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第30話 精霊レオと『災厄の魔女』の因縁

 エルナが古びた小屋に閉じ込められて、数十分が経過した。


「これも駄目か……」


 細い針金で鍵を開けようとするも、うまく開けられない。

 いっそ扉を壊そうと小屋にあった木の板で扉を思いっきり叩いてみるも、びくともしない。


(この跳ね返される感じ、もしかして魔術……?)


 これほど脆い小屋である。通常であればすぐに扉や窓が壊れるはずなのだ。

 しかし、エルナが小屋の道具を使っていくら壊そうとしても、弾かれて壊せない。


(これじゃあ、私には太刀打ちできない。でも、なんでリリアさんが……? 魔術を使えたの……?)


 リリアは下級貴族の生まれであり、魔術は使えないとメイド長よりエルナは聞いていた。

 しかし、エルナを閉じ込めたのは確かにリリアである。

 この結界のようなものを張れたとすれば、リリアしか考えられなかった。


(でも、リリアさんの様子が変だった。まるで何かに操られているみたいな……)


 エルナはもう一度なんとか小屋の扉を破壊しようと試みる。


(この棒なら……)


 それは先程よりも頑丈そうな金属の棒だった。

 エルナは思いっきり振りかぶって扉に叩きつけようとしたその時、外から聞き慣れた声が聞こえてくる。


「エルナ!」

「クラウス様っ!?」

「そこにいるのか!? 開けるから扉から離れろ」

「はいっ!」


 クラウスに言われたようにエルナは扉から距離をとった。 

 すると、大きな音とともに扉が開き、クラウスが駆け込んでいく。


「クラウス様っ!」


 クラウスはエルナの手を引くと、そのまま急いで小屋から出た。

 エルナが小屋から出た瞬間、小屋はクラウスが扉を開けた衝撃と老朽化で崩れ落ちていく。


「魔術で結界を壊した」

「やっぱり……」


(魔術で閉じ込められてたんだ……)


 クラウスは尋常ならぬこの事態について、エルナに問いかける。


「何があった」

「メイドのリリアさんに呼ばれてここに来たら、彼女に閉じ込められてしまって」

「メイドに閉じ込められた?」


 その時、エルナはハッとして顔を上げた。


「レオくん!」


 エルナはすぐさま駆け出し、部屋へ向かって走り出した。

 彼女がレオのもとへ向かっているのだと悟った彼は、エルナにレオの所在を尋ねる。


「レオは!?」

「私が出てくるまでは寝ていました! でも、時間が経っているので起きてるかもと」


 彼女の言葉を聞いたクラウスは一気に険しい表情になり、部屋に向かう足を速める。


「まずいな」

「え……?」


 クラウスはさっき見つけた文献についてエルナに伝える。


「王宮の禁書室にある伝承を見たんだ。『災厄の魔女』について」

「魔女……?」

「数百年に一度、復活すると言われている。その魔女は封印した初代国王のことを恨んだ末、この国を滅ぼそうと企んでいた。その魔女に対抗する力を持っているのが、お前の育てている精霊レオだ」

「レオくん……?」


 エルナの頭の中にはクラウスの話は難しく、うまく入ってこない。

 しかし、危機的状況であるということは理解できた。


「精霊レオはその昔、自然破壊を目論んだ王族に罰を与えるため、自分の持つ全ての魔力を使ってその王族の国を滅ぼした。全てが灰になり、焼け野原となった土地で力なく行き倒れていたレオを助けたのが、後に我が国最初の国王となる旅人ジャドラスだった。ジャドラスに助けられたレオは恩返しとして彼の眷属として仕えることとなった」

「眷属……?」

「ジャドラスの配下になったという意味だ」


 エルナは大きく頷いて、クラウスの話に耳を傾ける。


「そして旅の中でレオの魔力も回復していく中、魔女に滅ぼされそうになっている村を見つけ、二人は魔女を封印して村を救った」

「まさか……」

「そうだ。その村こそが今のジュエリナード王国の始まりだ」


(そんな歴史があったなんて……)


「そして、この魔女こそが『災厄の魔女』。魔女の封印は数百年に一度解けると言われているが、そのきっかけは分からない。だが、唯一の手掛かりとして、魔女の封印が解ける時には、初代国王ジャドラスとともに戦った精霊レオが復活し、国を魔女から守るとされている」

「それじゃあ、レオくんが生まれたってことは……」

「ああ、レオが現れた瞬間に警戒すべきだったんだ。魔女の復活を。そして、お前が狙われたことを踏まえると、魔女の復活はすでに始まっている。そして、次に狙われるのは、レオだ」


(レオくんの身が危ないってこと!?)


 二人は急いで階段を駆け上がり、ようやくレオの眠る部屋にたどり着いた。


「レオくんっ!」


 扉を勢いよく開けて中に入るが、そこにレオの姿はない。


「レオくん!? レオくん!」


 部屋をくまなく探すも、どこにもいない。


「追跡する」


 クラウスは魔術でリリアの気配を追ってみると、小屋で感じたリリアの気配がこの部屋にも感じられたのだ。


(まずいな)


 彼女の気配はすでにこの部屋を去っており、彼女とともにレオの気配も感じられた。


「レオはそのメイドに連れ去られた可能性が高い」

「どうして、リリアさんが……」

「状況と魔術使用の形跡を考えると、魔女の手下、あるいは魔女に操られている可能性が高い」

「じゃあ……」

「ひとまずレオとそいつの気配を追う」

「私も行きます!」


 エルナとクラウスは、レオ達の気配を辿って屋敷を出る。

 気配は屋敷から少し離れた森の方へと向かっており、二人はその森へと足を踏み入れた。


(なんだか、嫌な気配がする……)


 エルナが不穏な雰囲気を感じ取っていたように、クラウスもまた邪悪な魔術の気配を感じ取っていた。


「魔術の気配か、いや、何か違うな」


 エルナに同調するようにクラウスもそう告げた。

 彼の中で文献上に存在し、もうすでに滅びたと記述がされていた古代魔術のうちのひとつである『闇の魔術』が脳裏に浮かんだ。

 クラウス達のような現代のジュエリナード王国の者が使う魔術は、古代魔術の『光の魔術』を起源としている。


 その一方で、その昔『光の魔術』と対を成す魔術が『闇の魔術』であり、主に特定の地域に住む一部の魔女達が使うものがあった。

 『闇の魔術』は最後の使い手である魔女の封印とともに滅びたとされている。

 クラウスが魔術の歴史について考えていた時、森の奥の方に大木が見えた。


「あっ! クラウス様、あれ!」


 大木の傍にリリアが立っていた。

 そして、そのリリアの傍には宙に浮きながら茨の結界で捕らわれているレオがいた。


「レオくんっ!」

「あう……うう……」


 苦しそうな表情を浮かべるレオに駆け寄ろうとするエルナだが、それをクラウスが止めた。


「クラウス様っ!」

「強力な結界がある。近づくな」

「でもっ!」


 その瞬間、大木がミシミシと音を立てて黒い光を放った。


「あれは……」


 二人の視線の先には、大木の中に眠る魔女の姿があった。

 真っ赤な髪にはっきりとしたルージュの唇、黒いドレスに身を纏った魔女はゆっくりと目を覚ました。

 禍々しい光とともに、大木から外へ出た魔女は地面に降り立った。


 開かれた魔女の瞳は燃えるような赤で、じっとエルナとクラウスを見つめている。

 ふっと笑みを浮かべた魔女は、冷たい声で言い放つ。


「会いたかったわ」


 形のいい真っ赤な唇が、不気味に弧を描いた──。


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