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第15話 私はひとりじゃない

 翌朝、エルナはまぶしい光で目が覚めた。


「うう……まぶしい……」


 目を細めながらゆっくりと目を開いていくと、隣にはすやすやと眠るレオの姿があった。


(あれ……私、昨日クラウス様のお部屋で……あっ!!)


 シーツをがばっと勢いよくめくって飛び起きた彼女は、急いで部屋を見渡す。


「いない!」


 自分が眠っていた隣にはもちろんおらず、部屋のどこにもいない。

 しかし、彼女はあることに気が付いた。


(あれ……布団がおいてある……)


 エルナの視線の先にはソファにかけられている布団があった。

 それはベッド用のものではなく、簡易的な薄めの布団であり、それは綺麗に四角く畳まれている。

 エルナは自分が昨夜クラウスの監視のために、ソファに座っていたことを思い出した。


(あれ、私、あそこに座ってたよね……? でも、なんでベッドに……)


 そんな風に思っていた時、扉のほうから声がした。


「クラウス様が昨夜、眠ってしまった貴方をベッドにお連れしてくださったそうですよ」

「メイド長……!」


 扉の前にはすでにメイド服に身を包んで一仕事終えたメイド長ジュリエットの姿があった。


「おはようございます!」


 エルナは急いで挨拶をすると、メイド長はレオの様子を見に向かった。


「よく眠っていらっしゃいますね」

「あ、はい。クラウス様が魔力供給をしてくださったおかげかと思います。あっ! そういえば、クラウス様はどちらに?」

「もう仕事に向かわれましたよ。しっかり子育てしろ、と貴方に伝言を賜っております」

「は、はいっ!」


 基本的にはクラウスの部屋にはキルダートが入って、彼の世話をする。

 しかし、今日に限っては中にエルナがいることを気遣って、メイド長が入室してエルナの様子を伺ったのだ。


(クラウス様に大変なお気遣いをさせてしまった……)


 エルナのその思考は、洞察力の鋭いジュリエットには筒抜けであった。


「クラウス様への御恩は、その子を育てることでお返しなさい。それから──」


 メイド長はエルナにある鍵を渡した。


「これは……?」

「クラウス様の命で貴方に食糧庫の鍵を渡すように言われました。今後貴方がその子に食べさせるかもしれないから」


(そうか、葉っぱを食べて成長をしたことを話したから)


 クラウスは彼女の話を聞いて食事をエルナがレオに食事をさせたいと考えるだろうと推察していた。


(すっかりクラウス様にはバレちゃってる……)


 エルナはメイド長に頭を下げる。


「ありがとうございます」

「礼には及びません。その子へ食べさせるくらいの量であれば、在庫の心配をする必要はありません。もし別途欲しいものがあればわたくしに伝えてくれれば、翌日には屋敷に届くように手配いたしますから」

「あ、ありがとうございます!」


 ジュリエットは彼女の礼に返事をすることなく、部屋を去ろうとする。

 そして、扉の前で最後にこう呟いた。


「貴方は良く頑張っています。大役の責務が貴方を圧し潰すこともあるでしょう。そんな時はわたくし達に遠慮なく頼りなさい」

「メイド長……」

「では、わたくしは仕事に戻ります。子どもはゆっくり寝かせてあげなさい」

「はいっ!」


 一瞬笑顔を見せたジュリエットは、静かに部屋を後にした。

 クラウスだけではなく、彼女も、そして執事長のキルダートも味方なんだとエルナは改めて思った。


(ひとりじゃないんだな……)


 エルナはジュリエットからもらった鍵を見つめる。


(これで、レオくんにご飯をあげることができる)


 隣にいるレオに視線を向けると、彼女はそっと彼の髪を撫でた。


(もし、レオくんが何かご飯で成長することができるのなら、クラウス様の負担を減らすことができる)


 エルナは鍵をぎゅっと握り締めて、前を向いて立ち上がった。



 その日の昼下がり、ようやくレオは目を覚ました。


「あう~?」


(あ、起きたかな?)


 エルナはレオの起床に気づくも、子どもはすぐにまた寝ることもあるため、しばらくはじっと様子を見守ってみる。


「うう~」


 何度かレオは言葉を発すると、手を上に上げた。

 そして、エルナを探すようにきょろきょろと周りを確認していく。


「あう~!」


 甘えたような叫び声は、エルナを呼ぶ合図。彼女は、その声を聞くと、すぐさまレオのもとへ駆けつけた。


「起きたの~? おはよう、レオくん」

「あうあう!」

「ご機嫌だね~! よく寝てたもんね!」


 昼すぎで身体に日差しが当たっていたのか、レオの額にはちょっぴり汗がついている。

 エルナはそれを優しく拭き取ると、レオを抱き上げた。


「寝汗かいちゃったね。お着替えしようか」

「あう~」


 抱っこしてあやしながら、彼女は自室へ向かった。

 ベッドに寝かせると、レオの洋服を着替えさせていく。

 エルナもすっかり着替えは、手際よくこなせるようになっていた。

 軽く濡らした布で身体を拭いてあげ、子どもの肌に優しいパウダーを塗っていく。


「あう~! まうまう~」


 なぜかこのパウダーを塗る時に、レオは「まうまう」と口にする。


(パフパフって言ってるのかな?)


 そんなことに想像を巡らせながら、エルナは優しくパウダーを塗っていった。


「よし、これで大丈夫だね!」

「あうっ!」


 汗を拭き取ってもらって心地よくなったのか、レオの機嫌もさらに増す。

 エルナはそんなレオを抱き上げると、部屋にある小さめのテーブルに向かい、そこに備えつけられた子ども用の椅子に、レオの足を通し、座らせた。


「あう?」


 見慣れないものに座らされ、レオは不思議そうな顔をしている。


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