確認しただけです
会議室には、私と上司の二人だけだった。
定時後。
蛍光灯は半分だけ点いていて、
机の上には一枚の紙が置かれている。
「確認なんだけど」
上司は穏やかな声で言った。
「昨日のメール、誰が書いた?」
私は答えた。
「私です」
それだけで、空気が変わった。
上司は紙にペンを走らせる。
「主語が曖昧」
「感情的に読める表現」
「“お忙しいところ恐縮ですが”は不要」
淡々と、箇条書き。
「悪気はないよね?」
「でも、誤解は生まれる」
うなずくしかなかった。
「じゃあ、次」
紙がもう一枚出てくる。
「今日の昼休み、12時17分。
あなた、少し大きな声で笑った」
私は息を止めた。
「周囲の集中を乱した可能性がある」
「自覚はある?」
ない。
でも「ない」と言えなかった。
上司は微笑んだ。
「大丈夫。責めてない」
「確認してるだけ」
次の紙。
・最近、発言前に間が長い
・視線が合わない
・返事が一拍遅れる
「疲れてる?」
私は首を振った。
「そう見えるんだ」
「チームに不安を与える」
上司はペンを置く。
「ここまで聞いて、どう思う?」
——正解を言わなきゃ。
「ご迷惑をおかけしてます」
上司は、満足そうに頷いた。
「そう。その認識が大事」
最後の紙が出てくる。
【判断】
改善意欲は認められるが
周囲への影響を考慮し
本日付で配置を終了する
声が出なかった。
「安心して」
上司は立ち上がり、ドアを開ける。
「君が悪いわけじゃない」
「ただ——」
一瞬、こちらを見て言った。
「合わなかっただけ」
会議室の電気が消える。
翌日、
私の席は最初から存在しなかった。
誰も、何も、聞かない。
だって——
ちゃんと確認しただけだから。




