乙女ゲームのヒロインに転生しましたが、攻略キャラと関わりたくないので戦地に行きます
「…?また、違和感……」
私はユリアナ。
戦争孤児で、今は教会併設の孤児院で暮らしている。
そんな私は、困ったことに変な病気を持っている。
その病気とは、鏡を…自分の姿を見ると、何故か違和感を抱くという病気。
それで困ることはないけど、ちょっと複雑な気持ちだ。
「でも、シスターたちは戦争で両親を失った心の傷が原因と教えてくださって…私に特別、目をかけてくださる」
そう、だから問題ないどころかむしろ都合がいいくらい。
孤児院のお姉さんやお兄さんも私を気遣ってくださるくらいだし、他の孤児のみんなともそれで険悪になることもない。
むしろここの孤児院ではイジメというほどのことはあまりなく、みんなで仲良く、たまに喧嘩もしつつ、楽しく暮らしている。
「でも、自分が自分じゃないみたいなんて不思議…」
不思議といえばもう一つ。
何故か私は、誰に習ったわけでもないのに読み書き計算が完璧だ。
それどころか、生物学や科学の知識まである。
その生物学や科学の知識を活かして、一番信用できるシスターの一人の名前を借りて色々な発表を行なった。
結果的に、それらの論文というには少々拙いそれは我が国どころかこの世界の生物学を大きく進歩させた。
科学の方も、私が発表を行なって一年もしないうちに大きく進歩した。
さらに私はその論文で名の売れたシスターを通して、大きな紹介に「掃除機」「洗濯機」「食洗機」などこの世界には無かった便利道具の案を提示した。
結果的にそれは魔術により実用化され、薄利多売で儲けた商会がシスター個人と教会も孤児院に多額の寄付をしてくれて、私達の生活は格段に良くなった。
また「掃除機」「洗濯機」「食洗機」などは試作品が孤児院にモニターも兼ねて寄付されたので、子供達のお手伝いの時間も格段に減って…もちろんシスターの家事の時間も格段に減って、勉強の時間が増えた。
私たち孤児には娯楽があまりないので、もちろん孤児たちで遊んだりはするがすぐ飽きる。
勉強の時間が増えるのはありがたい。
それに将来に備えるという意味でも大切なことだ。
「ちなみにシスターは、やっぱり信用できる人だった」
シスター個人への商会からのお礼金を、丸々私に渡そうとしてくれた。
元々私のアイデアだからと返そうとするシスターに、名前を借りたのは私だからと半分だけ受け取って今孤児院に在籍している子供達と分け合った私。
シスターも同じように、神父様やシスターたちと分け合ったらしい。
それでも結構なお金になったのだから、ありがたいお話だ。
私の分の分前を銀行に積んだら、銀行員がちらっと羨ましそうにこちらを見た。
私は大人になったらそれを元手に、商売を始めるのもいいなと考えている。
でも、そうやって将来に思いを馳せる度なにか違和感が…。
「あっ、痛っ…」
頭痛がした。
時々、私は頭痛を起こす。
だが今日の頭痛は尋常じゃない。
なにか、なにかがもう少しで思い出せそうな…あ。
そうだ、私は…この世界は…。
私は意識を手放した。
ユリアナちゃん十五歳。
前世の記憶を思い出しました。
私は地球という星の日本という国で生まれた平凡な捨て子だった。
児童養護施設で育った私は、大人になるとバリキャリな働く女性になった。
そして、独身貴族として好きに生きた。
「ああ、そうだ、そうだった」
そして、私は好きに生きた結果孤独死したのだ。
それでも、十分過ぎるほど満たされた人生だったが。
家族に憧れなんぞとうの昔に無くしたし、好きに稼いで好きに散財して好きに生きた。
後悔はない。
今世も、後悔も今のところないし楽しいが。
「ここ、前世で遊んだ乙女ゲームの世界なんだよなぁ…」
しかも私、ヒロインだ。
このままだと、聖女ということがバレて来年から貴族学院に特待生として通学させられる。
そして、悪役令嬢たちに虐められるのだ。
いやだ、貴族の嫌がらせとか怖い。
攻略キャラたちも、冷静に考えてみれば悪役令嬢たちを裏切る浮気者たちなのだから恋仲になんぞなりたくないし。
「…うん、よし」
