゃいましたっ」
一緒にカルロさんの所に来ました。
「そちらの男の子?」
「はい」
「校内で見たことあるかな?初めまして、校務員のカルロ・デアルイです」
「ブロッサム・リェチルです。…えと、キャリーちゃん?」
「ん?」
「どういう関係か、全く見えないんだけど?」
関係ですか?
「「お茶仲間だよ」」
あっ、カルロさんとかぶりました。愛ですね!
「お茶…」
「紅茶ではなく緑茶ですよ」
「この国では緑茶を好む人は少ないからねぇ」
少し首を傾げながらも納得したブロウを座らせ、持参したお茶請けを用意します。
「今日は豆大福を持ってきました」
「豆の大福かい?」
「はい」
鞄から包みを取り出して皿に盛っていると、ブロウが不思議そうに覗き込んできました。
「ダイフク…って何?」
「餅。食べる?」
「う、うん…。いただきます」
「いただきます」
「はい、お上がり下さい」
味見はしたけど、大丈夫でしょうか?
「うん、美味しいね」
「本当ですか?良かったです!」
「これはキャリーちゃんの手作りかな?」
「はい。と言っても、簡単なので大したことはないですよ」
「簡単でこの味を作れるキャリーちゃんは、良いお嫁さんになれるね」
ゴフッ…!
ふ、不意打ちを喰らった…。
はにかみ笑顔プライスレス。
「あ、ありがとうございます」
ああもう、本当に素敵です!
「ん?失礼、念話だ」
「はい、どうぞ」
カルロさんは念話に出る為に、部屋を出て行きました。
すると、ブロウがすすす…と私の隣に移動してきて言いました。
「…キャリーちゃん」
「ん?」
「その、あの人のこと、…好きなの?」
「うん、好きだけど」
「!!!」
ガーンッとショックを受けた顔。何故。
「年の差とか…いやでも良い人そうだし…でもキャリーちゃん………犯罪?」
「何ブツブツ言ってんの?」
「…キャリーちゃん!」
ガシッとブロウが私の両手を握り締め、そして真剣な目で。
「僕はキャリーちゃんの味方だからね!応援するよ!」
と言いました。…何を?
「ブロウ、何か誤解してない?カルロさんは好きだけど、憧れ的なものだよ?」
「えっ?そ、そうなの?」
「そうだよ」
「でも褒められて照れてたし…」
「憧れ+カッコイイ人に褒められて照れない奴がいるか」
「そうなんだ。てっきり僕…」
「大体、男爵位だけど貴族だよ?ちゃんと婚約者いるって」
「こん、にゃく…?」
「婚約ね」
マヌケた復唱したのでツッコミを入れると、しばらくしてその単語を飲み込んだブロウは。
「キャリーちゃん!!その人のことちゃんと好き!?」
と、詰め寄ってきました。
「大好きだけど」
「ホントに!?」
「本当本当」
「…ウソじゃない?」
「本当だよ。なんでそんな心配になるの?」
「だって!友達には幸せになって貰いたいじゃん!」
………。
「僕のこと見てくれる、初めての友達だもん。幸せになって貰いたいに決まってるじゃん。嫌だって思ってるような人と、一生を添い遂げて欲しくないもん」
「ブロウ…」
私はブロウの頭に手を伸ばし。
「本っ当にカワイイ!」
わしゃわしゃと撫で回しました。
どうしてこんなにカワイイことが言えるんでしょう。
素直!サイラス並みに素直で愛らしいですよ!
きっとご家族の教育が良かっ……
「ん?」
家族?……あっ、やべ。忘れてた。
「ふにゅぅ……キャリーちゃん?」
思わず撫でていた手を止めると、とろん…とした顔のブロウがこちらを見てきました。
その瞳は、「もっと」と語っていました。
………。
…あとでもいいでしょう。
その後、カルロさんが用事が入り学園を出ると言うので、私たちもお暇しました。
現在、学園の男子寮へと向かっています。
では早速、話を振ってみましょうか。
「ねぇ、ブロウ」
「ん?」
「今日話してたやつだけどさ」
「何だっけ?」
「家族云々の話」
「あぁー、え、蒸し返すの?」
「うん。それでさ、私、話聞いて思ったんだけど、ブロウの家族さん、別にブロウのこと嫌ってないと思うよ?」
「…慰めはいらないから」
「慰めじゃないって」
「そんな訳ないもん」
うーん。何でこんなに頑ななんでしょう?
「家族さんが直接そう言ってるの聞いたの?」
「そうじゃないけど…、でも」
「でも?」
「男としかヤらなくて、しかも抱かせてるとかキモチワリーって………、かいちょーが」
……マジ、ロクなことしねぇなあの野郎。
見てろよ、あとで絶対王宮魔法師にも解けない強固な十円ハゲの呪いをかけてやる。
「かいちょーってあんなだけど王太子で、国の頂点に近い人で、だから…」
ブロウ、違いますよ。
俺様=世間や王族の意見、ではありませんからね。気にしなくていいんですよ。むしろ総無視でよろしい。
「じゃあ、私が合ってるかブロウが合ってるか、家族さんに訊いてきてよ」
「………へ?」
「いっそ、『僕のこと息子だと思ってますか』って訊けばいいと思う」
「…聞かなくても、わかりきってるよ」
ポツリとその場に立ち止まって呟くブロウは、哀しげでした。
「そんなのわからないでしょうが」
「わかる!」
「…ああ、面倒臭い!ちょっとここで待ってて!」
まどろっこしいのは嫌いなんですよ。
私は男子寮の管理室に顔を出して、中にいた色気溢れる男性に話しかけました。
目当ての物を男性から貰うと、ブロウのところへ戻ります。
「ほら、外泊許可証!後悔したくなかったらこれ持って、さっさと行って来い!」
「外泊許可証!?それ、めったに取れないのに…」
「そんなのどうでもいいの。はい。結果聞くから逃げちゃダメだからね」
「そんなっ」
「あと、嘘つきは嫌いになるからね」
「……うぅ、キャリーちゃんのばかぁ」
しっかり嘘の報告はダメと釘をさして、諦めたブロウを後ろ姿が見えなくなるまで見送りました。
「……さて」
私と話すようになってから、ブロウのチャラ男の仮面が取れ、愛らしい素が覗くようになりました。
どうやら、それに気付いた不穏な輩がいるようで。
「手はなるべく早く打っておくべきですよね」
くつくつ笑いながら、私は学園のある一室へと向かいました。
ー私の友人に、手は出させませんよ?
何をする気なのやら。
基本、主人公にとって大切な人たちは庇護対象。
好きと嫌いへの温度差が激しい彼女です。
魔法名のふりがな
翔蘭風車
風裂破
魔風弾
大鬼刃竜巻