奇跡の権能 その2
本作はフィクションです。
登場する人物、団体、事件などはすべて架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
また、一部に宗教的なモチーフが登場しますが、特定の宗教・信仰を肯定または否定する意図はありません。
物語には一部、暴力的・性的な要素や、精神的に不安を感じる場面が含まれることがあります。ご自身のペースでお楽しみいただければ幸いです。
あ…
二人で同じ言葉を発しようとして止まるのが、気まずいのは痛いほどわかる。
いがみ合っている間柄なら、猶更だ。
しかし。僕はこの場をどうにか納めなければならない。
この地雷原に足を踏み入れてしまったからには、男・伊勢 健之助、筋を通さなけらばならない。
ああ、もう、どうにでもなれ。当たって砕けろ、だ。
そうだ。僕には帰り道に手に入れた、あれがあるじゃないか。
僕の権能の賜物。
まずは好みがわかっている…猫崎に、こ○し君ストラップをあげよう。
「これ、さっき取れたんで、もしよかったら…」
「え!こ○し君だ!あなた…伊勢さんって言ったっけ、伊勢さんもこ○し君好き!?」
そんなに喜んでくれるなんて。
「ま、まあ、そこそこ…」
我ながら無難な返答だ。じつはそうでもない。
「伊勢さんにもこ○し君の良さがわかるなんてね。見る目あるわー。てか、あたしこれで4つ目だけど。でもすごいうれしい!ありがと。」
4つも持ってるのかよ。ともかく喜んでもらえて良かった。
たかがこ○し君で小躍りしている猫崎を後目に、プリンを食べてご機嫌そうな日下に目をやる。本当に何も考えていなさそうな顔だ。
「ハ○太郎の…こ○し君、2つ出たんだけど、日下さんもよかったらどうですか?」
「私毎週ハ○太郎観てて、こ○し君も大好きなんですよー!嬉しいです!ありがとうございます!」
僕は胸を撫でおろした。
「こ○し君って、なんか見てて妙にイライラするんですよね!!伊勢さんもわかります?そこがまた可愛くて……」
ごめん、わかる…
しかし日下 萌々奈。
僕の予感は当たった。当たってしまった。
「明日はもっといい日になるよ。」なんて、言えるわけがない。
「おい、クソ女…テメェ、今、なんて…」
猫崎が豹変した。病床を飛び出してきたところを、僕がなんとか制止する。
「やっぱぶっ殺す!日下ァァァ!!!!!」
「何なのよ!私がこ○し君をどう思おうと私の勝手でしょ!!」
「ハァ!?テメェ何様のつもりだよ!!」
「そっちこそこ○し君の何なのよ!いきなり襲い掛かってくるなんて!」
「そこ!他の患者さんに迷惑でしょう!病室ではお静かに!!」
看護婦長さんが来た。これだけの騒ぎになれば無理もない。僕はそそくさと立ち去ろうとした。
「あなた、ここの患者さんになにしたんですか!?自分の病室に戻りなさい!」
え?僕?
「あ、はい…」
ありがとうございます。看護婦長さん。僕は帰ります。
「ねぇ待って!伊勢さん!!唯ちゃんをどかしてください!!」
猫崎は日下の上に馬乗りになって、胸ぐらを掴んでいる。
「ねえ、どいてよ!」
「テメェのせいだろ!!」
というか、この部屋、暑くない…?
まずい。
3日前にも感じた、この感覚…
ヤバい、あれだけは避けねば。
まただ。その一瞬、不思議な感覚が僕たちを包むのを感じた。神秘的、とでも言うような感覚。
僕、猫崎、佐藤さん、看護婦長…
僕の権能が、その場にいた全員の口から、同じ言葉を言わせた。
…ような気がした。
邪悪な熱気を纏う日下に向かって、まるで未来からこの言葉を言えとばかりに。
「「「「爆発オチなんてサイテー!」」」」
こんな最低のエンディングを迎えてなるものか。爆発オチなんてサイテーだ。
僕はただ、何か…未来の思いを信じて、灼熱の少女を抱きしめた。
掌が灼ける。
胸が灼ける。
だが、日下の熱は急激に収まっていった。
日下 萌々奈は爆発
…しなかった。
長めの補足です。「看護師」と呼ぶことが正式に法律で決められたのは2002年3月以降ですので、2000年時点では「看護婦」呼びでもダメじゃない…はずです。
また、アニメとっとこハム太郎の記念すべき第1話の放送日が2000年の7月7日なので、すごくタイムリーですね。時期で言うと、ちょうど21日…この話の前日の夕方に、萌々奈が病室で第3話をリアタイ視聴してます。ちなみにグッズ展開はそれより前にされていたようです。
加えて、「爆発オチなんてサイテー!」の初出はFate/Stay nightらしいです。すげー、未来だー(遠い目)