シスターたちには悪いけど、聖女であることは隠し通させてもらおう。
そして、聖女の祈りを治癒魔術に目覚めたことにさせてもらって戦地に行こう。
戦地なら治癒魔術を必要とする人が多い。
私ならたくさんの人を救えるし、戦地では治癒魔術師に関しては出来高制だ。
金を稼げる。
「その作戦で行こう」
ということでさっそく、私はシスターに治癒魔術に目覚めたと報告しに行った。
ユリアナちゃん十六歳。
孤児院は十六歳になると卒業だ。
そしてユリアナちゃんは、見事にシスターたちを騙し切って聖女だとバレずに治癒術師の免許も取った。
そして今日から、戦地に配属だ。
で、私の配属先は前線だった。
「わぁ…」
死屍累々。
そんな言葉がピッタリだ。
ちなみにここに配属は私〝だけ〟だ。
何故なら先輩方はみんな後ろの本陣に引っ込んで治療に当たっているから。
そう、私は捨て駒だ。
だが。
「金稼ぎ放題じゃーん!出来高制でよかったー!誰も見てないから〝祈り〟を最大限使えるしサイコー!」
ということで、早速聖女の祈りを発動。
「…なんだ?優しい光が……天の迎えが来たのか?」
「なんか、体が軽い…」
「痛くない…」
「心地いいな…」
「………あれ、俺たち生き返ってる!??」
みんな、がばっと起き上がってびっくり仰天。
「足が治ってる!?」
「腕が生えた!」
「目が見える…?」
「音が聞こえる!」
「治癒術師殿、あんたがやってくれたのか!?」
みんな、一斉にこちらを向く。
「ええ、そうですよ」
「このことは必ず本陣に伝える!治癒術師殿は出来高制なんだろ?かなりの金になるぞ」
「ふふ、それは嬉しいですね。さあ皆さん。死なない限り幾らでも治して差し上げますから、戦果をあげましょう!」
「「「おー!!!」」」
ということで、この戦いでの我が国の戦士たちは「不死隊」と呼ばれました。
この戦いでは我が国の圧倒的な勝利となり、敵国から「賠償金」もがっぽり頂いたそうでかなりの黒字国家となったのです。
そんなわけで、治癒術師の出来高制のお給料も私の分はかなりの額になりましたが…文句一つ言わずにポンと払ってくれました。
…実はそのかなりの額のお給料を使ってやりたいことがあったので、かなり助かる。
やりたいこととは何かというと。
「シスター!」
「まあ、ユリアナ!無事で何よりよ!」
「うん、今日はね、シスターたちに渡したいものがあるの!」
「あら、なにかしら」
「寄付金!」
〝かなりの額〟のお給料。
この半分を寄付に使うことにした。
寄付の四分の一を教会に、四分の一を孤児院に、四分の一を神父様とシスターたちに山分けで、四分の一を孤児院在籍の子供達に山分けで。
それでも一人当たりそれなりの額になるので、役には立つだろう。
そう言ってシスターに渡したら、立派になってと泣かれたけど喜ばれてよかった。
「これからも、この優しい心を忘れず頑張るのですよ…!本当にいい子に育って…!」
「はい、シスター!」
さて、もう半分のお金は…。
買っちゃいました、建物。
開いちゃいました、診療所。
「戦地でかなりの功績を上げた治癒術師の診療所なので、お客様は来てくれると踏んでるだけど…」
「すみません」
「あ、お客様一号だ!いらっしゃい、どうしました?」
「あ、いえ、あの、すみません。私はこの間の戦いで貴女に助けられた者です」
「あ、わざわざお礼に来てくれたんですか?」
「ええ、部下たちも救っていただきましたから」
戦士の上…戦士長か。
「ご丁寧にどうも」
「これ、少ないですが」
「え…いや、全然多いですが!?」
「この間の戦いで戦果を上げたもので、お金が有り余ってしまって…別途給金もいただきますので、こちらはご心配なく。どうぞお使いください」
…ぶっちゃけ、診療所を開くのにお金を出しまくったから当分の生活費としてありがたい。
受け取っておくか。
「…では、有り難く受け取ります」
「こちらこそ、本当にありがとうございました。今度は俺の村で採れた山菜なんかを持ってきますね」
「え」
「ついでに、俺の村の治療が必要な人間を連れてきます。お礼になりますか?」
「なります!」
客がいないと商売にならないからね!
