ghost writer
ゴーストライター 一度は聞いたことのある言葉だと思います。
ある人名義の原稿や著作をその人に代わって執筆する、陰の筆者。表にその作品が出てもそれに自らの名前を付けられないという条件を持つライター。
かくゆう私も、そんな一人。他人の名前で自らの書き物を世に送る筆者なのですが。
私は少し、他の方とは違っているのです。
「こんにちは」
本日、私が書く文章を考える方の元へ訪れた。
「あぁ、こんにちは」
「こんにちは」
サングラスをかけた男性が声で挨拶を返してくれ、隣に腰かける女性が頭を下げて挨拶してくれる。
「本日も、よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします」
「お願いします」
先ほどと同じように返しが来て、仕事の形態を取った。
三角形のテーブルに、一辺ごとに私達は席に付き、お二人を両斜めに見る形になる私はテーブルに仕事道具の紙とペンを置く。
「では、始めましょう」
私が開始の合図をすると、まずは男性が口を開いた。「前回はどこまで行ったんだっけ」
「少しお待ち下さい」
私は鞄を開き、今までのメモを取り出して、前回のあらすじを簡潔に説明した。
「あぁ、そうだったね」
「今回はその続き、または外伝の作成ですね」
「そうか、お前はどっちが良いと思う?」
男性がお前と呼ぶのは女性にだ。私は女性へ、今までの会話を伝えると、
「なら、外伝かな」
女性が声で返した。
「分かりました。今回は外伝の作成する方向で行きます」
改めて2人に伝え、作成を開始した。
……この2人のゴーストライターとなった時、私はまず、驚きを隠すことが出来なかった。
何故ならこの2人、1人ではもちろん、2人でも作品を作ることが出来ないからです。
その理由は……
「―――という感じでどうかな?」
声で文章となる言葉を、私に、伝える彼の……目の焦点はあっていない。サングラスの奥なのでそれを見ることは無いけれど、彼は失明している。
「少しお待ち下さい」
その対面に座る女性に、私は今の言葉を伝える……手話を使って、耳の聞こえない彼女に。
「……そこは、―――」
女性も手話を混ぜつつ、言葉で私と男性に文章の改善案を伝える。言葉は2人に、手話は私だけに届いた。
「なるほど、よし、それで行こう」
男性が女性伝えるべき言葉を発した時、私は女性へ手話で伝える。
こうやって毎回、私達による執筆が行われていくのです。
目の見えない男性は文章を考えるが、書くことは出来ない。
耳の聞こえない女性は文章の編集を出来るが、本文を作ることが出来ない。
だから、お互いが協力して文章を作り。2人の間に私が入ってその文章を書き、一つの作品が出来上がる。
最初は、そこまでして、という感情を持った。2人共努力次第では書けるのではないか、とも思った。
けれど、続けていく内に、2人がそこまでして作品を作りたいという気持ちを、2人だから作品が生まれているということを知り、次第に最初に考えた感情は無くなっていた。
だから私は何も言わず、それを書くだけ。文章にして、作品にして、世に送るだけ。
何故なら私は、ゴーストライターなのだから。
障害者の方々が作ったアクセサリーなどの販売。その記事を見て考えた物語です。
実際にこういう方は、いないと思いますが、世界は広いですし、全く同じとは言わないまでも、もしかしたら? という気持ちも込めて。
それでは、