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第18話 レオくんはどこに行った?

 だんだん目的の場所に二人は近づいていく。


(こっちって、私の部屋よね?)


 やがて、エルナとレオの住む部屋の前までたどり着くと、クラウスは部屋の扉に手をかざした。

 彼はじっと目をつぶって魔力を溜めると、そのまま扉に向かって放出する。

 力を解き放ったとともに開かれた彼の瞳は、じっと真実を探し出すように鋭い目つきをしていた。


(何をしているの……?)


 クラウスは扉にかざした手をドアノブ、床、廊下の奥の壁……と順に向けていく。

 そして、かざした手を一度降ろすと、少しホッした様子を見せつつエルナに伝える。


「誘拐の線はないだろう」

「え……?」

「魔力で人の気配を探ったが、感じ取れたのはお前とレオの気配だけだった」

「じゃあ、誘拐ではないってことは……」


(どういうこと?)


 ひとまず人攫いでないことに安堵したエルナだったが、ではどこにレオは消えてしまったのだろうか。

 そんな疑問がエルナの頭をよぎった時、クラウスがエルナに確認を始めた。


「さっきお前はキッチンへ向かったと行っていたな?」

「は、はい。食器を片付けに……」

「レオに食事を与えた。違うか?」

「そうです。ですが、それと何の関係が……」


 エルナからの返答を聞いたクラウスは、顎に手を当てて険しい表情のまま何かをぶつぶつ呟く。


(どうしてそんなことを……?)


 そんな風に考えているエルナに、クラウスはなおも質問を続ける。


「レオはどのくらい今どのくらい動ける? 寝返りは? ずり這いは?」

「両方できます。ベッドから転げ落ちそうになるくらい最近は動くので、ベッドの端にぬいぐるみを置いていました」


 それを聞いた瞬間、クラウスはもう一度考え込んだ後、エルナに告げる。


「これは仮説ではある。レオは自分でこの部屋を出たんじゃないか?」

「え……?」


(そんなことって……)


 エルナの中で想像すらしていなかったことがクラウスの口から告げられた。


「扉は空いていたか?」

「扉はいつも少しだけ開けています。泣き声や呼び声が聞こえるように……」

「おそらくその隙間からレオは部屋を出たんだろう。先程、気配を探った時も部屋から廊下へレオの気配が続いていた」

「そんなっ! 動けないのにどうやってひとりで……あっ!」

「思い出したか?」


 クラウスからの言葉を聞いて、エルナの中にレオがいなくなった直前の様子が思い浮かぶ。


(そうだ。直前にレオくんはパンを食べていた。葉を食べて成長した時のように、もしパンを食べて成長したのだとしたら……)


「ハイハイができるようになった……?」

「その可能性は高いだろう」


 誘拐でもなければ、事故が起きた訳でもない。

 これがクラウスの予想であり、当時の状況やエルナの発言をすり合わせて考えられる最も可能性の高い事象だった。

 クラウスはもう一度手をドアノブにかざして感覚を研ぎ澄ませ、エルナに視線を向ける。


「俺が魔力で追跡する。お前もついてこい」

「もちろん、一緒に行かせてください!」


 二人はクラウスの魔力追跡を頼りに、脱走したレオの捜索を始めた──。



 エルナとレオの部屋を後にして、少しずつ魔力の跡をたどって歩いて行く。

 魔力追跡は遡って追跡する時間の長さで魔力の消費量が決まる。

 レオの脱走はせいぜい三十分前であるため、時間を直近の一時間に絞って気配を探った。


「こっちには行っていないな」


 クラウスが「行っていない」と言った方向には大きな階段があった。その方向にはレオは向かっていないと聞いて、エルナは一安心する。


(階段から落ちてなくて、よかった……)


 そうなると、レオは階段と真逆の二階奥の方へと進んでいったのだろう。

 自分の部屋よりも奥の廊下へは行ったことがなかったエルナは、クラウスに尋ねてみる。


「こっちには何があるんですか?」

「先代当主とその妻の部屋だ」


(それって、クラウス様のお父さんとお母さんの部屋ってこと?)


 エルナはクラウスの両親の姿をこれまで一度も見たことはなかった。

 そのことに疑問を持ちながら、彼女は何げなく彼に尋ねてみる。


「ご両親のところに勝手に入って大丈夫ですか?」


 そう尋ねた彼女だったが、安易に尋ねたことを彼の返答によって後悔した。


「大丈夫だ。もういない」

「え……?」

「両親は死んだ。もうその区画にはしばらく人が入っていないから大丈夫だ」


 その瞬間、エルナの表情はハッとして目を伏せた。

 なんてことを聞いてしまったのだろうか。

 彼に辛い思いをさせてしまった罪悪感と彼自身の辛い気持ちを想うと、エルナの心はぎゅっと強く締めつけられるように痛んだ。


「すみません……私、なんてこと……」

「いや、構わない。俺が当主になっている時点で理解していると思っていた。俺こそ悪かった」

「そんなっ! クラウス様は何も悪くありません!」


 エルナはクラウスの手を強く握って訴えた。

 いきなり手を握られたことで動揺したのか、クラウスの目を大きく見開かれて、頬もわずかに赤くなっている。

 ほんのり赤く染まった耳を隠すようにエルナに背を向けて、歩みを進めていく。


「両親のことはいずれゆっくり話そう。まずはレオの捜索が第一優先だ」

「はい……」


 エルナはクラウスの言葉の頷いた後、レオが廊下や部屋やインテリアの裏に隠れていないか、周りを注意深く観察する。


(初めて入るところだな……)


 この区画は普段クラウスのほかに、執事長のキルダートとメイド長のジュリエットしか入ることを許されていない。

 この区画には他のフロアと違って、様々な美術品や絵画が多く目についた。

 クラウスの父親が歴史学者であったため、夫妻の住居区画には様々な研究資料が保管されていたのだ。

 特にクラウスの父親の書斎には様々な時代の本や文献が並んでおり、クラウスが精霊レオの伝承について知ったのもこの場所にあった文献からであった。


(すごい……)


 レオを追って進める二人の足は、徐々にエルナのものだけ遅れていく。

 いつの間にか美術品の美しさやもの珍しさに気をとられてしまっていたのだ。


(駄目っ! レオくんを探すのに集中しないと!)


 エルナは首を左右に振って、今はレオ以外への興味を振り払った。


 すると、突然クラウスが廊下の真ん中で立ち止まり、エルナを制止する。


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