第20話「詩音先輩、応援合戦を詩で制す」
体育祭×文学という異色の融合が、意外にもグラウンドを感動に包みました。
やっぱり詩音先輩、出てきたら全部持っていきますね。
「いよいよ体育祭当日ですねぇ~!」
こよりは早朝のグラウンドを見ながら深呼吸した。
「ちなみにうちのクラスは赤組だから、全力で応援しないとね!」
「でもさ……なんかもう、**“あの人”が来そうな気がしてならないんだけど……」
まどかが言った瞬間、どこからともなく声が響く。
「赤――それは、情熱、決意、そして未完の詩章……!」
「詩音先輩ーッッ!!」
白組でも青組でもない、応援団でもない、無所属の文学少女・夜凪詩音が、
自作の赤いはちまきを額に巻いて登場していた。
「今日こそ、応援とは何か、その本質を問うてみせる……!」
「いや、あなた応援団じゃないですし!!」
「そんなことは些事。**“応援”とは、魂のメガホンなのよ」
そう言いながら、詩音先輩はグラウンド脇に設けた段ボールの上に立ち、声を張り上げた。
「走れ、友よ――
風と共に 砂を蹴って
その一歩が、君の歴史を塗りかえる――!」
「……あれ、なんか普通に聞いちゃう……」
「リレー走ってる子が感動してるんだけど!?」
詩音先輩の“応援ポエム”は、競技ごとに即興で変化していく。
100m走では――
「まっすぐな道、それは君のまなざしだ」
綱引きでは――
「引かれるな、引き寄せろ――宿命を!」
棒倒しでは――
「高くそびえる棒、それは――未完の夢!」
「いや、棒って言ったらダメだよ!?」
先生たちも最初は困惑していたが、
次第に彼女の“言葉の力”が生徒の集中力を上げていると気づき、黙認モードに。
そして最後の応援合戦。
赤組の応援団が気合いを入れたダンスを披露した後、
詩音先輩が“勝手にエントリー”してマイクを取る。
「――これは、全力で走ったすべての君たちへ。
泥と汗と、心の音に捧げる一編」
その朗読は、たしかに体育祭の空気を変えた。
「なにこれ……感動しちゃった……」
「なんか、勝ち負けとかどうでもよくなってきた……」
最終的に、赤組は惜しくも2位だったが――
「詩では、間違いなく1位だったよ」
と、こよりがつぶやいた。
「それでいい……勝敗は、記録されるもの。詩は、記憶に残るものよ」
今日の一句(体育祭ver):
「転んでも 土の上なら 詩になるさ」
次回、詩音先輩――進路調査票に一編の詩を書く!?
未来の夢も、やっぱりポエムに変換される――!




