第34話 ずっと一緒に
魔女が死んだ後、役目を終えたレオは魔力を使い果たして、子どもの姿に戻ってしまった。
国難を救ったエルナは、王国から褒賞を賜ることになったのだが、エルナは自分は何もしていないと受け取らなかった。
そして、魔女との闘いから数日後、エルナとレオは部屋でゆっくりと過ごしていた。
「よし、いくよっ!」
「あいっ!」
エルナが投げたボールは放物線上を描き、綺麗にレオの腕の中に収まった。
「わあっ! すごいっ!」
すると、レオはベッドの縁にぎゅっと掴まって立ち上がった。
足を何度も屈伸させて手を叩きながら、きゃっきゃと喜んでいる。
(なんだか、あの青年がまた小さくなっちゃって、変な感じね……)
魔女との戦いで本来の姿になったレオを見たエルナにとって、また子どもの愛らしい姿になったのは不思議な気がしてならなかった。
「きゃはははっ!」
「今日はもうほんとご機嫌だね~!」
そんなやり取りを二人でしていると、部屋の扉がノックされた。
「は~い」
「入ってもいいか」
「クラウス様っ! どうぞ!」
扉を開けて彼を招き入れると、クラウスはレオの様子を見る。
「機嫌が良さそうだな」
「はいっ! もうつかまり立ちもだいぶ安定してきましたし、ボールもうまくとれるようになってきた、すごく成長してます!」
すると、クラウスはエルナにブローチを手渡す。
「これは……?」
「陛下が今回の働きとして、どうしてもお前に渡したいそうだ。それと、これからもレオの『親』を続けて面倒を見て欲しい、と」
「いいんですか……私が、レオくんをまた育てても」
「ああ。お前だからいいんだ。頼んだ」
「クラウス様……」
彼の優しい微笑みに、エルナは胸がぐっと締めつけられた。
「あう?」
エルナが涙ぐんでいるのを見たレオが心配そうに駆け寄ってきた。
そんなレオをエルナがぎゅっと抱きしめて、愛おしそうに頭を撫でる。
「私、また一緒にいられるんだって。レオくんと。一緒にいてもいい?」
「あう……?」
首を傾げてエルナをじっと見つめると、にっと笑顔になって両手を上げて叫んだ。
「あいっ!!」
「レオくん……」
エルナは涙を流しながら、もう一度強くレオを抱きしめた。
涙がレオの肩を濡らしていき、そのことに文句を言うようにレオを口を尖らせる。
「ぶうっ!」
「あはははっ! ごめん、涙ついちゃったね。ごめんごめん!」
そんな様子をクラウスは微笑ましそうに見守っていた。
(あっ! そうだ、レオくんを育てるってことはこれからもここにいていいのかな……)
エルナはクラウスの方へ振り返って、彼に尋ねる。
「クラウス様、私はまだこちらにいていいのでしょうか……?」
「ああ」
クラウスはそう返事をすると、いつもとは違って落ち着きない様子で部屋を歩き回っている。
(何か考えごとかな?)
その顔つきは真剣そのもので、何か悩みを抱えているようにエルナには見えた。
「あの……」
エルナの問いかけにクラウスは振り向く。
その頬は真っ赤で少し耳も赤くなっていた。
「えっ!? 大丈夫ですか!?」
「見るなっ!」
そう言われてもエルナとしては放っておけない。
(どこか具合が悪いんじゃ……まさか、魔女との闘いで……)
エルナは半ば強引にクラウスの腕を掴むと、赤くなった顔を覗き込む。
「ひとまず座ってください! あっ! お水お持ちしますねっ!」
そう言ってクラウスに背を向けた瞬間、エルナの身体に大きな衝撃が訪れた。
「え……」
突然のことで、最初は何が起こったのか分からなかったが、次第に頭が働いてきて、彼に後ろから抱きしめられていることに気づく。
「クラウス様っ!?」
「黙れ」
クラウスの低く甘い声がエルナの耳に届く。
沈黙の中、エルナの鼓動はどんどん速まっていった。
「俺と結婚して欲しい」
「え……」
突然の求婚にエルナの心臓はもっと大きく飛び跳ねた。
そして、『結婚』という言葉を聞いて、どんどんと頬が赤くなっていく。
「最初、お前をレオの『親』としてしかみていなかった。この国を守る道具くらいにしかおもえなかった」
エルナの中でクラウスと出会った日々のことがよみがえってくる。
メイドとしてヴァイラント公爵家にきて、レオを助けたあの日からクラウスとの共同子育てが始まった。
(最初、クラウス様は冷たい人なんだと思ってた……)
だが、魔力を持たない自分の代わりに、身を削ってまで支えてくれた彼。
誰よりも周りのことを考えていて、両親を亡くしてからずっと孤独に闘ってきた。
「両親を亡くした俺に寄ってくるのは、俺自身を見ていない人間だけだった。だが、お前は違った。俺を俺として見てくれた、真っ直ぐに向き合ってくれた。嘘偽りないお前の心が好きだ」
「クラウス様……」
(なんて真っ直ぐな言葉、でもちょっと声が震えてる)
クラウスは想いを告げると、ゆっくりとエルナを解放した。
「答えは今すぐでなくていい。よく考えてくれ」
そう言って彼は足早にその場を去ろうと部屋の扉に向かっていく。
(待ってっ! 私も、私も……!)
恥ずかしさと突然の出来事で返事ができずにいたエルナはクラウスの背中に手を伸ばした。
その時だった。
「あう……?」
エルナの視界の隅で立って遊んでいたレオが、突然ふらふらと揺れて転びそうになった。
「レオくんっ!」
エルナの言葉に振り返ったクラウスも状況を理解したようで、咄嗟にレオに手を伸ばす。
二人が手を伸ばしながら、レオに駆け寄った。
その時、エルナの唇に柔らかい何かが触れて、彼女の視界は誰かの顔でいっぱいになった。
離れた瞬間、エルナは思わず口元に手を当てる。
(私、今クラウス様と……)
自分の唇が触れたのは、大好きな彼の唇。
「エルナ……」
「あの、その……好きです」
思わぬ形で思いを告げた彼女の想いは、彼に確かに届く。
「エルナ、俺も好きだ」
もう一度抱きしめられた彼女は、今度は離さないでというように彼の背中に腕を回した。
「あいっ!」
そんな二人の恋路を見守っていた彼も、無邪気な顔で喜んだ──。
最後まで読んでくださってありがとうございました!
エルナとレオくん、そしてクラウスを書いていてすごく楽しかったです!
レオくんの可愛さが少しでも皆さんの癒しになればと思います。




