第19話「詩音先輩、味覚に詩を求める」
今回は家庭科実習!
料理に文学を求めた結果、見た目は優秀、味は混乱――という
これまた詩音先輩らしいカオスが完成しました。
「さて、今日は調理実習よ~。班で協力して、玉子焼きを作りましょう!」
家庭科の先生の声に、生徒たちはエプロン姿でわいわいと準備を始めていた。
「よし、今日こそまともに料理するぞ!」
こよりが気合いを入れる。
「でも詩音先輩がいないだけで、すでに勝てる気がするよね……」
まどかが安堵してつぶやいた、その瞬間。
「――ここに、火と黄身の詩人が降り立つ!」
「出たぁあああああ!!」
振り返ると、エプロンの上からマントを羽織った夜凪詩音先輩が、
おたまを杖のように掲げて立っていた。
「なんでマント!? そしてなんでおたま!?」
「詩は鍋に似ている。熱され、混ざり、膨らみ、そして焦げる」
「最後のとこ不穏すぎ!!」
しかし詩音先輩、料理には意外と真面目だった。
卵を割る手つきはプロ級、火加減も絶妙。
「なにこれ……普通にめっちゃ上手い!?」
「文学的に感性が鋭いのか、調理のタイミングも完璧なんだよね……」
だが、問題は**“味付け”**だった。
「これは、人生の甘さと苦さを両方入れた玉子焼き……」
「やだやだやだやだ!」
味見したこよりは、無言で水をがぶ飲みした。
「これ……しょうゆと砂糖のほかに、なんか入ってません?」
「……黒酢、少々」
「渋すぎる! どこ目指してるの!?」
さらに机の端には、詩音先輩自作のメニューカードが。
《今日の一品:詩音風“魂の玉子焼き”》
・味:人生の迷いと、朝のまどろみのあいだ
・評価:心に問いかけてください
・おすすめの食べ方:無言でかみしめる
「……これは、料理じゃなくて人生相談では?」
その後、提出された班の玉子焼きは見た目こそ完璧だったが、
先生が一口食べてこうつぶやいた。
「……味が哲学」
今日の一句(家庭科ver):
「味付けに 心を込めて 道を見失う」
次回、詩音先輩――体育祭の応援合戦に乱入!?
声援が詩に変わるとき、グラウンドがざわつく!