「では、失礼します」
「はい、また今度」
「ええ、また今度」
「治癒術師殿」
「はい」
「まずは約束の山菜です」
「ありがとうございます、天ぷらにして食べますね」
「天ぷら?」
「あ、フライです、山菜フライ」
「それはいいですね」
さて、世間話はここまでだ。
「後ろにいる人が病人さんですね」
「ええ、一人目は私の母です。実は不治の病で…治癒術師殿ならもしやと」
「あらまあ」
聖女の祈りを発動。
よし、これで。
「あら?硬かった身体が軽くなったわ?身体が…動く?」
「…っ、母さん、本当に?」
「ええ、治ったわ!」
「治癒術師殿、感謝に絶えません!本当にありがとうございます!」
「いえいえ、あ、この治療費はこの間いただいた分で結構ですので」
「え?しかし…」
「当面の生活費としてありがたく使わせていただいてるので大丈夫ですよ。二人目以降からは貰いますが」
「…重ね重ね、ありがとうございます」
どうせ他の…二人目以降の彼の村の病人や怪我人の治療費も彼が出すのだろう。
このくらいなんでもない。
むしろそれなりの治療費は請求するつもりなので、彼の懐が心配なくらいだが…。
「はい、二十人目治癒完了」
「これで全員です、ありがとうございました」
「こちらこそ」
「治療費ですが、これで足りますか」
出された金額はちょうど請求するつもりだった額。
「…はい、たしかに」
「よかった」
「……お一人で、この金額を出していらっしゃるのですよね?懐の方は……」
「これでもこの国の戦士長をやっていますから、月々の給料だけでも結構余らせてましてね」
ならいいのだが。
「でも、なんだかいっぱいお金を受け取ってしまって…こちらが申し訳ないというか…」
「何を仰る、正当な対価でしょう」
「それはそうですが」
「…もし、どうしても気になると仰るなら」
なんだろう、真剣な目で見つめられてドキッとしてしまう。
「私と結婚を前提にお付き合いしてくださいませんか」
「…はい?」
「戦場において、貴女の働きに感動しました。その時からずっと貴女をお慕いしています。どうか、私と交際していただきたい」
「…えっと」
急に言われても困る。
困るが…ここまで生活費とかお客様とか色々と世話してくれた人だ。
優しい人だし義理堅い人だ。
お金にも困ってない様子。
―…悪くないな。
「では、結婚を前提にまずはお付き合いということで。これから、よろしくお願いします」
「…っ!はい、是非よろしくお願いします!」
ということで、私達はお付き合いすることになった。
「というのがパパとママの馴れ初めよ」
「へー!すごーい!でもママ、今は聖女様として活動してるよね?」
「紆余曲折あって国にバレてねー…相当怒られたわ」
「えー!?怒られたの?誰に?その人ひどい!」
夫が笑って答える。
「パパが行った次の戦場にもママが来てくれてな。そこでママが聖女の祈りでみんなを救ってくれたんだが、それが国にバレてな…宰相殿が何故もっと早く公表しないとご立腹で」
「でも結局、パパとの結婚は認められたし。普段は診療所で活動して、必要に応じて聖女様として活動するってことで落ち着いたわ」
「よかったー」
あの後私は、息子に語ったように戦士長の彼と結婚した。
息子に語った通り紆余曲折はあったが、息子に恵まれてお腹の娘ももうすぐ生まれる。
満たされた日々だ。
夫は戦士長として、国を守って地元の村にも利益を還元しつつ私たちを養ってくれるし。
私は聖女として、国を守って孤児院と教会に寄付をしてシスターたちにも恩返しを続けてるし。
「貴方もパパのように立派になってね」
「ママのように優しく育つんだぞ」
「はーい!」
ということで…乙女ゲームの世界にヒロインとして転生した時はどうなることかと思ったけど、シナリオから早々に離脱したおかげで幸せになれました。
ちなみに攻略キャラたちはヒロインが現れなかったため自力でトラウマを克服して、悪役令嬢たちとも自力で仲直りしたらしい。
やっぱりヒロイン居なくてもなんとかなるんじゃん!
ということで私はこれからも聖女として、シナリオには知らん顔して幸せに生きていこうと思います。




