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第9話 葉っぱ、食べちゃ駄目!

 庭園にたどり着いたエルナは、思わずその美しさと壮大さに見惚れてしまう。


「す、すごい……」


 庶民出身であるエルナは、貴族の庭園を見たことがない。

 それに、このヴァイラント公爵邸の庭園は国家行事も行なわれるほどの大きさと美しさを兼ね備えている。

 そのため、毎日庭師達が丁寧に手入れをして、メイド達がその手伝いを行なっているのだ。


(色んな色のお花が咲いてて、なんて綺麗なの……)


 エルナは自分の身体を横に向けると、レオにも庭園が見えるようにしてやる。


「ほら、見て! すっごく綺麗なお庭!」

「あう?」


 レオは何を言われているのか分からず、首をちょこんと傾げてしまう。

 そして、庭園ではなく今度はエルナに視線を向けた。


「うう? えへっ」

「あっ! レオくんもお庭の素敵さが分かったの~? 偉いね~!」

「きゃはっ!」


 レオとしては庭の綺麗さは目に入っていない。

 しかし、『親』であるエルナがあまりにも目をきらきらと輝かせていたため、嬉しくなって声を上げたのだ。


「あっ! 仕事仕事!」


 エルナはここに来た本来の目的を思い出して、袋を広げていく。

 庭園の外周を囲うように四角く整えられた植木の傍には、小枝や葉っぱが落ちている。


(これを拾って、と……)

 手で拾える大きなものは、まず手で拾っていき、次に、箒で集めて小さな枝達を袋に入れていった。


「よし、次は……」


 今度は庭を箒で全体的に掃いて、落ち葉を集めていった。

 まだこの時期は落ち葉が少ないため、目立ったものを掃いて集めるだけで良いが、落ち葉が多くなる秋の終わりになると、この作業が一番大変になる。


(あ、この葉っぱとか喜ぶかな?)


 エルナは手頃な大きさの葉っぱを拾うと、背中にいるレオに見せた。


「見て、レオくん。これ、綺麗だね~」


 レオは差し出された葉っぱをじっと見つめて、きょとんと不思議そうにしている。

 すると、レオは突然大きく口を開いた。


「あっ! 食べちゃ駄目!」


 慌ててエルナは葉っぱを引っ込めようとするが、時すでに遅し──。


 レオはパクリと葉っぱを食べてしまった。


「レオくんっ! 吐き出して!」


 急いで吐き出させようとするが、もうすでに彼は呑み込んでしまった。


(どうしよう……!)


 エルナは慌てふためき、彼の口に指を突っ込んで吐き出させようとした……その時、レオが先程までの賑やかな様子から一変して、静かで真剣な表情を見せた。


「え……?」


 エルナは何が起こったのか分からず、レオをじっと見つめるしかできない。

 レオの瞳は赤く光り、やがて身体がぼわっとわずかに光った。


 そして、そんな彼から信じられない言葉が発せられる。


「おいしい」


 レオは確かにそう口にした。


(聞き間違い? 今、はっきり「おいしい」って……)


 エルナがそう思った時にはすでに、レオが纏う光は消えており、いつも通りの笑顔と拙い言葉を口にする彼になっていた。

 困惑するエルナの脳内に、ひとつの考えが浮かぶ。


「もしかして、精霊だから葉っぱも食べられるの……?」


 そうしか考えられなかった。

 人間の子どもであれば、とてもじゃないが葉っぱを口にすればすぐに吐き出すだろう。

 しかし、レオは違った。

 彼は葉っぱを食べただけでなく、その後はっきりと「おいしい」という言葉を口にした。


(もしかして、食べて成長した……?)


 そんな仮説がエルナの脳内をよぎった。


「えへへ~」


 レオが葉っぱを食べた様子は、エルナにとってまるで誰か別の存在のように思えた。


(魔力吸収だけじゃなくて、別のものも吸収して成長することができるのかも)


 エルナはそう結論づけ、クラウスに報告しようと考えたのだった。

 庭掃除も大方片付いてきており、エルナは最後の仕上げに取り掛かっていた。


「あ、これ……」


 エルナが手に取ったのは、グユアという名の大きな花。一年の中で夏終わりに大輪の花を咲かせ、花弁で散るのではなく花がまるごと落ちる。

 このことから、ある東の国の一部では「縁起の悪い花」として有名だ。

 しかし、この国ではある鳥がこの花の中に羽を置いていくことがあり、その羽が入った花を見つけたものは幸せになると言われている。

 エルナが丁度見つけた花は、真っ白な羽がひとつ入った花だったのだ。


「この羽、レオくんの背中の羽みたいに真っ白だね」

「うう? あいっ!」


 エルナは手に取ったその羽をレオの髪飾りにしてみる。


「うわ~! 可愛い!」


 まさに精霊の子どもといった神秘さと美しさが感じられて、エルナはレオの愛らしさに胸をキュンキュンさせた。


「レオくんに、幸せが訪れますように」


 エルナがそう言うと、レオは首をこてんと傾けて笑った──。



 エルナがメイドの仕事を終えたのは、夜の九時だった。


「ふわ~」


 大きなあくびをした彼女は、ベッドに倒れ込んだ。

 眠たい目をこすりながら、なんとかレオを抱っこひもから解放すると、彼をベッドに寝かせる。


「窮屈だったでしょう。ごめんね……」

「あう?」


 謝る彼女をレオはきょとんとした瞳で見ていた。

 その時、部屋の扉がノックされる。


「あ、はい!」

「俺だ、クラウスだ」

「あっ! クラウス様っ!? 今、まいります!」


 エルナはベッドから急いで立ち上がると、部屋の扉を開けた。

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