6.焼き肉テスト
今日はね、イリーナ先生の生徒さんたちも一緒で、その中にはね、血が苦手な治癒術士のシルビアちゃんもいたんだよ〜。
でもね、今日のゴブリンはただ焦げただけでさ、いちばん火力強くても灰になったくらい、弱めだと香ばしくカリカリに焼けた感じ? 血が出てないから、シルビアちゃん全然平気っぽかった。むしろ興味津々で、ゴブリンの死体をひっくり返したりして調べてた〜。
えっ、素手で触ってる!? こわっ! シルビアちゃんの先輩なんて、鼻おさえて後ろに下がってたのに……。見た目がどんなに美味しそうでも、ゴブリンのお肉って硬くて臭いって有名だし、さすがに誰も食べようなんて思わないよ。スパイスいっぱい使えば臭み消せるらしいけど、あの肉質じゃムリムリ〜。
わっ、今度は死体を裏返そうとしてる!? あわてて、ゴブリンに自分で転がるようにお願いしちゃった。
「死んでるのに自分でゴロンって動くなんて、すご〜い!」シルビアちゃん、めっちゃ楽しそうに拍手してて、まるでショーでも見てるみたいだった。
「そもそも元から死んでるんだけどね!」
なんかそのセリフがツボに入ったらしくて、シルビアちゃん、ケラケラ笑い出して、私の肩をバンバン叩いてきたの。で、わたしちょっとよろけちゃった〜。
前はなんか、走っただけで倒れそうな感じだったのに、今日はぴょんぴょん跳ねたりしてて、元気すぎてついていけないよ……。
そのあとね、先生が「おつかれさま」って焼き肉に連れてってくれて、ごちそうしてくれるって言うから、私たち遠慮しないでいっぱい食べちゃった♪
「シルビア、お肉はウェルダン派?」
「もちろんだよ〜!」
フィオナ先輩はね、すっごく面倒見がよくて、その場で肉奉行になっちゃったの。お肉を焼いてくれるし、取り分けまでしてくれて、大忙し! だからね、こういう時は後輩のわたしが、ちゃんとお手伝いしないとねっ!
「はい、先輩、あーん♡」
焼き加減バッチリの一枚をお箸でつまんで、先輩の口元に持っていったら、素直にお口あけてくれて……そのまま、ちょっとだけ箸の先が唇に当たるくらいの角度で……♡
そのあと私は、知らんぷりして自分の分のお肉をお箸でつまんで、お口の前まで……ゆっくり運ぶ……。平常心、平常心……!
でね、いよいよお肉(と、これ大事、箸)がお口に近づいたその瞬間!
「わっ!!」
シルビアちゃんが急に大声出すから、ビックリして手が滑って……お肉がぽとって網の下へ……火の中へ……。
「ご、ごめん……」
肉が炎の中に落ちて、もう取り返しつかなくなっちゃって……シルビアちゃんも、さすがにしょんぼりしてた。
「ごめんね、フェリシア。じゃあ、わたしのあげるね」
って言って、自分のお皿から一枚とって、わたしの前に差し出してくれたの。なぜかそのお肉がキラキラ光って見えて、なんか吸い寄せられるように、ぱくって食べちゃった。
まわりの音がふわ〜って遠くなって、自分の心臓の音だけがドクンドクンって聞こえてる気がした。
お肉ちょっと焼きすぎだったけど、噛んだら中からじゅわ〜って甘みが広がって、すっごくおいしかった……!
じゃあ、さっきの先輩味のお肉は? あれはね、甘みっていうより、なんかこう……優しい味がしたの……♡
…………
……
「……ア、フェリシア!」
肩をトントンされて、やっと我に返った。
「箸くわえたままボーッとしてると、お肉なくなっちゃうよ?」
「は〜〜い……」
うんっ、お肉しっかり食べなきゃね。だって、先輩ががんばって焼いてくれたんだもん♡