第20話 成長していく愛しい君
その晩のこと、クラウスはいつも通り、レオの魔力供給のためにエルナの部屋を訪れていた。
「これくらいでいいだろう」
「今日は少し少なめでしたか?」
エルナはクラウスが普段よりも魔力を供給する時間が短いことに気づき、そう声を掛けた。
「よく分かったな。今日はパンを食べたといったからな。それにレオ自身が、魔力が十分だと俺に伝えてきた」
「そうだったんですか!」
エルナは魔力を使えない。
しかし、数週間傍でクラウスが魔力を使う様子を見たり、レオの様子を『親』として観察するようになったりして、二人が魔力でコミュニケーションをとっていることを感じ取っていた。
「すーすー」
魔力供給を終えた時、レオはエルナの腕の中ですぐに眠ってしまった。
(今日は寝るのすごく早いな。やっぱりたくさんハイハイしたから、疲れたのかな?)
エルナとクラウスが初めてレオのハイハイを見たあの後、クラウスは溜まっている仕事があるからとその足で自室に戻った。
それから、エルナとレオは二人でしばらくハイハイの練習や最近できるようになった積み木遊びをしていたのだが、ジュリエットが食事の時間だと二人を呼びに来るまで夢中になって遊んでいたのだ。
(ハイハイもできるようになって、積み木もできるように……どんどん成長してる)
人間の子どもの成長よりもレオの成長は少し早いように思えた。
それは精霊であるのと同時に、魔力供給がしっかりとできていることと食事ができていることが大きな要因であった。
(さあ、そろそろベッドに寝かせても大丈夫かな?)
魔力供給が終わって寝ていても、すぐにエルナがベッドに寝かせるとぐずってしまったことがあった。
それ以降、数分はじっとエルナが抱っこして身体を揺らしてレオの眠りを深くしてから、ベッドに寝かせるようにしている。
以前は起こさないようにそっとうまく寝かせることができず、何度も起きては抱っこを繰り返していた。
しかし、今では慣れたもので、一回で静かに寝かせることに成功している。
(よし、起きてないね)
エルナは自分の手をゆっくりとレオの身体から離して、そのまま静かにソファまで行った。
「クラウス様、今日もありがとうございました」
「問題ない。それより、これから少し時間あるか?」
「え……? はい、ございますが……」
エルナの返答を聞いたクラウスは、ソファから立ち上がって言う。
「よかったら、食事を一緒にとらないか?」
「クラウス様と、ご一緒にですか!?」
エルナがクラウスと食事をとるのは初めてだった。
メイドと主人の立場というのもあるが、彼女がレオの世話につきっきりというのもあった。
「食事を最近抜いていると聞いた」
「あ……」
クラウスはジュリエットから、エルナが子育てで忙しく、あまり食事がとれていないことを聞いていたのだ。
「レオの様子も気になるだろうから、ここに食事を運ばせるがいいか?」
「は、はいっ! 大丈夫です!」
エルナの返事を聞くと、彼は扉の外に控えていたキルダートに声を掛ける。
「食事を二人分、お願いできるか?」
「かしこまりました、すぐにご用意いたします」
クラウスの命令を聞いた彼は、キッチンへと急ぐ。
食事が来る間、エルナはクラウスのことを考えていた。
(クラウス様と食事……)
エルナ自身この屋敷に来てから、レオ以外と食事をするのは初めてだった。
それもレオに食事を与えながら、急いで食べていたので、こうして大人の人間と食事をともにするのは久々である。
キルダートが食事をとりに行った後、クラウスは椅子に座った。
しかし、その隣でエルナはメイドの癖からか、主人の後ろに控えるように立ったままだった。
その様子を見たクラウスが、小さなため息を吐くと、エルナに声を掛ける。
「座れ」
「で、でも……」
「座れ」
「は、はいっ!」
クラウスに二度にわたって椅子に座るように促されて、ようやくエルナも席に着いた。




