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灯火

作者: 聖魔光闇

実際に私が十年程前に経験した実話です。


殆どその時の様子を忠実に再現したつもりです。





「○○さん返事をしてください!」

「……」

「呼吸無し! 心音無し!」

 大声でそれだけ叫ぶと、心肺蘇生法を開始する。

「誰か!! 誰かいねぇのかよ!!」

 どれだけ叫んでも、もう、このフロアーには誰もいなくて当然だった。


 事の始まりは数十分前。利用者の一人が、「今日はしんどいから、ご飯は部屋で食べたい」と、ベッドサイドに腰掛けた状態で話したのが始まりだった。

 少ししんどそうだが、血色も良かったので、職員が何度か食堂に行くように誘ったが、返答は変わらなかった。


 食堂での配膳も途中で切り上げ、その利用者のもとに食事を配膳する。

 利用者はベッドに仰臥位ぎょうがい、いわゆる仰向けで眠っているようだった。

「○○さん、お食事お持ちしましたよ」

「……」

「○○さん」

 そう呼び掛けて異変に気付く。胸が上下に動いていない。

 慌てて脈、呼吸、心音の確認をする。いずれも触れず。

「呼吸無し! 心音無し!」

 心肺蘇生法の開始と同時に、救急車の要請をしないといけない事に気付く。

 しかし、フロアーには誰もいない。ありったけの大きな声で「誰か来てくれ!!」と叫ぶが反応無し。

 慌ただしく寮母室へ駆け込み「応援!! 至急!!」と内線で食堂に叫んで、受話器を叩き付けるようにして置くと、利用者のもとに駆け戻り、心肺蘇生法の続きに戻る。

「どうしたの!? 何かあった!?」

 慌ただしく駆け込んでくるスタッフに、「アンビュー用意!! 救急車要請!! 相談員、施設長に連絡!! ○○さん、心肺停止!!」

 それだけ叫んで、心肺蘇生法を続ける。

 アンビューの用意が整うと、心臓マッサージだけに切り替え、人工呼吸はアンビューで行う。

 救急車到着までは、十数分。しかし、その十数分がかなり長く感じられる。

 全身汗だくで心臓マッサージを継続し、救急隊の到着と同時に、「心肺蘇生法をしていてやっとです。発見時、既に心肺停止状態でした」

 そう伝え、救急隊に利用者を引き渡す。搬送先の病院が決まると、救急車は相談員を同行し、施設から姿を消した。

 すぐに家族に連絡を入れ、利用者の状況報告を待つ。


 その数時間後、利用者の永眠報告が伝えられた。

 家族からは感謝されたが、第一発見者だった私は、警察からの事情聴取を受ける事になった。

 利用者の死に涙する者もいたが、何故か私は泣けなかった。と言うよりも、私はそれまでに、数々の命を看取ってきたが、一度も涙を流した事がなかったのだ。

 

 命とは尊いもの。それだけは、解っているのだが……。


 現在、特別養護老人ホームや、その他福祉施設において、介護員が心肺蘇生法等の医療行為は行ってはならない。医療行為が許されるのは、看護師又は医師だけなのである。

 では咄嗟の場合どうすれば良いのか。それは身近にあるAEDを活用してくれればいい。

 使い方は簡単。AEDのパッケージを開けると書いてあるのだから。


 それで救える命もある事を知っていて下さい。

 私は、もう、命の灯火が消え行く光景に出会いたくありません。

 涙は何故か流れませんが……。






専門職。その肩書きだけで、うろたえたり、躊躇してはならなかったんです。


今では介護と医療の区分がはっきりしていますので、こういった事は殆ど無いと思いますけどね。


殆どと言ったのは、緊急時、命と法、天秤にかけて、どちらを優先すべきか選択する施設もあるかもしれませんので。悪しからず。





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― 新着の感想 ―
[一言] ごめんなさい。 私はこのような経験はありませんが、AEDの研修(と同時に心肺蘇生法も)を受けました。 で、その中で、緊急時にAEDあるいは心肺蘇生法をおこなうことが必要なこと、あるいは義務で…
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