第19話 再会と抱擁
「しっ!」
クラウスが突然口元に人差し指を当てて、静かにするように命じた。
彼の指示に従うようにこくりと頷いたエルナがじっと耳を澄ませると、微かに近くの部屋から物音が聞こえてくる。
(レオくん……?)
物音が聞こえてきている部屋の扉はわずかに空いており、レオの大きさであれば通ることができるだろう。
(もしかして、ここにレオくんが……?)
エルナの考えと同じように、クラウスもこの部屋の中にレオがいるのではないかと推察した。
二人は目を合わせて頷き合うと、ゆっくりと扉を開いた。
「うう! う~!」
扉を開けた先には、二人の想像した通りレオがいた。
床にちょこんと座って、どこから出したのか木箱をコロコロと転がして遊んでいる。
「レオくんっ!」
エルナはすぐさま駆け寄って、レオを抱きしめた。
そして、エルナは頬に手を当ててじっとレオの顔を見つめる。
「レオくん、どこも怪我してない!? 大丈夫!?」
「あう?」
頭や背中、お腹に腰、足……順番に見ていくが、どこにも怪我は見当たらない。
「よかった……よかった……」
エルナはもう一度強く抱きしめて、背中と頭を交互にすりすりと撫でて存在を確かめる。
心配でたまらなかった想いをぶつけるように、何度も彼の名を呟く。
そんな彼女とレオの様子をクラウスはじっと見守っており、その瞳はとても優しいものだった。
「あうあう! えへっ!」
「木箱で遊んでたの? わあ~いいね~それ!」
見つかってホッと一安心して溢れた涙を拭って、エルナは微笑む。
その時、エルナの身体がふわっと宙に浮きあがった。
「へ……?」
(誰かに抱っこされてる……!?)
そんな風に感じた時、密着した彼の身体から、ふわっと花の香りが漂ってくる。
エルナが振り返ると、そこにはクラウスが自分を抱きかかえていた。
「クラウス様っ!?」
クラウスはエルナの後ろからの彼女の脇に両手を入れて抱きかかえていたのだ。
(わっ! わっ! えっ!? クラウス様が私を抱きかかえてる!?)
「ちょ、ちょっと、クラウス様!? ど、どどどどうしたんですか!?」
突然の出来事にエルナの頭の処理は追いつかず、男性に抱きかかえられていることを自覚していくうちにどんどん顔が赤くなっていく。
「うるさい」
クラウスの冷静な声が響きわたったが、エルナはそれどころではない。
「だって、だってっ!! どうしたんですか、急に!」
エルナの顔はすでに真っ赤で、身体がどんどん熱くなってくる。
すると、クラウスはエルナを抱きかかえたままレオと距離をとっていく。
「え……?」
「あう?」
エルナもレオも今の状況が理解できずにポカンとしている。
やがて、クラウスはエルナをレオから三メートルほど離れた場所まで連れてきて解放した。
エルナは床に座らされレオと同じ視線になった時、初めてクラウスの意図に気づく。
(あ……そっか。だから……)
丁度クラウスの意図にエルナが心の中で気づいた時、クラウスがレオに声を掛ける。
「レオ、さあ来い。お前の『親』はここだ」
「あう?」
ひとりにされたレオはじっとクラウスを見つめて、首を少し傾けてポカンとしていた。
じっとエルナとクラウスを交互に見つめて動かないレオに、エルナは声を掛ける。
「レオく~ん」
エルナが名前を呼ぶと、レオは嬉しそうに身体を揺らしてにっこりと笑った。
しかし、それからしばらくしても自分のもとへやって来てくれないことが不満なようで、次第にその表情は暗くなっていき、唇を歪ませていく。
(あ、泣いちゃうっ!)
「あう~! うう~!」
エルナが慌てて駆け寄ろうとするも、クラウスが彼女の腕を掴んで止める。
(行くなってことですか……!?)
だんだん部屋の中が暗くなってきて、エルナが外を覗くと曇り空になってきていた。
(まずい、このままだとまたお天気が悪く……!)
レオの不機嫌は天候悪化に直結し、さらに進めば王国の滅亡が近づく。
エルナの頭の中にレオを拾った日の出来事がよみがえってくる。
大きな不安が募る中、じっとクラウスはレオを見つめて言う。
「甘えるな。来れるだろう、レオ」
その言葉をまるで理解しているように、レオは泣き顔を見せつつもゆっくりと前に進みだした。
(ハイハイした!)
レオは一歩一歩確実に、前へ前へと手と足を延ばしている。
「あう~!」
「頑張って! レオくんっ!」
エルナの応援を受けて、レオは一生懸命にハイハイしている。
よちよちながらもエルナのもとへただ真っ直ぐに、一直線に向かっていた。
そして、クラウスもまた両腕を組みながら、レオの成長の一歩を見守る。
そして、ついに──。
「あうっ!」
「レオくんっ!」
自力でしっかりとエルナの腕の中までたどり着いたレオは、嬉しそうに声を上げた。
エルナもまたそんな彼の頑張りを丸ごと包み込んで、抱きしめる。
「頑張ったね……」
「あう! えへっ!」
涙ぐみながら見つめてくるエルナに対して、レオは満面の笑みを見せた。
微笑ましい二人の再会と子どもの成長を見守ったクラウスもまた、ふうと息を吐きながらわずかに笑みを見せる。
(大好き! レオくん!)
「あうあうっ!」
エルナの愛情が伝わったのか、レオは返事をしながら笑った──。
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