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少年は無言でクレジットを見ていた。画面がエンド表示をして止まってからも、夕食の時間まで見ていた。
母親は食事の際、いつもテレビばかり見て喋り、食べるのが遅い少年が、今日はテレビを見ずに静かでいることを心配した。
風呂に入り、宿題をして、布団に入る。
すぐには眠れなかった。やることがなくなると、少年の頭の中には先ほどクリアしたゲームのことが思い出された。
今日プレイした最後の冒険が思い出される。数週間前の、初めてプレイした時のことが思い出される。レベルを上げ、イベントを嬉々としてこなしていった日々が思い出される。
セリフの多い、従順なパーティの女の子のことが思い出される。
少年は胸が締め付けられるような感じがした。布団の中で、自らの身体を抱きしめるようにする。これって初恋なんだろうか。
すぐに、そんなわけがないゲームのことだ、と思った。ドット表示でパタパタ動くだけのキャラクターだ。ゲームのキャラを好きになるなんて。
しかし、そう意識しはじめると目頭が熱くなってきた。少年は誰に見られているわけでもないのに、意地で涙を流すことだけはがまんした。マリアにまた会いたいと思った。
これが恋なのかどうか、気持ちを確かめるすべは知っていた。簡単なことだった。それを思うと、自然と頬が緩んだ。
明日は大好きな理科の実験がある日だったが、それよりも放課後が待ち遠しかった。