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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ごめんね。

掲載日:2026/03/11

今日の朝、彼女が久しぶりに喋った。「一緒に死のう」と言った。嬉しかった。


 彼女は元々ショートヘアだった。今となっては、髪が肩より長くなっている。入浴も、着替えも、食事も、私がいなければ出来ない。カウンセラーとの会話はもはや作業と化した。最後に髪を切ったのはいつだったか。最後に彼女の笑顔を見たのはいつだったか。もうたくさんだ。大好きな彼女が自己否定や自責で傷ついていくのは、もう耐えきれない。僕は彼女からの言葉に従うことにした。彼女はすごく嬉しそうだった。


 明日、死のうと決めた。最後の晩餐を準備しよう。どうせ死ぬんだから金額なんて気にせずに、とびきり良いものを買おう。


 また嬉しいことがあった。彼女が「一緒に出かけよう」と言ってくれた。彼女と外を歩ける。それだけで十分だった。


 彼女と一緒に最後の晩餐を買いに行った。最後に食べるものとなるとやっぱり迷ってしまい、散々悩んだ末に、彼女が好きなものを片っ端から買うことに決めた。パンケーキ、チーズタルト、アサイーボウル。それから、コンビニでお菓子もたくさん買った。ビスケット、グミ、チョコレート。コンビニにあるお菓子はなんでも買った。板チョコが200円を超えていることに驚いたりもした。彼女はあまり喋ってはくれなかったが、僕の言葉に、彼女は小さく頷いてくれた。荷物が両手に溜まっていくのと同時に、幸せも溜まっていった。


 帰り道に一度、赤信号で止まることがあった。でも、すぐにまた歩き出した。普段の僕なら、たとえ車が来ていなくても赤信号は守っていたが、どうせ死ぬんだ、赤信号なんて無視しても良い。塾帰りらしい小学生たちから変な目で見られたが、そんなことはもうどうでも良い。信号を無視して渡った後、彼女は僕の顔を見て笑ってくれた。壊れそうなくらい、柔らかな笑顔だった。少し前まではいつもその愛らしい笑顔を見せてくれた。


 帰り道の途中、昔に戻りたいと思った。昔といっても1年ちょっと前だが、その頃は毎日幸せだった。だが、その考えもすぐになくなった。もう二度と彼女の苦しむ姿は見たくない。今はただ、一緒に歩いていたい。やっと苦しみから解放される。そして来世では幸せな毎日を過ごすんだ。


 家の前に着き、玄関を開けようとしたとき、彼女のお腹が鳴った。少し恥ずかしそうに笑っていた。僕も彼女も長いこと歩いたため、空腹だった。家に入ったら、すぐに最後の晩餐を始めた。食卓は甘いものやお菓子ばかりで、とても晩餐とは思えなかったが、久しぶりに彼女が自ら、楽しそうに食事するのを見られて、僕は腹がいっぱいになった。


 その後、練炭を買いに行った。練炭を歩いて持って帰るのは大変なため、食事後に車で買いに行こうと決めていた。彼女との久しぶりのドライブをした。二人きりの狭い車内の中、少し前まで毎日のように見ていた町の風景が少し変わっていることで盛り上がったり、歌を大音量でかけて一緒に歌ったりもした。


 帰宅後、一緒にお風呂に入った。湯船に入るのはいつぶりだろうか。昨日まではただ作業のように感じていた風呂も、すごく楽しく感じた。ドキドキもした。彼女に背中を流してもらった。車での歌の続きもした。


 風呂から上がり、歯を磨き、布団に入った。布団に入ったすぐ、彼女が抱きついてくれた。僕を抱き枕にするつもりだろう。生きている意味がある気がした。


 さぁ、もう終わりにしよう。明日の朝、幸せな来世へと出発するんだ。


 目が覚める。彼女は寝たまま、僕を離さない。嬉しいはずなのに、どこか落ち着かなかった。


 僕はお金もなく、贅沢なんてとてもできなかった。毎日、段々と弱っていく彼女を見て気が狂いそうだった。それでも彼女さえいれば、それだけで幸せだと誤認した。


 嫌いだ。彼女の変化に気づけなかったのは、結局僕だ。どうして僕は、こんなにも卑怯なのだろう。


 愛してる。だから君は、僕から離れた方がいい。


 彼女の手をどかす。起こさないよう慎重に、眠っている彼女に睡眠薬を多めに含ませる。煙が漏れそうなところをテープで塞ぐ。部屋の中央で練炭を焚き、僕はそっと家の外へと出る。車に乗り、できる限り遠くへ向かう。


 やがて水路へと辿り着く。昨日の彼女との幸せが頭を駆け巡る。滲んでいく視界の中、僕は水路に飛び込む。


僕は、水に落ちた。


ごめんね。

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