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第5話 ジュエリナード王国のある伝承

 エルナはクラウスの言葉に困惑してしまう。


「この子を、育てる……?」

「ああ」


 戸惑うエルナに対して、クラウスはとても冷静に命じる。

 エルナは腕に抱えた子を保護することは考えてはいたものの、自分が育てるという思考には至っていなかった。


「ですが、私は子どもを育てたことがございません」

 彼女はまだ十七歳であり、子どもを育てた経験もない上に結婚すらしていない。

 兄弟もいなかったため、子どもと接したことがないエルナは、自らの力不足を訴えたが、彼からすれば想定済みの答えだった。

 クラウスは両腕を組んで机の縁に身体を軽く預けると、エルナに告げる。


「問題ない。お前は『親』の務めを果たせばそれでいい」


(親としての務め……?)


 エルナは不思議そうにクラウスを見ながら、首を傾げる。

 彼はエルナが不思議そうにしていることに気づき、「なるほど」と答えた。

 そして、足を組みかえると、彼はエルナに王国の歴史と伝承について語り始める。


「我が国、ジュエリナード王国にはある伝承がある」

「伝承……?」

「この国はお前も知っての通り、王族が支配している。その初代国王ジャドラスは、その類まれなる知性と武力によって、この国を統治していた。しかし、その繁栄にはある『精霊』の存在があった」

「ある精霊、ですか?」


 エルナの言葉にクラウスは小さく頷くと、続きを話し始める。


「『精霊レオ』、正式には『レーオポルト・ジ・ヴァルデイン』──。彼に愛されし国は豊かに恒久的に繁栄をする。しかし……」

「しかし……?」


 エルナはクラウスがその後に紡ぐ言葉に緊張し、思わず息を飲んだ。


 彼女が次の言葉を待つ中、彼は告げる。

「彼の怒りを買った王族は一族ごと滅び、そして、王国は一夜にして滅亡した」


(一夜にして!?)


 あまりの規模と「滅亡」という言葉に、エルナはひどく恐ろしさを感じてしまう。

 エルナはちらりとクラウスの様子を見ると、彼は至って冷静な表情を浮かべていた。


(でも、それと私が親になることに何の関係があるの……?)


 そうして、彼から『精霊レオ』の話を聞いたエルナだったが、それが自分に命じられたことにどう繋がるのか分からない。

 そんな彼女の思考を読み取った彼は、核心的な一言を言い放つ。


「お前が拾ったその赤子こそが、『精霊レオ』である可能性が高い」

「え……!?」


 エルナは驚き腕の中にいる子どもに目をやった。


「きゃはっ! うう~?」


(この子が、『精霊レオ』?)


 レオは手足をバタバタと動かして、楽しそうにしている。自分の足を掴んでニコニコしたと思うと、今度はエルナの顔に手を伸ばして彼女の顔に触れようとする。


(怒らせてしまったら、国が……滅びてしまう?)


 にわかには信じがたいことをクラウスに言われ、彼女は戸惑ってしまう。


「赤子で現れたという事例は今のところないが、その手の紋章からしてレオであることはおそらく間違いない」


 クラウスの言葉を受けてエルナはレオの手に視線を向けると、そこには炎のような赤い紋章が浮かんでいる。


「この紋章が、レオの証……?」

「ああ。この伝承を知っているのは、この国でも数人の学者や王族関係者のみだ。そして、この赤子は通常、『親』として認めた者しか触れられない。つまり、お前は『親』として認められた唯一の選ばれた存在ということになる」


(選ばれた……私が……?)


 ただの子どもの親ではない。

 精霊の、それも国の命運を動かす存在の『親』になるということで、エルナは動揺を隠せない。


「でも、私が『親』になるって具体的にどうしたら……?」


 心配な気持ちを吐露したエルナは、思わず下を向いてしまう。

 すると、そんなエルナのもとへクラウスがゆっくりと近づいてくる。


「え……?」


 何も言わずにただ真っ直ぐにエルナのもとへ向かってくる。


(え……!?)


 彼の顔がどんどんエルナに近づき、その度に少し彼女は後ずさってしまう。

 そして、ついにエルナの背中が壁についてしまった時、クラウスの手が彼女に伸びてきた。

 その瞬間、何かが弾けるような大きな音と閃光が走る。


「えっ……?」


 エルナは今何が起こったのか、瞬時に理解できなかった。

 クラウスがレオに触れようとした時、大きな音と光を放ちながらクラウスの手が弾き返されたのだ。


(どうなってるの……?)


 クラウスは自分の手を見つめて、目を細めた。

 そして、彼は静かに口を開く。


「やはり、拒絶したか」

「拒絶……?」

「レオは『親』以外はその身に触れさせないとされている」

「じゃあ……」


(こうして私が触れられているのは、『親』だからってこと?)


 エルナはようやく自分自身がとんでもないことに巻き込まれているのではないかと実感してきた。


「『親』としての主な務めは魔力供給だ。恐らく腹が減っているだろう。早速だが、魔法供給をレオにおこなってくれ」


 その瞬間、今までレオをあやしていたエルナの手は止まってしまう。

 そして、ゆっくりと彼女は首を傾けた。


「どうした」


 動きを止めてしまった彼女を見て、彼は尋ねた。


「あの……魔力供給というのは?」

「レオは魔力で成長する。魔力が切れれば、機嫌を損ねるだろう。それゆえ、強力な魔力が必要になる。それには『親』であるお前からの供給が欠かせない」


 それを聞いたエルナは、困惑して何も言えなくなってしまった。


(それって、私には無理じゃない?)


 エルナは意を決して、告げる。


「私……魔法使えません……」

「は?」


「私、庶民なので、魔法が使えないんです!!」

第5話まで読んでくださってありがとうございます!

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